虎獣人から番になってと迫られて、怖がりの僕は今にも失神しそうです(した)

兎騎かなで

文字の大きさ
19 / 43

図書館に行きたい

 日陰で人気が少ない通りをおっかなびっくりついていくと、店の前までびっしりと服が並べられた一角があった。

「こんにちはー、人間用の古着ってありますか?」

 タオが声をかけると、気の強そうな顔つきの猫獣人が何着か抱えて持ってきてくれた。

「あんまり数はないけど、これでどう?」
「シズキの気にいる物はある? わあ、これなんて素敵じゃないかな? 南方で流行している服らしいよ」

 示された紺色の服はシャツのように前開きの服だが、ボタン部分が結び帯で飾られていて、華やかな印象だ。カンフー着みたいだという印象を受けた。

 服装には拘らないから、寒くなければ何でもいいんだけどなと困り顔で見上げてみると、期待のこもった視線を送られた。

「すごく似合いそうだよ! ほら」

 歪みが強い鏡に映った自分を見ても、似合っているか判断がつかない。しかしタオはとても気に入ったようで、静樹の肩に衣装を当てて満足そうに微笑む。

「やっぱり、すごくいい!」
「えっと……じゃあ、これにします」
「毎度あり!」

 タオの服より余程高価そうな衣装に恐縮しながらも、三着ほど買ってもらった。これから冬が来るからと、足元まで全身を覆える綿入りのほうも買い揃えてくれる。

「あの、こんなにお金を出してもらっても、僕返せないです」
「いいよ、気にしないで」
「でも……」
「気になるっていうなら、冬の間だけでもいいから俺と一緒に住んでよ。シズキに俺のいいところをたくさん紹介するから!」

 番になりたいアピールに余念がないタオの様子に、静樹はアハハとに苦笑いをする。

(その気もないのに一緒に住んでたら、脈があるって誤解されそうだなあ。友達としては最高によさそうな人なんだけどな……)

 友達になりたいという申し出であれば、悩むことなくお願いしますと即答したのに。

 でもそうではないから、やはり長い間お世話になり続けるのはお互いのためによくなさそうだ。静樹にできる仕事があるのか、町にいる間に探してみようと思った。

 服屋から出ると、静樹は図書館に行きたいと主張した。

「としょかん?」
「はい。本がたくさんあるところなんですけれど……」

 まさか無いのではと、タオの反応を見て額に汗が浮かぶ。彼はうーんと唸った後、ポンと手を打った。

「ああ、いっぱいじゃないけど本が売ってるお店ならあるよ」

 そして彼が案内してくれたのは、まさかの質屋だった。雑多に高価な物が並んでいる店内をのぞきこむと、フクロウの店主が出迎えてくれる。

「何をお探しかね」
「本を探してるんだって。あるかな?」
「あるとも。今持ってこよう」

 フクロウの鳥人が差し出してくれたのは、たった五冊きりの本だった。しかも何が書いてあるか読めない。

「こ、これだけですか」
「不満かね?」
「い、いえ……あの、他にもっと本がある場所はありませんか」
「富豪や貴族の屋敷なら保管されているだろうが、平民ではなかなか見る機会はなかろうて」
「そう、ですか」

(困ったな、図書館がなくて字も読めないなら、司書の仕事なんて絶望的にできなさそうだ)

 他にできそうなのは計算仕事だけれど、店番を兼ねているからコミュニケーション能力が必須らしい。肉食獣人にいちいち怯えていたら接客はままならないだろう。

「シズキがどうしても仕事がしたいって言うなら、俺の家の仕事を手伝ってくれたらいいよ! 今日だってスープを一緒に作ってくれて助かったし」

 質屋を出た後当てもなく歩いていると、タオが励ますように声をかけてくれた。

「料理……できるようになったらいいんですが」
「なるよ、シズキなら大丈夫! 一緒にがんばろう」

 片想いされている相手の好意にいつまでも甘えてはいけないと思うのに、優しく応援されると縋りたくなってしまう。

 答えあぐねていると、活気のある声が広場の方から聞こえてきた。

「みなさーん! 国中で大好評公演中のマーロン雑技団が、ついにチェンシー町にもやってきました!」
「何か催し物をやってるみたいだ、行ってみよう」

 タオの揺れるしましま尻尾を追いかけながらついていく。
感想 10

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。