残念令嬢、家を追われて逃亡中〜謎の法術師様がなぜか守ってくれます

兎騎かなで

文字の大きさ
23 / 37

23 不穏な気配

しおりを挟む
 ロディオ神父の言っていた通りに、ミリア達が奥の部屋へ向かうと、寝台に横たわるレイヤードの姿があった。

「レイ! って、寝てる……」

 ミリアはパッと口を押さえた。寝ているのなら寝かせておいてあげたい。
 レイには毛布と厚手の布団がかけられており温かそうだ。傷口の様子は見えなかったが寝顔は昼間見た時より穏やかだった。

「熱はまだあるのか?」

 フェリックスがレイの額に手を当てると、レイは顔をしかめた。フェルの手が冷たかったようだ。

「まだ熱があるな。誰かついていた方がいいか」
「なら私がみてるよ! レイの怪我は私のせいだもの」

 ミリアが声をあげるとラジェも手を上げた。

「私も見てる」
「それじゃ今晩は二人にお任せするよ。交代で見るならベッドを運び入れようか?」
「いい、ベッドなら持ってる」
「そうだったね。じゃあなにかあれば気軽に声をかけて。俺達は宿泊室の方に行ってるよ」

 アルトとフェルは部屋を出ていった。ミリアは自分が看病された時のことを思いだして、冷たいタオルを絞ってレイの額に当ててみた。
 早くよくなりますように。

 ミリアがレイを見つめているとラジェはふと立ちあがり窓の外を覗いた。冬が近いせいだろう、陽はもうすでに暮れている。

「どうしたの?」
「監視の目が鋭くなった気がする」
「監視……って、監視されてるの!? だ、誰から?」
「知らない気配。今までも時々あった。けれど悪意は特に感じなかったし、毎回気配はすぐ消えていた。今日は長く見られている……なにか、嫌な感じ」

 ラジェは険しい顔をして窓の外から視線を外した。そして窓を遮るように巨大ベッドを亜空庫から取りだし設置する。

「ミリア、今日は決して一人で外に出ないで」
「わかった、約束するよ。アルト達にも話をした方がいいかな?」

 ラジェは予見を使って瞳を青紫色に光らせると首を横に振った。

「今日は下手に動かない方がいい。明日の朝話す」

 ミリアはまんじりともせずに夜を過ごしたが、そのうち眠気に襲われてこっくり舟を漕ぎだしたので、先に休んでいたラジェと交代してベッドで眠った。





 一方その頃、女王リリエルシアは長い毛足の扇子を退屈そうに扇ぎながら部下の報告を聞いていた。

「ねえ、もっと面白い話はないの? どこそこの諸侯を捕らえたって話はもう聞き飽きたのよね。もう養う場所もないしいっそのこと全員処刑してしまおうかしら?」
「いいねー、僕もそうしたいよいっそのこと。ミリアちゃんの家族以外はぶっちゃけ必要ないもんねえ。でも貴族を殺しちゃうといろいろめんどくさいしさあ、もうしばらくおいとけば?」

 気の抜けた声が謁見の間に響く。黒髪に血のような赤い目を持つ小柄な青年は、女王陛下を相手に話すにはフランクすぎる口調で話しかけていた。

「置いておくのだって面倒なのよ? 石を作るために必要だとはいえ、これ以上面倒が続くなら本当に処分してしまおうかしら」
「まあまあまあ。抑えて抑えて。石の生産だって無限にできるわけじゃないんだからさあ」

 ガヴィーノがとりなすと、リリエルシアは王座の肘掛けにイライラと肘をついた。

「あーあ、もう待ってなんていられないわ。わたくしの願いはいったいいつ叶うの? そうだガヴィーノ、一度あの小娘を連れてきなさい」
「ミリアちゃんを? えーめんどくさいなあ。今でさえ向こうには警戒されてんのに無傷で連れてくんの難しくない?」
「血法石を追加で二つ下賜するわ。嬉しいでしょう? やる気が出てくるでしょう?」

 女王が自身の首を覆うチョーカーについた赤い石を指先でなぞって見せると、ガヴィーノは目の色を変えた。

「本当ですかぁ陛下! 僕めっちゃヤル気が湧いてきましたよぉ! さーてと、では準備しなくちゃなー。でも実行する前にジニーに癒される時間が必要なんで、それ終わってから行くねー」

 ガヴィーノはおもむろに亜空庫を開くとそこに手を突っこみ、鮮やかなピンクのドレスを取りだした。

「ほら陛下見てよこのドレス、めっちゃジニーに似合うと思わない? もう女神も真っ青になるかわいさ! さすが僕の妹!!」

 十歳前後のフリフリした女児用のドレスを誇らしげに掲げてみせるガヴィーノに、リリエルシアは乾いた笑いを漏らす。

「よかったわねえ、別にその話聞きたくないからさっさと下がりなさい」
「はいはい、ではこれで。待ってて愛しのジニーちゃん」

 小躍りしながら駆けていくガヴィーノを呆れた様子で見ていたリリエルシアは、背後にずっと控えていた黒髪の幽霊に話を降った。

「ずいぶんとお人形にご執心よね。ヴィヴィアンヌ、貴女もそうされたい?」

 ヴィヴィアンヌからは返事がなく戸惑うような気配がする。

「ふふふっ! そうね、楽しそうだけどやめておこうかしら。そんな些事に時間を使うヒマなんてないもの、貴女にはその辛気臭い服がお似合いだわ」

 リリエルシアは満足するまでヴィヴィアンヌを詰ると、王座を後にした。





 無事に朝を迎えたミリアとラジェは、アルトとフェルに早速昨日の気になる視線について話をした。

「ああ、やっぱり見られている感じがしたのは気のせいじゃなかったんだ」
「昨日はとても嫌な感じがした。十分警戒して」
「ミリア嬢が狙われているということだな? わかった、肝に銘じよう」

 情報共有ができたところでアルトはラジェの目の下の隈を見咎めた。

「ラジェ、昨日はよく寝れなかったんじゃないか? 今日は俺がミリアと一緒にいるから少し寝てきたら?」
「そうする」

 ラジェは朝食を食べ終わるとまたベッドに逆戻りした。

「ミリアは大丈夫かな? 寝れた?」
「私は途中で寝ちゃったから寝不足じゃないよ」
「そっか、それならよかった。じゃあ日中は俺かフェルどちらかと必ず一緒に行動してね」
「うん、わかった」

 レイの看病をする人も必要なので午前中はアルトが、午後はフェルが看ることになった。
 レイが心配だったミリアもアルトにつき添って部屋に入る。

「レイ、起きてる?」
「う……」
「まだ半分寝てるね、水だけでも飲ませよう」

 高熱で意識朦朧としている様子のレイを起こしてアルトは水を飲ませた。汗だらけの衣類を見て取り替えようと提案する。

「ちょっと荷物を漁らせてもらうよ。レイの着替えは……これか」

 ミリアは後ろを向いてレイが着替えるのを待っていた。チラリと見えた包帯にはまだ血が滲んでいた。

「はい、これでいいかな」
「慣れてるねアルト、私看病するって言ったはいいけど何したらいいかあまりわかってなかったから助かるよ」
「弟が寝込んだ時に看病したことがあるだけさ」

 アルトは肩をすくめた。
 そうなんだ、アルトは自分がお兄ちゃんだって言ってたもんね。

「さてと。俺は本でも借りてここで読んで過ごそうかな。ミリアはどうする?」
「私は法術の練習をしたいけどここじゃうるさいよね。どうしようかなあ」

 話をしているとロディオ神父が部屋をノックした。

「お取り込み中ですか?」
「いいえ、どうぞ」

 ミリアが返事をするとロディオが部屋に入ってきた。

「おはようございますみなさん。おや、ひょっとしてお二人はレイヤードの看病してらっしゃったので?」
「ええと、そうです」
「真面目ですねえ。一晩くらいほっておいても死にはしませんよ。さあどれどれ」

 ロディオ神父は包帯をといて水で洗って軟膏を塗りこむと、また傷口を包帯で包んだ。レイは水の冷たさにうめいたがやはり起きない。

「前日より少し状態がよくなってますよ。いやあ、若いっていいですねえ。後は私が看ておきますからお二人も自由になさってくれて結構ですよ。私、午前中は暇なんで」

 ロディオ神父のお言葉に甘えてアルトリオとミリアは部屋を出た。

「じゃあ、時間もできたしミリアの法術練習につきあうよ」
「お願いします! ありがとうアルト」

 ミリアは昼頃までアルトと一緒に瞬間移動の練習を繰り返したが、やはりそう簡単にはできるようにならなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...