半身転生

片山瑛二朗

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第4章 灼眼虎狼編

第285話 誕プレを見繕おう

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「3人ともいいですか」

 両手を顔の前で組み、肘をついている。
 行儀は良くないはずだが、絵になる。
 彼女が3人という時は大抵、アラタ、ノエル、クリスの3人を指している。
 しかし今回は、ノエルがアウトでシルがイン、少しいつもとは趣が異なる。

「いいよ」

「私も」

「シルも」

 ノエルが出かけている間に急遽召集をかけられた彼らは、今からいったい何が始まるのか見当すらついていない。
 ここ1か月と少し、毎日のように冒険者として働き、楽ではないが平坦な道のりに飽きてきたアラタは、何か面白いことが始まる予感がしてならなかった。
 まだまだ借金は残っているものの、返済までの道のりは既に立っている。
 それもこれも、ノエルとリーゼがドレイクに頼み込んで利子を失くしてくれたのが大きい。
 このまま頑張ればいずれ借金は返し終わる。
 その現実は、アラタの精神衛生状態を非常に高潔に清潔に保っていたのだった。

「もうすぐノエルの誕生日です」

「あぁ、そういう」

 アラタのテンションが少し下がる。
 何か新しいクエストに挑戦するとか、そういう内容で無かったから。
 決して誕生日を祝うのが面倒だからだったとかではない。

「いいですか、くれぐれも粗相のないようにしてくださいね」

「粗相って、他に誰が来るの?」

 いつもながら軽薄で想像力に乏しいアラタには辟易とする。
 一から十まで説明しないと分からず、その役割はいつもリーゼが担当していた。

「誰かが来るのではなく、私たちがクレスト家の本邸に行くんです」

「私たちも招待されるのか?」

「ノエルが私たちを外すと思います? むしろウキウキで招待状を作っていますよ」

「で、粗相をしないようにってこと?」

 リーゼが頷く。
 力強く頷いた。

「ダンスに関しては私以外は参加しないと思うので問題ありませんが、くれぐれも問題を起こさないように。いいですかアラタ」

「名指しはやめてよ」

「妥当な判断なのは分かっていますよね?」

「まぁ、それはそうだけどさぁ」

 少し前にアラタがノエルに金を無心しようとしていたことはリーゼ、ハルツの順に情報が流れてしっかりクレスト家、大公の所にまで届き、軽くお叱りを受けたことは記憶に新しい。
 ダンジョン制覇者の一人であることは誰もが知るところだが、問題児であることも広く知られている。
 特に貴族の中で彼の評価は二分されている。

「とにかく、くれぐれも失礼の無いように。いいですね?」

 念押ししたリーゼに、クリスは苦言を呈した。

「気を張らないといけない誕生日会なんて面倒だ」

「俺もそう思う」

「2人とも……」

「アラタ」

 彼の隣に座っていたシルが初めて口を開いた。

「なに?」

「ノエルはアラタたちが来てくれるのを楽しみにしていると思うよ」

 ぐうの音も出ない。
 堅苦しい要素が介在してしまうのは仕方のないことで、そんな理由で仲間の誕生日を祝わないのはおかしい。
 アラタもクリスも、少し言ってみただけだ。

「ごめんごめん。誘われたらちゃんと行くよ」

「じゃあなんで初めからそう言わないの?」

「何でだろうね」

 シルはまだ子供で、純粋である。
 アラタのようにねじ曲がっていなければ、クリスのように面倒臭くもない。
 彼らの感性はそれぞれかなりの差があって、それこそがシルを成長させる。
 だがまあ、要するにアラタもクリスも面倒な奴ということだ。

「とにかく粗相をしないこと。それからプレゼントですね」

「あのさ」

 この会議を進めるにあたって最も重要なことをアラタは今訊く。

「ノエルの誕生日っていつ?」

「7月25日です」

「今日って7月20日だよね」

「はい」

「言うの遅くない?」

「そうですか? こんなものでしょう」

 ここでも両者間の感覚の違いが浮き彫りになる。

「いや、もう少し早ければ色々とさ……それにもし予定が入ってたらどうしたんだよ」

「でも招待だってこれからですよ」

「それはそうだけど、でもさあ、こう準備期間とか」

「アラタのことですから、どうせギリギリになってから準備するんでしょう? 早くても遅くても一緒ですよ」

「確かに」

 リーゼにクリスが同調する。

「お前らさぁ」

「とにかく、誘われたら出席、いいですね? あとはプレゼントでも用意してください」

「はい質問」

 アラタが手を挙げた。

「何渡せばいい?」

「何でもいいですよ」

「そうじゃなくて、こうジャンルとか値段とか」

 女性へプレゼントを見繕う機会なんて、数えるほどしかないアラタはノエルに何を渡せばいいのか皆目見当がつかない。
 というかもう一人の彼は、彼女である清水遥香との記念日を忘れるレベルのボンクラだ。
 そもそもこういったことに疎い性格をしている。

「本当に何でもいいんです。価格で良し悪しを判断するような子じゃないですし、そもそもノエルが欲しい高額なものは大抵手に入ります。そういう意味では心さえ籠っていれば本当に何でもいいんです」

「金持ちってすげえ」

「借金まみれのお前が言うと説得力が違うな」

「お前なぁ!」

「「2人とも」」

 リーゼとシルの声が重なった。
 2人とも、それで黙る。

「何だかんだいってちゃんと準備するんですから、いつまでもふざけてないでちゃんとしてください。いいですね?」

「分かった」

「はーい」

 話が丁度終わったところで、示し合わせたかのように玄関の扉が開いた。

「ただいま!」

 ノエルである。
 靴を脱いでそのまま居間に直行してきた彼女は、バッグから4通の手紙を取り出した。
 タイムリー過ぎる気もするが、間違いなく招待状である。

「私、もうすぐ誕生日なんだ。もしよければ来てほしい」

 手紙、というより招待カードには綺麗な字で必要事項が書かれていた。
 いい紙を使っていて、白すぎるくらい真っ白だ。
 そしてそれと対照的な真っ黒なインクで書かれた字は、アラタの眼にはノエルの書いたそれに見えた。
 代筆している可能性もあるけれど、確かに普段から目にする彼女の字。
 それを丁寧にした感じがして、ノエルの楽しみな想いが伝わってくるようだった。

「私は行きますよ。3人は?」

 私はと行っておきながら、リーゼの眼は少し怖い。
 断らないと分かっていつつ、もし断ろうものなら、そんなプレッシャーが飛んできている。

「シルは行きます」

「私もだ」

「俺もお邪魔します」

「ムフフ、待っている!」

 ノエルは満面の笑みでそう言うと、リビングを後にして部屋に戻っていった。
 誕生日会に誘うくらいなんてことないはずなのに、表情豊かだなとアラタとクリスは思った。
 ノエルはいつも鬱陶しいくらいに感情の起伏が激しいから、自分たちには無いその性質が物珍しい。

「3人とも」

 小声でリーゼが喋る。

「プレゼント、いいですね」

 しっかり用意しろと念押しする。
 それに対して三者も首を縦に振る。
 これにて打ち合わせは終了、あとは単独行動となるため、アラタは屋敷を出てプレゼント探しの旅に出た。

※※※※※※※※※※※※※※※

「武器、魔道具、何かこうなぁ」

 術師通りという、魔道具や武器防具類を多く扱う店舗がひしめく場所にやって来たアラタは、探しているものと求められているものにあるギャップを薄々感じていた。
 初めはクエスト中に使える小物や小道具があればそれでいいのではないかと思ったが、どうにもしっくりこない。
 何よりノエルは料理もしないし、そういった物の管理も苦手だ。
 となるとこの場にいること自体が的外れな気さえしてくる。

「で、振った女の所に来たわけね」

「振ったのはそっちじゃん」

「どっちでもいいわ。それより、花屋に来て何も買わずに情報を貰う気?」

「……おすすめを小さめの花束にしてください」

「ちょっと待っててねー」

 レイは上機嫌で鼻を見繕いに奥へ引っ込んでいった。
 店舗に陳列されていないものの中から選ぶつもりらしい。
 植物の臭いと、湿気を感じる店内。
 ペットショップと同じように、花屋にも独特の匂いや空気感という物は存在する。
 森の中を歩いているような瑞々しさが、この店にはある。

「はい、お待たせ」

「ありがと。いくら?」

「銅貨20枚」

「オッケー」

 アラタは財布から銅貨をありったけ取り出しつつ、この非効率的なやり取りを行う。
 何が非効率なのかというと、この国の貨幣交換制度が非効率なのだ。
 1円、5円、10円、50円、100円、500円と日本の硬貨は非常に扱いやすい。
 それに対してカナン公国の硬貨は銅貨、銀貨、金貨の3種類、日本円換算で100円、5000円、100000円しかない。
 一応非公式に鉄銭という物もあるので、細かい取引も可能ではある。
 しかし、面倒であることに変わりはない。
 ジャラジャラと20枚の硬貨で花束をやり取りすると、レイはヒントをくれる。

「香水は貰うと嬉しいかも」

「外すと嫌じゃない?」

「そこは一発勝負でしょ」

「また適当な……」

「臭いがきついのと派手なやつはNGよ。この前貰ったの売っちゃった」

「それは聞きたくなかったな。まあノエルに売却する脳みそはなさそうだけど」

「分かんないよ。案外…………」

「アドバイスと花束ありがとう。また来る」

 そう言うとアラタはそそくさと花屋を後にした。
 これ以上余計なことを考えながらプレゼント選びをしていたら、迷って何も選べない気がしてきたから。
 アラタは逃げるように店を出て、レイの助言を反芻する。

「香水かぁ」

 これだけ一緒に過ごしてきて、いつもではないがノエルが香水を吹いていること知っている男は、必要ないものでは無いということだけは分かっていた。
 ただそれをどこで手に入れているのか、市販品なのか一点ものなのか、それすら分からない。
 聞けば話は早いのだが、そういう物でもないのだろう。

「……とりあえず」

 香水を取り扱っている店を探そう。
 そう考えて、アラタは知り合いの多い術師通りへと引き返していったのだった。
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