4 / 18
ー1ー
1−4
しおりを挟む
翌朝早く。
葉山さんがいなくなったことで自由に行動できることをいいことに、昨日の怪我が気になっていたこともあり、朝食も食べずに零の様子を見にいった。
が、ドアを開けてすぐ目に飛び込んできた光景に、すぐもと来た道を引き返して自分の部屋へ戻った。
そして置いてあったものの、一度も使ったことがないブランケットを手に取ると、再び零のいる部屋へ入った。
「おはよう。 今日から俺だけだから、何か足りないことがあれば教えてくれるか? 俺、自分のことも完璧にできないから、多分、零のことってなったら余計にできねえと思うんだわ。」
檻の鍵を開けて中へ入ると、身体を丸めて床にうずくまっている零にブランケットをそっと掛けた。
そう、ドアを開けて見えたのは、零が寒そうに震えている姿だった。
葉山さんがいたら、そんなこと必要ないと言うだろうが、俺は零のことを彼女みたいに感情もない物だと割り切れない。
どちらかというと、日本じゃ友達って呼ぶような奴もいなかったから、零と友達になりたいとすら考えている。
だから零が困っているなら助けるし、希望はできるだけ叶えてやりたい。
しかし、そんな俺の行動が不思議なようで、零はどこか警戒した眼差しで見上げてきていた。
「食欲はあるか? 熱も高いし、ちょっと待ってろ。 すぐ朝飯を持ってきてやる。」
顔が赤いことに気づき、零の額に手を当てた時に身体がさらに震えていたため、おそらく俺か、俺たち異世界人のことが怖いのだろうと思ったものの、俺はそんなことを考えているなどとは顔に出さないよう気をつけながら、食欲について聞いた。
しかし零は警戒した表情のまま首を傾げただけで、何も言おうとしない。
これだけ警戒されていたら答えてくれないかと諦めると、俺は身体が弱っていても食べやすいお粥もどきを作ろうと、勝手にリビングと名付けた全ての部屋へつながっている中央の部屋へ戻っていった。
「本当は米で作るんだけど、こっちで米って見たことなくてパンを代用したから味は保証できねえ。 もし不味かったら作り直すから、遠慮なく言えよ。」
しばらくしてお粥もどきを作り終えると、零の前に座り込んだ。
そしてそのまま器とスプーンを渡そうとしたのだが、零の両手は枷が嵌められ、左右を短い鎖で繋がれていたことに気づくと、一度お粥もどきを床に置いた。
それから渡されていた鍵で両手を繋いでいた鎖を外し、ついでに右足と壁をつなげている鎖も外して器を渡した。
「どうした? 嫌いなもんでも入ってたか?」
「昨日言っただろ。 右手の神経をお前らに切られたって。 一応神経は繋げたけど俺は回復専門じゃねえから、後遺症が残って繊細な力加減や複雑な動きをしにくいんだよ。 零、おいで。」
器を受け取る気配がないため、ドッグフードみたいなご飯じゃかわいそうかと思って作ったけど、もしかしてアレしか食えなかったのか?
内心失敗したかと焦っていると背後から声が聞こえて、俺が持っていた器を誰かが……いや、もう声でわかるようになった……隊長が取り上げた。
そして檻の前にあぐらをかいて座ると、俺たちに話しかける時と全く違う、優しい声で零を呼んだ。
すると零は俺の方をチラチラ見て警戒しながらも、ゆっくりと身体を起こすと当然のように隊長の胡座の上に座った。
「毒は入ってないみたいだな。」
「何で入れなきゃいけないんだよ!」
「……お前、変わってるな。 目的は何だ?」
零が移動している間に俺が作った料理を一口食べていた隊長は、零が自分のお腹にもたれかかるように座って落ち着いた頃にボソッと失礼なことを呟いた。
その言葉は流石に聞き流せずに突っ込むと、隊長は不審なものでも見るように俺をしばらく眺めた後、今度は訝しむように質問してきた。
でも、答えたくねえ……。
零と友達になりたいからとか、恥ずかしすぎるだろ。
「だって、こいつ何も悪いことしたように見えねえから。 何でこんなところに拘束されて閉じ込められてるのか知らねえけど、まだガキだろ? ガキの面倒を見るのは大人の役目だろ。」
「お前、本当に何も知らないんだな。」
答えるまできっと納得しない。
そんな隊長の態度に、どう誤魔化そうかとない頭を絞って作り出した言い訳は、隊長を呆れさせただけだった。
隊長は少し同情さえ混じったような声で一言返してきた後は、もう俺の方を見ることもなく、零を気遣いながらお粥もどきを食べさせ続けていた。
やることがなくなったため、そんな隊長の後ろ姿を改めて見ていると何か違和感を感じた。
その原因は何かとじっと見ていた俺は、ようやくあることに気づいた。
いかついと思っていた体格が、今日は細マッチョ。
しかも今までずっと鎧だったのに、今日はTシャツにズボンと普段着だった。
それで歩いている時に鎧が擦れて鳴る音が聞こえず、さっき背後を取られたのかと納得していると、さすがにじっと見過ぎたようで、鬱陶しそうに睨まれてしまった。
「なあ、隊長さん。 もう朝飯食ったのか? まだなら一緒に食うか?」
「リアムだ。 話もあるし、食べさせてもらおうか。」
じっと見すぎたことはわかっていたため、なんとなく気まずくなって朝食に誘った。
俺たちのことを嫌っているぐらいだから断るだろうと思っていたのだが、予想に反し、リアムと名乗った隊長は素直に誘いに乗ってきた。
そのため俺は、食べ終わった零に横になるよう指示しているリアムが来るまでに、急いで朝食を作る羽目になってしまった。
「おい、お前に確認したいことがある。」
「何だよ?」
リビングへ入ってくるなり、リアムは威圧感を醸し出して質問してきた。
スープを作っていた俺は平気なふりをして聞き返したが、内心はすごいビビっている。
お玉を持っている手は、ちょうどリアムからは見えないため気づかれていないと思うが、あいつの殺気にも似た威圧感にあてられてずっと震えていた。
「さっきの零に対する態度は、どういうことだ? 何を企んでる?」
リアムは椅子に座ると、質問をしながらも俺から目を離すことなくじっと見続けている。
この目を俺は知っている。
俺も同じ目をしたことがあった。
目の前にいる相手を、信用していいのか見極めようとしている目だ。
てことは、俺も敬意を払って対応しないといけないな。
俺は黙ってコンロの火を切ると、スープをそれぞれの器に注ぎ、すでに作ってあった目玉焼きやハムなどを入れた皿と一緒にトレーに乗せると、テーブルに運んでいった。
「冷めるから、食べながらでいいだろ?」
「ああ。」
「企むも何も、ただ寒そうだったからブランケットを渡した。 いつものご飯は不味そうだし、栄養がなさそうだったから、ずっと気になってたってのもあるけど、昨日の大怪我見てるから、もっと食べやすいやつの方がいいだろうなと思って作っただけだ。 そもそも俺は最初から、零に対する扱いには腹が立ってんだ。 昨日までは葉山さんがいたから我慢してたけど、俺一人になったんだから、王様たちにバレないように上手くやるのは問題ねえだろ。」
「今までの奴らと、全く違うんだな。 お前、名前は?」
「翔。」
「翔か。 お前も奴らと同じで零に対して酷い対応するのかと思って、キツく当たってた。 悪かったな。」
リアムの前にも朝食を並べると、俺は一応食べていいか確認を取って食べ始めた。
最初はお粥もどきの時と同じように恐る恐る食べていたリアムだったが、一口食べて毒が入ってないとわかると、俺が話している時もずっと視線は皿にいっているほど集中して食べ始めた。
俺を見極めるんじゃなかったのかよと突っ込みたかったが、話はきちんと聞いていたようで、その上で自分たちの味方だと判断してくれたようだった。
その後は食事の手を止めて、頭を下げて謝ってくれたし、零に対して過保護なだけで根はいい人らしい。
「いいよ。 なんか事情がありそうだしな。 聞いてもいいか?」
「ああ。 零は……」
零に対するリアムの過保護な様子や、王様たちの零に対する対応。
彼がなぜ、ここまで酷い仕打ちを受けているのかずっと引っ掛かっていた俺は、今のリアムなら話してくれるだろうと、思い切って聞いてみた。
するとリアムはスプーンをテーブルに置き、どこか苦しそうな表情で話してくれた。
話が長かったため要約すると、この世界は地球と同じで人族しか存在していない。
しかしこの世界の上には悪を司る魔族と、善を司る神族がいる。
この二つの種族は考え方の違いからずっと争いを続けていたが、争いの最中に誤って人族の住む街へ落ちてきてしまう者がいた。
本人たちは平気で上へと戻っていくが、落ちてこられた街では建物の崩壊や怪我人、最悪の場合死者が出るなど被害を被っていたため、人族に迷惑がかからないようにしようと神族が魔族との国境に大きな結界を張った。
そのため二つの種族は争いがなくなり、人族も怯えて暮らさなくて良くなり、平和な日々を過ごしていた。
しかしそんなある日、この国に空から赤ん坊が降ってきた。
それが零。
空から降ってきたということで、すぐに国王に連絡がいき、鑑定眼をもっている王宮の職員に鑑定をしてもらった結果、零は魔族と神族のハーフ。
それも両親が強かったのか、能力がとんでもなく優れていたらしい。
それならと王様が研究員たちに命令したのは、零のクローンの作成と零がどこまで戦闘力が伸びるのか、また、どこまでの大怪我や魔法に耐えられるのかの実験だということだった。
「リアムは零を嫌ってないんだな。 今の話だと俺たちより、この国の奴らの方が零のことを嫌ってそうに感じたけど。」
「俺は、あいつが小さい頃から見てきたからかもしれないな。 もともと赤ん坊を拘束、監禁する国のやり方に嫌悪感を感じてるのもあったからかもしれないけどなあ。 それより、翔。 お前はいつまでの契約なんだ?」
「ああ、それな。 俺、契約とか何もしてないんだわ。 葉山さんの話だと、こっちに来たその場で話し合いがあるんだろ? それと俺からも聞きたいことがあるんだけど……契約満了した奴ら、本当に元の世界に帰ったのか?」
リアムの話を聞いてすぐは、零のあまりに不遇な環境に何と言っていいかわからなかった。
それでもさっきの話だと、リアムも零のことを嫌っていてもおかしくないのにと思ったが、それは成長を見てきたからこその愛着が湧いたらしい。
まあそれなら分からなくもないかと納得していると、ありがたいことにリアムの方から契約の話を出してきてくれた。
そのため俺は昨日スマホで調べてからずっと気になっていた、元の世界への送還についての質問を直球で投げてみた。
「どう……いう、意味だ?」
「その態度を見るに、元の世界に帰してねえな。」
俺が王様と契約をしていないと聞いてすでに驚いていたが、俺がわざと言葉を切った後、テーブルに身を乗り出して送還について尋ねるとリアムは明後日の方を向いて、わかりやすいほど動揺していた。
騎士としてどうなのよ?
そこまで態度が正直だと、敵に情報筒抜けだろうな。
まあ今は、その方が助かるけど。
俺はあまりに正直なリアムの反応に苦笑すると、リアムの口からも事実を言ってもらった方が、より確実な情報が手に入るだろうという考えもあり、もう一度ゆっくりと質問をした。
「ああ。 罪状は国の重要財産を破壊した。 てことになってるが、本当は零の存在を知ったからだろうな。 俺たちはお前らの国がどこにあるのかわからない。 だから一度帰ったお前らが、零欲しさに軍隊を引き連れて攻めてくるのを阻止するのが目的だろうな。」
「色々突っ込みたいことはあるんだけどさあ、国の重要財産の破壊って何?」
リアムは俺の視線に根負けして大きなため息をついた後に話してくれたが、その内容に俺は全くついていけなかった。
勝手に召喚して、戦争起こされたら困るから処刑?
うん、意味わからん。
この国の名前……もう覚えてもないけど地球上にはなかったから、俺らが一度帰った後に攻め入ることなんか無理だよな。
でも一番気になるのはやっぱり、重要財産って何?
しかしそれを聞いた途端、リアムは明らかに呆れた視線を俺に送ってきた。
「今の話の流れで、それ聞くか。」
あ、やっぱり馬鹿にしてた。
「国の重要財産は零のことだ。 帰る際、今まで苦労させたから、零に対して好きなことをしていいって王が契約の時に伝えて……お前は聞いてないんだな。 話が進まねえから、とりあえず最後まで話すぞ。 好きなことをしていいとは言ったが、一言も傷つけてもいいとは言ってねえ。 でもお前の前任者までの全員が、傷つけていきやがった。」
「そこ詳しく。」
もう一度大きなため息をついたリアムだったが、俺が質問した以上の内容を詳しく話してくれた。
やっぱりこいつ、味方になりさえすればいい奴だ。
でも葉山さんたちが零を傷つけた?
確かに世話をしている時に、零に対して一度も優しさなんか見せたことなかったけど、零に対して特に恨みとかも持っていなかったはず。
それなのに好きにしていいって言われたからって傷つけるか?
俺は前任者たちが零に対してどんな事をしたのか、同じ世界から来た人間として知っておかないといけない気がして、リアムの話を遮って尋ねた。
「だから最後まで聞けっつっただろ。 昨日も話したけど、最初の奴は右手の神経の切断……というか、これは鬱憤を晴らすために刺したら、たまたま切ってしまったってことだろうな。 で次の奴は、左足首をナイフでひとつき。 その次はうつ伏せにさせて腹と床の間で爆弾を爆発。 最後がお前の前任者で、声が嫌いだったって声帯。 これは狙って切りやがったんだろう。」
「嘘だろ……なんで戦争も何もない、平和な国から来たあいつらが、そんな酷いことができるんだよ?」
「そういうことか。」
「え?」
「今まで傷つくこともなく、傷つけることもなく生きてきたから、身体を傷つけられた時の痛みを知らないんだろう。 よく言うだろ? 殴ったことのない奴は、殴った側の痛みすら知らねえって。」
とりあえず最後まで黙って聞くようにと言ったものの、また話を遮ってしまったためリアムは苛立ったように大きな声を出した。
そのため黙って話を聞いたが、聞き終わると葉山さんたちの考えが理解できずに呆然としてしまった。
しかしリアムの方は俺が無意識のうちに呟いた言葉で納得したようで、彼女たちがなぜそこまで非道なことができたのか説明してくれた。
その説明を聞いてもなお、素直に共感することができず、俺は浮かない気持ちのまま食事を再開したのだった。
葉山さんがいなくなったことで自由に行動できることをいいことに、昨日の怪我が気になっていたこともあり、朝食も食べずに零の様子を見にいった。
が、ドアを開けてすぐ目に飛び込んできた光景に、すぐもと来た道を引き返して自分の部屋へ戻った。
そして置いてあったものの、一度も使ったことがないブランケットを手に取ると、再び零のいる部屋へ入った。
「おはよう。 今日から俺だけだから、何か足りないことがあれば教えてくれるか? 俺、自分のことも完璧にできないから、多分、零のことってなったら余計にできねえと思うんだわ。」
檻の鍵を開けて中へ入ると、身体を丸めて床にうずくまっている零にブランケットをそっと掛けた。
そう、ドアを開けて見えたのは、零が寒そうに震えている姿だった。
葉山さんがいたら、そんなこと必要ないと言うだろうが、俺は零のことを彼女みたいに感情もない物だと割り切れない。
どちらかというと、日本じゃ友達って呼ぶような奴もいなかったから、零と友達になりたいとすら考えている。
だから零が困っているなら助けるし、希望はできるだけ叶えてやりたい。
しかし、そんな俺の行動が不思議なようで、零はどこか警戒した眼差しで見上げてきていた。
「食欲はあるか? 熱も高いし、ちょっと待ってろ。 すぐ朝飯を持ってきてやる。」
顔が赤いことに気づき、零の額に手を当てた時に身体がさらに震えていたため、おそらく俺か、俺たち異世界人のことが怖いのだろうと思ったものの、俺はそんなことを考えているなどとは顔に出さないよう気をつけながら、食欲について聞いた。
しかし零は警戒した表情のまま首を傾げただけで、何も言おうとしない。
これだけ警戒されていたら答えてくれないかと諦めると、俺は身体が弱っていても食べやすいお粥もどきを作ろうと、勝手にリビングと名付けた全ての部屋へつながっている中央の部屋へ戻っていった。
「本当は米で作るんだけど、こっちで米って見たことなくてパンを代用したから味は保証できねえ。 もし不味かったら作り直すから、遠慮なく言えよ。」
しばらくしてお粥もどきを作り終えると、零の前に座り込んだ。
そしてそのまま器とスプーンを渡そうとしたのだが、零の両手は枷が嵌められ、左右を短い鎖で繋がれていたことに気づくと、一度お粥もどきを床に置いた。
それから渡されていた鍵で両手を繋いでいた鎖を外し、ついでに右足と壁をつなげている鎖も外して器を渡した。
「どうした? 嫌いなもんでも入ってたか?」
「昨日言っただろ。 右手の神経をお前らに切られたって。 一応神経は繋げたけど俺は回復専門じゃねえから、後遺症が残って繊細な力加減や複雑な動きをしにくいんだよ。 零、おいで。」
器を受け取る気配がないため、ドッグフードみたいなご飯じゃかわいそうかと思って作ったけど、もしかしてアレしか食えなかったのか?
内心失敗したかと焦っていると背後から声が聞こえて、俺が持っていた器を誰かが……いや、もう声でわかるようになった……隊長が取り上げた。
そして檻の前にあぐらをかいて座ると、俺たちに話しかける時と全く違う、優しい声で零を呼んだ。
すると零は俺の方をチラチラ見て警戒しながらも、ゆっくりと身体を起こすと当然のように隊長の胡座の上に座った。
「毒は入ってないみたいだな。」
「何で入れなきゃいけないんだよ!」
「……お前、変わってるな。 目的は何だ?」
零が移動している間に俺が作った料理を一口食べていた隊長は、零が自分のお腹にもたれかかるように座って落ち着いた頃にボソッと失礼なことを呟いた。
その言葉は流石に聞き流せずに突っ込むと、隊長は不審なものでも見るように俺をしばらく眺めた後、今度は訝しむように質問してきた。
でも、答えたくねえ……。
零と友達になりたいからとか、恥ずかしすぎるだろ。
「だって、こいつ何も悪いことしたように見えねえから。 何でこんなところに拘束されて閉じ込められてるのか知らねえけど、まだガキだろ? ガキの面倒を見るのは大人の役目だろ。」
「お前、本当に何も知らないんだな。」
答えるまできっと納得しない。
そんな隊長の態度に、どう誤魔化そうかとない頭を絞って作り出した言い訳は、隊長を呆れさせただけだった。
隊長は少し同情さえ混じったような声で一言返してきた後は、もう俺の方を見ることもなく、零を気遣いながらお粥もどきを食べさせ続けていた。
やることがなくなったため、そんな隊長の後ろ姿を改めて見ていると何か違和感を感じた。
その原因は何かとじっと見ていた俺は、ようやくあることに気づいた。
いかついと思っていた体格が、今日は細マッチョ。
しかも今までずっと鎧だったのに、今日はTシャツにズボンと普段着だった。
それで歩いている時に鎧が擦れて鳴る音が聞こえず、さっき背後を取られたのかと納得していると、さすがにじっと見過ぎたようで、鬱陶しそうに睨まれてしまった。
「なあ、隊長さん。 もう朝飯食ったのか? まだなら一緒に食うか?」
「リアムだ。 話もあるし、食べさせてもらおうか。」
じっと見すぎたことはわかっていたため、なんとなく気まずくなって朝食に誘った。
俺たちのことを嫌っているぐらいだから断るだろうと思っていたのだが、予想に反し、リアムと名乗った隊長は素直に誘いに乗ってきた。
そのため俺は、食べ終わった零に横になるよう指示しているリアムが来るまでに、急いで朝食を作る羽目になってしまった。
「おい、お前に確認したいことがある。」
「何だよ?」
リビングへ入ってくるなり、リアムは威圧感を醸し出して質問してきた。
スープを作っていた俺は平気なふりをして聞き返したが、内心はすごいビビっている。
お玉を持っている手は、ちょうどリアムからは見えないため気づかれていないと思うが、あいつの殺気にも似た威圧感にあてられてずっと震えていた。
「さっきの零に対する態度は、どういうことだ? 何を企んでる?」
リアムは椅子に座ると、質問をしながらも俺から目を離すことなくじっと見続けている。
この目を俺は知っている。
俺も同じ目をしたことがあった。
目の前にいる相手を、信用していいのか見極めようとしている目だ。
てことは、俺も敬意を払って対応しないといけないな。
俺は黙ってコンロの火を切ると、スープをそれぞれの器に注ぎ、すでに作ってあった目玉焼きやハムなどを入れた皿と一緒にトレーに乗せると、テーブルに運んでいった。
「冷めるから、食べながらでいいだろ?」
「ああ。」
「企むも何も、ただ寒そうだったからブランケットを渡した。 いつものご飯は不味そうだし、栄養がなさそうだったから、ずっと気になってたってのもあるけど、昨日の大怪我見てるから、もっと食べやすいやつの方がいいだろうなと思って作っただけだ。 そもそも俺は最初から、零に対する扱いには腹が立ってんだ。 昨日までは葉山さんがいたから我慢してたけど、俺一人になったんだから、王様たちにバレないように上手くやるのは問題ねえだろ。」
「今までの奴らと、全く違うんだな。 お前、名前は?」
「翔。」
「翔か。 お前も奴らと同じで零に対して酷い対応するのかと思って、キツく当たってた。 悪かったな。」
リアムの前にも朝食を並べると、俺は一応食べていいか確認を取って食べ始めた。
最初はお粥もどきの時と同じように恐る恐る食べていたリアムだったが、一口食べて毒が入ってないとわかると、俺が話している時もずっと視線は皿にいっているほど集中して食べ始めた。
俺を見極めるんじゃなかったのかよと突っ込みたかったが、話はきちんと聞いていたようで、その上で自分たちの味方だと判断してくれたようだった。
その後は食事の手を止めて、頭を下げて謝ってくれたし、零に対して過保護なだけで根はいい人らしい。
「いいよ。 なんか事情がありそうだしな。 聞いてもいいか?」
「ああ。 零は……」
零に対するリアムの過保護な様子や、王様たちの零に対する対応。
彼がなぜ、ここまで酷い仕打ちを受けているのかずっと引っ掛かっていた俺は、今のリアムなら話してくれるだろうと、思い切って聞いてみた。
するとリアムはスプーンをテーブルに置き、どこか苦しそうな表情で話してくれた。
話が長かったため要約すると、この世界は地球と同じで人族しか存在していない。
しかしこの世界の上には悪を司る魔族と、善を司る神族がいる。
この二つの種族は考え方の違いからずっと争いを続けていたが、争いの最中に誤って人族の住む街へ落ちてきてしまう者がいた。
本人たちは平気で上へと戻っていくが、落ちてこられた街では建物の崩壊や怪我人、最悪の場合死者が出るなど被害を被っていたため、人族に迷惑がかからないようにしようと神族が魔族との国境に大きな結界を張った。
そのため二つの種族は争いがなくなり、人族も怯えて暮らさなくて良くなり、平和な日々を過ごしていた。
しかしそんなある日、この国に空から赤ん坊が降ってきた。
それが零。
空から降ってきたということで、すぐに国王に連絡がいき、鑑定眼をもっている王宮の職員に鑑定をしてもらった結果、零は魔族と神族のハーフ。
それも両親が強かったのか、能力がとんでもなく優れていたらしい。
それならと王様が研究員たちに命令したのは、零のクローンの作成と零がどこまで戦闘力が伸びるのか、また、どこまでの大怪我や魔法に耐えられるのかの実験だということだった。
「リアムは零を嫌ってないんだな。 今の話だと俺たちより、この国の奴らの方が零のことを嫌ってそうに感じたけど。」
「俺は、あいつが小さい頃から見てきたからかもしれないな。 もともと赤ん坊を拘束、監禁する国のやり方に嫌悪感を感じてるのもあったからかもしれないけどなあ。 それより、翔。 お前はいつまでの契約なんだ?」
「ああ、それな。 俺、契約とか何もしてないんだわ。 葉山さんの話だと、こっちに来たその場で話し合いがあるんだろ? それと俺からも聞きたいことがあるんだけど……契約満了した奴ら、本当に元の世界に帰ったのか?」
リアムの話を聞いてすぐは、零のあまりに不遇な環境に何と言っていいかわからなかった。
それでもさっきの話だと、リアムも零のことを嫌っていてもおかしくないのにと思ったが、それは成長を見てきたからこその愛着が湧いたらしい。
まあそれなら分からなくもないかと納得していると、ありがたいことにリアムの方から契約の話を出してきてくれた。
そのため俺は昨日スマホで調べてからずっと気になっていた、元の世界への送還についての質問を直球で投げてみた。
「どう……いう、意味だ?」
「その態度を見るに、元の世界に帰してねえな。」
俺が王様と契約をしていないと聞いてすでに驚いていたが、俺がわざと言葉を切った後、テーブルに身を乗り出して送還について尋ねるとリアムは明後日の方を向いて、わかりやすいほど動揺していた。
騎士としてどうなのよ?
そこまで態度が正直だと、敵に情報筒抜けだろうな。
まあ今は、その方が助かるけど。
俺はあまりに正直なリアムの反応に苦笑すると、リアムの口からも事実を言ってもらった方が、より確実な情報が手に入るだろうという考えもあり、もう一度ゆっくりと質問をした。
「ああ。 罪状は国の重要財産を破壊した。 てことになってるが、本当は零の存在を知ったからだろうな。 俺たちはお前らの国がどこにあるのかわからない。 だから一度帰ったお前らが、零欲しさに軍隊を引き連れて攻めてくるのを阻止するのが目的だろうな。」
「色々突っ込みたいことはあるんだけどさあ、国の重要財産の破壊って何?」
リアムは俺の視線に根負けして大きなため息をついた後に話してくれたが、その内容に俺は全くついていけなかった。
勝手に召喚して、戦争起こされたら困るから処刑?
うん、意味わからん。
この国の名前……もう覚えてもないけど地球上にはなかったから、俺らが一度帰った後に攻め入ることなんか無理だよな。
でも一番気になるのはやっぱり、重要財産って何?
しかしそれを聞いた途端、リアムは明らかに呆れた視線を俺に送ってきた。
「今の話の流れで、それ聞くか。」
あ、やっぱり馬鹿にしてた。
「国の重要財産は零のことだ。 帰る際、今まで苦労させたから、零に対して好きなことをしていいって王が契約の時に伝えて……お前は聞いてないんだな。 話が進まねえから、とりあえず最後まで話すぞ。 好きなことをしていいとは言ったが、一言も傷つけてもいいとは言ってねえ。 でもお前の前任者までの全員が、傷つけていきやがった。」
「そこ詳しく。」
もう一度大きなため息をついたリアムだったが、俺が質問した以上の内容を詳しく話してくれた。
やっぱりこいつ、味方になりさえすればいい奴だ。
でも葉山さんたちが零を傷つけた?
確かに世話をしている時に、零に対して一度も優しさなんか見せたことなかったけど、零に対して特に恨みとかも持っていなかったはず。
それなのに好きにしていいって言われたからって傷つけるか?
俺は前任者たちが零に対してどんな事をしたのか、同じ世界から来た人間として知っておかないといけない気がして、リアムの話を遮って尋ねた。
「だから最後まで聞けっつっただろ。 昨日も話したけど、最初の奴は右手の神経の切断……というか、これは鬱憤を晴らすために刺したら、たまたま切ってしまったってことだろうな。 で次の奴は、左足首をナイフでひとつき。 その次はうつ伏せにさせて腹と床の間で爆弾を爆発。 最後がお前の前任者で、声が嫌いだったって声帯。 これは狙って切りやがったんだろう。」
「嘘だろ……なんで戦争も何もない、平和な国から来たあいつらが、そんな酷いことができるんだよ?」
「そういうことか。」
「え?」
「今まで傷つくこともなく、傷つけることもなく生きてきたから、身体を傷つけられた時の痛みを知らないんだろう。 よく言うだろ? 殴ったことのない奴は、殴った側の痛みすら知らねえって。」
とりあえず最後まで黙って聞くようにと言ったものの、また話を遮ってしまったためリアムは苛立ったように大きな声を出した。
そのため黙って話を聞いたが、聞き終わると葉山さんたちの考えが理解できずに呆然としてしまった。
しかしリアムの方は俺が無意識のうちに呟いた言葉で納得したようで、彼女たちがなぜそこまで非道なことができたのか説明してくれた。
その説明を聞いてもなお、素直に共感することができず、俺は浮かない気持ちのまま食事を再開したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました
山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。
生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる