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魚も捌けないなんて
家に帰ると早速料理をするため、かまどに火を起こしている虎獣人に、手伝いを申し出る。
「あの……て、手伝います」
「え? ああ、いいよいいよー、皮膚が薄そうだし、火傷したら大変だから座ってて」
毛皮の方が燃え移りそうで見ていてハラハラしたけれど、タオは手慣れた様子で次々に薪をかまどに放り込み、あっという間に火を起こしてしまった。
「魚とか捌くの久しぶりだなー」
「あ、よかったら、僕が……」
魚料理なんてしたことないが、教えてくれればできるかもしれないと小声で声をかけてみたが、既にタオは鱗を剥ぎとり処理を始めていた。
「え、何か言った?」
「……いえ、なんでもないです」
魚の血が流れている様子を見て、青ざめながら首を横に振る。
(情けない……せめて、手順を見ながら覚えておこう……)
そう決意したものの、ビチビチ跳ねる様子とスプラッタな光景に、どんどん気分が悪くなってきた。気づいたタオに椅子に座って休むように指示される。
「どうしたの? 顔色がすごく青い! とにかく座ってよ、寝台で休んだ方がいいんじゃない?」
「い、いえ……そこまでは……」
「本当に?」
彼は調理の手を止めて身綺麗にした手で、静樹の頬に触れてくる。身を竦めたものの、なんとかその場で逃げずに座っていられた。
「うわ、すべすべだ」
「……っ」
肉球のついた柔らかい手で、ふにふにと遠慮なく頬を触られる。彼は夢中になって静樹の鼻や額、頬の輪郭にも指先を滑らせた。
「すごいねえ、人間はすごく触り心地がいいって聞いてたけど、想像していた以上だ」
指先からいつ爪が出てくるかと気が気ではない静樹は、身を固くして解放されるのを待った。
気が遠くなるほどの時間をかけて顔中を撫でられ、興味深そうに耳を触られる。
「折れそうに細い首だね」
不穏な感想を告げて、彼は調理へ戻っていった。
彼の手にかかれば首なんて簡単に折られてしまうだろう。静樹はもう何もする気力が湧かなくて、彼が料理をする様子を見守った。
「できたよシズキ! どうぞ召し上がれ」
皿の上に置かれた料理は、白身魚のムニエルのように見えた。バターの匂いが香ばしい。
まだあまり食欲は湧かないものの、これなら食べられそうだ。端っこを箸で解して口に運ぶと、ふわりとした食感と共にあっさりとした魚の旨味が口中に広がる。
「……美味しい」
「よかったー! たくさん食べてね」
満面の笑みでピンと外側に虎耳を立てるタオは、とても機嫌がよさそうだ。彼の前には何も食事が置かれていないことに気づき、意を決して尋ねた。
「あの……タオは、お腹……空かないんですか」
「シズキ!」
「え、えっ?」
タオが思いきり顔を寄せてくるので、同じ距離だけ静樹は仰け反った。青い瞳が陽を浴びて輝く海のように、煌めいている。
「俺の名前を呼んでくれた!」
「……え、ええ、はい。呼びました」
「うわあ、もう一回呼んで!」
「……タオ?」
「うひゃあぁ……っ! いいっ!」
タオは喉を鳴らしながら身悶えている。名前を呼ばれるのがそんなに嬉しいのだろうか。
くすぐったい気持ちになりながら、白身魚を口に運ぶ。タオは自分が食べることなく、飽きもせずに静樹の食事風景を見つめ続けた。
(タオ、食べないつもりなのかな。本当に僕のためだけに、魚を獲ってくれたんだ)
家で用意される食事はいつも冷えていたし、出来合いのお惣菜だったり、お金だけ置かれていることも多かった。
おばあちゃんのご飯は美味しかったけれど、何かをリクエストして作ってもらったことはない。なんでも好き嫌いなく食べるいい子として振る舞っていたから、もしかしたら静樹の食の好みすら知らない可能性だってある。
好きな食べ物を聞いてくれて、自分が食べないのにわざわざ川に出かけて獲ってくれるなんて。今までの人生で、誰にもここまで大切に扱われたことがない。
薄味の魚がやたらと美味しく感じて、食べる度に胸の中がじわじわと温かくなった。
「あの……て、手伝います」
「え? ああ、いいよいいよー、皮膚が薄そうだし、火傷したら大変だから座ってて」
毛皮の方が燃え移りそうで見ていてハラハラしたけれど、タオは手慣れた様子で次々に薪をかまどに放り込み、あっという間に火を起こしてしまった。
「魚とか捌くの久しぶりだなー」
「あ、よかったら、僕が……」
魚料理なんてしたことないが、教えてくれればできるかもしれないと小声で声をかけてみたが、既にタオは鱗を剥ぎとり処理を始めていた。
「え、何か言った?」
「……いえ、なんでもないです」
魚の血が流れている様子を見て、青ざめながら首を横に振る。
(情けない……せめて、手順を見ながら覚えておこう……)
そう決意したものの、ビチビチ跳ねる様子とスプラッタな光景に、どんどん気分が悪くなってきた。気づいたタオに椅子に座って休むように指示される。
「どうしたの? 顔色がすごく青い! とにかく座ってよ、寝台で休んだ方がいいんじゃない?」
「い、いえ……そこまでは……」
「本当に?」
彼は調理の手を止めて身綺麗にした手で、静樹の頬に触れてくる。身を竦めたものの、なんとかその場で逃げずに座っていられた。
「うわ、すべすべだ」
「……っ」
肉球のついた柔らかい手で、ふにふにと遠慮なく頬を触られる。彼は夢中になって静樹の鼻や額、頬の輪郭にも指先を滑らせた。
「すごいねえ、人間はすごく触り心地がいいって聞いてたけど、想像していた以上だ」
指先からいつ爪が出てくるかと気が気ではない静樹は、身を固くして解放されるのを待った。
気が遠くなるほどの時間をかけて顔中を撫でられ、興味深そうに耳を触られる。
「折れそうに細い首だね」
不穏な感想を告げて、彼は調理へ戻っていった。
彼の手にかかれば首なんて簡単に折られてしまうだろう。静樹はもう何もする気力が湧かなくて、彼が料理をする様子を見守った。
「できたよシズキ! どうぞ召し上がれ」
皿の上に置かれた料理は、白身魚のムニエルのように見えた。バターの匂いが香ばしい。
まだあまり食欲は湧かないものの、これなら食べられそうだ。端っこを箸で解して口に運ぶと、ふわりとした食感と共にあっさりとした魚の旨味が口中に広がる。
「……美味しい」
「よかったー! たくさん食べてね」
満面の笑みでピンと外側に虎耳を立てるタオは、とても機嫌がよさそうだ。彼の前には何も食事が置かれていないことに気づき、意を決して尋ねた。
「あの……タオは、お腹……空かないんですか」
「シズキ!」
「え、えっ?」
タオが思いきり顔を寄せてくるので、同じ距離だけ静樹は仰け反った。青い瞳が陽を浴びて輝く海のように、煌めいている。
「俺の名前を呼んでくれた!」
「……え、ええ、はい。呼びました」
「うわあ、もう一回呼んで!」
「……タオ?」
「うひゃあぁ……っ! いいっ!」
タオは喉を鳴らしながら身悶えている。名前を呼ばれるのがそんなに嬉しいのだろうか。
くすぐったい気持ちになりながら、白身魚を口に運ぶ。タオは自分が食べることなく、飽きもせずに静樹の食事風景を見つめ続けた。
(タオ、食べないつもりなのかな。本当に僕のためだけに、魚を獲ってくれたんだ)
家で用意される食事はいつも冷えていたし、出来合いのお惣菜だったり、お金だけ置かれていることも多かった。
おばあちゃんのご飯は美味しかったけれど、何かをリクエストして作ってもらったことはない。なんでも好き嫌いなく食べるいい子として振る舞っていたから、もしかしたら静樹の食の好みすら知らない可能性だってある。
好きな食べ物を聞いてくれて、自分が食べないのにわざわざ川に出かけて獲ってくれるなんて。今までの人生で、誰にもここまで大切に扱われたことがない。
薄味の魚がやたらと美味しく感じて、食べる度に胸の中がじわじわと温かくなった。
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