残念令嬢、家を追われて逃亡中〜謎の法術師様がなぜか守ってくれます

兎騎かなで

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22 バランセル村と非常識な神父

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 ミリアが教会の扉を叩こうとした時、アルトがこちらへ歩み寄ってきた。

「アルト! レイは大丈夫?」
「やあミリア。レイは奥の部屋で寝かせてて、神父が診てくれているよ。今のところ命に別状はないって」
「よかった……アルトも無茶しなかった?」
「無茶はしなかったけど、すごくお腹が空いてるんだよな。ミリア達もなにか食べる? 一緒に食事をしよう。キッチン自由に使っていいんだってさ」

 アルトに案内されて、ミリア達も教会の裏口へ回る。高い針葉樹に囲まれた森の端にある教会は、建物の裏手がすぐに木々に囲まれている。

「勝手に入って大丈夫なの?」
「ロディオ神父いわく、薬の調合中は集中しているから話しかけないでくださいってことだったよ。仲間が来るって言ったら勝手に寛いでほしいってことだった。終わったら声かけてくれるって」
「なかなか不用心だな」

 教会の奥側には生活用のスペースがあって、宿泊施設のようにベッドがある部屋や、少ないながらも本が収納されている部屋、そしてキッチンと食卓がある部屋もあった。

「こんな山奥にあるにしては、随分と設備が整っているんだな」
「謎だよね。まあ、だからこそ恩恵に預かれるわけだけど。よし、早速作ろう」

 アルトは亜空庫から大鍋を取りだし、たっぷり水を入れて火を起こす。そして大量の食材を取りだしはじめた。大玉の葉野菜が三つに、玉野菜が十個、卵が一ダースに大ぶりの干し肉が五枚……

「待て、お前どれだけ食べるつもりだ」
「全部かな。あ、もちろんフェル達の分もあるよ」
「全て鍋につっこむつもりか!?」
「大丈夫、入る入る。それに俺、スープしか作れないからね。全部スープにするつもり」
「そんなに大量にスープばっかり食えるか! 俺に貸せ!」
「別にフェルに大量に食べさせるわけじゃないけど、作ってくれるっていうなら任せるよ」

 フェルは大雑把なアルトに呆れながらも、手際よく食材を調理してくれた。スープにサラダ、野菜炒めとあっという間に三種類の料理を作ってくれて、ミリアは感激した。

「うわあ、美味しそう!」
「さあミリア嬢、召しあがれ。お前達も食べていいぞ」
「ありがとう、では遠慮なく」

 アルトは本当に遠慮なく食べた。いつもからは考えられないくらいの速度で皿を空にしてはおかわりする。同じくよく食べるラジェが霞むくらいにたくさん食べて、見ているだけでミリアが胸焼けしてきたころにようやく匙を置いた。

「ふう、満たされた」
「お前よくそれだけ食べられるな、腹が破裂するぞ」
「はは、気をつけるよ」

 アルトは満足そうにお腹をさすった。ミリアなら絶対に食べられない量だ。
 法術の使いすぎってこんなにお腹が空いちゃうんだ、使いすぎないように気をつけよう。

 食後のお茶を啜って一服しはじめた頃に、ガチャリと扉が開き来訪者があった。

「おや、お揃いですね。はじめまして、アルトリオ様のお連れの方。私はロディオです。この教会の神父を務めております」

 ロディオ神父は白い法衣を身に纏っていた。亜麻色の髪とペリドットの瞳の壮年の男性で、物腰柔らかな様子だ。

「こんにちは、ミリアといいます。場所を貸して頂いてありがとうございます。あの、レイの容態はどうですか?」

 レイのことが気になったミリアは、いち早くロディオに声をかけた。ロディオは細い目を更に細める。笑ったのかな?

「心配いりませんよ、最悪腕を切り落とす程度ですみます」
「それ大丈夫って言わないよね!?」

 びっくりしすぎて敬語が抜け落ちてしまうミリア。ロディオ神父は腕を振ってはははと笑った。

「冗談、冗談ですよ、間に受けないでくださいまったくもう。ちょっと場を和ませようとしただけですから」

 背後からクスッと笑い声が聞こえる。振り向くとラジェが咳払いしていた。ラジェ、笑った!? 今の面白い要素あったかな!?

「傷口もそこまで膿んでいませんし、化膿止めを塗っておいたので後は水でも飲ませて安静にして、消化のいいものを食べておけばいいでしょう。数日もすれば熱も下がるはずです」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
「ミリア様も楽にしてくださって結構ですよ。彼が寝ている間この建物も、私の部屋と調合室以外は使ってもらって構いません。ところで、いい匂いがしますが私の分はあるんですか?」

 アルトが取りわけておいた料理を神父に差しだすと、彼は目を細めて受けとった。

「いやあ、催促したみたいで悪いですね。自然の恵みに感謝を」
「神に感謝を、ではないんだね」

 アルトリオが指摘すると、ロディオは唇に人差し指を当てた。

「ここだけの話にしてほしいのですが、法術師であらせられるアルトリオ様にはお教えしましょう。この教会は表向き神を祭っていますが、本当のところ私は法誉ほうよ教を信仰しております。ほら」

 ロディオ神父は、法誉教会の象徴的なマークである、杖士架じょうじかの首飾りを服の下から取りだし、目の前に掲げた。

「この世に法術という素晴らしい術を授けてくださった、ゼシバル様に感謝を!」
「おい、そんなことを俺の前で堂々と宣言するな」

 フェルが苦い顔でロディオをたしなめる。

「おや、騎士服を着ていないからとんと気づきませんでしたが、そういえばあなた見覚えがありますね。五年ほど前に騎士団が村の内情を把握しに来た時にお会いしたような、しなかったような」

 撫然とした表情で腕を組んだフェルが自己紹介する。

「フェリックス・エルトポルダだ」
「フェリックス様でしたか。いやあ、これは参りましたね。滞在中に気合を入れて改宗してもらわなければ」
「改宗せんぞ!? 法術なんぞ胡散臭いものに誰が傾倒するか!」
「おやそうですか、ならば気合を入れて説法せねばなりませんね。いやあ、腕が鳴ります」
「だから、お前人の話を聞け!!」

 クスッとまた背後から笑い声が聞こえる。ミリアがパッと振り返ると、無表情のラジェがそこにいた。あれ? でもやっぱり、笑ったよね?

「まあ、説法は時間がかかりますのでね、後にするとして」
「聞かんぞ」

 ロディオはフェリックスを華麗にスルーして、ミリアに話しかけた。

「レイヤードと言いましたか、彼の様子を一度見ますか?」
「はい、お願いします!」
「では廊下の突き当たりの右の部屋へどうぞ。私はその間食事をして日課の祈りを捧げておりますのでね、夜は忙しいのですよ、ええ。どなたか適当に看病なさってください。明日また容態を見に参ります」

 ロディオ神父はレイの看病をミリア達に丸投げすると、いそいそとテーブルについて食事を摂りはじめた。
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