神様な俺、住み込み勇者に口説かれてます。

兎騎かなで

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27 混乱している時に大事なことを決めると失敗しがち

 寝耳に水な話に呆然としているところに、トントンとノックの音が響く。俺はびくりと肩を揺らして、慌てて呼び石の通話をキャンセルした。

「お茶をお持ちしました」

 俺の心臓がズンドコ鳴っていても気にもとめない無表情メイド、ナタリーがお茶を配りにきてくれた。

「あ、ありがとう」
「お礼を言われるほどのことではございません。カリオス様から貴方様をもてなすように言付けられていますので、どうかご自宅にいるようにごゆるりとおくつろぎくださいませ」

 いやー、それってほんとにいいのかな。だってカリオスは姫様の婚約者になったわけだろ? 俺の存在って邪魔じゃん?

 どうしよう、城に帰ろうかな……勝手に帰ったらカリオスは怒るだろうな。姫様との婚約も彼の本意でもなさそうだし……でももう婚約者に正式に決まっているわけだから、カリオスが嫌がってもどうにかなる問題でもないよね?

 俺がお茶を見つめたまま静かに思い悩んでいると、ナタリーが冷静な声音で話しかけてきた。

「差し出がましいことと思われるかもしれませんが、ひとつよろしいでしょうか?」
「え、なに?」
「私共はカリオス様、ならびにツカサ様の味方です。カリオス様を信じて待ちましょう。心配なさらないでください。誠心誠意をもって、貴方様をもてなします」

 おっと、どうやらナタリーさんは俺が今聞いた驚きの事実を、既に知っていたらしい。

「先程の使者がもったいつけながら、当主宛の手紙の写しを屋敷を統括する執事に渡していきました。姫殿下との婚約成立をカリオス様に直接告げることなく、屋敷の者にツカサ様を追いだすように仕向けるやり方は悪辣ですね」

 それがわかった上で俺の存在を受け入れてくれてるのか、この屋敷の人達は。これカリオスの親父様にバレたら、彼らの立場がまずくなるやつじゃん。

「いやー、すごいな姫様は。昨日の今日で俺のことまで調べあげたのか。つまり俺がここにいると君達には迷惑かけちゃうってことだよな。ナタリーさん達の気持ちはありがたいけど、おいとました方がいいよな?」
「決してそんなことはございません。あの方の笑顔を見て、私は驚きました。カリオス様があんなに楽しそうに笑われるのを見たのは、依頼遂行中の事故で魔大陸に飛ばされる以前です」

 あ、俺が飛ばした件はギルド的には事故扱いとして処理されたのね。転移はドラゴンや魔王、魔族しか行えない魔法だから、人族にとっては災害に巻き込まれた的な考え方なのか。

「十年ぶりに帰還されたカリオス様はとても荒んでおられて……それを変えたのは貴方です。ですから、どうかここに留まっていただければと願っております」

 ナタリーさんは力強くそう言いきる。いやいや、カリオスを荒ませた元の原因は俺じゃんよ……自暴自棄になってると人のことまで配慮できないよね、今はすまんかったって本気で思ってるよ。

 チクリと胸が痛むが、それを誤魔化すように愛想笑いをする。口の端が少しひきつっただけに見えたかもしれないが。

「うん……ありがとうね。ナタリーさんはカリオスの子ども時代を知ってるんだ?」

 マジマジとナタリーの顔をまじまじと見直すと、目尻に少し皺があった。若いメイドさんだと思っていたけれど、意外と年嵩だったらしい。

 俺が幼い頃のカリオスの話をせがむと、カリオス少年の冒険譚や、彼が小さい頃から人助けが好きで、年下の弟妹やペットとよく遊んであげていたエピソードなんかを聞かせてくれた。

「へえ、じゃあカリオスんとこの兄弟って仲がいいんだな」
「ええ、伯爵様は仕事で家に帰らず、奥方様も社交で忙しく、年の離れたお兄様二人は既に学園生でしたので……年下の兄弟と仲良く力をあわせて暮らしていらっしゃいました。妹シャーリー様、弟のアレックス様も、魔大陸から帰っていらした後もカリオス様を慕い歓迎しておりました」
「そうなんだ」
「冒険者になった動機も、ご本人は実戦経験のためなどとおっしゃっていましたが、本心では困っている人を助けるためにやったことだと思います。危険度が高いのに報酬が少ない依頼や、誰も受ける人がいない塩漬け依頼を率先してこなされていましたから」

 カリオス少年、本当に正義感の塊みたいなヤツだったのね。そしてそんないい子を俺は魔大陸に飛ばして、彼を口の悪い変態へと変えてしまったわけだ……罪悪感で胸がじくじくと痛む。

「どうされましたか? ご気分が優れませんか?」

 ナタリーは優秀なメイドなのだろう、俺の変化にいち早く気づいた。なんでもない風を装い、下手くそな笑顔を顔に貼りつける。

「ちょっと疲れたのかも、少し休むよ」
「体調が悪いのに長話につきあわせてしまい申し訳ありません。薬湯などお持ちしましょうか?」
「ナタリーさんは悪くないから。大丈夫、少し休めば治るし」

 恐縮するナタリーを大丈夫と言いくるめて部屋から退出させると、ソファーの背もたれに深々と背中を沈みこませる。

「あー……」

 ずるずるとほとんど寝転ぶような形で、ソファーの座面にだらしなくもたれかかった。罪悪感と衝撃といたたまれなさで、頭の中がごっちゃになってる。

 今はカリオスへの罪悪感でへこたれてる場合じゃない。姫様とカリオスの婚約について考えないと。
 ……でもこれ、どう考えても俺が邪魔者じゃね? 

 プラン一として、例えば俺が姫様の婚約を無視して、カリオスを城に連れ帰ったとしよう。そしたらカリオスはもう王国に大手を振って顔を出せないじゃん?

 親父さんには会いたくなさそうだったが、仲のいい弟妹に会わせてあげられなくなるのは忍びない。

 プラン二。俺がこの屋敷に残ったとする。カリオスは姫様の婚約者になったわけだから、いずれ姫と結婚して、そしたら俺はお妾さん?
 いやいや無理だから。そんなの耐えられないから。姫様だって俺を追いだそうとするだろう。

 プラン三。王族に神様として俺の存在を認めさせて、カリオスを生贄的な存在として献上せよと言ってみる?

 ……いや、結局それプラン一と変わりないじゃんね。姫様との婚約はなくなるかもしらんけど、カリオスは王国に自由に戻れない。彼に生まれた国を捨てさせることになる。それは俺としてはしたくない。

「どう考えても俺がいなくなるのが、一番上手くいくよなー……」

 呼び石を見つめながら考える。やがて頷いた俺は、呼び石を雑にポケットに押しこむと、部屋から姿を消した。
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