新婚約者は苦手な狼獣人!? 〜婚約破棄をがんばりたいのに、溺愛してきて絆されそうです

兎騎かなで

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相談事

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 イツキは迷う素振りをしつつカフを耳につけ直していたが、やがて俺のことを手招いた。

「いいぜ。もうちょっとしたら寝るつもりだから、少しだけだぞ」

 やったね! さっすがイツキ、話がわかるぅ!
 俺は舞い上がる気分を表現しすぎない程度に、喜びを顔に浮かべてみせた。

「ありがとうイツキ。お邪魔するよ」

 やっぱり気が変わったと言われないうちに、素早く部屋の中に滑りこむ。

 急に肉食獣人としての本能に目覚めた気がしたが、ハッとして気持ちを抑えこんだ。俺はまだ、悪魔に滅ぼされたくはないんだ。

 まずはイツキと仲良くなるのが先。優しいイツキが俺に情を移してくれたら、触れあうチャンスだって巡ってくるはずだ。

 イツキが望んですることであれば、あの悪魔だって止めようがないもんね。無理矢理は禁止、短気は損気。理性的にいこう。

 俺は備えつけの椅子に腰かけると、イツキが飲んでいたらしきお茶に目をとめた。

 まだコップに半分ほど残っているそれをみて、ふと魔が差した。

「これ、イツキの? 喉乾いてるんだけど飲んでいい?」

 間接キッスができたら嬉しいなあ、なんて乙女なことを考えながら聞いてみると、イツキはピクリと眉根を寄せて嫌そうな顔をした。

「なんでだよ。わざわざ俺の飲みかけなんて飲まなくても、アンタに茶を淹れてくれる使用人が、いくらでもいるだろうが」
「今ここに使用人を呼ぶわけにはいかないんだってば。ねえ、飲んでいい? お茶を飲む暇もなくて、喉がカラカラなんだ」
「はあ……しょうがねえなあ」

 やったね、イツキは本当に優しいなあ。俺は上機嫌で、ごくごくとお茶を飲み干した。冷えたお茶なのに、この上なく美味に感じた。

「ぷはあ、ああ美味しかった」
「天下のお貴族様が、庶民の飲み残しの茶なんて美味そうに飲むなよ」

 呆れたように苦笑するイツキ。笑った時に揺れる兎耳が、俺の心を魅了して止まない。

「だって本当に喉が乾いていたからさ。ありがとうイツキ」

 間接キス、いただいちゃった。
 このくらいだったら、きっとカイル君にも殺されずに済むよね? 済むはず。うん、きっとそう。そういうことにしておこう。

「それで、話というのはね」

 本当は、相談するかどうか迷っていたが、イツキの真夏の空のような青い目を見つめているうちに、気がついたら言葉が口をついて出ていた。

「実は俺、厄介な貴族に目をつけられているんだ」

 存外真剣な口振りで、語りはじめてしまった。参ったな、意外と追い詰められてるんだなあ、俺ってば。

 彼はピクリと垂れ耳のつけ根を動かし、俺の話に耳を傾けてくれる。

「ふうん、どんなヤツなんだ?」
「公爵家の三男なんだけど、権力を使って俺を意のままに操ろうとしてくるんだよ」

 曖昧にぼかしたけれど、もちろんあのヴァレリオのことだ。イツキはサラッと同情の言葉を口にした。

「そりゃ大変だな。それで?」
「今度の対抗戦で勝たなければ、俺の未来はそいつの意のままにされてしまうんだ……」

 きっと前に壁ドンされた時みたいに、力で言うことを聞かせられて、好き勝手に体を貪られてしまうんだ……想像しただけでも怖すぎる。

 俺はブルリと自分の腕を抱きしめた。イツキはそんな俺を、難しい顔で見つめていた。真剣に考えてくれている様子に、きゅんと胸が高鳴る。

「わかった。対抗戦を本気でがんばってくれって話だな?」
「そう。そういうこと。もし優勝できたら、追加で一ハン払うから、ぜひ本気でよろしく」

 いっそのこと、俺の全財産の半分を貢いじゃうから、どうか俺のことを助けてほしい。

 人情味に溢れるイツキなら、本気で俺のことを助けてくれる気がした。

 縋るような気持ちでイツキにお願いしていると、彼は俺の肩を励ますようにポンと叩いた。

「権力で好き勝手されるのが我慢ならねえって気持ち、よくわかるぜ」
「わかってくれる?」

 存外弱気な声が出た。イツキの前にいるとどうも俺は、素直になんでも話しがちなような気がする。彼の男気溢れる言動がそうさせるのかな。

「俺も媚びへつらって、顔色をうかがいながら生きるなんて、そんな生き方はごめんだからな。一緒に対抗戦がんばろう、クインシー」

 まるで太陽のように温かみに溢れた笑顔を向けられて、俺は感動してイツキに飛びついた。

 彼の小さくて温かい体を抱きしめながら、懐の大きな発言を噛み締める。感極まって本心が口からまろび出た。

「イツキ……ッ、愛してるー!」

 あっ、うっかり告白しちゃった! 絶対受け入れられないだろうから、言わないように気をつけていたのに……!

「おお!? おい、大袈裟だな……?」

 あ、あれ? 意外と嫌がってない? 俺は勢い余ってそのままイツキをベッドに押し倒し、すりすりと胸元に顔を押しつける。

 微かに甘くて清涼感のあるいい匂いが、鼻腔をくすぐった。すごくいい匂いだ、クセになりそう……!

 軽い抵抗感を感じるけど、これはどっち? どっちなんだ!? 進んでいい? それともこの辺りでやめておくべきか!?

 今日いち頭を使って脳をフル回転させていると、突如扉の方からメリッという音が聞こえた。メリって、何の音だ……?

 イツキと二人で顔を見合わせて、恐る恐る扉の方を振り向くと、そこにいたのは文字通り悪魔のような形相をした、カイル君だった。

 扉は変な角度にひしゃげている上に、ドアノブもない。カイル君が引きちぎられたドアノブを投げ捨てると、床は硬質な音をカンと鳴らした。

「おい、テメェこの貧弱豹野郎……イツキに何をしてやがる」

 まずい、かつてないほどの大ピンチだ。とにかく、まずは弁明してみよう。

「待ってカイル君、まだ何もしてない」
「ああ? この状況でよくそんな白々しいことが言えたものだな?」

 この状況と言われて、改めて周囲を見渡した。
 乱れたベッド、イツキにのしかかる俺、そして俺の願望が奇跡を起こしたのか、イツキの胸元のボタンが一つ外れてはだけている……

 うん、どこからどう見ても、襲っているようにしか見えないね。俺は必死になって無実を訴えた。

 まだ、何も! してない! 襲おうか迷ってただけだから!!
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