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第四章 ダンジョン騒動編
11 猫と兎と熊の獣人がいるカフェ
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新たに増えた熊と猫は、周囲の興味を引きまくっていた。
「猫獣人、はじめて見たわ! 澄ました感じが最高に素敵」
「熊カフェ、できたりしないのかなあ」
さすがにそれは危なすぎだろと、内心ツッコミを入れた。まあ、ケモナーの巣窟に来ちまったようなもんだもんな、この反応もしょうがねえか。
俺だって兎や猫を愛でたい時もあるから、気持ちはわかる。特に猫は、社畜時代の癒しだった。姉貴から送られてきた猫の写真を見るたび、気持ちが和んだもんだ。
兎だって可愛いもんなあ。視線や噂くらいは甘んじて受け入れようじゃないかと、ゆったりと背もたれに体重を預けた。
しかし愛でられる側である黒猫獣人のセルジュは、この状態が大いに落ち着かないらしい。肩を怒らせたまま尻尾を縮こませている。
「なんなんですか、ここの人たちは。視線が不躾すぎやしませんか」
「獣人が珍しいんだろうよ」
「だとしても限度がありますよ、ジロジロとエイダンの熊耳に熱い視線を送って……!」
あれ、怒るとこはそこなのか。エイダンはセルジュの肩を抱いて、なだめるようにポンポンと叩いた。
「セルジュも見られてるけどね」
「本当に、失礼な方たちですね!」
「ごめんなさいセルジュ、家でゆっくりしていた方がよかったかしら」
「あ、いえいえよいのですよお母様! お母様の心遣いには日々感謝しております」
「そう言ってもらえると安心するわ。好きなだけ滞在していってね」
「はい、ありがとうございます」
見られるのが嫌なら、なんでここに来たんだか。飲み物を注文し終えた頃に、誰の発案なのか判明した。
「はあ、本当に可愛いよねえ、猫」
エイダンがデレデレとよそ猫に鼻の下を伸ばすと、すかさずセルジュはメガネを何度も押し上げ、自分の存在をアピールしている。
「……どんな猫が好きなんですか」
「ツンツンした感じの黒猫がいいなあ。抱っこしたら嫌がって爪を立てるんだけど、しばらく撫でてると甘えてくれるような子が好き」
「そうですか、へえー。黒猫ならここにもいますけどね?」
ははっ、セルジュのやつ、こめかみをあんなにひくつかせて、自分のことを言われてるって全然気づいてないよな。
エイダンはにこっと笑いながらテーブルに頬杖をついた。
「もちろん一番可愛いくて大好きなのは、セルジュだよ」
「ばっ、なにを言うんですか! お母様の前ですよ、慎みなさい!」
「変わらず仲がよくて安心したわ。わたくしのことはどうか気にせず、存分に語りあってね」
クレミアはほんわりと息子たちのかけあいを眺めた後、俺とカイルに視線を移した。
「イツキ殿下、カイル殿下、お久しぶりです。偶然会えて嬉しいですわ」
「その殿下ってのはやめろよな」
「あら、カイル殿下の伴侶ですもの。もう王族の一員でしょう?」
「そうとも言えなくはないが、殿下って柄じゃねえんだよ……」
俺がそう呼ばれるの苦手って、わかってて言ってる節があるよな。クレミアはおっとりと頬に手を当てた。
「ふふ。イツキ殿下は我が國にとって大事な方だという、自覚を持っていただきたいのです」
リドアートの婚約者になってから、強かさが増したような気がする。リッドおじさんの暴走を止めるためには、しっかりしてないと大変そうだもんな。
「自覚もなにも、普段は気ままに市井暮らしをしてんだけどな……そうだ、リッドおじさんが、今晩アンタに会うのを待ちきれないって言ってたぜ」
「まあ、あの方ったら」
クスクスと笑うクレミアは幸せそうだ。リドアートに王位を押しつけた形になったから、どうなることかと思っていたが、上手くやれているようだ。
よかったなとカイルと顔を見合わせた。
エイダンたちの頼んだ飲み物もやってきて、味の感想を言いあいながら和やかに過ごす。
二人は三日ほど前に魔人國についたらしい。クレミアの家に住みながら、魔力の扱いを教えてもらう予定なんだと。
「トンネルがあると、マーシャルから六日程度で行き来できるのか」
「山越えだと倍はかかるって聞いた。道も舗装されてて通りやすかったよ。でもイツキくんたちも、かなりはやくついたんだね」
「俺には抜け道があるからな。詳しくは企業秘密だ」
「えー、僕にもできたら便利だなって思ったのに」
「アンタはその前に、せめて魔石が作れるくらいに魔力の扱いを覚えるべきだろ?」
「ああ、そうだった」
ポリポリと頭を掻くエイダンの隣で、セルジュは忙しなく尻尾を振っている。
「まったく、しっかりしてくださいよ。私をここまで振り回したからには、責任とって魔力の扱いをマスターしてくださいね!」
「はあい」
「そんなに心配しなくても大丈夫よセルジュ、私も指導するから」
「母さんに教えてもらえるなら心強いや」
エイダンたちはもう少しゆっくりするらしいので、適当に切り上げて席を立った。
「それじゃ、しばらくは魔人國に滞在するから、また会おう」
「うん、またね」
客の視線を浴びながら表へと出た。このまま魔王様の依頼をこなしに行ってもいいんだが……
カイルをチラリと見上げると、彼も俺を見つめていたようだ。フッと表情を緩めて手を差し出してきた。
「イツキ、デートの続きをしないか」
「……! する。どこに行きたいんだ?」
「歩きながら考えよう」
カイルと手を繋いで、町並みを眺めながらいろいろな店を見てまわった。
骨董品屋でよさげな茶器を買ってみたり、とても食べる気になれない芸術的すぎる料理の絵看板に感想を言いあったりして、和やかに時間が過ぎていく。
「猫獣人、はじめて見たわ! 澄ました感じが最高に素敵」
「熊カフェ、できたりしないのかなあ」
さすがにそれは危なすぎだろと、内心ツッコミを入れた。まあ、ケモナーの巣窟に来ちまったようなもんだもんな、この反応もしょうがねえか。
俺だって兎や猫を愛でたい時もあるから、気持ちはわかる。特に猫は、社畜時代の癒しだった。姉貴から送られてきた猫の写真を見るたび、気持ちが和んだもんだ。
兎だって可愛いもんなあ。視線や噂くらいは甘んじて受け入れようじゃないかと、ゆったりと背もたれに体重を預けた。
しかし愛でられる側である黒猫獣人のセルジュは、この状態が大いに落ち着かないらしい。肩を怒らせたまま尻尾を縮こませている。
「なんなんですか、ここの人たちは。視線が不躾すぎやしませんか」
「獣人が珍しいんだろうよ」
「だとしても限度がありますよ、ジロジロとエイダンの熊耳に熱い視線を送って……!」
あれ、怒るとこはそこなのか。エイダンはセルジュの肩を抱いて、なだめるようにポンポンと叩いた。
「セルジュも見られてるけどね」
「本当に、失礼な方たちですね!」
「ごめんなさいセルジュ、家でゆっくりしていた方がよかったかしら」
「あ、いえいえよいのですよお母様! お母様の心遣いには日々感謝しております」
「そう言ってもらえると安心するわ。好きなだけ滞在していってね」
「はい、ありがとうございます」
見られるのが嫌なら、なんでここに来たんだか。飲み物を注文し終えた頃に、誰の発案なのか判明した。
「はあ、本当に可愛いよねえ、猫」
エイダンがデレデレとよそ猫に鼻の下を伸ばすと、すかさずセルジュはメガネを何度も押し上げ、自分の存在をアピールしている。
「……どんな猫が好きなんですか」
「ツンツンした感じの黒猫がいいなあ。抱っこしたら嫌がって爪を立てるんだけど、しばらく撫でてると甘えてくれるような子が好き」
「そうですか、へえー。黒猫ならここにもいますけどね?」
ははっ、セルジュのやつ、こめかみをあんなにひくつかせて、自分のことを言われてるって全然気づいてないよな。
エイダンはにこっと笑いながらテーブルに頬杖をついた。
「もちろん一番可愛いくて大好きなのは、セルジュだよ」
「ばっ、なにを言うんですか! お母様の前ですよ、慎みなさい!」
「変わらず仲がよくて安心したわ。わたくしのことはどうか気にせず、存分に語りあってね」
クレミアはほんわりと息子たちのかけあいを眺めた後、俺とカイルに視線を移した。
「イツキ殿下、カイル殿下、お久しぶりです。偶然会えて嬉しいですわ」
「その殿下ってのはやめろよな」
「あら、カイル殿下の伴侶ですもの。もう王族の一員でしょう?」
「そうとも言えなくはないが、殿下って柄じゃねえんだよ……」
俺がそう呼ばれるの苦手って、わかってて言ってる節があるよな。クレミアはおっとりと頬に手を当てた。
「ふふ。イツキ殿下は我が國にとって大事な方だという、自覚を持っていただきたいのです」
リドアートの婚約者になってから、強かさが増したような気がする。リッドおじさんの暴走を止めるためには、しっかりしてないと大変そうだもんな。
「自覚もなにも、普段は気ままに市井暮らしをしてんだけどな……そうだ、リッドおじさんが、今晩アンタに会うのを待ちきれないって言ってたぜ」
「まあ、あの方ったら」
クスクスと笑うクレミアは幸せそうだ。リドアートに王位を押しつけた形になったから、どうなることかと思っていたが、上手くやれているようだ。
よかったなとカイルと顔を見合わせた。
エイダンたちの頼んだ飲み物もやってきて、味の感想を言いあいながら和やかに過ごす。
二人は三日ほど前に魔人國についたらしい。クレミアの家に住みながら、魔力の扱いを教えてもらう予定なんだと。
「トンネルがあると、マーシャルから六日程度で行き来できるのか」
「山越えだと倍はかかるって聞いた。道も舗装されてて通りやすかったよ。でもイツキくんたちも、かなりはやくついたんだね」
「俺には抜け道があるからな。詳しくは企業秘密だ」
「えー、僕にもできたら便利だなって思ったのに」
「アンタはその前に、せめて魔石が作れるくらいに魔力の扱いを覚えるべきだろ?」
「ああ、そうだった」
ポリポリと頭を掻くエイダンの隣で、セルジュは忙しなく尻尾を振っている。
「まったく、しっかりしてくださいよ。私をここまで振り回したからには、責任とって魔力の扱いをマスターしてくださいね!」
「はあい」
「そんなに心配しなくても大丈夫よセルジュ、私も指導するから」
「母さんに教えてもらえるなら心強いや」
エイダンたちはもう少しゆっくりするらしいので、適当に切り上げて席を立った。
「それじゃ、しばらくは魔人國に滞在するから、また会おう」
「うん、またね」
客の視線を浴びながら表へと出た。このまま魔王様の依頼をこなしに行ってもいいんだが……
カイルをチラリと見上げると、彼も俺を見つめていたようだ。フッと表情を緩めて手を差し出してきた。
「イツキ、デートの続きをしないか」
「……! する。どこに行きたいんだ?」
「歩きながら考えよう」
カイルと手を繋いで、町並みを眺めながらいろいろな店を見てまわった。
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