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友達がほしいな
忙しい両親とも、最近病気がちで気軽に遊びにいけなくなってしまった祖父母ともろくに話をしていなかったから、こんなに話をするのは久しぶりだ。
「そっか、シャキシャキで細長くて白い野菜かあ……見たことないなあ」
「豆を暗闇の中で育てないと、できない野菜だから、ですかね」
「えっ、どうして野菜を暗いところで育てるの?」
「そうすると、食べやすくなるからでしょうか……?」
「面白いね、シズキは柔らかい野菜が好きなんだ」
「そう……ですかね。そうかもしれないです」
話をしている最中にも尻尾が振られたり、ピンと立ったりと忙しない。尻尾の動きに気を取られていると、怖がりすぎずに会話を続けることができた。
(話も通じるしフレンドリーだし、もしかしたら友達になってくれるかな……?)
そっと顔を見上げた拍子に、開いた口の間から鋭利な牙が見えた。
(いや、やっぱり無理)
急いで顔を逸らして、柔らかな口調に反して男らしい声と揺れる尾に意識を集中させた。恐ろしい牙を持つ虎と、友達になれるはずがない。
タオはその後も静樹がどのように暮らしていたのか、どんな場所が落ち着くのかなどを問いかけてくる。
静樹はその度に自室の本棚や誰もいない居間、市立図書館の自習机などを頭に思い浮かべながら、訥々と答えた。
流石に恋人はいたのかという問いには閉口してしまった。何も答えられずに気まずげに目を逸らして、静かに首を横に振る。
(友達すらいないのに、恋人なんているわけない)
純文学の本やドラマの中で恋人同士の登場人物を見るたびに、仄かな憧れの気持ちを抱くことはあった。
けれど現実では、かわいいなと思った女子に積極的に近づこうとした試しはない。
友達すらいない自分に恋人ができるなんて、想像すらしたことがない。この話題は苦手だからやめてくれないかなとひたすら顔を背けていると、タオは尻尾をしょんぼりと下ろした。
「ごめん、立ち入ったことを聞きすぎたよね? どうしても気になっちゃって」
「……いいよ、別に」
「でも声が沈んでるし、話し疲れちゃったかな? 質問攻めにしてごめんね、ゆっくり休んでて」
タオは木の器を抱えて、のしのしと歩いて部屋を出ていった。扉が閉まると同時に一気に緊張から解放されて、静樹は寝台の上に倒れ込んだ。
(はあっ、怖かった……!)
まだ心臓の鼓動が騒がしい。話の最中でも急に獰猛な肉食獣と化して襲われるのではないかと、気が気ではなかった。
実際には何も起こらなかった上に、随分と友好的に接してくれた。おかげで話すのが得意ではない静樹も会話を続けることができた。
(悪い獣人じゃないんだろうな)
虎なのに、まるで犬みたいに人懐っこい性格をしている。犬も怖いけれどまだ躾ができるから、猫よりは苦手ではない。
巨大な大型犬だと思えばなんとか、一緒に暮らしていけるかもしれない……?
静樹の人差し指の半分程度の長さがある牙を思い出し、勢いよく首を横に振った。
(アレに噛まれたらもれなく死ねる)
今は友好的に思えても、いつ牙を剥くかわからないじゃないか。だって虎だし。
静樹は扉まで歩み寄り、鍵がないことに落胆して寝台の中に戻った。気が休まらない……
「あ、そうだシズキ」
「はっはいいぃ⁉︎」
突然扉が開いてタオが語りかけてきた。心臓に悪い。
「君の着替えを用意したから、置いておくね。ちょっと……だいぶ大きいと思うから、今度裾上げしよう」
タオが広げた上着は彼自身の物らしく、横にも縦にも大きい。牙もない上に筋肉も背丈も負けていることをありありと自覚して、絶対に怒らせないようにしようと胸に誓った。
「水浴びしたくなったらいつでもタライを貸すから言ってね。なんなら今から浴びる?」
「い……いらない、です」
遠慮すると、虎獣人はくんと鼻を動かした後、手を振って去っていった。
「……臭うかな」
昨日の朝シャワーを浴びて、それきりだ。緊張で変な汗をかいた気もする。明日はがんばって水浴びしたいと言ってみよう。
(シャワーじゃなくてタライなんだ)
タライで水浴びなんてしたことがない静樹は、子ども用プールを思い浮かべた。涼しげな気候だし、風邪を引かないようにしないと。
(はあ、帰りたい……)
静樹にとって実家は温かみのある場所ではないが、それでも静かに本を読む時間は安らぎを感じた。
せめて本の一冊でも置いていないかなと部屋中を見渡しても、棚の中にはタオルらしき布や木のカゴが置かれているだけだった。
諦めて寝台に入って、お腹を守るようにして背を丸めた。
「そっか、シャキシャキで細長くて白い野菜かあ……見たことないなあ」
「豆を暗闇の中で育てないと、できない野菜だから、ですかね」
「えっ、どうして野菜を暗いところで育てるの?」
「そうすると、食べやすくなるからでしょうか……?」
「面白いね、シズキは柔らかい野菜が好きなんだ」
「そう……ですかね。そうかもしれないです」
話をしている最中にも尻尾が振られたり、ピンと立ったりと忙しない。尻尾の動きに気を取られていると、怖がりすぎずに会話を続けることができた。
(話も通じるしフレンドリーだし、もしかしたら友達になってくれるかな……?)
そっと顔を見上げた拍子に、開いた口の間から鋭利な牙が見えた。
(いや、やっぱり無理)
急いで顔を逸らして、柔らかな口調に反して男らしい声と揺れる尾に意識を集中させた。恐ろしい牙を持つ虎と、友達になれるはずがない。
タオはその後も静樹がどのように暮らしていたのか、どんな場所が落ち着くのかなどを問いかけてくる。
静樹はその度に自室の本棚や誰もいない居間、市立図書館の自習机などを頭に思い浮かべながら、訥々と答えた。
流石に恋人はいたのかという問いには閉口してしまった。何も答えられずに気まずげに目を逸らして、静かに首を横に振る。
(友達すらいないのに、恋人なんているわけない)
純文学の本やドラマの中で恋人同士の登場人物を見るたびに、仄かな憧れの気持ちを抱くことはあった。
けれど現実では、かわいいなと思った女子に積極的に近づこうとした試しはない。
友達すらいない自分に恋人ができるなんて、想像すらしたことがない。この話題は苦手だからやめてくれないかなとひたすら顔を背けていると、タオは尻尾をしょんぼりと下ろした。
「ごめん、立ち入ったことを聞きすぎたよね? どうしても気になっちゃって」
「……いいよ、別に」
「でも声が沈んでるし、話し疲れちゃったかな? 質問攻めにしてごめんね、ゆっくり休んでて」
タオは木の器を抱えて、のしのしと歩いて部屋を出ていった。扉が閉まると同時に一気に緊張から解放されて、静樹は寝台の上に倒れ込んだ。
(はあっ、怖かった……!)
まだ心臓の鼓動が騒がしい。話の最中でも急に獰猛な肉食獣と化して襲われるのではないかと、気が気ではなかった。
実際には何も起こらなかった上に、随分と友好的に接してくれた。おかげで話すのが得意ではない静樹も会話を続けることができた。
(悪い獣人じゃないんだろうな)
虎なのに、まるで犬みたいに人懐っこい性格をしている。犬も怖いけれどまだ躾ができるから、猫よりは苦手ではない。
巨大な大型犬だと思えばなんとか、一緒に暮らしていけるかもしれない……?
静樹の人差し指の半分程度の長さがある牙を思い出し、勢いよく首を横に振った。
(アレに噛まれたらもれなく死ねる)
今は友好的に思えても、いつ牙を剥くかわからないじゃないか。だって虎だし。
静樹は扉まで歩み寄り、鍵がないことに落胆して寝台の中に戻った。気が休まらない……
「あ、そうだシズキ」
「はっはいいぃ⁉︎」
突然扉が開いてタオが語りかけてきた。心臓に悪い。
「君の着替えを用意したから、置いておくね。ちょっと……だいぶ大きいと思うから、今度裾上げしよう」
タオが広げた上着は彼自身の物らしく、横にも縦にも大きい。牙もない上に筋肉も背丈も負けていることをありありと自覚して、絶対に怒らせないようにしようと胸に誓った。
「水浴びしたくなったらいつでもタライを貸すから言ってね。なんなら今から浴びる?」
「い……いらない、です」
遠慮すると、虎獣人はくんと鼻を動かした後、手を振って去っていった。
「……臭うかな」
昨日の朝シャワーを浴びて、それきりだ。緊張で変な汗をかいた気もする。明日はがんばって水浴びしたいと言ってみよう。
(シャワーじゃなくてタライなんだ)
タライで水浴びなんてしたことがない静樹は、子ども用プールを思い浮かべた。涼しげな気候だし、風邪を引かないようにしないと。
(はあ、帰りたい……)
静樹にとって実家は温かみのある場所ではないが、それでも静かに本を読む時間は安らぎを感じた。
せめて本の一冊でも置いていないかなと部屋中を見渡しても、棚の中にはタオルらしき布や木のカゴが置かれているだけだった。
諦めて寝台に入って、お腹を守るようにして背を丸めた。
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