虎獣人から番になってと迫られて、怖がりの僕は今にも失神しそうです(した)

兎騎かなで

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トオリの木の実狩り

 食事をしながら、森の木の実は採ってもいいのかと話題を振ってみる。

「トオリの実のことかな。この周辺一帯なら大丈夫だよ、採りにいこうか」

 新しい服を着てカゴを背負って、黄色い木の実があった場所まで出かけることになった。木の根元まで来てみると、拳大の大きさの細長い果実が鈴なりに生っているのがわかる。

「もう熟してる?」
「黄色いやつは柔らかくなってるから、食べられるよ」

 タオが引っ張ると、力を込めすぎたのかトオリの実は半分に割れてしまった。

「あ、あれ? もう一回」

 タオは慎重に時間をかけて、やっと軸の部分から千切り取ることができた。彼を見習って、枝に手を伸ばす。抵抗はあったものの、根本から取ることができた。

「シズキは器用だねえ」
「あ、ありがとう」

 見た目は真っ直ぐで太ったバナナのように見えたが、触るとザラザラしている。面白くて夢中になって撫でてしまう。

「どうかした?」
「感触が、好きだなって」
「ああ、ちょっと面白いよね。俺はシズキの肌触りの方が好きだけど」

 素直にセクハラまがいのことを告げられて、どう返答しようか迷う。彼は静樹の返事がないことを気にせずに、実の収穫に戻ってしまった。

(タオはなぜ、僕を番にしたいなんて言い出したんだろう)

 すべすべだし可愛いし人間が大好きだと言っていたから、内面ではなく身体の特徴で好ましく思われているような気がする。

 きっと彼も静樹の臆病なところを面倒に感じているだろうし、内面になんて興味ないのだろうなと諦めの気持ちを抱きながら作業に戻った。

(どうせ誰も僕の話を聞きたいなんて思わないんだ、わかってる)

 両親にすら面倒な子だと疎ましがられていたくらいだ。だからせめて勉強面で迷惑をかけないようにストレートで国立大学に入学したし、大人しく自己主張しないようにして過ごした。

(ああでも、幼稚園児だった頃おばあちゃんに、木の実狩りに連れていってもらったことがあったっけ)

 林檎の実の軸を切り取って笑顔を向ける瞬間、確かにあの時はおばあちゃんと心が通じ合っていたような気がする。数少ない家族との交流の思い出だ。

 黙々とトオリの実を採っている間は、焦燥感も虚しさも忘れられた。時々実を採るのに失敗したタオの嘆きが森にこだまする。

 だんだんとカゴが一杯になっていくのが楽しくて、夢中になって実をとり続けた。

「う、届かない」

 静樹の二倍は背の高い木だから、上の方まで手が届かない。タオは静樹がつま先立ちする様子を眺めて、いいことを思いついたとでも言うように笑った。

「シズキ! 俺が肩車をしてあげるよ、そしたら届くでしょ?」
「えっ」
「友達なんだし遠慮しないで、さあ!」

 両手を開いてシズキを待ち構えるタオを、困惑の表情で見返す。そんなことをしたら牙が静樹の身体のすぐ側まで来てしまうし、色々とタオの理性的にまずいのではないか。

(それに、子どもでもないのに肩車って……)

 本当は少し憧れがあった。肩車なんてされたことがない。近所の子どもが肩車をされているのを羨ましく見送るばかりだった子ども時代を思い出し、胸が切なくなる。

 タオの海のように濃い青の瞳は、無邪気に輝いている。静樹を肩車したくてたまらない様子を見て、恐れと遠慮の天秤が上方へと傾いた。

(いいよね、友達なんだから。お言葉に甘えても)

「じゃあ……少しだけ、お願いしていいかな」
「少しと言わずにいくらでも、シズキが満足するまで乗ってていいからね!」

 しゃがみ込み背を向けたタオの広い背中の上に乗った頭部は、後から見ても虎だ。緊張感が喉まで競り上がるが、震える足を叱咤しながら一歩ずつ近づいた。

(大丈夫だ、タオはとっても理性的な虎獣人なんだから、間違っても僕を噛んだりしない)

 えいやと肩に手を置くと、布越しでもモフッとした感覚が手のひらに広がった。おっかなびっくりしながらも背中によじ登り、足を肩に乗せて首を跨ぐ。

「準備はいい? 立つよー」

 ガッシリと両足を肉球のついた手に掴まれてピクリと体が強張ったが、のけ反ることは避けられた。
感想 10

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