超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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第一章 奴隷護衛編

カイル視点(マーシャル出発直前、ネタバレあり)

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 マーシャルともしばらくお別れだ。いろいろあったな……俺は魔人國プルテリオンを出てからの様々な出来事を、頭の中で反芻した。

 俺の右腕だったあいつが死んでからというものの、世界は色褪せ何もかもがどうでもよくなった。

 親友の言葉を守るために国を飛びだしたというのに、あれほど侮っていた獣人に奴隷に堕とされた。

 家畜ではないとわかっていても、どうせ魔人ほどの知能をもたない蛮族なのだろうと、心のどこかで獣人のことをそう思いこんでいたのに。

 そうしておかないと、叔父の言葉を信じてしまうと、俺の今までの考えが根底から覆されそうで、都合が悪かったから……

 だからきっと、真実を知っていたのに知らないふりをしていた、何もできなかったその罰が下ったのだろう。

 宮殿の奥深くに守られ、傅かれて生きてきた俺の末路がこれとは、おかしすぎて涙が出そうだ。

 もうこのまま死のうがどうでもいいと思いながらも、どうせ死ぬなら最期に美味いものを腹いっぱい食べたいと、そう願っていた矢先のことだった。

 あいつが、イツキが現れたのは。

 あまりにもいい匂いがした。あまりにも鮮烈で、強烈な飢餓感を刺激する極上の魔力香が、家畜小屋のような牢屋全体に広がって。

 目があった時にはもう、すでに囚われていたのかもしれない。

 回想から現実に思考を戻して、女将と何やら熱心に話しこむ、イツキの横顔を確認する。ああ、また笑った。

 そんなに笑顔を安売りするな。自分のかわいさを自覚しているはずなのに、なんでそう無防備なんだ。

 お前に惚れるものがまた現れたら、俺が排除してやらなきゃならないだろう。

 無闇に愛想を振りまくな。今も他の客に見惚れられているのに、気づいてもいない。

 名前だって、気軽に誰にでも真名を呼ばせようとするなんて、奔放すぎる行いだと思ってしまう。

 真名を明かし呼び捨てで呼ばせる行為は、本来は生涯の友と認めた相手か伴侶、家族にしかさせないものだ。

 獣人にも異世界人にも、そのような文化はないのだろうが……誰にでも気軽に呼び捨てさせるイツキの態度を見ていると、気に触るんだ。

 お前は俺を相棒にしたいと思ったのだろう、俺に集中しろ、よそ見をするなと、胸倉を掴んで揺さぶりたくなる。

 そうでなくとも、あいつに惹かれる者は多いというのに。

 自分がどれほど魅力的なのか、本当の意味では理解していないのだろう。

 手触りのよすぎる耳と尻尾も、あどけないくせに勝ち気な瞳も、笑うとかわいくなりすぎるところも、全てが男を誘う造形をしている。

 ブラッシングの時の悩ましげな声も、肌と尻尾の扇情的なコントラストも魅惑的すぎて、俺じゃなきゃ理性が焼き切れていたことだろう。

 俺が側で守ってやらないと、こいつはすぐに食いものにされそうだ。獣人の雄共の手によって、なぐさみ者にされてしまうかもしれない。

 それなりに交渉ができるのは知っているが、そんなものは純粋な暴力の前では役に立たない。

 いくら魔法が使えても、それをためらいなく人相手に向けられるかどうかは、経験が物を言う。

 更に指摘するなら、イツキは一度懐に入れた者には甘くなる傾向があるようだ。

 どこに裏切りの種や、見えない悪意が潜んでいるかわからないのだから、あいつが警戒しない分俺が見張っていてやらないと。

 特にあの豹野郎は、うさん臭いことこの上ない。俺に向けるあのわざとらしい笑顔、絶対になにか企んでいるに決まっている。

 イツキが冬の間生き残るためには金が必要だろうからと、あの豹野郎の申し出に反対しなかったが、本音を言えば近づけさせたくなかった。

 イツキの持つ、素晴らしくコクと旨味に満ちた魔力や、知性を感じさせる小気味のいい会話、そして人を鮮やかに魅了する笑顔。

 俺はそれらを、かなり気に入っているんだ。誰かに踏みにじられたり横取りされたくないと、本気でそう思うくらいには。

 だから側にいて、近づく虫は排除すると決めた。特にあの豹野郎とは仕事相手以上の関係を築かないよう、しっかりと見張っておこう。

 イツキは飽きもせず女将と会話を続けている。なにか図星を指されたような表情をしているな、何の話をしているんだ。

 会話が聞こえないかと耳を研ぎ澄ませると、聞き覚えのある足音が宿に向かってくるのがわかった。豹野郎の手下の犬がやってきたようだ。

「おいイツキ、迎えがきた」
「今行く! 女将さん、またな!」

 女将に手を振って別れたイツキは、姿を見せた犬っころに向かって駆けていく。

 俺はイツキと二人でいる方が、気楽でいいんだがな……イツキには市民権を買うために、金を貯めるという目的があるらしい。

 それにつきあってやろうと思う程度には、好感を抱いているからな。少々窮屈だが我慢してやるとしよう。

 俺にもやるべきことがあるが……今は打つ手立てがなにもない。この先、見つかるかどうかもわからない。

 いずれどうにかしなくてはならないが、まずは生きのびることを優先する。

 一つため息をつくとゆっくりと宿から出て、イツキ達を追いかけた。

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