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死闘 キングボア
しおりを挟む突如として重くなった空気。
背中から感じる、ヒリつくような緊張感。
間違いない。
ゆっくりと振り返り、前方を見据える。
その先に居たのは、果たして奴だった。
ズシン、ズシンと地を踏み鳴らして、歩み寄ってくる。
象のように大きな身体。顔の高さまで反り返った巨大な牙。
もはや、猪というよりマンモスの類であると言われた方がすっきり納得がいくというものだ。
いつの間にか、空には暗雲が立ち込めている。
◆◆◆◆◆◆◆◆
名前:キングボア
LV:30
状態:通常
◆◆◆◆◆◆◆◆
遂に、この時が来た。
そんな想いを抱きながら、すぐさま充填を開始する。
「Bmooooo!」
「っ」
空気を震わす程の叫び声に、思わず脚がすくみそうになった。
強者の余裕だろうか。余裕綽々に近付いてくるキングボア。
まずはその認識を、改めてやる必要がありそうだ。
キングボアが、私を踏み潰そうと両足を振り上げる。
その瞬間。下から掬い打つようにして、[聖魔砲]を発射した。
20数秒のチャージにより十分に威力の高められた光線が、奴の脚に直撃。大きく弾き飛ばした。
「Bmoooo!!」
「へっ。こっちが先制……ってね!」
二歩、三歩と下がりながら、初級ポーションを使用する。
全快には辛うじて届かないが、自動回復と合わせればすぐに回復しきるだろう。
与えたダメージは一割といったところか。
消費の割には、ダメージ量が小さいような気が…………ッ!
膨れ上がった敵意に、条件反射で[GAMAN]。
その瞬間、勢い良く振り上げられた牙が直撃。私は宙に舞いあげられた。
「Bmooooooo!」
一際大きく叫んだ瞬間、痛烈な衝撃波が発生。私に襲いかかる。
自由落下を余儀なくされていた私の全身を打ち付けると、その身体を大きく吹き飛ばした。
脳そのものが、揺さぶられるような衝撃。
追い討ちをかけられるわけには行かない。なんとか身を起こし、[解放]。
威力2000を超える強烈な光の奔流が、キングボアを呑み込んだ。
相手がたたらを踏んでいる間に、なんとかよろめきながらも立ち上がる。
ここも初級ポーション。 奴のHPは、二割ほど減っていた。
「理解したよ。硬いんだね」
防御貫通で被ダメージがそのまま威力になるGAMANと、チャージ時間が純粋な攻撃力となる聖魔砲。
与ダメージに明暗がはっきりと出ているのは、相手の高い防御性能によるものか。
「……まぁ、でもここは…… [充填(チャージ)]」
彼我の距離、そして何よりGAMANのクールタイムの問題もあるので、ここは不利と分かっていても聖魔砲を使わざるをえない。
少しでも威力を高めてから、撃ちたいところだけども。
奴が一歩一歩と地面を踏みしめる度に、大きく視界が揺れる。
油断なくキングボアの挙動を睨み付けていると、不意に、強烈な悪寒に襲われた。
半ば無意識で、反射的に横っ飛び。
その瞬間、先ほどまでいた地面が縦に大きく割れた。
「……あはは。やっばぁ」
その破壊力に、思わず顔が引き攣る。
再びの鳴き声とともに飛んできた衝撃波に、また吹き飛ばされてしまった。
600程度のダメージを負いはしたものの、まだまだ無視できる範疇。
それになにより、距離が開いたのは好機──
「Bmooooo!!」
「ッ!?」
大きな鳴き声とともに、キングボアの圧力が高まっていく。
奴の目の前に、巨大な土の槍が形成された。
向けられる敵意が膨れ上がった瞬間に、身体を横に投げ打って回避。
しかし、安堵の隙は与えてくれなかった。
着地点を狙うかのように、立て続けに飛んでくる二射目。
「っ……それならッ」
これは、避けられない。
そう判断した私は、即座にチャージ分を解き放った。
半ば賭けではあったものの、長い充填を経た[聖魔砲]は期待通りに土の槍を呑み込み、そのまま真っ直ぐにキングボアに到達。
魔法を放ち脚を止めている奴の鼻っ面に、暴力的なまでの聖なる力の奔流が叩き付けられた。
ずば抜けて硬い装甲を持ってしても防ぎきれなかった光線により、キングボアの体力が大きく削られる。
奴のHPは、残り35%……推定4000!
これなら、いける。
そう思った瞬間だった。
「Bummoooo!!」
これまでで一番に強烈な叫び声が放たれる。
次の瞬間、変化が起こった。
逆立ち、風に靡いていた全身の毛が硬化し、また、身体中から紅のオーラが溢れ出す。
刺すような敵意が、私の身を貫いた。
大丈夫。どれだけ強化されようとも、HPが増えない限りは最後のGAMANで倒しきれる。
落ち着くんだ、私。
恐慌状態に陥りそうになるのをなんとか堪え、中級ポーションを使う。
全快には及ばないものの、9割のラインには無事乗せることが出来た。
「大丈夫。行ける……落ち着け…………」
小さく深呼吸。
油断なく、キングボアを睨み付ける。
すると、奴は不意に両脚を大きく持ち上げた。
地割れか、はたまた新しい攻撃か。
強く警戒する私を嘲笑うかのように、奴が選択したのはタダの地面への踏み込みだった。
それも、体重の全てを乗せた、全力の。
ズガァァンという轟音と共に、凄まじい衝撃が地を走る。
世界そのものが揺れていると錯覚するほどで、私は思わず膝を突きそうになった。
ここに来ての、最大の隙。
もちろん、キングボアはそれを見逃さない。
突撃。
特別な技でもなんでもない、ただの突進。
しかし。シンプルだからこそ、暴力というものは成立する。
2トントラックも顔負けの衝撃に全身を打ち付けられ、私の身体は宙に舞った。
飛びそうになる意識を、なんとかつなぎ止める。
耐えはしたようだが、追撃を防ぐ手立てが無い。
成すすべもなく自由落下に入った私が、取れる手段はほぼ無い。
[解放]しても、ギリギリ威力は足りないだろう。
しかし、キングボアは既に落下地点で待ち構えている。
死闘を演じた相手を確実に貫き殺すための牙が、鋭く光った。
勝負は、万に一つ。これしかない。
キングボアが、自慢の牙を振り上げる。
高速で、容赦のない一撃。直撃すれば、まず間違いなく命を刈り取られるであろう。
──だが、直撃しなければ?
私の唯一の狙いは、それだった。
鋭利な牙が私の中心を貫く、その瞬間。
ありったけの力を込めて、身体を捻る。
渾身の一撃。だが、軸は外した!
辛うじて芯を外れた牙が私の身体を抉り、HPが急速に減少する。
弾き飛ばされ、激しく地面に打ち付けられた。
二度、三度と転がされ、止まる。
HPの減少は──
──止まった。
「へ、へへっ……」
震える手を地面に付いて、顔を上げる。
今度こそトドメを刺そうと、迫り来る巨体。
私のHPは、残り46だった。
「…………[解放]」
溢れんばかりの聖なる奔流が天に立ちのぼり、真っ黒な雲を突き破る。
その瞬間。空から降って来た巨大な光の矢が──キングボアの身体を貫いた。
「Bmooou…………」
みるみるうちに減っていく、HPバー。
それが零になった瞬間。奴は光に呑まれて消えて行った。
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