新婚約者は苦手な狼獣人!? 〜婚約破棄をがんばりたいのに、溺愛してきて絆されそうです

兎騎かなで

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 強く抱きしめてくる腕の力に息を詰めると、心配そうに眉尻を下げられた。

「見た目より細いな、ちゃんと食べているか?」
「……失礼な人だな、君に心配されることはなにもないよ」

 ここまでやっても怒らないどころか、余計に近づいてこられてしまった。この路線でも嫌われるのは難しそうだ。

 観念して気やすい口調で言いかえすと、ヴァレリオはホッとしたように笑みを浮かべた。

「その話し方のほうが、君の本音が透けてみえるから好ましいな」
「あっそう。冷たくされる方が好きなんて、ずいぶんと変わった趣味をお持ちなんだね」
「そういうわけではないが、本音を厳重に隠されるよりはその方がいい」

 身をよじって解放を訴えると、ヴァレリオは名残惜しそうに俺の身体を解放した。

 仕切り直しとばかりにメイドを呼んで、お茶を淹れてもらう。お茶が用意されると、ヴァレリオの向かい側に、ドサリとぞんざいな仕草で座った。

「それを飲んだらとっとと帰ってくれ。俺は体調が悪いんだ」
「どこか悪いのか? 泣いたのも体調が辛いせいか」
「そうそう。だから早く帰って」

 ずびび、とわざとらしく鼻をすする。ヴァレリオは行儀が悪いと顔をしかめるどころか、気遣う様子をみせた。

「医者にはかかったのか、流行り病ではないだろうな」
「大袈裟だって、ただの鼻風邪だし」
「それならいいのだが……ところで、先日トビアス殿と対談の機会を設けたんだ」
「あっそう。知ってるけど。それで?」

 俺の投げやりな言動を気にするでもなく、ヴァレリオは紳士的に返答を寄越した。

「彼はなかなか見所のある男だと感じた。君は友人の趣味がいいな」
「トビアスも同じようなことを言ってたよ。君達両思いじゃないかよかったね、もういっそのこと二人がつきあえばいいんじゃない」
「拗ねないでくれクインシー。俺が愛しているのは貴方だ」
「拗ねてないけど? 都合のいいように曲解しないでくれるかな」

 目尻を釣り上げると、ヴァレリオはふはっと笑い声をふきだした。

「貴方とのやり取りは楽しいな」
「はあ? どこが? 俺が怒ってるのが見てわからないのかな、趣味が悪いね」
「すまない、ククッ……」

 よく笑うやつだなあ。俺は半眼でヴァレリオを睨みつつ、彼の評価を硬派なやつから、変なところに笑いのツボがあるやつに引き下げた。

「トビアス殿も対抗戦に出られるそうだな。貴方の目から見て、彼は強敵だろうか」
「全然雑魚だよ。もうすっごいから。どこからそんな雑魚集めてきたのってくらい弱々だから」
「そうか、強敵なんだな」
「あれ、人の話聞いてた?」
「貴方の友人として立ち回れる彼の手腕が、そこまで悪いとは思えない。にも関わらず貴方が大袈裟にコケ下ろしたとなると、逆に強いのだろうなと推測した」

 ふうん、そうか。やはり腐ってもバルトフォス公爵家の一員、頭の足りない馬鹿ではないらしい。

 俺はわざとらしく肩を竦めて、観念したようにソファーの背もたれに体を預けた。

「その通りだよ。俺も彼のことは一目置いてる」
「そうか。妬けるな」
「なにが」
「トビアス殿とクインシーには、分かりあっている者同士の絆を感じる。俺も早くそうなりたいものだ」
「がんばってね、トビアスも泣いて喜ぶよ」
「わざと言わせているのか? 俺が絆を育みたいのは、貴方に決まっているだろう、クインシー」

 そう告げたヴァレリオは、口の端を釣り上げて不敵に笑った。

 やめてくれよその笑い方は。ちょっとイツキと似てて、カッコイイと思っちゃったじゃないか。悟られないように、そっと緑の瞳から視線を逸らし、窓の外を見る。

 イツキは今頃カイル君とレジオットと一緒に、城下街に出かけている頃だろう。いいなあ、俺も仕事サボって行けばよかった。

 そしたらこんなヤツの顔なんて見ないで、イツキのかわいい垂れ耳を堪能できたのに……

「何を考えている、クインシー」
「別になにもないよ」
「嘘だな、辛そうだ。やはり体調が悪いんだな」

 俺はこくりと力なく頷いた。そろそろ本当に帰ってもらおう。大した用事もなさそうだし、十分相手もしたし。

「もう休むから帰って」
「わかった。貴方に早く会いたくて、手紙の返事も待たずに来てしまい、すまなかった。また近々来る」
「来なくていいよ」
「ああ、そうだ。いい物がある」

 ヴァレリオは俺の言い分を聞かなかったことにして、懐からなにかの包みを取りだし俺の手のひらに乗せた。

「なにこれ」
「キャンディーだ。喉が痛い時に舐めるといい」

 手のひらに三つ乗せられた、かわいらしい包みを凝視する。甘党なのかヴァレリオ、人は見た目によらないな。

「邪魔したな。見送りはいらないから、早く休め」

 ヴァレリオはコートを羽織ると、持参していたマフラーを俺の首に巻いた。

「ちょっと、なにするのさ」
「温かくしているんだぞ。俺だと思って大切に使ってくれ」
「いやいらないよ。ねえ、待ってってば」

 風邪のせいで機敏に動く気になれない俺を置いて、ヴァレリオは颯爽と去っていった。

 彼の姿が見えなくなるとドッと疲れを感じて、託された黒のマフラーに思わず顔を埋めた。

 フワリとヴァレリオの香りが鼻をくすぐる。ウッディムスクのような落ちついた深い香りは、嫌いじゃなかった。むしろささくれた気分が少し和らいだ。

 手のひらの飴の包みを一つ開けて口に含む。甘すぎず、ほのかにハーブのような味がするキャンディーに、心が慰められた。

 俺はヴァレリオの評価を無遠慮なやつから、気遣いができるやつに引き上げると、いい加減休むべく重い足を引きずって自室に戻った。
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