超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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第四章 ダンジョン騒動編

43 実にやめてほしい

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 背後から、カイルが肩の上に手を置いてきた。

「助かった。実際に獣人であるイツキの口から聞くと、説得力がある」
「ああ、いつでも頼ってくれよ」
「俺の伴侶は頼り甲斐がある」

 そんなの、いつも俺が思ってることだって。振り向くと、はにかむような笑みが返ってきた。

 ああ、くっそ、可愛いな……! 最近のカイルは以前より伸び伸びしてるっていうか、俺にも素直に頼ってくれて面映い気持ちになる。

 すぐにでもこの場を立ち去りたくなったけれど、ぐっと踏みとどまってカイルの髪をくしゃりと撫でた。

 カイルが目を丸くして、俺の行動に驚いている。なにも言ってくれるな、俺がこの場でとれる最大の愛情表現なんだ。

「じゃ、俺はそろそろ行くわ」
「イツキ」

 背を向けた俺の耳元に、カイルがささやく。

「今晩は早めに戻る。ゆっくり過ごさないか」
「……そうだな」

 チラリと見た瞳には熱が宿っていた。

「……待ってる」

 変な顔をしちまう前にサッと目を逸らして、そのままリドアートの執務室へと立ち去った。

 夜のことが頭をよぎると挙動不審になっちまうから、とにかく目の前のことに集中して仕事を片づけた。お陰で、日暮れ前にキリがいいところまで業務を終わらせることができた。

「さてっ、帰るか」
「おお、もう終わったのかね?」
「ああ、後はアンタしか決済できない書類だ。がんばれよ。仕分けして、ついでに意見も書いて置いたから」

 改定案やら注釈の紙を挟み込んだ報告書を、ドンと魔王様の執務机の端に置いておく。叔父さんは遠い目をしていたが、ここまでは代わってやれないからな。

「そうだね、私も早く終わらせるとしよう」
「クレミア母さんが待ってるんだろ? 早く行ってやれよ」
「もちろんだとも!」

 さっきまでやる気がなさそうだった叔父さんは、猛然と書類に取り掛かりはじめた。まったく、午前中からその調子なら今頃アンタも仕事が終わってただろうに。

 ようやく正式に婚儀の日取りが決まり、結婚を目前に控えた叔父さんは毎日頭の中が花畑状態になっている。

 ま、俺が補佐してやれる範囲だからかまわねえけど。浮かれすぎて婚約者に愛想つかされないように気をつけろよ。

「じゃ、おつかれ」

 別れの挨拶をして、執務室を出た。足早に廊下を急いで、今晩の食事を食堂からもらって部屋へと運んでおく。

 転移陣を設置してある部屋へと続く客室が、そのまま俺たちの部屋となっている。

 さすがに帰るのが早すぎたかと、ほかほか湯気を立てる食事をインベントリに入れて保温すべきか迷っていると、カイルが戻ってきた。

 扉を閉めた彼は大股で、テーブル脇へ立つ俺に向かって歩み寄ってくる。

「カイル、おかえり……っ」
「ただいまイツキ、会いたかった」

 背中に手を回して抱きしめられる。ちゅ、ちゅと額に、頬にキスが降ってきて、くすぐったくて笑いながら受け止めた。

「ははっ、そんなに会いたかったのか?」
「ああ、とても」

 言葉と同時に唇にもキスを贈られる。歯列を割って奥まで入り込んでくる舌先が、ぞわりと官能を刺激する。慌てて胸元を押した。

「ん、待てってば。飯が冷める」
「ああ、用意してくれたのか」

 初めて気がついたとでも言うように、カイルはテーブルの上に視線を向ける。ひとまず食事を楽しむことにした。二人でテーブルに腰掛けて、カトラリーを手に持つ。

「最近、温かい料理も普通に出てくるようになったよな」

 スープを一口掬って食べてみる。魔力も含まれているけれど、素材の味も生きていて美味しいトマトスープって感じだ。

「そうだな。イツキが楽しめる料理が増えるのはいいことだ」
「ほとんど獣人王国の料理と変わらねえ美味しさだ」

 料理が美味いと日々の生活が潤うよなあと、ほくほく顔で食事を続けていると、カイルがそんな俺を微笑ましげに見ているのに気づく。

「お前の助力のお陰で、元奴隷たちの意識が明確に変わった」
「そりゃよかったじゃねえか」
「彼らが親元に帰れる日も、そう遠くないだろう」
「んん、そうか……」

 カイルからは、元奴隷たちの再教育がひと段落ついた頃に、結婚式を行わないかと打診されている。そうか、もうすぐか……

 大勢の人に俺とカイルの幸せを末長く祝われちまうだなんて、今更ながら羞恥が限界突破しそうだ。だが止める気は微塵もない。思い出作り、したいからな。

「楽しみ、だな」

 とてもじゃないが、カイルの顔なんて見れない。けれど嫌なんじゃないとアピールしたくて小声で気持ちを呟く。食べ終えた食器を戻しに行くと、カイルもついてきて声をかけられた。

「イツキ」
「なんだ?」
「明日は休みだろう。実は休日の過ごし方について計画を考えたんだが」
「へえ、どんな?」
「この前イツキが美味いと言っていたベリーの群生地の情報を仕入れた。好きに摘んでいいと許可をもらっているから、採りにいかないか」
「おお、楽しそうだな! 行こう行こう」

 最近のカイルは、俺が喜びそうなことを考えて、デートプランを考えてくれたりする。

 いやあ、愛されてるよなあ俺って。離れている時間は多くなったが、その分会える時の愛情表現が激しくなっている気がする。

 部屋に戻るとピッタリと肩を抱かれて、そのままベッドに誘導された。柔らかいシーツの上に寝かされて、覆い被さるカイルに抗議をする。

「おい待てってば、まだ風呂に入ってない……」
「俺が綺麗にするからいいだろう? イツキの全身に触れたい」
「あ、だから……ちょっ、んっ」

 器用な指が靴下を素早く脱がせて、足の先から順に清潔魔法をかけられていく。

 ああもうカイルってば、年下っぽいわがままを言ってみたりするくせに、以前よりも頼り甲斐が出てきて……

 これ以上かっこよくなられたら、俺の心臓が爆発しちまうから切実にやめてほしい。実にやめてほしい。

「あ、やめろ……ってえ、あ!」

 弱々しい文句は喘ぎ声に成り代わってしまい、その日もいつも通り熱い夜を過ごした。
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