オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで

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竹林へ

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 琉麒は白露が慌てる様子を目にしておかしそうに笑う。

「そうだ白露、君の部屋に茉莉花の香を届けるよう手配しておいた。帰ったら確認してみるといい」
「わあ、ありがとう」

 自分の匂いは自分ではわからないが、香なら嗅げるかもしれない。楽しみが一つ増えたと白露も笑顔になった。

 食事の後、琉麒はお茶を飲む間もなく足早に執務へと戻っていった。また夜に会おうと頬の輪郭をなぞられて、赤面しながら手を振る。

(今夜はまた、昨日みたいなことをされちゃうのかな)

 白露はそわそわと騒ぐ気持ちを落ち着かせたくて、琉麒からもらった香を焚いてもらえるよう魅音にお願いしてみた。甘くて濃密な香りが部屋の中全体を覆い、白露は胸いっぱいに香の匂いを吸ってみる。

(いい匂いだけど、琉麒の香りの方が僕は好きだなあ)

 嗅ぐだけで幸福な気持ちになって、ずっと嗅いでいたくなる癖になるあの香り。うっとりと目をつむると急に首筋の跡をつけられた場所からピリッとした痛みが走り、わずかに腹の奥が疼くような感覚がした。

「……?」

 なんだろう、やっぱり落ち着かない気分が続いている。どうにかしたくて、白露は竹籠の中から笹を取りだして食べようとした。しかし籠の奥から笹を取り出した瞬間、眉をひそめることになる。

「ありゃ、萎びてる」

 笹はすっかり水分を失って、葉の端が変色しはじめていた。これじゃ食べても美味しくないと、白露は肩を落とす。魅音はそんな彼に気づいて、猫獣人らしいしなやかな足運びで白露に近づいてきて、心配そうに声をかけた。

「どうされましたか?」
「笹が枯れちゃったんだ、ほら」

 耳をしょんぼりと伏せながら魅音の目の前に笹を広げると、彼女は尻尾をゆらめかせて考えるそぶりを見せた。

「笹がご所望でしたら、茶室の側に竹が生えておりますよ」
「そうなの⁉︎ 行きたい!」
「では手配致します」

 庭に出てもいいという許可をもらってから、外出用の深衣に着替えさせられた。麒麟柄の刺繍ではない紺地に銀の刺繍が入った外衣を着せられ、疑問が胸のうちに広がる。

「あれ、外に出る時はこの服なんだ?」
「ええ。申し訳ありませんがまだ正式に皇上の番だとお披露目ができませんので、他の華族に目が触れると要らぬ噂が立ってしまいます。こちらの服装でもよろしいでしょうか」
「全然いいよ」

 いつも着せられている衣装よりは簡素で軽いので、白露としては歓迎だった。そう思っていたら、頭には豪奢な帽子を被せられて腕にも飾りを巻かれ、首輪もつけられてしまう。

 さっき喜んだのは訂正しよう、いつもより重い。白露は遠慮がちに意見を主張した。

「こんなに綺麗にしなくてもいいと思うんだけど」
「華族として外出されるなら、この程度は着飾りませんと。特に首は守らねばなりません。皇上からも改めて首輪を贈られることと存じますが、本日のところはこちらを着用致しましょう」

 翡翠や水晶をあしらわれた豪華な首輪は、ずっしりと重かった。行って帰ってくるだけで肩が凝りそうだ。華族のオメガは大変なんだなあとため息を吐く。

(ううん、これからは琉麒の番として生きていくことになるんだから、こういう服装にも慣れなきゃだめだよね)

 白露は背筋を伸ばして顎を引いた。鏡の中の自分は首輪のおかげで首筋の赤い跡が隠れて、普段通りの様子だった。内心ホッと胸を撫で下ろす。

 キリッとした表情を心がけると、魅音に褒められた。

「堂々としていらっしゃって素敵です。お顔立ちも優美でございますから、生まれながらの華族に見えますわ。これでいきましょう」

 ようやく外出を許されたので、狐獣人の護衛と魅音に付き添われて竹が生えているという茶室の庭へと向かう。白露のゆったりとした歩き方は華族の歩き方として及第点だったのか、特に注意は受けなかった。

 茶室へ続く小径は石畳で舗装されている。柳の木の間を潜っていくと、懐かしの竹林が姿を見せた。

「わあ、すごく新鮮な笹だ!」

 ツヤツヤの葉っぱをぷちりと掴み取ってそのまま口に運ぶと、魅音と護衛が焦って止める。

「は、白露様⁉︎ 何をなさっておいででしょうか!」
「ん?」

 魅音達の方を振り向きながらもしゃもしゃと葉っぱを咀嚼していると、竹林の奥の空き地から笑い声が聞こえてきた。

「笹を食べてる! 何それ、新しい美容法か何かなの?」
「ん、んむ、っ誰?」

 ごくんと葉っぱを飲みこんで声の方向に顔を向けると、小柄な人影が現れた。十五歳くらいの少年だ。白く柔らかそうな髪の上に小さくて先が丸い耳がついている。目がくりっと大きくてかわいらしい顔立ちをしていた。

 まつ毛が長くて鼻筋がシュッと通っていて、とても綺麗な子だ。白露が今まで見たことのある人の中で、琉麒の次に美しい人だなと思った。

「ボクは宇天うてん、テンの獣人さ。キミは誰?」
「白露だよ、パンダ獣人なんだ」
「パンダ獣人ってよく知らないんだけど、笹を食べるのが普通なわけ?」
「そうだよ」
「ははっ、おっかしい! 笹の葉っぱなんて苦そうなのに、キミって変わってるね」

 宇天はコロコロと笑ってから、白露を竹で作られた腰掛けへと誘った。

「ちょうど練習に飽きてたところなんだ、話につきあってよ」
「何の練習?」

 彼の目線の先を辿ると、腰掛けの上に見知らぬ楽器が置いてあった。ひょうたんみたいな形の木の器の上に、細い竹がいくつも縦に接続されているような見た目をしている。

しょうだよ。もう重くってさ、腕が痛くなってきちゃった」

 宇天は綺麗に爪を伸ばした指先を白露の前でひらひらさせた。女の子みたいに綺麗な手だ。
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