新婚約者は苦手な狼獣人!? 〜婚約破棄をがんばりたいのに、溺愛してきて絆されそうです

兎騎かなで

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自覚

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 バスルームで一緒に湯浴みをした後、ヴァレリオと一緒に軽食を食べた。

 お尻に出されたものを掻き出す時にも感じてしまって、またヴァレリオが怖い顔で尻尾を振って興奮していたが、お腹が空いたと訴えるとなんとか堪えてくれた。

 ヴァレリオは簡単な料理ができるらしい。騎士学校に在籍していた時に覚えたんだってさ。

 普段はバルトフォス家のシティーハウスに雇われているメイドが、掃除と食事の手配をしてくれているが、今日は頼んでいないとのこと。

「久しぶりに時間ができたから、料理でもしようと食材を買ってから帰ってきたんだ。なにかご馳走しよう」
「いいの? ありがとう、でも怪我したところは大丈夫?」

 さっきまで激しい運動を問題なくこなしていたが、今更ながら無茶をさせたんじゃないかと気になってきた。

 彼は軽く腕を回してみたり、骨折した部分を握って確かめているが、どうやら痛みも支障も感じないらしかった。

「重いものを持ったり、運動や剣の訓練をすることはまだ禁止されているが。料理くらいなら平気だろう」
「そっか……でも無理させたくないし、俺も手伝うよ」

 手伝いを申し出ると、ヴァレリオは意外そうに片眉を上げた。

「貴方にも料理をした経験があるのか?」
「ないけど、せっかくだから教えてよ」
「では、一緒に作ろう」

 ヴァレリオは料理初心者の俺にもわかりやすいように、丁寧にナイフの使い方を教えてくれた。芋の皮剥きをやってみると、それなりに綺麗にむけた。

「上手いな、クイン」

 ヴァレリオが笑って褒めてくれるので、鼻高々な気分になる。俺ってなにをやらせても、それなりにできちゃうんだよねえ。書類仕事は苦手だけどさ。

 調子に乗ってするりと尻尾同士を絡めてみると、狼狽えたように眉をひそめられ、注意を受けた。

「刃物を持っている時にふざけないでくれ」
「嫌だった?」
「嫌なわけがない。だが、集中を欠くとクインが怪我するかもしれないだろう。それを危惧しているんだ」

 俺はそんなに不器用じゃないんだけどなあ。芋を剥き終えて包丁をまな板に置くと、体を寄せてぴっとりとくっついてみた。

 素直に振る舞ってほしいらしいからね。俺は今、ヴァレリオとくっつきたい気分なんだよ。

 緑柱石の瞳を見上げて、彼と腕を組みながらにっこり笑いかける。

「もう刃物には触ってないよ。これならいいでしょう?」
「くっ、かわいいな……! いや、ダメだ! これでは俺が料理に集中できない」

 イチャイチャしながらたっぷり時間をかけて、はじめて作ったポトフは、手づくりらしい優しい味わいに仕上がった。

「ああ、美味しかった。料理ってなかなか楽しいね、またやろうよ」
「俺はいつ火傷をしてしまうかと、気が気ではなかったが……貴方がやりたいというならつきあおう。ただし、料理中の接触は控えめにな」
「はいはい、わかったよ」

 外を見ると、日差しがオレンジ色に変わりはじめていた。もうそんな時間なのか、そろそろ帰らないとね。

「それじゃ、またねヴァレリオ」
「泊まっていかないのか」
「それは遠慮しておくよ、母様に何を言われるかわからないからさ」

 お泊まりなんてしたら、根掘り葉掘り聞かれるに決まってるんだ。

 そうなった母様はなかなか諦めないから、追求を交わすのに酷く労力を使うんだよね。

 まだ一緒にいたい気持ちはあるけれど……これ以上くっついていたらまたしたくなっちゃうから、今日のところはこれで帰ろう。

 コートを身につけていると、ヴァレリオは寂しそうにしながら外出の用意をしはじめた。

「そうか……では、送っていこう」
「別にいいのに」
「俺が貴方と一緒にいたいんだ。送らせてくれ」
「いいけど……俺もまだ、ヴァレリオと一緒にいたいなって気持ちはあるしさ……」

 ごにょごにょと言葉尻を窄ませながら、思ったままのことを告げると、ヴァレリオは感極まったように俺を抱きしめた。

「ああ、クイン……! 君と一緒に暮らせる日が待ち遠しい。この家は気に入ったか? 貴方好みに好きに改築してもらっていいぞ、いっそ新しく建ててもいい」
「だから君、気が早いってば。まずは婚約成立の書類を王宮に提出しなきゃ。話はそれからだろう?」
「ああ、そうだな! いつやろうか、俺は今からでもいい」
「あのさ、気が早いって何回言わせるつもりかな? 領地に手紙を出して、君の家からも許可を得て、それからだよ」
「そうだな、そうしよう。はあ、待ちきれないな……」

 ヴァレリオは頷きながら、俺の手を引いて家を出た。エスコートされながら話を続ける。

「バルトフォス家は、もろ手を上げて貴方を迎えてくれるはずだ。俺がクインを迎えにいくために努力している姿を、両親はずっと応援してくれていた」
「そうだったの!? ええ、会うの緊張しちゃうじゃないか……」
「緊張する必要はどこにもない、きっと貴方は歓迎されることだろう」

 そのまま婚約について話しあう。すでに陛下の勅命が出ているのだから、両家の挨拶を待たずして、家から了承を得たら婚約を結んでしまおう、という結論に至った。

 俺は先に顔合わせをしにいった方がいいと提案したけれど、ヴァレリオが大丈夫だからと言い張った。

 あれだけ礼儀を尊ぶヴァレリオが、だよ? 何もかもをすっ飛ばしてでも、とにかく俺と早く婚約が結びたいんだね。照れるなあ。

 陛下の命があるから、家から婚約を反対されることはまずないだろう。そうなるとつまり、俺はヴァレリオともうすぐ婚約するのか……

 リリーシュカ嬢と婚約した時には、ついぞ感じたことのなかった嬉しさが、胸の奥から込みあげる。我慢も隠しもせずに、ヴァレリオの肩に頭を寄せた。

「どうした?」
「なんでもないよ。嬉しい気持ちが抑えられなくて、ちょっとくっつきたくなっただけだから」
「……素直になった貴方が魅力的すぎて、また襲いたくなってしまう……本当に帰るのか?」
「帰るよ。また魔道話で話そう」
「ちゃんと通話を受けてくれるんだろうな?」

 あ、本戦前の数日間、魔道話に応答しなかったことを根にもたれているな。

「あの時はごめんよ、自分の気持ちがぐらついていたから、君からの通話を受けられなかったんだ」
「そうだったのか。あの頃から既に貴方が、俺のことをそこまで意識してくれていたのかと思うと、なにか胸に込みあげるものがあるな」

 ヴァレリオは上機嫌にふぁさふぁさと尻尾を振りながら、俺を邸の手前まで送り届けてくれた。

「ではな、クイン。いい夜を過ごしてくれ」
「あ、ちょっと待って」

 俺はヴァレリオの首元からマフラーを抜きとると、自分の巻いていた物も取り去り交換する。

 黒のマフラーに顔を埋めると、彼のウッディムスクの香りに包まれて、天国のような気分に浸れた。

 俺の焦茶のふわふわマフラーを巻いたヴァレリオは、あまり似合っていなかった。全体のコーディネートがかっちりしているのに、首周りだけファンシーだ。

「ぷっ」
「いきなりなんなんだ……しかし、やはりクインはいい匂いがする。このマフラーにも貴方の匂いが染みついているな」
「俺も君の匂いが好きなんだよ。これ、貸しておいて。会えない間、君の香りに包まれていたいんだ」
「ぐぅ……!」

 突然、ヴァレリオが胸を押さえて呻いた。びっくりして顔をのぞきこむと、頬を染めてたまらないと言いたげな表情をしている。

「やっぱり今からひき返そう、俺の家で今晩一緒に過ごしてくれ、クイン!」
「もう、何言ってるんだよ、帰るって言っただろ? じゃあまたね」

 背後から強い視線を浴びているのがわかったが、気にせずに茜色に染まった敷地内を軽快に歩く。

 雪はすっかり溶けきって、寒さが和らいできている。もう春はすぐそこまで来ていた。
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