神様な俺、住み込み勇者に口説かれてます。

兎騎かなで

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11 手合わせってどっちの?

 交換日記に手合わせしたいと三日連続で書かれた俺は、パタンと日記を閉じるとカリオスの元に飛んだ。

「なあカリオス! そんなに俺と手合わせしたいの!?」

 いつも通り早朝に、城の側の空き地で素振りをしていたカリオスは、空中に浮かぶ俺に向かって声を張り上げた。

「ええ、したいですね、ぜひ! 今日こそ手合わせしませんか」
「やだ!」

 俺は大人げなく言い返す。カリオスは飛行魔法を使えないので、俺が降りてこないのを歯痒そうに見ている。

 そりゃそうだわな、普通の人族には使えない魔法だ。ダークレイのような丈夫なドラゴン族くらいでないと体が耐えられないくらい、膨大な魔力を使う魔法だから。

「何故そう頑なに嫌がるんですか? というか降りてきてくださいよ」
「お前空も飛べないのに、そんな俺とお前が戦ったら弱いものイジメになるじゃん? それに俺、自分が痛いのも人が痛がってるのも苦手なんだよね」
「僕は痛いのも楽しめる人間なので問題ないですよ」
「あーあーあー聞こえない」

 こんな屋外で臆面もなく特殊性癖を暴露すんな? 前回は否定したけど、やっぱり俺がお前をそんな風にしちゃったのかと思って動揺するじゃん?

 カリオスはそんな俺の内心の葛藤など気にする素振りも見せず、自分の望みを口にする。

「ほら、手合わせしましょう? 最近対戦相手も強敵にも巡りあえずに溜まってるんです。ダークレイも貴方もとても強そうなのに、僕とは手合わせしてくれないじゃないですか。溜まりすぎてムラムラします」

 その言い方は誤解を招くからやめれ。

「嫌だってば。手合わせするくらいならお前とチューする方がマシ」

 ポロッと口から思いもよらない言葉が無意識に出た。カリオスの瞳が獲物を捕らえたかのようにキラリと光る。

「ではキスしましょうそうしましょうさあほら」

 そして巧みな魔力操作で俺の背後から突風をふかし、自分の発言に動揺していた俺の飛行バランスを見事に崩した。

「ちょ、うわ……!?」

 地面に激突する前に体勢を立て直したところで、ガッチリとカリオスに抱き抱えられる。気がついた時にはカリオスの端正な顔が目の前にあった。

「おまんぐっ……ふ、んぅんー!」

 文句を言おうと口を開いた瞬間に、すかさずカリオスの唇が俺の口を塞いだ。ヌルリと肉厚な舌が遠慮もなにもなく俺の口内に侵入する。

「ん、んっ」

 上顎の内側を舐められてぞくりと肌が粟立つ。不思議なほど気持ち悪くはない……むしろ、腰にクるものがある。
 抗議の意味を込めて軽く胸を押すが、カリオスはキスをやめない。ますます熱心に俺の口を吸った。

「う……ふっ、んっ!?」

 じん、と腰の奥の方に快感が響く。やばいこれ以上続けられたら元気になっちゃう! 俺は腰と肩に絡みつくカリオスの腕を力づくで振り解いて、口づけから逃れた。

「はあ、は……おま、自分で自信あるって言うだけあって、巧いな……」

 顔が赤くなっている自覚がある。カリオスはそんな俺を目を細めて観察すると、見せつけるようにして自身の濡れた唇をペロリと舐めた。壮絶な色気が目に痛い。

「惚れました?」
「っ惚れてない」
「じゃあ勃ちました?」
「だっ、調子乗んな!」

 勃ちかけたけど勃ってはいない! 念のため重力魔法で俺の股間を押さえつけながら (ちょっと痛かった)目にも止まらない程度の速さで、カリオスに掌底を叩きこんだ。

 彼は避けようとしたようだが間に合わず、少し体を引いたところに俺の拳がまともにヒットし、派手に吹っ飛んだ。

 やば、ムキになって力加減が雑になっちゃってたわ。

「ごめんカリオス、大丈夫か!?」

 カリオスは地面に寝転んだ態勢で腹に手を当てながらも、プルプルともう片方の手を上げてグッと親指を立てた。

「いい、拳ですね……」

 それだけ告げると、カリオスの手は力無く地に落ちた。

「カリオスー!」

 俺は急いでカリオスを城に運んだ。俺の部屋に飛ぶと彼の服のボタンを素早く外し、外傷をチェックする。拳が当たったところが赤紫色になってる……やっぱりやりすぎたようだ。

 うっかり鳩尾にパンチしちゃったしな。急所じゃん。こりゃいかん、うっかりで拳を叩きこんでいいとこじゃなかった。

 手を当てて内臓をチェックする。肺よーし、胃も大丈夫、心臓、動いてる。けれど肋骨を一本折ってしまったようだ。
 てへっ、俺ってばうっかりさん。なんていってる場合じゃないな、はよ治療しよう。

 治癒魔法を惜しみなくお見舞いしてやると、たちどころに折れた骨はくっついた。皮膚表面の損傷した組織にも魔力を注ぎこみ修復すると、カリオスの眉間の皺は緩やかに消え失せた。

「ふう……こんなもんか」

 俺は額の汗を拭いてベッドに突っ伏す。カリオスに武術の心得があってよかった、無防備に立ちっぱなしでいたら肺や心臓もやっちゃってたかもしれん。

 もしもカリオスがこんなに丈夫じゃなかったら……俺は自分の考えにブルリと身震いした。恥ずかしさを誤魔化すために人殺しましたなんてことになったら後味が悪すぎる。

 やっぱお前と手合わせは無理だよ、カリオス。お前が俺のうっかりで怪我をするかもしれないと思うと、気が気じゃないんだ。

 カリオスは俺の後悔も知らず、スースーと寝息をたてながら安らかに寝こけている。
 カリオスの側にしゃがみこみ、寝顔を見つめた。

「あーあ。見事に懐に入りこまれちゃってるなー……」

 だんだんカリオスに絆されているのをあらためて実感した。まだ恋とかそんなんじゃないけど、確実に俺の大切な人間の一人になってる。
 今死なれたら、俺の心に大ダメージを与えること必須だ。

「……今のうちに自動修復魔法かけとくか。それと防護壁、魔法反射、呪い無効、状態異常無効化、回復促進に体力増強……」

 俺は思いつく限りの守護をカリオスに施した。これでもし魔王が復活してカリオスの寝首をかこうとしても、まずできないだろう。
 また俺がうっかり全力でパンチしちゃっても、アザができるくらいですむ。

 俺は立ち上がりカリオスの寝顔を見下ろした。ちくちくと罪悪感で胸が痛む。どうすっかなー……自然に起きるまで俺の部屋に寝かせておいて、心を落ち着かせるために書庫にでもこもるか。

 昼過ぎまで黙々とお気に入りの小説を読んでいると、ふとカリオスが目覚めた気配を感じた。
 どうする? 会いに行くか? ちょっと気まずいけど……

 俺は迷った末に、自室まで歩いていくことにした。時間をかけて歩けば、着く頃には少しは罪悪感で痛む心も落ち着くだろうと期待しながら。
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