虎獣人から番になってと迫られて、怖がりの僕は今にも失神しそうです(した)

兎騎かなで

文字の大きさ
25 / 43

タオのことが知りたい

 翌日、朝になって服を着替えた後、リビングに向かったがタオの姿はない。

(まだ部屋にいるのかな)

 早く起き過ぎてしまっただろうか。タオのいないリビングは静かだ。椅子に腰掛けて待っていたがなかなか来ないので、部屋をのぞいてみることにした。

 部屋に近づくと、なにやらバタバタと音が聞こえる。扉の隙間からのぞくと、部屋中の荷物をひっくり返していた。

(え、どうしたんだろう)

 まさか昨日の話を本気にして、王都へ旅立つ準備でもしているのだろうかと、焦って扉を開ける。彼は静樹の顔を見るなり嬉しそうに笑み崩れた。

「シズキ、おはよう!」
「おはよう、タオ。何してるの?」
「ああ、本を持ってなかったっけと思って探していたんだけど、こんな物しかなかったよ」

 タオは紐で綴じられた古い本を差し出した。受け取って、今にも千切れそうなページをめくると達筆な文字が書かれている。

「これは?」
「死んじゃったお母さんの日記らしいんだけど、悪筆すぎて誰も読めないんだ。それでも文字が書かれているし、静樹に貸してあげようかと思ったんだけど、こんな崩れた文字じゃ勉強にならないよねえ」

 残念、と肩を落とすタオに、慌てて本を突き返す。

「そんな、肩身の本を僕なんかに貸しちゃダメだよ」
「なんで? シズキだったらこの家にある物、なんでも使ってもらっていいよ? あ、斧は勝手に使っちゃダメだけど、危ないから」

 再び本を差し出されて、勢いで受け取ってしまった。

「さあ、遅くなっちゃった。ご飯を作ろうか」
「あ、僕にも手伝わせて?」
「もちろん! 一緒に作ろう!」

 借りた日記は失くさないように、自室のベッド脇に置いておく。

 タオの炊いた米を使ってお粥を作った。自分でも美味しいと思える出来栄えに仕上がり、タオから絶賛されながら食事を終える。

「今日も木の実を取りに行く?」
「行きたい」
「じゃあ行こうか、こっちだよ」

 昨日採った実は全て玄関脇に置いてある。後でまとめて保存食にするらしい。

 森の中にいくつか木を倒したまま放置してあるのを見つけて、不思議に思って問いかける。

「これは薪にしないの?」
「後でやるよ。まだ水を吸ったままで重いから、水分が抜けた後で運んだ方が楽ちんなんだ」
「そうなんだ……」

 木こりなんて全く今まで縁がなかった職業だから、詳しく話を聞いてみたくなった。

(いや、木こりというよりも……)

 できれば、タオ自身のことを聞いてみたい。タオは静樹の好みや生い立ちを聞きたがるけれど、自分の話はほとんどしないのだ。

「タオは……」
「ん?」

 どうしよう、聞いてもいいだろうか。彼自身のことを詮索すると嫌がられるかもしれないと懸念したけれど、一歩だけ踏み込んでみることにした。

「木こりの仕事は好きでやってるの?」
「好きっていうか、必要とされてるからかなあ。チェンシー町には大型の獣人が少ないから、木こりとかの力が必要な働き手が求められているんだ」
「そうなんだ」
「だからユウロンにもしょっちゅう頼まれるよ、屋根の修繕やら米を運ぶから人手が欲しいとか、力仕事ばっかりをね」
「力強そうだもんね」
「虎獣人だからねえ。この前なんか、牛が足を怪我したから担いでくれって呼び出されてさ。流石に重かったよ」
「牛を担いだの? すごい」
「ふっふーん、力持ちだからね」

 タオは嫌がるどころか積極的に自分の話をしてくれた。静樹と会話するのを楽しんでいる様子だ。

「俺のお父さんが虎獣人だったんだ。お父さんはもっと力持ちで、牛を二頭いっぺんに運んだこともあるって」
「それは、すごすぎるね……」

 二頭の牛を担ぐタオを思い浮かべて、ぶるると背筋を戦慄かせた。

「あの、タオのお母さんは……」
「お母さんは牛獣人らしいよ。俺が物心つく前に死んじゃってたから、どんな人かよく知らないんだけど。お家でのんびり裁縫するのが好きな、穏やかな人だったって」

 あっけらかんとした様子で話すタオからは、寂しさや辛さは伝わってこなかった。けれど突然ハッと顔色を変えて、おろおろしはじめる。

「ごめん、俺の両親の話なんかしたら、シズキは嫌だよね」
「え、なんで?」

 静樹の方から聞いたのに、嫌なはずがない。

「だってシズキは親に会いたくても会えないのに」
「それは……別に、大丈夫だよ。元気で暮らしているなら、それで」
「ええっ、本当に?」

 頷いて肯定する。タオと暮らすようになってから、日本の生活が恋しいと思うことはあっても両親に会いたいと願ったりはしなかった。

 これ以上聞かれても返事に困ってしまうので、話を逸らす。

「タオのお母さんは裁縫が得意だったから、裁縫を練習したいと思ったの?」

 全般的に器用じゃないのに、静樹の服の裾上げは頑なにやりたがる。タオはあからさまに視線を逸らして尾を忙しなく動かした。

「えーっと、まあうん。そんな感じ。シズキも指先を使う細かい作業が得意だよね。前に饅頭を捏ねた時、生地をしっかり等分に分けてたじゃない? ああいうのって俺は苦手だからさ」
「そうかな? 指に針を刺しちゃう不器用者だけど」
「あの時はきっと緊張してたからだよ! シズキは兎獣人みたいに、怖がりなんだよね」
「え」

 ごく自然に指摘されて、ドキリと心臓が嫌な音を立てる。静樹は自他共に認める怖がりではあるが、この性質が好意的に受け入れられた試しはない。

 隣で実をむしり取りながら、気分を害していないかなと表情をうかがうと、彼はにんまりと牙を見せて微笑んだ。

「ふふ、怖がりなシズキが俺にはこんなに心を開いてくれて、嬉しいなあ。また肩車しようか? 上の実取る?」

 怖がりなことを疎ましく感じていないどころか、好意的な様子を目の当たりにして酷く驚く。牙を見ても恐ろしがることも忘れるくらいに、静樹にとっては衝撃的だった。

「え、あ……うん?」

 気もそぞろになり曖昧な返事をすると、彼はしゃがんで待ってくれたので、急いで肩の上に乗った。
感想 10

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。