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第5章 第十五次帝国戦役編
第341話 戦場からの手紙
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「アラタから手紙が来た!」
アラタの持ち物で、今はBランクパーティー灼眼虎狼の人間が生活している屋敷に大きな声が響いた。
声の主はもちろんノエルで、大公で父親のシャノン・クレスト経由で到着した手紙を握り締めていた。
あまりに強く握ったものだから少し皺がついてしまっている。
ノエルの声に反応して1階のリビングに降りてきたのは、寝間着姿のリーゼ。
ザ・パジャマといった寝間着は少しサイズがきつそうに見える。
いまだに成長を続けている彼女はたまに服のサイズを見直す必要があるのだが、最近は忙しくてそんな時間も取れていない。
ハルツやアラタが所属していて、レイヒム・トロンボーンが大隊長を務める第32特別大隊には、およそ500名の冒険者が在籍している。
ということはつまり、カナン公国にいくつかある冒険者ギルドからそれだけの人員が出兵したという事だ。
であるならば、通常なんの苦労も工夫もなくして回っていたギルドのクエスト消化状況が非常にひっ迫したものになっているのも至極当然である。
従ってクエスト料金は少し引き上げられ、請負側の冒険者に支払われる報酬も多少色を付けられ、そしてそんなメリットを遥かに凌ぐクエストの量に忙殺されるのだった。
リーゼが寝ぼけ眼を覚ましに顔を洗いに行っている間、ノエルは階段を駆け上がってクリスの部屋に突撃した。
「クリス! アラタから手紙が来た!」
「うぅ~ん……」
「起きて! アラタから連絡!」
「勝手に読んでいてくれ…………」
朝は低血圧気味でスイッチが入るまで時間がかかるクリスは勢いについていけない。
ベッドから起き上がることもしないままノエルを門前払いしようとした。
「一緒に読もうよー」
「リーゼがいるだろう」
「ブー。まあいいや、あとで教えてあげる!」
「はーい……」
嵐のような少女が過ぎ去ると、クリスはまた目を閉じた。
あいつが手紙を寄越すなんて、珍しいこともあるものだ。
それほどの異常事態が戦場に発生していると考えると、手紙が来たことも別に吉報ではないなとクリスは回らない頭で考え、再び眠りに落ちた。
「あ、クリスはどうでした?」
「あとでいいって」
「でしょうね。ノエルもあまり強制しちゃだめですよ」
「分かってるよ」
分かってなさそうだなぁとリーゼは寝ているクリスの方向に向かって合掌し、話を戻す。
「もう読みました?」
「これからだよ。開けていい?」
「どうぞどうぞ」
「えーと、詳しいことは言えないけど、俺は大丈夫だ。みんな忙しいかもしれないけど、クリスは例の準備を進めておいてほしい。リーゼとノエルはシルに迷惑をかけないように」
「……終わりですか?」
「勝つって。それだけだ」
「みじっかっ! 何なんですかあの人は!」
「アラタっぽいね」
「もう少しなんかこう……はぁ、もういいです。返事も必要なさそうですし、手紙どうします? 要らないなら捨てておきますけど」
「いや……いい」
「そうですか。私はクリスを起こしてきます」
「うん」
そろそろ準備を始めなければクエストに間に合わなくなると、リーゼがクリスを起こしに向かう。
夢と現実の境界線でまどろんでいるクリスも、徐々に血圧が上昇してきたはずだ。
朝食の準備を終えたシルがリビングにやって来て、皆を呼ぶ。
「みんな朝ごはん出来たよーってノエルだけ?」
「うん。リーゼが起こしに行った。シル、手紙に使うような紙はないか」
「お店の方にあるよ。使う?」
「うん、頼む」
クリスは少し皺のついた手紙を大事そうにポケットにしまうと、朝食を取りに食堂へと向かっていった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「伯爵、こんなものでどうだろうか」
「拝見いたします」
カナン公国大公、シャノン・クレストの執務室は思いのほか狭い。
仕事用の机が一つと応接用に最大5人が座ることのできる2,2,1人用のソファがコの字型に配置されていて、その真ん中に低めのガラスでできたテーブルがある。
壁にはこれ見よがしに高そうな絵画が飾られていて、他には資料や本が収納されている本棚が置かれていた。
必要な機能はすべて揃っているものの、この国の最高権力者の部屋なのだからもう少し豪勢でもいいのではと思わなくもない。
そんな部屋には彼と傍付きの人間しかいないことがほとんどだが、今日は違う。
伯爵と呼ばれたクラーク家当主イーサン・クラークをはじめとして、数名の貴族が出入りしている。
その人員も流動的で、一人出たら別の人間が入室し、また一人出たらというのを繰り返している。
それくらい忙しいのだ。
イーサンは渡された書状を左から右へ読み進めていく。
特段長い文章ではなく、むしろ端的で直線的な表現だ。
一切の誤解を与えることなく事実と要求を伝える書類は、少々の読みごたえを犠牲にして短時間で概要を把握させる力を持つ。
「ありがとうございました」
「で、君の考えは?」
「作戦の再考を命じる、くらいはよろしいかと」
「僕も同意見だ」
シャノンはイーサンから返却された手紙を別の人間にも見せていく。
そこには第1192小隊長アラタの名前である作戦の変更を指示して欲しいという内容の請願が書かれていた。
ある作戦というのはそう、コートランド川を前にして守りつつ、ウル帝国軍に消耗戦を挑むという内容。
確かに攻めなければならないウル帝国に対して、川を挟んで対峙できているこの状況は中々捨てがたい。
しかし未確認の情報ながら帝国からの増援の話があったり、味方の士気が低いことは看過できない。
援軍到着前に積極攻勢に出て、現在対峙している敵軍の早急な撃破及び再度膠着状態を作り出すことが、戦略的に正しいと説いている。
かなり過激且つ想像に富んでいるため、判断のしようがない部分が多分に含まれていることはシャノンもイーサンもすぐにわかった。
まあアラタ程度の脳みそならこの辺りが限界だろうとも。
ただし、司令官アイザック・アボットの立てた策も問題点がないわけではない。
本当にこの作戦が刺さるのか、いまいち決め手に欠ける印象を受ける。
だからこそ、作戦の再考を命じるあたりが妥当なのだ。
イーサンだけでなく、その場に居合わせた他の貴族連中も同じような意見だ。
アラタの意見を全面的に採用すべきだという者も、アイザックの策に絶対の信頼を置けるという者もいなかった。
現場での意見が割れた原因はこの辺りに思える。
結局のところ、どちらも決め手に欠けるのだ。
「ではそのように返答を作成します」
「うん、再考した結果同じ策になってもいいと書いておくようにね」
「はっ」
「ミラの方に動きは無いのか?」
シャノンは果汁100%のジュースに手を付けながら訊いた。
「相変わらずの膠着状態のようです」
「まあ1万の兵で2万6千を抑えているのだから上出来もいいところか」
「そのようで」
シャノンは無言で天井を見上げた。
改装当初、シャンデリアを取り付ける提案がなされたこともあったが、シャノンはしっかり却下した。
そう言ったのは本当の応接間やホールだけで十分だから、頼むから普通の照明をつけてほしいと言ったのだ。
結果リクエストの通り魔力動作式照明器具が取り付けられている。
豪華なのも嫌いではないが、こう日常的にそんな空間にいては疲れてしまう。
「川に橋を架けた敵の詳細は?」
「未だ不明です。魔術に精通した集団だという話はあるのですが」
「情報戦でついた差が重いな」
「ギルドに要請して冒険者を回しますか?」
「いや、これ以上は通常業務に支障が出る。ギルドも手いっぱいだろう。軍の予備役を投入する話はどうなった?」
「難航しています。すでに相当な数の予備役が従軍しているので、これ以上は中々……」
そう説明した男は額に汗をかいている。
この部屋はひんやりとしているが、ひとたび外に出れば残暑の暑さが体力を奪う。
ましてやその中で忙しく動き回っていればなおさらだ。
「王国の挙兵もまだか……」
「使者は送っているのですが、素振りだけで実行に移しておりません」
「まあいい。働きかけは継続するように」
「ははっ」
「あとは現場の将兵たちに委ねるほかないか……」
打てる手は打った状態で、芳しくない戦況ばかりが連日届いている。
これ以上何をどうすればいいのか、正直手詰まりの状態だ。
そしてこちら側が手詰まりだったとしても、敵は次々に新しい一手を打ってくる。
その対応にも労力を割いて、常に後手に回らざるを得ない。
苦しい状況を打開できるのは、もはや政治ではなく軍の力のみ。
その日、シャノンの返事をしたためた書簡は戦場に向かって行ったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「なるほど、そう来たか」
数日後、コートランド川を望む丘の上で司令官アイザックは呟いた。
大公からの書面には作戦の再考と、大佐以上を軍議に参加させる旨の命令が記されている。
軍の最高責任者は大公その人で、流石に無視して現行の作戦を推し進めるわけにはいかない。
明らかに自分の作戦に反対する人間が働きかけた結果であり、そんなことをする人間はある程度限られてくる。
真っ先に思い浮かんだのは、先日銀星十字勲章を受勲したばかりのあの青年だ。
「……今日の軍議は3時間後に延期するように伝えよ。それから参加資格を大佐まで引き下げる」
「畏まりました」
アイザックとて、現状立てた方針が最高のものだとは思っていない。
だが現状で最善の手を打ったという自信はある。
敵に攻撃を仕掛けるにしろ、撤退するにしろ、その組み合わせにしろ、どこかで必ずほころびが生じる。
そしてその亀裂は軍を再建不可能な状態にまで破壊してしまうだろうと、そう考えていた。
それほどまでに公国兵の士気と練度には問題があったのだ。
作戦の妥当性を示すための検証資料は十分に用意されていて、この作戦の優位性は揺るがない。
だというのに、この胸騒ぎを無視できない自分に老将は驚いていた。
正しいはずの作戦を敷いたはずの地面は、酷く揺らいでいる。
本当にこの方針で戦い抜けるのか、別のアプローチが必要なのではないか、だが、それらを実行するのはリスクが高すぎるのではないか。
堅実に、着実に積み上げてきた軍人人生が、リスクを取ることを許してくれない。
それを極力排除して勝利を手繰り寄せるのが我が戦い方だから。
その数時間後、通常少将以上しか参加できない軍議に大佐を交えて、公国軍本隊の運命を決める作戦会議が開始された。
アラタの持ち物で、今はBランクパーティー灼眼虎狼の人間が生活している屋敷に大きな声が響いた。
声の主はもちろんノエルで、大公で父親のシャノン・クレスト経由で到着した手紙を握り締めていた。
あまりに強く握ったものだから少し皺がついてしまっている。
ノエルの声に反応して1階のリビングに降りてきたのは、寝間着姿のリーゼ。
ザ・パジャマといった寝間着は少しサイズがきつそうに見える。
いまだに成長を続けている彼女はたまに服のサイズを見直す必要があるのだが、最近は忙しくてそんな時間も取れていない。
ハルツやアラタが所属していて、レイヒム・トロンボーンが大隊長を務める第32特別大隊には、およそ500名の冒険者が在籍している。
ということはつまり、カナン公国にいくつかある冒険者ギルドからそれだけの人員が出兵したという事だ。
であるならば、通常なんの苦労も工夫もなくして回っていたギルドのクエスト消化状況が非常にひっ迫したものになっているのも至極当然である。
従ってクエスト料金は少し引き上げられ、請負側の冒険者に支払われる報酬も多少色を付けられ、そしてそんなメリットを遥かに凌ぐクエストの量に忙殺されるのだった。
リーゼが寝ぼけ眼を覚ましに顔を洗いに行っている間、ノエルは階段を駆け上がってクリスの部屋に突撃した。
「クリス! アラタから手紙が来た!」
「うぅ~ん……」
「起きて! アラタから連絡!」
「勝手に読んでいてくれ…………」
朝は低血圧気味でスイッチが入るまで時間がかかるクリスは勢いについていけない。
ベッドから起き上がることもしないままノエルを門前払いしようとした。
「一緒に読もうよー」
「リーゼがいるだろう」
「ブー。まあいいや、あとで教えてあげる!」
「はーい……」
嵐のような少女が過ぎ去ると、クリスはまた目を閉じた。
あいつが手紙を寄越すなんて、珍しいこともあるものだ。
それほどの異常事態が戦場に発生していると考えると、手紙が来たことも別に吉報ではないなとクリスは回らない頭で考え、再び眠りに落ちた。
「あ、クリスはどうでした?」
「あとでいいって」
「でしょうね。ノエルもあまり強制しちゃだめですよ」
「分かってるよ」
分かってなさそうだなぁとリーゼは寝ているクリスの方向に向かって合掌し、話を戻す。
「もう読みました?」
「これからだよ。開けていい?」
「どうぞどうぞ」
「えーと、詳しいことは言えないけど、俺は大丈夫だ。みんな忙しいかもしれないけど、クリスは例の準備を進めておいてほしい。リーゼとノエルはシルに迷惑をかけないように」
「……終わりですか?」
「勝つって。それだけだ」
「みじっかっ! 何なんですかあの人は!」
「アラタっぽいね」
「もう少しなんかこう……はぁ、もういいです。返事も必要なさそうですし、手紙どうします? 要らないなら捨てておきますけど」
「いや……いい」
「そうですか。私はクリスを起こしてきます」
「うん」
そろそろ準備を始めなければクエストに間に合わなくなると、リーゼがクリスを起こしに向かう。
夢と現実の境界線でまどろんでいるクリスも、徐々に血圧が上昇してきたはずだ。
朝食の準備を終えたシルがリビングにやって来て、皆を呼ぶ。
「みんな朝ごはん出来たよーってノエルだけ?」
「うん。リーゼが起こしに行った。シル、手紙に使うような紙はないか」
「お店の方にあるよ。使う?」
「うん、頼む」
クリスは少し皺のついた手紙を大事そうにポケットにしまうと、朝食を取りに食堂へと向かっていった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「伯爵、こんなものでどうだろうか」
「拝見いたします」
カナン公国大公、シャノン・クレストの執務室は思いのほか狭い。
仕事用の机が一つと応接用に最大5人が座ることのできる2,2,1人用のソファがコの字型に配置されていて、その真ん中に低めのガラスでできたテーブルがある。
壁にはこれ見よがしに高そうな絵画が飾られていて、他には資料や本が収納されている本棚が置かれていた。
必要な機能はすべて揃っているものの、この国の最高権力者の部屋なのだからもう少し豪勢でもいいのではと思わなくもない。
そんな部屋には彼と傍付きの人間しかいないことがほとんどだが、今日は違う。
伯爵と呼ばれたクラーク家当主イーサン・クラークをはじめとして、数名の貴族が出入りしている。
その人員も流動的で、一人出たら別の人間が入室し、また一人出たらというのを繰り返している。
それくらい忙しいのだ。
イーサンは渡された書状を左から右へ読み進めていく。
特段長い文章ではなく、むしろ端的で直線的な表現だ。
一切の誤解を与えることなく事実と要求を伝える書類は、少々の読みごたえを犠牲にして短時間で概要を把握させる力を持つ。
「ありがとうございました」
「で、君の考えは?」
「作戦の再考を命じる、くらいはよろしいかと」
「僕も同意見だ」
シャノンはイーサンから返却された手紙を別の人間にも見せていく。
そこには第1192小隊長アラタの名前である作戦の変更を指示して欲しいという内容の請願が書かれていた。
ある作戦というのはそう、コートランド川を前にして守りつつ、ウル帝国軍に消耗戦を挑むという内容。
確かに攻めなければならないウル帝国に対して、川を挟んで対峙できているこの状況は中々捨てがたい。
しかし未確認の情報ながら帝国からの増援の話があったり、味方の士気が低いことは看過できない。
援軍到着前に積極攻勢に出て、現在対峙している敵軍の早急な撃破及び再度膠着状態を作り出すことが、戦略的に正しいと説いている。
かなり過激且つ想像に富んでいるため、判断のしようがない部分が多分に含まれていることはシャノンもイーサンもすぐにわかった。
まあアラタ程度の脳みそならこの辺りが限界だろうとも。
ただし、司令官アイザック・アボットの立てた策も問題点がないわけではない。
本当にこの作戦が刺さるのか、いまいち決め手に欠ける印象を受ける。
だからこそ、作戦の再考を命じるあたりが妥当なのだ。
イーサンだけでなく、その場に居合わせた他の貴族連中も同じような意見だ。
アラタの意見を全面的に採用すべきだという者も、アイザックの策に絶対の信頼を置けるという者もいなかった。
現場での意見が割れた原因はこの辺りに思える。
結局のところ、どちらも決め手に欠けるのだ。
「ではそのように返答を作成します」
「うん、再考した結果同じ策になってもいいと書いておくようにね」
「はっ」
「ミラの方に動きは無いのか?」
シャノンは果汁100%のジュースに手を付けながら訊いた。
「相変わらずの膠着状態のようです」
「まあ1万の兵で2万6千を抑えているのだから上出来もいいところか」
「そのようで」
シャノンは無言で天井を見上げた。
改装当初、シャンデリアを取り付ける提案がなされたこともあったが、シャノンはしっかり却下した。
そう言ったのは本当の応接間やホールだけで十分だから、頼むから普通の照明をつけてほしいと言ったのだ。
結果リクエストの通り魔力動作式照明器具が取り付けられている。
豪華なのも嫌いではないが、こう日常的にそんな空間にいては疲れてしまう。
「川に橋を架けた敵の詳細は?」
「未だ不明です。魔術に精通した集団だという話はあるのですが」
「情報戦でついた差が重いな」
「ギルドに要請して冒険者を回しますか?」
「いや、これ以上は通常業務に支障が出る。ギルドも手いっぱいだろう。軍の予備役を投入する話はどうなった?」
「難航しています。すでに相当な数の予備役が従軍しているので、これ以上は中々……」
そう説明した男は額に汗をかいている。
この部屋はひんやりとしているが、ひとたび外に出れば残暑の暑さが体力を奪う。
ましてやその中で忙しく動き回っていればなおさらだ。
「王国の挙兵もまだか……」
「使者は送っているのですが、素振りだけで実行に移しておりません」
「まあいい。働きかけは継続するように」
「ははっ」
「あとは現場の将兵たちに委ねるほかないか……」
打てる手は打った状態で、芳しくない戦況ばかりが連日届いている。
これ以上何をどうすればいいのか、正直手詰まりの状態だ。
そしてこちら側が手詰まりだったとしても、敵は次々に新しい一手を打ってくる。
その対応にも労力を割いて、常に後手に回らざるを得ない。
苦しい状況を打開できるのは、もはや政治ではなく軍の力のみ。
その日、シャノンの返事をしたためた書簡は戦場に向かって行ったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「なるほど、そう来たか」
数日後、コートランド川を望む丘の上で司令官アイザックは呟いた。
大公からの書面には作戦の再考と、大佐以上を軍議に参加させる旨の命令が記されている。
軍の最高責任者は大公その人で、流石に無視して現行の作戦を推し進めるわけにはいかない。
明らかに自分の作戦に反対する人間が働きかけた結果であり、そんなことをする人間はある程度限られてくる。
真っ先に思い浮かんだのは、先日銀星十字勲章を受勲したばかりのあの青年だ。
「……今日の軍議は3時間後に延期するように伝えよ。それから参加資格を大佐まで引き下げる」
「畏まりました」
アイザックとて、現状立てた方針が最高のものだとは思っていない。
だが現状で最善の手を打ったという自信はある。
敵に攻撃を仕掛けるにしろ、撤退するにしろ、その組み合わせにしろ、どこかで必ずほころびが生じる。
そしてその亀裂は軍を再建不可能な状態にまで破壊してしまうだろうと、そう考えていた。
それほどまでに公国兵の士気と練度には問題があったのだ。
作戦の妥当性を示すための検証資料は十分に用意されていて、この作戦の優位性は揺るがない。
だというのに、この胸騒ぎを無視できない自分に老将は驚いていた。
正しいはずの作戦を敷いたはずの地面は、酷く揺らいでいる。
本当にこの方針で戦い抜けるのか、別のアプローチが必要なのではないか、だが、それらを実行するのはリスクが高すぎるのではないか。
堅実に、着実に積み上げてきた軍人人生が、リスクを取ることを許してくれない。
それを極力排除して勝利を手繰り寄せるのが我が戦い方だから。
その数時間後、通常少将以上しか参加できない軍議に大佐を交えて、公国軍本隊の運命を決める作戦会議が開始された。
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