16 / 37
第二章
1話
しおりを挟む婚約してから早半月が経った。季節は夏に向かっているが、まだまだ過ごしやすい日が続いている。
というか、この国は日本の夏みたいにジメジメしないみたいだ。カラッとして過ごしやすいらしい。ユールの記憶の中ではそうだった。
むしろユールは冬の寒さの方が苦手そうだったな。今年は筋肉をしっかりつけて寒い冬を乗り越えたいところだ。
そうそう、そのためにも今日はザスの友達に会いにいくんだ。
俺は動きやすい服に着替えて颯爽と廊下を歩く。最近はちょっと早歩きしても息がきれなくなってきたんだよな。うん、俺は俺なりに成長してる。
訓練場には長身のザガリアスと、小柄で赤茶の髪のヤツが待っていた。
「ユール! よく来たな。紹介しよう、こいつはレオだ」
「はじめまして第四王子殿下! 俺はレオ、しがない男爵家の次男っス! 今日はよろしくお願いしますっ」
レオと呼ばれた赤茶の髪に同色の瞳の彼は、元気よく俺に挨拶してくれた。ザ、体育会系って感じのノリだな。
俺も王子スマイルを装備してレオに返事をする。
「よろしく、僕のことは気軽にユールと呼んでくれ。見ての通りあまり体力はないんだが、今後鍛えたいと思っているんだ」
「うっす! ユール様、一緒にがんばりましょう」
レオはニカっと俺に笑いかけた。すごい陽キャ臭がする。
「レオは小柄な体に見合わずなかなか戦闘力がある。俺も一本とられたことがあるほどだ!」
レオは照れをごまかすように頭を掻いた。
「あの時は初見だったっスからね。運良く一本とれたけど……やっぱザガリアス先輩は強いから、またいい手を考えないとなあ」
「ハハッ、末恐ろしいヤツだ! どうだ? 今から手合わせするか!?」
「いやいや、今回はユール様の指導に来たんじゃなかったっスか?」
「ああ、そうだったな!」
そうだよ、目的忘れてんなよザス。ハッハッハーって豪快に笑ってる場合じゃねえぞ?
レオの体格は俺より少し筋肉質かなってくらいで、背はそこまで変わらなかった。きっと年下なんだろうな……俺は同世代のヤツらに比べてかなり背が低い方だし。
「ユール様もやっぱ剣術習ってんスか?」
「ああ、嗜みの為に最低限といったところだけどね」
本当はもっと本格的に習えればよかったんだけどな……ユールのへっぽこさを舐めちゃいけない。基本の型通りに動くのだけでもヒイコラいってる有様だ。
「ふむふむ、俺は槍主体なんスよ。ほら俺らみたいに身長低いと、上から斬りかかられてせめぎ合いになると正直キツいんで。間合いに入りこませないことがまず大事的な」
「へえ、そうなんだ」
「レオ、ユールが実際に打ちあうような場面はそうない。そういった実践的なテクニックよりは、体作りのコツなどを伝授する方が喜ばれると思うぞ!」
いやまあ、ザスの言う通りだけどさ? 別にこういう話も興味はあるんだけどな。
「実践的な話も面白そうだとは思うけれど、まずは基礎的な体力をつけるべきだと自覚はしているよ……」
そう、せっかく技を身につけたところで反応できないし、剣だって軽ーく弾き飛ばされることだろう。まずは体づくりをしないことには、どうにもならないんだなこれが。
レオはほうほうと頷くと俺の隣に並んだ。
「では俺を手本にしつつ筋トレしましょう! 小さい俺らはドーンと構えるより、ちょこまか動けた方がいいんで足の筋肉を中心に鍛えるっスよ。ユール様、疲れたら遠慮なく休憩入れてください」
レオは至極真面目に丁寧に指導してくれた。こいついいヤツだな、ちゃんと俺のゆっくりペースに根気強くあわせてくれてる。
けれど俺の体は早々に悲鳴を上げ、彼の想定した半分の量もこなせなかった。
「はあ、はあ……もう、限界だ……」
「お疲れ様っス! 休憩にしましょう」
「ユール、頑張ったな! 前回よりも体力がついているように思うぞ!」
レオは余裕といった表情だった。くっ、情けねえ……
俺が脇のベンチで座りこんでいる間、ザスとレオは手合わせをしていた。ザスがなかなかやると言っていた通り、レオの動きは素早くザスも攻撃を当てられずに翻弄されているようだった。
しかしレオの方もザスに攻撃を当てようとしても、ことごとくいなされてしまう。なかなか決着がつかなかったが、最後には動きまくって息の上がってきたレオの動きが鈍くなり、ザスの剣の切っ先がレオの首元に突きつけられた。
「あー、降参っス!」
「ハハハッ! また早くなったんじゃないか!?」
「いくら早く動けても攻撃を当てられないんじゃ意味ないっス!」
レオは悔しそうに槍の柄を地面にドカッと突き立てた。こいつ力もありそうだな。
「さて、ユール様どうします? 筋トレの続きするっスか?」
「いや、今日はやめておくよ」
もう現時点で明日筋肉痛になるのが確定している気がする。足がギシギシいってるしこれ以上はヤバい。
「それにしてもレオはかなり槍の扱いに慣れているんだな。小さい時から習っていたのかな?」
「そうっスよ。ウチはほら、弱小貴族っスから平民ともフツーに交流があるんスけど、町外れにめっちゃすげー槍の名手が住んでたんっス。そのじっちゃんから習いました」
へえ、平民と交流があるのか。いいな、俺も町に出かけたことはあっても、まだ町の人とはろくに会話をしたことがないんだよな。
やっぱ王族として平民の日々の暮らし程度は知っておくべきじゃね? ほら、俺もガレルと結婚したらちょっとは内政に携わるかもしれないじゃん? 知らんけど。
「槍の名手か、いいね。僕も会いたいな」
「ユール様がっスか? すいません、じっちゃんはもう亡くなってるんスよ……」
レオがしょんぼりと落ちこんでいるので、俺は慌てて手を振って否定した。
「いや、別にどうしても彼に会いたいというわけじゃない。ただ王族の一員として市井の者の暮らしに興味があっただけなんだ」
「いい心掛けだなユール! どうだレオ、今度俺と共にユールを町に連れていって、いろいろ町のことを教えてやってくれないか!?」
ザスがナイスな提案をしてくれた。それいいな! 世間知らずなユール様のための城下町観光ツアー、ぜひ開催してほしい。
レオはあたふたとザスと俺を見比べていた。
「お、俺がっスか!? もっと他に適任者がいるんじゃ」
「俺の同僚の中で一番平民と交流があるのはお前だ、レオ! 心配するな、俺もついていくぞ!!」
「僕からもお願いするよ。レオに町を案内してもらったら、いつもと違う経験ができそうだ」
なんせ俺が町に行ってすることといえば、市場で買い物が関の山だからな。
みーんな俺の背後の護衛にビビってろくに話も成立しないし、まともに町の人と話をしたかったらレオを連れていくのが一番よさそうだ。
レオはしばらく唸りながら悩んでいたが、やがて決意をしたように顔を上げた。
「わかりました。行きましょう!」
「流石レオ、それでこそ漢だ!!」
ザスが暑苦しく肩を組んでレオを褒め称えている。レオは満更でもなさそうに頬を緩めた。
しかしハッと何かに気づいたみたいで、レオは顔色を変えた。
「あのユール様、第三王子殿下にはユール様から許可を通してくれるってことで大丈夫なんスよね?」
「ああ、ガレルにはどこかに出かけるときは必ず報告してから行ってるよ。今回もそうするつもりだ」
そうしないと後から何故言わなかったってうるせーからな。アイツが嫉妬深いのは知ってるからなるべく言うようにはしてるけど、たまにポロッと言うのを忘れてお仕置きされたりしている……
不意にこの前のお仕置き内容を思いだす。ちんこを口に咥えて刺激されてるのに、指で堰き止められてなかなかイケなかったんだよな。
その間も尻穴を容赦なく刺激してくるしさ……アレは気持ちよかったけど辛かった……
ポッと頬を染めた俺の様子には気づかず、レオは俺に念を押した。
「絶対前もって言っておいてくださいよ。俺、ガレル殿下に睨まれるのは嫌っス……」
「ハッハッハ、ガレル様は嫉妬深いからな!!」
なんだそれ、アイツの嫉妬深さは騎士団内では周知の事実なのか? いや、むしろ貴族中に知れ渡っている気もしてきたぞ……恥ずかし……
その後も頬の火照りはなかなか治まらず、心配したザスとレオに部屋まで送り届けられることとなった。
50
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる