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23 不穏な気配
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ロディオ神父の言っていた通りに、ミリア達が奥の部屋へ向かうと、寝台に横たわるレイヤードの姿があった。
「レイ! って、寝てる……」
ミリアはパッと口を押さえた。寝ているのなら寝かせておいてあげたい。
レイには毛布と厚手の布団がかけられており温かそうだ。傷口の様子は見えなかったが寝顔は昼間見た時より穏やかだった。
「熱はまだあるのか?」
フェリックスがレイの額に手を当てると、レイは顔をしかめた。フェルの手が冷たかったようだ。
「まだ熱があるな。誰かついていた方がいいか」
「なら私がみてるよ! レイの怪我は私のせいだもの」
ミリアが声をあげるとラジェも手を上げた。
「私も見てる」
「それじゃ今晩は二人にお任せするよ。交代で見るならベッドを運び入れようか?」
「いい、ベッドなら持ってる」
「そうだったね。じゃあなにかあれば気軽に声をかけて。俺達は宿泊室の方に行ってるよ」
アルトとフェルは部屋を出ていった。ミリアは自分が看病された時のことを思いだして、冷たいタオルを絞ってレイの額に当ててみた。
早くよくなりますように。
ミリアがレイを見つめているとラジェはふと立ちあがり窓の外を覗いた。冬が近いせいだろう、陽はもうすでに暮れている。
「どうしたの?」
「監視の目が鋭くなった気がする」
「監視……って、監視されてるの!? だ、誰から?」
「知らない気配。今までも時々あった。けれど悪意は特に感じなかったし、毎回気配はすぐ消えていた。今日は長く見られている……なにか、嫌な感じ」
ラジェは険しい顔をして窓の外から視線を外した。そして窓を遮るように巨大ベッドを亜空庫から取りだし設置する。
「ミリア、今日は決して一人で外に出ないで」
「わかった、約束するよ。アルト達にも話をした方がいいかな?」
ラジェは予見を使って瞳を青紫色に光らせると首を横に振った。
「今日は下手に動かない方がいい。明日の朝話す」
ミリアはまんじりともせずに夜を過ごしたが、そのうち眠気に襲われてこっくり舟を漕ぎだしたので、先に休んでいたラジェと交代してベッドで眠った。
*
一方その頃、女王リリエルシアは長い毛足の扇子を退屈そうに扇ぎながら部下の報告を聞いていた。
「ねえ、もっと面白い話はないの? どこそこの諸侯を捕らえたって話はもう聞き飽きたのよね。もう養う場所もないしいっそのこと全員処刑してしまおうかしら?」
「いいねー、僕もそうしたいよいっそのこと。ミリアちゃんの家族以外はぶっちゃけ必要ないもんねえ。でも貴族を殺しちゃうといろいろめんどくさいしさあ、もうしばらくおいとけば?」
気の抜けた声が謁見の間に響く。黒髪に血のような赤い目を持つ小柄な青年は、女王陛下を相手に話すにはフランクすぎる口調で話しかけていた。
「置いておくのだって面倒なのよ? 石を作るために必要だとはいえ、これ以上面倒が続くなら本当に処分してしまおうかしら」
「まあまあまあ。抑えて抑えて。石の生産だって無限にできるわけじゃないんだからさあ」
ガヴィーノがとりなすと、リリエルシアは王座の肘掛けにイライラと肘をついた。
「あーあ、もう待ってなんていられないわ。わたくしの願いはいったいいつ叶うの? そうだガヴィーノ、一度あの小娘を連れてきなさい」
「ミリアちゃんを? えーめんどくさいなあ。今でさえ向こうには警戒されてんのに無傷で連れてくんの難しくない?」
「血法石を追加で二つ下賜するわ。嬉しいでしょう? やる気が出てくるでしょう?」
女王が自身の首を覆うチョーカーについた赤い石を指先でなぞって見せると、ガヴィーノは目の色を変えた。
「本当ですかぁ陛下! 僕めっちゃヤル気が湧いてきましたよぉ! さーてと、では準備しなくちゃなー。でも実行する前にジニーに癒される時間が必要なんで、それ終わってから行くねー」
ガヴィーノはおもむろに亜空庫を開くとそこに手を突っこみ、鮮やかなピンクのドレスを取りだした。
「ほら陛下見てよこのドレス、めっちゃジニーに似合うと思わない? もう女神も真っ青になるかわいさ! さすが僕の妹!!」
十歳前後のフリフリした女児用のドレスを誇らしげに掲げてみせるガヴィーノに、リリエルシアは乾いた笑いを漏らす。
「よかったわねえ、別にその話聞きたくないからさっさと下がりなさい」
「はいはい、ではこれで。待ってて愛しのジニーちゃん」
小躍りしながら駆けていくガヴィーノを呆れた様子で見ていたリリエルシアは、背後にずっと控えていた黒髪の幽霊に話を降った。
「ずいぶんとお人形にご執心よね。ヴィヴィアンヌ、貴女もそうされたい?」
ヴィヴィアンヌからは返事がなく戸惑うような気配がする。
「ふふふっ! そうね、楽しそうだけどやめておこうかしら。そんな些事に時間を使うヒマなんてないもの、貴女にはその辛気臭い服がお似合いだわ」
リリエルシアは満足するまでヴィヴィアンヌを詰ると、王座を後にした。
*
無事に朝を迎えたミリアとラジェは、アルトとフェルに早速昨日の気になる視線について話をした。
「ああ、やっぱり見られている感じがしたのは気のせいじゃなかったんだ」
「昨日はとても嫌な感じがした。十分警戒して」
「ミリア嬢が狙われているということだな? わかった、肝に銘じよう」
情報共有ができたところでアルトはラジェの目の下の隈を見咎めた。
「ラジェ、昨日はよく寝れなかったんじゃないか? 今日は俺がミリアと一緒にいるから少し寝てきたら?」
「そうする」
ラジェは朝食を食べ終わるとまたベッドに逆戻りした。
「ミリアは大丈夫かな? 寝れた?」
「私は途中で寝ちゃったから寝不足じゃないよ」
「そっか、それならよかった。じゃあ日中は俺かフェルどちらかと必ず一緒に行動してね」
「うん、わかった」
レイの看病をする人も必要なので午前中はアルトが、午後はフェルが看ることになった。
レイが心配だったミリアもアルトにつき添って部屋に入る。
「レイ、起きてる?」
「う……」
「まだ半分寝てるね、水だけでも飲ませよう」
高熱で意識朦朧としている様子のレイを起こしてアルトは水を飲ませた。汗だらけの衣類を見て取り替えようと提案する。
「ちょっと荷物を漁らせてもらうよ。レイの着替えは……これか」
ミリアは後ろを向いてレイが着替えるのを待っていた。チラリと見えた包帯にはまだ血が滲んでいた。
「はい、これでいいかな」
「慣れてるねアルト、私看病するって言ったはいいけど何したらいいかあまりわかってなかったから助かるよ」
「弟が寝込んだ時に看病したことがあるだけさ」
アルトは肩をすくめた。
そうなんだ、アルトは自分がお兄ちゃんだって言ってたもんね。
「さてと。俺は本でも借りてここで読んで過ごそうかな。ミリアはどうする?」
「私は法術の練習をしたいけどここじゃうるさいよね。どうしようかなあ」
話をしているとロディオ神父が部屋をノックした。
「お取り込み中ですか?」
「いいえ、どうぞ」
ミリアが返事をするとロディオが部屋に入ってきた。
「おはようございますみなさん。おや、ひょっとしてお二人はレイヤードの看病してらっしゃったので?」
「ええと、そうです」
「真面目ですねえ。一晩くらいほっておいても死にはしませんよ。さあどれどれ」
ロディオ神父は包帯をといて水で洗って軟膏を塗りこむと、また傷口を包帯で包んだ。レイは水の冷たさにうめいたがやはり起きない。
「前日より少し状態がよくなってますよ。いやあ、若いっていいですねえ。後は私が看ておきますからお二人も自由になさってくれて結構ですよ。私、午前中は暇なんで」
ロディオ神父のお言葉に甘えてアルトリオとミリアは部屋を出た。
「じゃあ、時間もできたしミリアの法術練習につきあうよ」
「お願いします! ありがとうアルト」
ミリアは昼頃までアルトと一緒に瞬間移動の練習を繰り返したが、やはりそう簡単にはできるようにならなかった。
「レイ! って、寝てる……」
ミリアはパッと口を押さえた。寝ているのなら寝かせておいてあげたい。
レイには毛布と厚手の布団がかけられており温かそうだ。傷口の様子は見えなかったが寝顔は昼間見た時より穏やかだった。
「熱はまだあるのか?」
フェリックスがレイの額に手を当てると、レイは顔をしかめた。フェルの手が冷たかったようだ。
「まだ熱があるな。誰かついていた方がいいか」
「なら私がみてるよ! レイの怪我は私のせいだもの」
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アルトとフェルは部屋を出ていった。ミリアは自分が看病された時のことを思いだして、冷たいタオルを絞ってレイの額に当ててみた。
早くよくなりますように。
ミリアがレイを見つめているとラジェはふと立ちあがり窓の外を覗いた。冬が近いせいだろう、陽はもうすでに暮れている。
「どうしたの?」
「監視の目が鋭くなった気がする」
「監視……って、監視されてるの!? だ、誰から?」
「知らない気配。今までも時々あった。けれど悪意は特に感じなかったし、毎回気配はすぐ消えていた。今日は長く見られている……なにか、嫌な感じ」
ラジェは険しい顔をして窓の外から視線を外した。そして窓を遮るように巨大ベッドを亜空庫から取りだし設置する。
「ミリア、今日は決して一人で外に出ないで」
「わかった、約束するよ。アルト達にも話をした方がいいかな?」
ラジェは予見を使って瞳を青紫色に光らせると首を横に振った。
「今日は下手に動かない方がいい。明日の朝話す」
ミリアはまんじりともせずに夜を過ごしたが、そのうち眠気に襲われてこっくり舟を漕ぎだしたので、先に休んでいたラジェと交代してベッドで眠った。
*
一方その頃、女王リリエルシアは長い毛足の扇子を退屈そうに扇ぎながら部下の報告を聞いていた。
「ねえ、もっと面白い話はないの? どこそこの諸侯を捕らえたって話はもう聞き飽きたのよね。もう養う場所もないしいっそのこと全員処刑してしまおうかしら?」
「いいねー、僕もそうしたいよいっそのこと。ミリアちゃんの家族以外はぶっちゃけ必要ないもんねえ。でも貴族を殺しちゃうといろいろめんどくさいしさあ、もうしばらくおいとけば?」
気の抜けた声が謁見の間に響く。黒髪に血のような赤い目を持つ小柄な青年は、女王陛下を相手に話すにはフランクすぎる口調で話しかけていた。
「置いておくのだって面倒なのよ? 石を作るために必要だとはいえ、これ以上面倒が続くなら本当に処分してしまおうかしら」
「まあまあまあ。抑えて抑えて。石の生産だって無限にできるわけじゃないんだからさあ」
ガヴィーノがとりなすと、リリエルシアは王座の肘掛けにイライラと肘をついた。
「あーあ、もう待ってなんていられないわ。わたくしの願いはいったいいつ叶うの? そうだガヴィーノ、一度あの小娘を連れてきなさい」
「ミリアちゃんを? えーめんどくさいなあ。今でさえ向こうには警戒されてんのに無傷で連れてくんの難しくない?」
「血法石を追加で二つ下賜するわ。嬉しいでしょう? やる気が出てくるでしょう?」
女王が自身の首を覆うチョーカーについた赤い石を指先でなぞって見せると、ガヴィーノは目の色を変えた。
「本当ですかぁ陛下! 僕めっちゃヤル気が湧いてきましたよぉ! さーてと、では準備しなくちゃなー。でも実行する前にジニーに癒される時間が必要なんで、それ終わってから行くねー」
ガヴィーノはおもむろに亜空庫を開くとそこに手を突っこみ、鮮やかなピンクのドレスを取りだした。
「ほら陛下見てよこのドレス、めっちゃジニーに似合うと思わない? もう女神も真っ青になるかわいさ! さすが僕の妹!!」
十歳前後のフリフリした女児用のドレスを誇らしげに掲げてみせるガヴィーノに、リリエルシアは乾いた笑いを漏らす。
「よかったわねえ、別にその話聞きたくないからさっさと下がりなさい」
「はいはい、ではこれで。待ってて愛しのジニーちゃん」
小躍りしながら駆けていくガヴィーノを呆れた様子で見ていたリリエルシアは、背後にずっと控えていた黒髪の幽霊に話を降った。
「ずいぶんとお人形にご執心よね。ヴィヴィアンヌ、貴女もそうされたい?」
ヴィヴィアンヌからは返事がなく戸惑うような気配がする。
「ふふふっ! そうね、楽しそうだけどやめておこうかしら。そんな些事に時間を使うヒマなんてないもの、貴女にはその辛気臭い服がお似合いだわ」
リリエルシアは満足するまでヴィヴィアンヌを詰ると、王座を後にした。
*
無事に朝を迎えたミリアとラジェは、アルトとフェルに早速昨日の気になる視線について話をした。
「ああ、やっぱり見られている感じがしたのは気のせいじゃなかったんだ」
「昨日はとても嫌な感じがした。十分警戒して」
「ミリア嬢が狙われているということだな? わかった、肝に銘じよう」
情報共有ができたところでアルトはラジェの目の下の隈を見咎めた。
「ラジェ、昨日はよく寝れなかったんじゃないか? 今日は俺がミリアと一緒にいるから少し寝てきたら?」
「そうする」
ラジェは朝食を食べ終わるとまたベッドに逆戻りした。
「ミリアは大丈夫かな? 寝れた?」
「私は途中で寝ちゃったから寝不足じゃないよ」
「そっか、それならよかった。じゃあ日中は俺かフェルどちらかと必ず一緒に行動してね」
「うん、わかった」
レイの看病をする人も必要なので午前中はアルトが、午後はフェルが看ることになった。
レイが心配だったミリアもアルトにつき添って部屋に入る。
「レイ、起きてる?」
「う……」
「まだ半分寝てるね、水だけでも飲ませよう」
高熱で意識朦朧としている様子のレイを起こしてアルトは水を飲ませた。汗だらけの衣類を見て取り替えようと提案する。
「ちょっと荷物を漁らせてもらうよ。レイの着替えは……これか」
ミリアは後ろを向いてレイが着替えるのを待っていた。チラリと見えた包帯にはまだ血が滲んでいた。
「はい、これでいいかな」
「慣れてるねアルト、私看病するって言ったはいいけど何したらいいかあまりわかってなかったから助かるよ」
「弟が寝込んだ時に看病したことがあるだけさ」
アルトは肩をすくめた。
そうなんだ、アルトは自分がお兄ちゃんだって言ってたもんね。
「さてと。俺は本でも借りてここで読んで過ごそうかな。ミリアはどうする?」
「私は法術の練習をしたいけどここじゃうるさいよね。どうしようかなあ」
話をしているとロディオ神父が部屋をノックした。
「お取り込み中ですか?」
「いいえ、どうぞ」
ミリアが返事をするとロディオが部屋に入ってきた。
「おはようございますみなさん。おや、ひょっとしてお二人はレイヤードの看病してらっしゃったので?」
「ええと、そうです」
「真面目ですねえ。一晩くらいほっておいても死にはしませんよ。さあどれどれ」
ロディオ神父は包帯をといて水で洗って軟膏を塗りこむと、また傷口を包帯で包んだ。レイは水の冷たさにうめいたがやはり起きない。
「前日より少し状態がよくなってますよ。いやあ、若いっていいですねえ。後は私が看ておきますからお二人も自由になさってくれて結構ですよ。私、午前中は暇なんで」
ロディオ神父のお言葉に甘えてアルトリオとミリアは部屋を出た。
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