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礼拝堂をでたあと、騎士は一言も喋らず、地下へと続く階段を黙々と降りていた。
この世界は技術がそこまで発展していないのか、地下へと続く階段は、石造りの壁に一定の間隔で取り付けられているランタンのようなものが発する灯りだけしかなかった。
そのため周囲は薄暗く、俺は足を踏み外すんじゃないかとビクビクしながらゆっくりと降りているため、騎士との差はどんどん開いている。
「おい、後任を連れてきた。 しっかり教えろよ。」
階段を降り切ったのか、俺が最後の踊り場に辿り着いた時、頑丈な鉄のドアが開くような音と共に、騎士のよく通る声が聞こえてきた。
そして俺が追いつくまでに誰かに後任がきたことを伝え終わったようで、こちらに戻ってきていた。
前任者に紹介するとかいう優しさは、持っていないらしい。
誰に聞けばいいとかわかんねえよな、と戸惑いながら、すれ違う騎士に助けを求める視線を送ったが、全く見てくれることもなく、来た時と同様さっさと階段を登っていってしまった。
「ねえ、そんなとこに突っ立ってないで、入ってきたら?」
困惑していると、部屋の方から女性が声をかけてきた。
ハッとして声のした方を見ると、背中まであるストレートの黒髪が特徴的な大学生ぐらいの女性が、ずっとドアを支えて待ってくれていた。
どう見ても重たそうな鉄のドア。
それを押さえさせていたと気づき慌てて部屋の中に入ると、女性もドアから手を離して入ってきた。
「今日から一週間だけだけど、よろしく。 私は葉山蓮花。 二十一よ。」
「あ、俺は黒崎翔。 十七っす。」
「それで? 黒崎くんは何ヶ月の契約なの?」
「契約? 何の話っすか?」
背後でものすごい音を立ててドアが閉まったが、葉山と名乗った女性は気にする様子もなく、部屋の中央にある木のテーブルへ座るようジェスチャーで言いながら、自分は部屋の隅へと歩いていった。
俺はテーブルと同じ、木でできた椅子へ座ると、簡単に自己紹介をして頭を下げた。
それにしても本当に礼拝堂と同じ建物の中かよ?と思うぐらい部屋の中は質素だった。
よく言えばフローリング、悪く言えば木を貼っただけの床に、同じく木でできた壁。
電灯……らしいものは天井についているが、見慣れたものとは違うから、どういう仕組みで灯りがついているのかはわからない。
彼女が使っているものも、多分ポットなんだろうなあ。
本当に異世界なんだ。
などと考えていたが、契約という言葉に言いしれぬ不安を感じて、俺は慌てて葉山さんの話へ意識を戻して質問した。
「普通に話せばいいよ。 敬語、苦手なんでしょ?」
「あ、ああ。」
「ごめん、ごめん。 契約についてだったよね。 こっちに召喚された時に、何の仕事をするのか、どのくらいの期間働けるか。 あとは報酬についての説明と相談がなかった?」
「いや、国の名前と世話係をしろって一方的に言われただけで、何の世話をするのかさえ教えてもらってねえ。」
「ウソ?」
葉山さんは両手にコップを持って戻ってくると、それを一つは俺の前、もう一つは彼女の前に置いて、座りながら俺の口調について言及してきた。
そんなに変な敬語だったか?
てか、今は契約について知りたいと考えていると、顔に出ていたのか、彼女は笑いながら謝ると、この世界に来てすぐに話があるはずの内容について教えてくれた。
でもそんな話、全くなかったぞ。
困惑しつつ、先ほど礼拝堂で話した内容を伝えると、今度は葉山さんが驚いた様子で、飲もうとして口元まで持っていっていたコップをおろすことも忘れて俺を見た。
「本当です。」
「まじかあ。 先に契約について教えるね。 て言っても、前の人のことは詳しく知らないから、私はって話だけど。」
相当大切なことを、すっ飛ばされたらしい。
葉山さんの反応からそのことに気づいて途方に暮れながら返事をすると、俺が気落ちしているように見えたのか、彼女はまるで元気づけてくれるかのように明るい声で、契約について説明すると言ってくれた。
話を簡単にまとめると、彼女も俺と同じように召喚された。
その時に王様と王女様、聖女様などそうそうたるメンバーがいて、彼らは自己紹介を済ませると、仕事についての詳しい話があった。
仕事は基本的に朝と夜、異端児という生き物に餌をあげたり、排泄の世話。
早く言えばペットの世話のようなものをするだけで、日中であれば許可をもらって外出できる。
その割には給与も破格で、彼女は強気の態度で交渉し、今後働かなくても生活できる程度の退職金を日本に帰る時にもらう契約を結んだらしい。
また任期については最初最低でも一年と言われたが、彼女自身が大学生だということもあり、夏休み期間中の一ヶ月のみ。
それより長期というのであれば、自分を元の世界に帰して別の者を呼び直すよう迫ったら、渋々了承してくれたというものだった。
「異端児を見せてあげたいんだけど、まだ実験室から返却されてないんだ。 まあでも、そんなに怖がる必要もないよ。 犬や猫の世話より全然ラクだから、黒崎くんも二日もかからずにできるようになるよ。」
葉山さんは仕事の話をしていたが、俺はさっき聞いた契約の話が妙に引っかかっていた。
アニメや小説とは違うのかもしれないけど、神が勝手にする、別の世界で前世の記憶を引き継いで転生!と違って、召喚は確かすごいエネルギーやお金がかかるから、そんなにホイホイできるものじゃなかったはず。
それなのに俺を召喚して一週間後には、今度は日本に召喚術を使って帰す?
しかも簡単な仕事をこなして、一生遊べるだけの退職金。
いや、怪しすぎるだろ。
「なあ、この世界に詳しい知り合いっていないのか? 例えば、さっき俺をここに連れてきた奴とか。」
異端児についてまだ何か説明してくれていたが、俺が口を挟んで質問すると、話を遮られて一瞬ムッとした表情をしたものの、すぐに誰かいないかと考え始めてくれた。
「いないわね。」
「は?」
「だって私、ここに来て二週間経つけど、外に遊びにいったことないし、毎日異端児を返しにくる研究員?とかって人たちも、そこのドア叩いて、返しにきたことを知らせるだけで話したこともないのよ。 で、黒崎くんが言ってる人って、隊長でしょ? あいつ、私たち日本人のこと嫌ってるみたいだし、感じ悪いじゃん。 話しかけたくないよ。」
「隊長ってことは、お偉いさんだったのか。 あれは、俺が嫌われてるのかと思ってたよ。」
「違う、違う。 私に対してもだし、その前の人も。 話を聞く限りじゃ、前の人の前任者にもみたい。 あいつらと違って、私たち黒髪じゃん? 見た目も違うから、差別的な感じなんじゃない?」
少し考えた末に彼女の口から出てきた言葉に、俺は間抜けな声をあげてしまった。
知っている人もいないこの世界で、知り合いも作らずに不安はないのだろうかと考えていると、葉山さんは理由を教えてくれた。
それを聞く限り、特に知り合いをつくろうとは感じなかったんだろう。
隊長らしい、俺を案内してくれた奴に関しては、俺も彼女と同意見だけど。
とにかく彼女からこれ以上情報を聞き出すのは無理らしいとわかり、俺はコップに手を伸ばして葉山さんとの会話を終わらせたのだった。
どのくらいの時間、お互い話すこともなく黙って飲み物を飲んでいたのか、不意に入ってきたのとは別のドアが礼儀正しく三回ノックされた。
この部屋は全方位にドアがあり、二つは木のドアで、これはそれぞれ風呂付きの私室につながっていた。
私室といってもテレビなんかはなく、木でできた机とベッドがあるだけのこぢんまりとした部屋。
あとの二つは鉄のドアで、一つは外へと続くもので、もう一つがノックされたのだった。
すると葉山さんは立ち上がり、ノックされたドアの方へ近づいていった。
そしてそのままドアの前にじっと立ち、何かを待っている様子だった。
木の板で出来た壁に、鉄のドアって何かシュールだよな。
などと、葉山さんの後ろ姿をぼーっと眺めながら考えていると、小さく何かが閉まる音が聞こえた。
「異端児が返却されたから、世話をしに行くよ。」
「あ、ああ。」
音が聞こえると同時に葉山さんが振り返り、仕事だと言ってきたものだから、何が起こっているのか状況を掴めないまま、慌てて返事をすると急いで彼女の元へ向かった。
俺が彼女の横に着くと、彼女はゆっくりとドアを開けた。
ドアの先は漆黒の闇が広がっていて、何がそこにあるのか、そもそもどんな部屋で、どのくらいの広さがあるのか全くわからない。
何もわからないということが俺の恐怖心を刺激し、その部屋の中へ入ることを躊躇していると、急に部屋が明るくなった。
「大丈夫だから入ってきて。 異端児は檻の中で拘束されているから、襲ってはこないよ。」
どうやら俺が異端児を怖がっていると勘違いした様子の葉山さんは振り返ると、俺を安心させるように笑顔を見せながら優しく話しかけてきた。
明るくなった部屋へ一歩入って周囲を確認すると、そこは今までいた部屋と全く雰囲気が違っていた。
部屋の広さは、大人三人が体をくっつけあって寝転べるほどの広さしかなく、壁際には大きな薬品棚が設置されている。
そして壁や床は木ではなく、大理石のような水を染み込まない素材でできていた。
しかし一番異様なのは、薬品棚とは逆側の壁際にある檻。
それは天井から床まで鉄格子が嵌められた、人一人が手足を伸ばして横になれないほど小さなものだが、その中に見るからに衰弱している、あどけなさをまだ顔に残した少年が入れられていた。
「これが、私たちが世話する異端児よ。 夜、実験が終わったら返却されるから、そこにあるホースを持ってきて水をかける。 洗車みたいな感じね。 基本的には水をかけるだけでいいんだけど、研究員や隊長から指示があったら、石鹸でこれを洗うみたい。 でも今までそんなこと言われたことはないから、滅多に言われることはないと思うよ。 で、適当に水をかけ終わったら下の世話をして、また水をかける。 最後にそこの容器に餌と水を入れて終わり。 ね、ペットの世話と一緒でしょ?」
茶色に近いオレンジに、オレンジに近い赤。
色について詳しくないし、説明力もないから、どういっていいかわからないが、すごく不思議で、でも惹かれて眼が離せない、まるで計算され尽くしたかのように二色が配分された綺麗な髪色で、これまた日本にいたら……いや、地球にいたらモテるだろうなってわかるほど顔が整っているイケメン。
それが異端児だった。
異端児がまさか人間だとは思っていなかった俺は、彼に対する待遇の悪さに戸惑いを通り越して、怒りのあまり吐き気さえ感じていた。
そんな俺の気持ちに気づいていない葉山さんは、檻の外にある水道を思い切り捻り、かなりの水圧で異端児の身体に水をかけていった。
実験とは人体実験なのか、血が出ていたり、あざだらけになっている身体に容赦なく水をかけたり、ご飯といっても本当にドッグフードのような食べ物を餌皿に入れたりする彼女を信じられない気持ちで見ていた。
そして一応説明を聞いたものの、彼女がいなくなって世話係が俺一人になった際は、誰かに異端児の待遇を改善してくれるよう頼もうと誓ったのだった。
この世界は技術がそこまで発展していないのか、地下へと続く階段は、石造りの壁に一定の間隔で取り付けられているランタンのようなものが発する灯りだけしかなかった。
そのため周囲は薄暗く、俺は足を踏み外すんじゃないかとビクビクしながらゆっくりと降りているため、騎士との差はどんどん開いている。
「おい、後任を連れてきた。 しっかり教えろよ。」
階段を降り切ったのか、俺が最後の踊り場に辿り着いた時、頑丈な鉄のドアが開くような音と共に、騎士のよく通る声が聞こえてきた。
そして俺が追いつくまでに誰かに後任がきたことを伝え終わったようで、こちらに戻ってきていた。
前任者に紹介するとかいう優しさは、持っていないらしい。
誰に聞けばいいとかわかんねえよな、と戸惑いながら、すれ違う騎士に助けを求める視線を送ったが、全く見てくれることもなく、来た時と同様さっさと階段を登っていってしまった。
「ねえ、そんなとこに突っ立ってないで、入ってきたら?」
困惑していると、部屋の方から女性が声をかけてきた。
ハッとして声のした方を見ると、背中まであるストレートの黒髪が特徴的な大学生ぐらいの女性が、ずっとドアを支えて待ってくれていた。
どう見ても重たそうな鉄のドア。
それを押さえさせていたと気づき慌てて部屋の中に入ると、女性もドアから手を離して入ってきた。
「今日から一週間だけだけど、よろしく。 私は葉山蓮花。 二十一よ。」
「あ、俺は黒崎翔。 十七っす。」
「それで? 黒崎くんは何ヶ月の契約なの?」
「契約? 何の話っすか?」
背後でものすごい音を立ててドアが閉まったが、葉山と名乗った女性は気にする様子もなく、部屋の中央にある木のテーブルへ座るようジェスチャーで言いながら、自分は部屋の隅へと歩いていった。
俺はテーブルと同じ、木でできた椅子へ座ると、簡単に自己紹介をして頭を下げた。
それにしても本当に礼拝堂と同じ建物の中かよ?と思うぐらい部屋の中は質素だった。
よく言えばフローリング、悪く言えば木を貼っただけの床に、同じく木でできた壁。
電灯……らしいものは天井についているが、見慣れたものとは違うから、どういう仕組みで灯りがついているのかはわからない。
彼女が使っているものも、多分ポットなんだろうなあ。
本当に異世界なんだ。
などと考えていたが、契約という言葉に言いしれぬ不安を感じて、俺は慌てて葉山さんの話へ意識を戻して質問した。
「普通に話せばいいよ。 敬語、苦手なんでしょ?」
「あ、ああ。」
「ごめん、ごめん。 契約についてだったよね。 こっちに召喚された時に、何の仕事をするのか、どのくらいの期間働けるか。 あとは報酬についての説明と相談がなかった?」
「いや、国の名前と世話係をしろって一方的に言われただけで、何の世話をするのかさえ教えてもらってねえ。」
「ウソ?」
葉山さんは両手にコップを持って戻ってくると、それを一つは俺の前、もう一つは彼女の前に置いて、座りながら俺の口調について言及してきた。
そんなに変な敬語だったか?
てか、今は契約について知りたいと考えていると、顔に出ていたのか、彼女は笑いながら謝ると、この世界に来てすぐに話があるはずの内容について教えてくれた。
でもそんな話、全くなかったぞ。
困惑しつつ、先ほど礼拝堂で話した内容を伝えると、今度は葉山さんが驚いた様子で、飲もうとして口元まで持っていっていたコップをおろすことも忘れて俺を見た。
「本当です。」
「まじかあ。 先に契約について教えるね。 て言っても、前の人のことは詳しく知らないから、私はって話だけど。」
相当大切なことを、すっ飛ばされたらしい。
葉山さんの反応からそのことに気づいて途方に暮れながら返事をすると、俺が気落ちしているように見えたのか、彼女はまるで元気づけてくれるかのように明るい声で、契約について説明すると言ってくれた。
話を簡単にまとめると、彼女も俺と同じように召喚された。
その時に王様と王女様、聖女様などそうそうたるメンバーがいて、彼らは自己紹介を済ませると、仕事についての詳しい話があった。
仕事は基本的に朝と夜、異端児という生き物に餌をあげたり、排泄の世話。
早く言えばペットの世話のようなものをするだけで、日中であれば許可をもらって外出できる。
その割には給与も破格で、彼女は強気の態度で交渉し、今後働かなくても生活できる程度の退職金を日本に帰る時にもらう契約を結んだらしい。
また任期については最初最低でも一年と言われたが、彼女自身が大学生だということもあり、夏休み期間中の一ヶ月のみ。
それより長期というのであれば、自分を元の世界に帰して別の者を呼び直すよう迫ったら、渋々了承してくれたというものだった。
「異端児を見せてあげたいんだけど、まだ実験室から返却されてないんだ。 まあでも、そんなに怖がる必要もないよ。 犬や猫の世話より全然ラクだから、黒崎くんも二日もかからずにできるようになるよ。」
葉山さんは仕事の話をしていたが、俺はさっき聞いた契約の話が妙に引っかかっていた。
アニメや小説とは違うのかもしれないけど、神が勝手にする、別の世界で前世の記憶を引き継いで転生!と違って、召喚は確かすごいエネルギーやお金がかかるから、そんなにホイホイできるものじゃなかったはず。
それなのに俺を召喚して一週間後には、今度は日本に召喚術を使って帰す?
しかも簡単な仕事をこなして、一生遊べるだけの退職金。
いや、怪しすぎるだろ。
「なあ、この世界に詳しい知り合いっていないのか? 例えば、さっき俺をここに連れてきた奴とか。」
異端児についてまだ何か説明してくれていたが、俺が口を挟んで質問すると、話を遮られて一瞬ムッとした表情をしたものの、すぐに誰かいないかと考え始めてくれた。
「いないわね。」
「は?」
「だって私、ここに来て二週間経つけど、外に遊びにいったことないし、毎日異端児を返しにくる研究員?とかって人たちも、そこのドア叩いて、返しにきたことを知らせるだけで話したこともないのよ。 で、黒崎くんが言ってる人って、隊長でしょ? あいつ、私たち日本人のこと嫌ってるみたいだし、感じ悪いじゃん。 話しかけたくないよ。」
「隊長ってことは、お偉いさんだったのか。 あれは、俺が嫌われてるのかと思ってたよ。」
「違う、違う。 私に対してもだし、その前の人も。 話を聞く限りじゃ、前の人の前任者にもみたい。 あいつらと違って、私たち黒髪じゃん? 見た目も違うから、差別的な感じなんじゃない?」
少し考えた末に彼女の口から出てきた言葉に、俺は間抜けな声をあげてしまった。
知っている人もいないこの世界で、知り合いも作らずに不安はないのだろうかと考えていると、葉山さんは理由を教えてくれた。
それを聞く限り、特に知り合いをつくろうとは感じなかったんだろう。
隊長らしい、俺を案内してくれた奴に関しては、俺も彼女と同意見だけど。
とにかく彼女からこれ以上情報を聞き出すのは無理らしいとわかり、俺はコップに手を伸ばして葉山さんとの会話を終わらせたのだった。
どのくらいの時間、お互い話すこともなく黙って飲み物を飲んでいたのか、不意に入ってきたのとは別のドアが礼儀正しく三回ノックされた。
この部屋は全方位にドアがあり、二つは木のドアで、これはそれぞれ風呂付きの私室につながっていた。
私室といってもテレビなんかはなく、木でできた机とベッドがあるだけのこぢんまりとした部屋。
あとの二つは鉄のドアで、一つは外へと続くもので、もう一つがノックされたのだった。
すると葉山さんは立ち上がり、ノックされたドアの方へ近づいていった。
そしてそのままドアの前にじっと立ち、何かを待っている様子だった。
木の板で出来た壁に、鉄のドアって何かシュールだよな。
などと、葉山さんの後ろ姿をぼーっと眺めながら考えていると、小さく何かが閉まる音が聞こえた。
「異端児が返却されたから、世話をしに行くよ。」
「あ、ああ。」
音が聞こえると同時に葉山さんが振り返り、仕事だと言ってきたものだから、何が起こっているのか状況を掴めないまま、慌てて返事をすると急いで彼女の元へ向かった。
俺が彼女の横に着くと、彼女はゆっくりとドアを開けた。
ドアの先は漆黒の闇が広がっていて、何がそこにあるのか、そもそもどんな部屋で、どのくらいの広さがあるのか全くわからない。
何もわからないということが俺の恐怖心を刺激し、その部屋の中へ入ることを躊躇していると、急に部屋が明るくなった。
「大丈夫だから入ってきて。 異端児は檻の中で拘束されているから、襲ってはこないよ。」
どうやら俺が異端児を怖がっていると勘違いした様子の葉山さんは振り返ると、俺を安心させるように笑顔を見せながら優しく話しかけてきた。
明るくなった部屋へ一歩入って周囲を確認すると、そこは今までいた部屋と全く雰囲気が違っていた。
部屋の広さは、大人三人が体をくっつけあって寝転べるほどの広さしかなく、壁際には大きな薬品棚が設置されている。
そして壁や床は木ではなく、大理石のような水を染み込まない素材でできていた。
しかし一番異様なのは、薬品棚とは逆側の壁際にある檻。
それは天井から床まで鉄格子が嵌められた、人一人が手足を伸ばして横になれないほど小さなものだが、その中に見るからに衰弱している、あどけなさをまだ顔に残した少年が入れられていた。
「これが、私たちが世話する異端児よ。 夜、実験が終わったら返却されるから、そこにあるホースを持ってきて水をかける。 洗車みたいな感じね。 基本的には水をかけるだけでいいんだけど、研究員や隊長から指示があったら、石鹸でこれを洗うみたい。 でも今までそんなこと言われたことはないから、滅多に言われることはないと思うよ。 で、適当に水をかけ終わったら下の世話をして、また水をかける。 最後にそこの容器に餌と水を入れて終わり。 ね、ペットの世話と一緒でしょ?」
茶色に近いオレンジに、オレンジに近い赤。
色について詳しくないし、説明力もないから、どういっていいかわからないが、すごく不思議で、でも惹かれて眼が離せない、まるで計算され尽くしたかのように二色が配分された綺麗な髪色で、これまた日本にいたら……いや、地球にいたらモテるだろうなってわかるほど顔が整っているイケメン。
それが異端児だった。
異端児がまさか人間だとは思っていなかった俺は、彼に対する待遇の悪さに戸惑いを通り越して、怒りのあまり吐き気さえ感じていた。
そんな俺の気持ちに気づいていない葉山さんは、檻の外にある水道を思い切り捻り、かなりの水圧で異端児の身体に水をかけていった。
実験とは人体実験なのか、血が出ていたり、あざだらけになっている身体に容赦なく水をかけたり、ご飯といっても本当にドッグフードのような食べ物を餌皿に入れたりする彼女を信じられない気持ちで見ていた。
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