オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで

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ちょっと焦っちゃう

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 つる草と花が組み合わさったような図案は、見惚れるくらいに精緻な作りをしている。

「これだけの物を用意できるって、絶対上流華族の獣人でしょ? 婚約者がくれたとかそういう感じ?」
「番にしたいって言ってくれたから、婚約者なのかな」
「だったらそうだよ! いいなあ、ボクもあの方ときっといつか……」

 ぽやんと夢見るような表情を見せた宇天は、突然ハッと表情を引き締めた。

「こうしちゃいられない、もう時間だ!」
「あ、もう帰るの?」
「違うよ、そろそろあの方が渡り廊下を通る時間なの! じゃあね白露、ボクと会いたかったらまたここに来てね!」

 宇天はそそくさと笙を抱えて竹林から出ていった。白露は立ち上がってその背中を眺める。

(面白い人だったなあ。また会えるといいな)

 白露の周りにはいないタイプの人だった。率直に物を言うけれど色々親切に教えてくれたし、悪い子じゃなさそうだ。白露は一人っ子で兄弟がいなかったから、弟がいたらあんな感じなのかなあと想像して、ふふっと頬を綻ばせた。

「白露様、そろそろお部屋に戻りませんか」
「戻る前にここの笹の葉を、何枚かもらっていってもいい?」
「……お召し上がりになるおつもりですか?」
「だめかな?」

 魅音はたいそう困り顔をしていたが、食べるのは皇帝に許可を得てからにしてくださいと念押しされてから笹を持ち帰ることを許された。

(パンダ獣人以外で笹を食べる獣人って本当にいないんだね)

 あんなに困惑した目で見つめられると、何か悪いことでもしているような気になってしまう。里とは全く常識が違うんだなあとしみじみと実感した。

 もっと宮廷のことやオメガやアルファについて、それに皇帝の番として求められることを知りたい。宇天と話をしてからはなおさら、補うべき知識が山ほどあるように感じた。

(教師をお願いすることってできるのかな。宇天も楽器を習ってるって言ってたし、僕も何か習った方がいいのかもしれない)

 何を一番最初にするべきなのかわからないけれど、とにかく何かしなければいけない気がする。焦りを額に滲ませながら白露は魅音に尋ねた。

「今って琉麒はお仕事中かな、会いにいける?」
「確認して参りますので、お部屋に戻って待ちましょう」

 時刻はちょうど夕飯時だった。一緒にご飯を食べたいと思いながら部屋に戻って、魅音の帰りを待った。しばらくして戻ってきた魅音は、申し訳なさそうに告げた。

「皇上は仕事が立て込んでいて、今晩はお会いできそうにないとのことでした」
「そっか、残念だけど仕方ないね」

 魅音に食事を部屋に運んでもらってから食べた。あれほど美味しいと感じた桃を食べても、一人だと味気なく感じる。一緒に食べようと誘っても、護衛達には断られてしまった。

 湯浴みをさせてもらい寝衣に着替えてから寝台の上に横になる。一日中ずっと新しいことを頑張っていたせいか、寝台に寝転がると同時にどっと疲れを感じた。

「ふう……」

 肌触りのいいシーツに顔を埋めて目をつむる。何度寝返りを打っても一向に気分が落ち着かない。白露にしては珍しく、いろいろと考えることがありすぎて目が冴えてしまったようだった。

(笹でも食べたら気分が落ち着くかなあ)

 新しく収穫した笹を一枚竹籠から取り出して、そういえば魅音から皇帝に確認するまでは食べないでほしいとお願いされていたことを思い出す。

(一枚くらいだったら、食べても気づかれないかもしれない……ううん、だめだめ。約束は守らなきゃ。約束を守ることは、人と仲良くするための基本だもんね)

 尊敬する両親の教えを思い出した白露は、未練がましく笹の葉を見つめながらも頑張って籠の中に戻す。好物の笹が目の前にあるのに食べられないせいで、さっきよりも余計に心が騒つく結果となった。

(うーん、だめだ。琉麒の部屋に行こう。一緒に寝てもいいって言ってたし、お邪魔させてもらおうっと)

 皇帝の部屋に続く扉に手をかけてみると開いていたので、彼の部屋の寝台に寝転がり飾り枕を腕に抱え込むと、やっと安心できた。

 部屋中に漂う高貴な香りに包まれながら、ぼんやりと格子窓から見える月を眺める。こんなにも遠いところに来てしまったけれど、月は変わらずに白露を見守ってくれているように感じた。

(きっと大丈夫だよね。慣れないことばかりで色々戸惑うけれど、琉麒は優しいし魅音も気遣ってくれる。今日は友達になれそうな子とも会えた)

 しばらくは笹の音をのんびり聞くだけの贅沢な時間を過ごしたり、好きなだけ笹の葉を食べてゆっくりするのは難しそうだけれど、白露のことを大切にしてくれるアルファの番に出会えたし、住む場所だってある。

 ご飯だってすごく美味しいし、友達になれそうな子とも知りあえた。白露は恵まれている方だと自分に言い聞かせる。

(まさか皇帝様が運命の番だなんて思ってもみなかったけれど。琉麒に相応しい番だってみんなに認めてもらえるように、がんばらなくちゃ)

 琉麒も魅音も、それから太狼にも白露が無知であることに対して困っているような態度が見受けられた。早く物知りになりたい。

 知識を蓄えれば白露に発情期が来ていない理由だって解明できるかもしれないし、理由がわかったら発情期だって迎えられるはずだ。そしたら琉麒の正式な番になれる。

 今はまだできないことだらけで不安もあるけれど、知識を身につけていけば解消できるはずだと自分を励ました。琉麒の望むように最後まで体を繋げるのは怖くもあるけれど、彼と正式に番になれる日が待ち遠しい。

 ああでも、番になったとして白露の望むような関係を琉麒と築けるのだろうか。皇帝とお互いに助け合えるようになろうと思ったら、一体どれほどの努力が必要なのか見当がつかなかった。

 それに皇帝の番だなんて、白露が大好きなのんびりする時間もあまり取れなさそうだ。

 ぎゅっと枕を抱きしめて顔を埋めた。大丈夫、きっと大丈夫だと何度も自身に言い聞かせる。意識して深呼吸を繰り返しているうちに、段々と思考がとろりと落ちてくる。いつしか白露の意識は夢の中をたゆたいはじめた。
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