新婚約者は苦手な狼獣人!? 〜婚約破棄をがんばりたいのに、溺愛してきて絆されそうです

兎騎かなで

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対抗戦予選

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 交渉の結果、俺は青い鍵を手に入れた。セルリアンの領地の特産品であるリゴの実を、俺が自費で仕入れて、マーシャル領内に普及させるという条件つきでね。

 父様に取り次ぐのは、突っぱねられる可能性があるため、俺がやれる範囲で交渉をまとめた。

 セルリアンはごねたけど、なんとかその条件でまとめさせた。その代わり大量のリゴの実を仕入れることになったから、後で対策を考えなきゃな。

 とにかく急いで地上に戻ろう。十一階層付近で待ち構えていたチーム三組を蹴散らし、無事に魔月鏡を割られることなく地上にたどり着けた。

 リベルタ侯爵の部下が待ち構えていて、俺達の健闘をたたえてくれる。

「おめでとうございます! マーシャル領、四位着です」

 やった、間に合った。緊張が解けて崩れ落ちそうになる足を手で押さえて、なんとか膝をつくのを防ぐ。

「やりましたね、ボス!」
「よかったです、間にあいました」
「君達のお陰だよ! ありがとう」

 テオとレジオットに労いの言葉をかけてから、魔月鏡を返却して帰路についた。すでに三位以上のチームも帰ったようだった。

 一位はヴァレリオのチーム、二位はタイリー・ガルミアという虎獣人のチーム、三位はトビアスのチームだったらしい。

 やっぱりトビアスも、ちゃっかり勝ち上がったみたいだね。タイリーも毎年上位成績を納めている猛者だ。

 本戦では彼らをだしぬいて、ヴァレリオに勝たないといけない。気合いを入れなくちゃね。でも今は、邸に帰って休もう。

 四日間神経を尖らせながらダンジョン内を駆け回ったから、すでに疲労困憊だ。

 道中、カイル君がイツキを攫うようにして、宿屋に連行していった。俺はその様子を、乾いた笑みを浮かべて見送る。

 彼らは今、つきあいたてのカップルなんだもんね……二人きりになりたいんだろうなあ。

 きっとあんなことやそんなことをして、盛り上がるんだろうけれど。想像すると心に深刻なダメージを負うので、速やかに思考に蓋をしておいた。

 邸に戻ったその場で、テオとレジオットには休暇を与えた。

 彼らは大いにチームに貢献してくれた。ダンジョン内では夜番を頑張ってくれたりと、あまり眠れなかったから疲れているだろう。

 本戦までに英気を養ってもらうことにした。俺も湯を浴びたら、寝室にこもって休もうっと。

 ぼんやりとシャワーを浴びて、のっそりとした動きで着替える。ああ、疲れたなあ。

 昼だけど、ご飯を食べたら昼寝してしまおう。あまりに倦怠感が強くて、そう決めた。

 俺はダンジョン内の簡易ベッドとは、比べ物にならないくらいにふかふかのベッドの中で、ぬくぬくと暖をとった。

 ……いつしか、まぶたも意識も落ちていたようだ。ぼんやりとした光がまぶたの裏に届いて、目を開く。

 どうやら机の上で置きっぱなしにしていた、魔道話に着信があったらしい。

「んー……? 父様?」

 目ぼけまなこで光る魔道話を手にとり、通話に出て返答すると、低く艶のある声が耳に飛びこんできた。

「クインシー、寝ていたのか?」
「んえ? ああこれ、ヴァレリオからもらった方の魔道話かあ」

 父様からかかってくると予想していたから、勘違いしてしまった。魔道話ごしにくつくつと笑う気配がする。

「予選を通過したと聞いた。おめでとう、クイン」

 あ、今クインって愛称で呼ばれた……そういやそんな約束もしたっけな。ヴァレリオが先に予選を通過したのだから、大人しく受け入れるとしよう。

「君もね、ヴァレリオ。一位通過とは恐れいるよ」
「そうでもない。ただ運がよかっただけだ」
「さすがに運だけじゃ勝ち残れないよ。ヴァレリオの指揮がよかったんじゃない?」
「そうだといいが」

 謙虚なヴァレリオは、やはり貴族社会では珍しい感性の持ち主だ。俺だったら自慢しまくるけどなあ。

「本戦までゆっくりと休んでくれ」
「君に言われなくとも、そうするつもりだよ」
「ところで、もし気が向いたらでいいのだが……俺とデートしないか」
「ええ? デート?」
「ああ。予選が終わったら、改めて誘わせてくれとお願いしただろう?」

 そんな話を、聖火祭を過ごした日の別れ際にした覚えはあるが、ヴァレリオとデート? どう過ごすのか想像がつかない。

「デートって、どこに行きたいのさ」
「受けてくれるのか!?」
「受けるとは言ってないよ、聞いてみただけだ」

 ヴァレリオは残念そうに声の調子を落として、話を続けた。

「リゴの実が今、旬を迎えているだろう。美味しいパイを提供する店があるんだが、一緒に行かないか」
「パイぃ? 別に、興味ない……わけじゃないなあ」

 すげなく断ろうとしたが、リゴの実と聞いて思いなおした。そういえば、セルリアンからリゴの実を仕入れて、領地に広める約束をしたんだった。

 リゴの実のパイか、上手くマーシャル領で流行らせることができれば、リゴの実を大量に消費できるかもしれない。

 俺の中途半端な返事に、勝機を見出したヴァレリオは、精力的に誘いをかけてきた。

「興味があるなら行こう。三日後の午後に時間がとれそうなんだが、予定はあるか」
「三日後だったら大丈夫」
「では、三日後の午後に迎えにいく。楽しみだ」

 ヴァレリオは嬉しそうな声音で、別れの挨拶を口にして通話を切った。参ったなあ、デートなんて受けちゃったよ。

 俺はしばらく魔道話を手の中で弄んでいたが、いい加減寒くなってきて布団の中に逆戻りした。

 きっとなるようになるだろう。無体なことを強いるやつじゃないし、一緒にお茶をするだけだ。

 たったそれだけなのに、妙に胸が弾んでいるのはなぜだろう。不可思議な心の動きに内心首を捻りながらも、夜を過ごした。
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