虎獣人から番になってと迫られて、怖がりの僕は今にも失神しそうです(した)

兎騎かなで

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雑技団の蛮勇

 もう少しで何かわかりそうな気がしたが、口ごもる静樹を庇うように、タオが話を逸らした。

「もう、俺たちのことはいいから本題に入りなよ」

 ニヤニヤしていたユウロンは、真面目な顔に戻って腕を組み直した。

「ちょいと厄介な噂を耳にしてな、お前にも伝えておこうと思ったんだ」
「なになに、どんな噂?」
「半月前あたりに、チェンシー町に雑技団がやってきただろう」
「ああ、マーロウ雑技団だっけ」

 雑技団の名前を聞いて、ユウロンは不快そうに狼耳を伏せた。

「奴らこんな辺境の町に、なんでひと月も留まるんだと訝しがっていたんだが、なんと奇怪獣を見せ物にする予定なんだそうだ。特異な奇怪獣が多いこの地域に目をつけたんだと」

「え、なんて危険な真似を!」

 タオが勢い余って腰を浮かせると、ユウロンは真面目な顔で頷いた。

「俺達自警団も危ないからやめとけって忠告をしたんだが、奇怪獣を調教できるって信じ込んでるみたいで聞く耳を持たねえんだ。奴らは既に奇怪獣を捕えたようだぞ」
「奇怪獣を連れて旅をするつもり? ただでさえ旅は危険に満ちているのに、そんなのできっこないよ」
「だよなあ、でもそれがわかんねえ連中なんだ。今まで奇怪獣の被害に遭ったことがねえんだろ」

 二人は深刻そうな口ぶりだが、奇怪獣を見たことがない静樹にとってもピンとこない話だった。鳴き声が恐ろしいことしか知らないし、川に行った日以来一度も遭遇していなかった。

「そんなに恐ろしい生き物なんだ、奇怪獣って」

 静樹が尋ねると、タオは深刻そうな表情で何度も頷いた。

「虎とか狼みたいな戦える獣人にとっては、追い払える程度の強さなんだけど。奇怪獣は一度獣人の血の味を覚えると、しつこく追ってくるんだ。弱い獣人や子どもの獣人が襲われたらひとたまりもない」
「村の大人が狩りに出かけている間に、子どもと老人が全員食べられた村の話とかあったな」
「凶暴だし獣人に懐かないから、飼うなんてできないよ。もし逃げられたりしたら大変なことになる」

 静樹は話を聞いているうちに、ハオエンのことが心配になってきた。捕らえた奇怪獣が逃げ出したりしたら、弱そうな彼は食べられてしまうのではないか。

「僕……ハオエンに話をしにいきたい。彼に奇怪獣を見せ物にするのをやめてって、伝えるのはどうかな」
「シズキ⁉︎ 危ないよ、やめた方がいい」

 静樹の提案を聞いて、ユウロンは目を見張った。

「なんだ、雑技団に知り合いでもいるのか。だったら説得してやってくれ、俺達が忠告するよりもまだ話を聞いてもらえそうだ」
「嫌だね断る!」
「お前に話してねえよ、シズキに言ってんだ」
「駄目だってば、危険すぎるよ」
「タオ……」

 虎獣人の服の袖を引っ張って顔をのぞきこむ。美しい海色の瞳が心配で揺れているのを、しっかりと見返した。

「話をするだけだし、危ないことなんて何もないよ。それに……いざとなったら、タオが守ってくれるでしょう?」

 タオは虚を突かれたように目を丸くした後、じわじわと唇の端を笑みの形に変えた。

「もちろん、俺がシズキに怪我をさせるわけないじゃないか! 任せて」
「わあ、ありがとう。やっぱりタオは頼りになるね」

 自分のお願いが聞き届けられて嬉しいと無邪気に喜ぶ静樹の視界の端で、ユウロンはタオを横目で見ながら単純なヤツだと呆れていた。

「それじゃ、雑技団の相手はお前らに任せた。俺はまだ仕事が残ってるし、そろそろ帰るぜ」
「うん、またね」

 ユウロンが帰った後、静樹とタオも町へ行くことになった。マーロウ雑技団はすでに奇怪獣を捕らえているらしいので、急がなければ被害が出てしまうかもしれない。
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