神様な俺、住み込み勇者に口説かれてます。

兎騎かなで

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6 お気に入りの施設

 四階は空室だった部屋をカリオスに一つ譲ったんだけど、あれはもしも新しい趣味に目覚めた時用に置いてあった予備の部屋だった。
 そう、四階は趣味を心いくまで楽しむための部屋が備わっている。

 まずは映画室。といっても、本当に映画が観れるわけじゃない。
 俺の記憶を取りだしてコピーした水晶玉をセットすることで、大スクリーン代わりの白い板に映しだす仕組みになっている。

 日本人だった時に覚えている映画の記憶や、家族友人なんかとのエピソードは保存できなかった。この世界で神様になってからの記憶ばかりだ。

「映画……これも録音再生魔法の一種ということですか?」
「見てみる?」

 俺は試しに無難そうな記憶が入った青い球をセットし、映像を流してみた。

 ……俺が村人の為に雨を降らしたやつだな、だいぶ初期の頃だ。蛇足情報だが全て俺視点なので、俺の顔は一片たりとも映っちゃいない。

「雨? 室内ですし、本当に降ってるわけではないんですよね?」

「そりゃそうさ、これは画面の中の過去の話だよ。録音はできても録画はまだ魔法じゃ再現できてないのか?」
「ないですね。各国の魔法理論学者が躍起になって開発を競っている分野です。まさかもう実現していたなんて」

 カリオスは球とスクリーンを交互に見つめて、信じられないといった表情で眉を上げている。ふふん、すごいじゃろ。

「映画もいいけど、もっと面白いものがあるんだ」

 俺はカリオスを連れて隣の部屋に移動した。中は薄暗く、足元に備えつけられた光が僅かに丸い空間を照らしている。

 円空間の後方寄りに用意した特大クッションにカリオスを座らせ、その隣に自分も寝転んだ。

「ツカサ? ここは一体なんなんですか」
「まあいいから、カリオスも寝転んでみな。もうはじまるぞ」

 カリオスはいぶかしげな顔をしながらも、俺の警戒心のない寝転びっぷりに習って、彼もごろんと寝転んだ。

 部屋中央後方にある装置を遠隔で起動させると、夜の星空が映しだされる。静かで壮大な雰囲気の音楽が流れはじめた。
 しばらくしてカリオスがポツリと尋ねてくる。

「これは?」
「プラネタリウムっていうんだ。いいだろ。本物の夜空を見ている気分になんない?」

 日本にいた時お気に入りだった施設だ。一人でふらっと寄って帰るくらいには好きだった。

 それでも日本の夜空は曖昧にしか覚えてないもんで、再現できたのはこの世界の夜空だ。銀河が緑色だったり紫の星があったりと、やけにカラフルだ。

 しばらく自身の作品の粗探しを兼ねて夜空をチェックしていると……といってももう何百回も見直してるから粗なんてなかった……隣から規則正しい呼吸音が聞こえてきた。

「え、カリオス? ひょっとして寝ちゃった? おーい」

 ペチペチと白皙の頬を軽く叩いてみるが、うーんと唸るばかりでまた寝息をたてはじめる。

「お前暗い空間にいると寝ちゃうタイプなのか……まあいいよ、俺一人でも楽しめるしー」

 若干スネながらまたごろんと横になり偽物の夜空を見上げる。いやー綺麗だよな。ゲームグラフィックと遜色ない出来に仕上がってると思うよ、我ながら。

 ゲームをやってた時には、期間限定クエストやら新装されたレイドボスがどうのこうのって忙しくしてて、こんなにゲーム内の夜空をゆっくり見上げることなんてなかったよなあ。

 こういうゆったりした時間をいくらでも楽しめるのは神様の特権かもしれない。なんせ老けない死なないってなると、時間は本当に腐るほどあるから。

 ま、それも飽きちゃったんだけどな。今日は連れがいるからちょっとは楽しめる気がする……寝てるけども。

 星空がひたすら実際の三十倍速で移動するだけのプログラムが終了し、朝日が昇るエフェクトを終えて会場が明るくなったところで、眠れる勇者様を起こす。

「おーい、終わったぞ」
「ハッ……寝ていましたか」
「うん、もうバッチリ」
「それは失礼しました……全く悪意も殺気も感じられない状況でしたので、睡眠を優先してしまったようです」

 カリオスはバッと腹筋の力で起き上がる。だがまだ眠そうに目を擦っていた。

「眠いなら部屋戻って寝れば?」
「いえ、一晩程度の徹夜で体がガタつくほど柔ではありませんので」
「おま、アレ書くのに徹夜したのか!?」

 どおりで超大作に仕上がってるはずだよ! ダメだぞカリオス、勇者は身体が資本だろー? 粗末に扱うんじゃありません!

「じゃあなおさら寝た方がいいって! ゴートゥーベッド!」
「ゴートベッド? よくわかりませんが、ベッドで一緒に寝てくれるって意味ですか?」
「いや全然違うから。隙あらば寝技に持ちこもうとすんな?」
「流石にベッドの上で格闘技を披露するつもりはないですよ。単に貴方に僕の腕前を披露しようとしているだけです」
「なんの腕前だって? いややっぱいい、聞きたかないわ」

 どーせ性技だとかエロのテクニックって答えが帰ってくるに決まってるし。
 カリオスは伸びをすると、自重するようにお綺麗な唇の端を歪めた。

「本当はあの日記を書いている途中で、貴方が求めている交換日記はこれではないのだろうと気づきはしたんですよ」
「なら気づいた時点でやめときゃいいのに」
「いえ、せっかくだからこの十年僕がどうやって生きてきたのか知ってほしくて」
「まあ、お前が何故にあそこまで魔法使いをディスるのかって理由は痛いほどわかったけどな」

 マジでドクズだったわ。一言でいうと虚栄心のために仲間を犠牲にするタイプ。そりゃあカリオスもキレるだろうよ。
 カリオスはその話題を掘りさげる気はないらしく、部屋の中を半ば呆れたような目で見渡した。

「この城の設備といい、現代では再現不可能な進んだ魔法技術といい……これを本当に貴方が一人で実現したのなら、貴方が神と自称するのはあながち間違いではないのかもしれません」
「だーかーらー俺は自称してるんじゃなくて本当に神様なんだよ。おわかり?」
「認めざるおえませんね……」
「なしてお前そんな悔しそうなの?」

 カリオスの考えることはよくわからん。
 俺が首を捻っていると、彼は唇を噛み締めながらも理由を口にした。

「貴方に飛ばされてからこの十年の間、剣と魔法の腕を磨くため必死に研鑽を積んできました。しかしそれでも貴方の足元にも及ばない」
「それは仕方ないんじゃね? なんせ俺は神様なわけだし」
「どうすれば貴方に近づけますか?」
「さあ……人間には無理なんじゃないかなあ」

 かつて去っていった仲間の顔が思い浮かぶ。どいつもこいつもいいやつだった。偉業を成し遂げたと賞賛されるようなやつも多かった。

 けれどそいつらは、俺と生きることを選んではくれなかった。
 いや、一時選んでくれたやつもいたが、最後には彼らは時に幸せな死を迎え、時に志し半ばで倒れていった。そして今、俺は一人ぼっちだ。

 俺は寂しそうな顔でもしていたのかもしれない。カリオスはおもむろに俺の手を握る。なぜだか目が真剣だ。

「それでも……今貴方の一番側にいるのは僕で間違いありませんよね」
「……そだね」

 お前もきっと俺の側から去っていくんだろう。そう思いながらも口には出さなかった。
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