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9.悪魔騎士の愛しい妻「たち」(終)
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私、時々、このギャラリーに魔力を吹き込んで遊びます。楽しいですよ、歴代の奥様たちの罵り合い。口々に、自分こそエリゴス様に真に愛されているのだと主張なさいます。
自分より前の妻たちとは偽の愛で、自分より後の妻たちは寂しさを紛らわすためのお飾りなのだそうですよ。
大丈夫、皆様ちゃんと愛されていましたよ。エリゴス様、未だに皆様のお名前全て覚えていますしね。好んだものも嫌ったものも、ささいな出来事の一つ一つまで。
ただし、順位はつきません。ナンバーワンなんていないんです、それぞれオンリーワン。そう申し上げても、誰一人納得されませんが。
エリゴス様は、決して同時に複数の奥様をお持ちになることはありません。死が二人を分かつまで、責任を持って一途に愛されます。ご機嫌を損ねるとよくないからと気遣って、奥様の生存中は、前妻の存在などおくびにも出しませんしね。事情を知る人間へはお得意の精神干渉まで使って口を封じる徹底ぶりです。
なんとお優しい、こんな遊びに興じる私と違って!
いえね、私も裏方として、エリゴス様と奥様方のロマンスを盛り上げるべく、道具立てをしたりエキストラを用意したり、苦心しているのですよ。
これくらいのお楽しみ、お目こぼしいただきたいものです。
さて、新しい奥様を探さなくちゃいけません。
私は鴉になって人間界の空を飛びます。
見た目はあんまり重要じゃありません。頭もそんなに良くない方がいい。心優しいのも、つまらないそうです。信心深いのは最もダメ。エリゴス様、聖典の一節なんか口にされようもんなら、蕁麻疹出ちゃいますから。たいした害はないけど不快だそうです。
あ、でも妙な新興宗教の信者を奥様になさったときは楽しそうでしたね。せっせと布教して勢力拡大して国一つ作りました。ご自身で教祖の席に収まって、完全に悪ノリです。ただ、奥様が亡くなった瞬間に興味をなくして放り出したので、国、即座に潰れました。
余談でしたね。
エリゴス様のお好みは、我儘で身の程知らずで嫉妬深い女です。俗っぽく、贅沢好きの、手のかかるタイプがいいようですね。
「だって欲望まみれでとても人間らしいじゃないか」
だそうです。
ですから奥様、ご心配なく。
そういう人間の女は、掃いて捨てるほどいますからね。
エリゴス様は、また新たな愛を楽しまれます。
ほらまた一人、あれはよさそうだ。
私は黒い翼で旋回し、ゆっくりと降下をはじめました。
おしまい
自分より前の妻たちとは偽の愛で、自分より後の妻たちは寂しさを紛らわすためのお飾りなのだそうですよ。
大丈夫、皆様ちゃんと愛されていましたよ。エリゴス様、未だに皆様のお名前全て覚えていますしね。好んだものも嫌ったものも、ささいな出来事の一つ一つまで。
ただし、順位はつきません。ナンバーワンなんていないんです、それぞれオンリーワン。そう申し上げても、誰一人納得されませんが。
エリゴス様は、決して同時に複数の奥様をお持ちになることはありません。死が二人を分かつまで、責任を持って一途に愛されます。ご機嫌を損ねるとよくないからと気遣って、奥様の生存中は、前妻の存在などおくびにも出しませんしね。事情を知る人間へはお得意の精神干渉まで使って口を封じる徹底ぶりです。
なんとお優しい、こんな遊びに興じる私と違って!
いえね、私も裏方として、エリゴス様と奥様方のロマンスを盛り上げるべく、道具立てをしたりエキストラを用意したり、苦心しているのですよ。
これくらいのお楽しみ、お目こぼしいただきたいものです。
さて、新しい奥様を探さなくちゃいけません。
私は鴉になって人間界の空を飛びます。
見た目はあんまり重要じゃありません。頭もそんなに良くない方がいい。心優しいのも、つまらないそうです。信心深いのは最もダメ。エリゴス様、聖典の一節なんか口にされようもんなら、蕁麻疹出ちゃいますから。たいした害はないけど不快だそうです。
あ、でも妙な新興宗教の信者を奥様になさったときは楽しそうでしたね。せっせと布教して勢力拡大して国一つ作りました。ご自身で教祖の席に収まって、完全に悪ノリです。ただ、奥様が亡くなった瞬間に興味をなくして放り出したので、国、即座に潰れました。
余談でしたね。
エリゴス様のお好みは、我儘で身の程知らずで嫉妬深い女です。俗っぽく、贅沢好きの、手のかかるタイプがいいようですね。
「だって欲望まみれでとても人間らしいじゃないか」
だそうです。
ですから奥様、ご心配なく。
そういう人間の女は、掃いて捨てるほどいますからね。
エリゴス様は、また新たな愛を楽しまれます。
ほらまた一人、あれはよさそうだ。
私は黒い翼で旋回し、ゆっくりと降下をはじめました。
おしまい
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読み易かったです、有難うございました。