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タオ兄さん?
「一匹だけとれたけど、あとは全部逃げちゃったみたいだ」
肩を落とす彼になんと声をかければいいものか迷う。励ましたくて、つっかえながらも言葉を発した。
「……一匹だけでも、すごいです。僕なら一匹だってとれない、から」
「そうかな? シズキがお腹いっぱいになるくらいに、食べさせてあげたかったんだけど」
「僕、食が細いので……一匹でも十分すぎるくらいに、多いです」
「本当に? だってシズキはまだ子どもなんだよね? だったらたくさん食べないと」
「子どもじゃないです……もう二十歳になりました、大人ですよ」
タオは海色の瞳を思いきり見開く。
「えっ! 俺と二歳しか違わないの⁉︎」
「タオは、何歳なんですか」
「俺は二十二歳だよ。なーんだ、俺達そんなに年齢が違わないんだね」
親しみのこもった声に、静樹は励まされて視線を上げた。顔はやはり虎だし獰猛な牙も口の端からのぞいているが、種族が違えど人と同じような感覚で生きているのであれば、仲良くなれるかもしれない。
「二歳だけ……タオ兄さん?」
「にっ、兄さんはやめて?」
タオの声がひっくり返った。変なことを言ってしまったと後悔する。図々しいやつだと思われたかもしれない。
「すっすみません。調子に乗りました」
「あ、嫌とかじゃなくってね……なんて言えばいいのかな」
タオはブルブルと犬が水滴を弾くみたいに、身体から水分を飛ばした後に静樹の方へ近づいてきた。
反射的に慄いて後退りしそうになったが、すぐ後ろにある石に引っかかって退がれなかった。内心怯えながらもその場に踏みとどまる。
頭の上に手のひらが迫ってきて、ぎゅっと目を閉じた。肉球で優しく髪を撫でられる感触がする。
「シズキが可愛すぎて、思いきり抱きしめたくなっちゃうからさ。お願いだから兄さんはやめておいて?」
「わ、わかりました」
静樹の首より太い腕に抱き締められて、鯖折りにされてしまう悪夢が頭の中に浮かんだ。縁起でもないと首を横に振って打ち消す。
「でもそのくらい仲良くしてくれるのは大歓迎だよ! 口調も気楽に崩して、自分の家にいるような気分で寛いでくれていいからね」
そんな風に振る舞える日が来るかどうかもわからない。けれどせっかくの好意を無下にするのもためらわれて、結局は遠慮がちに頷いた。
タオも満足そうに頷くと、思い出したように声を上げた。
「あ! しまったな。タライも持ってくればよかった」
「タライ?」
「シズキ、そろそろ水浴びをしたいんじゃない?」
そういえば、もう三日近くお風呂に入っていない。指摘されると頭が痒くなってきた。
「そうですね……水浴び、したいです」
「だよねえ……ここでしていく? うーん、でもなあ」
タオは澄んだ水を見つめて、顎に手を当てた。静樹もつられて水面をのぞきこむ。
指先を浸してみると、想像したほどには冷たくなかった。これなら直接水に入っても問題なさそうだ。
服を脱ぎはじめると、タオが焦ったように手を振った。
「シ、シズキ! 今水浴びをするつもり?」
「あ、駄目、ですか?」
「駄目じゃないけど、駄目じゃないんだけれど……」
なにやら葛藤している様子だが、一度気になると痒さがおさまらなくなってきた。身綺麗にできる機会があるのなら活用したい。
それにこの後帰ってからもう一度、川に寄る元気はない。特に問題がないのであれば身体を洗ってしまいたかった。
「駄目じゃないのなら……身体を綺麗にしても、いいですか」
「あー、うん……」
気もそぞろな様子だったものの許可をもらえた。タオの気が変わらないうちに、上も下も脱いで足を水につける。
肩を落とす彼になんと声をかければいいものか迷う。励ましたくて、つっかえながらも言葉を発した。
「……一匹だけでも、すごいです。僕なら一匹だってとれない、から」
「そうかな? シズキがお腹いっぱいになるくらいに、食べさせてあげたかったんだけど」
「僕、食が細いので……一匹でも十分すぎるくらいに、多いです」
「本当に? だってシズキはまだ子どもなんだよね? だったらたくさん食べないと」
「子どもじゃないです……もう二十歳になりました、大人ですよ」
タオは海色の瞳を思いきり見開く。
「えっ! 俺と二歳しか違わないの⁉︎」
「タオは、何歳なんですか」
「俺は二十二歳だよ。なーんだ、俺達そんなに年齢が違わないんだね」
親しみのこもった声に、静樹は励まされて視線を上げた。顔はやはり虎だし獰猛な牙も口の端からのぞいているが、種族が違えど人と同じような感覚で生きているのであれば、仲良くなれるかもしれない。
「二歳だけ……タオ兄さん?」
「にっ、兄さんはやめて?」
タオの声がひっくり返った。変なことを言ってしまったと後悔する。図々しいやつだと思われたかもしれない。
「すっすみません。調子に乗りました」
「あ、嫌とかじゃなくってね……なんて言えばいいのかな」
タオはブルブルと犬が水滴を弾くみたいに、身体から水分を飛ばした後に静樹の方へ近づいてきた。
反射的に慄いて後退りしそうになったが、すぐ後ろにある石に引っかかって退がれなかった。内心怯えながらもその場に踏みとどまる。
頭の上に手のひらが迫ってきて、ぎゅっと目を閉じた。肉球で優しく髪を撫でられる感触がする。
「シズキが可愛すぎて、思いきり抱きしめたくなっちゃうからさ。お願いだから兄さんはやめておいて?」
「わ、わかりました」
静樹の首より太い腕に抱き締められて、鯖折りにされてしまう悪夢が頭の中に浮かんだ。縁起でもないと首を横に振って打ち消す。
「でもそのくらい仲良くしてくれるのは大歓迎だよ! 口調も気楽に崩して、自分の家にいるような気分で寛いでくれていいからね」
そんな風に振る舞える日が来るかどうかもわからない。けれどせっかくの好意を無下にするのもためらわれて、結局は遠慮がちに頷いた。
タオも満足そうに頷くと、思い出したように声を上げた。
「あ! しまったな。タライも持ってくればよかった」
「タライ?」
「シズキ、そろそろ水浴びをしたいんじゃない?」
そういえば、もう三日近くお風呂に入っていない。指摘されると頭が痒くなってきた。
「そうですね……水浴び、したいです」
「だよねえ……ここでしていく? うーん、でもなあ」
タオは澄んだ水を見つめて、顎に手を当てた。静樹もつられて水面をのぞきこむ。
指先を浸してみると、想像したほどには冷たくなかった。これなら直接水に入っても問題なさそうだ。
服を脱ぎはじめると、タオが焦ったように手を振った。
「シ、シズキ! 今水浴びをするつもり?」
「あ、駄目、ですか?」
「駄目じゃないけど、駄目じゃないんだけれど……」
なにやら葛藤している様子だが、一度気になると痒さがおさまらなくなってきた。身綺麗にできる機会があるのなら活用したい。
それにこの後帰ってからもう一度、川に寄る元気はない。特に問題がないのであれば身体を洗ってしまいたかった。
「駄目じゃないのなら……身体を綺麗にしても、いいですか」
「あー、うん……」
気もそぞろな様子だったものの許可をもらえた。タオの気が変わらないうちに、上も下も脱いで足を水につける。
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