虎獣人から番になってと迫られて、怖がりの僕は今にも失神しそうです(した)

兎騎かなで

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悲鳴の真相

 天幕の中は薄暗くて、外からでは様子がうかがえない。それでも目を凝らしているうちに慣れてきて、朧げに中の様子がわかるようになってきた。

 中は広い空間になっていて、衝立や飾りが床に散乱している。中央奥には大きな檻があって、扉が開いていた。

(ハオエンは、タオ達はどこにいるの……)

 視線を彷徨わせると、天幕の反対側の出口付近に複数の人影を見つけた。あの犬耳のシルエットはハオエンじゃなかろうかと、静樹は天幕の中に身を乗り出す。

 逆光になっていてわかりにくいが、ユウロンらしき人物が犬耳の少年の腕を捕らえているところだった。

「離してよ! 何も悪いことなんてしてないのに、なんで捕まらなきゃいけないんだ」
「これだけの騒ぎを起こしておいて、まだ自覚がねえのか……目撃情報からして、奇怪獣は一匹じゃねえんだろう。いいから二匹目の場所を吐きやがれ」

 やっぱり、ハオエンとユウロンの声だ……! 静樹は耳を澄ました。

「なんでボクがアンタに協力しなきゃならないわけ? せっかく捕らえた奇怪獣を全滅させられたら、こんな辺境まで来た甲斐がなくなっちゃうよ」
「テメェ、この期に及んでまだ世迷いごとをほざくのか」

 二人は言い争っているので、大きな怪我などはしていないのだろう。険悪な雰囲気をハラハラしながら見守る。

(タオはどこだろう……もう一匹いるって言ってたし、探しているのかな)

 忘れていた危機感が再び舞い戻ってきて、静樹は路地の方へ戻ろうとした。路地前にいる狐少年が、すごい形相で静樹の斜め後ろを指差していているのが視界に入る。

「うっ後ろを見てください、早く逃げて!」

 つられて首をそちら側に向けると、血の匂いと肉が腐ったような腐臭が鼻を掠めた。生温かい空気が這い寄ってきて視線を上げる。

 そこには見たこともない醜い異形の生物がいた。静樹の三倍は背丈がありそうな丸いシルエットは、太った豚のようにも見える。

 青紫色の皮膚はぶよぶよとしていて、傷口からは鮮血がいく筋も滴り落ちていた。

 赤く濁った瞳孔が、静樹の姿を捉える。動いたら襲ってくるかもしれない。

(タオは奇怪獣と目が合ったら動くなって言ってた。ああ、だけど駄目だ、怖すぎる……っ)

 動かないでおこうと頭では思うのに、身体が勝手に震えだす。どんなに自制しても、駄目だと思えば思うほど震えが大きくなった。

 奇妙な、けれど素早い動きで太い足を踏み出した奇怪獣は、静樹に向かって丸太のような手を振り上げた。

 迫りくる凶器を、ただ眺めていることしかできない。

「シズキ! このおおぉ!」

 思わずしゃがみ込んで目を閉じた静樹の前で、肉を裂く音と共に異様な悲鳴が上がった。それから、何かが飛び散るような気配も。

 恐ろしくて目を開けることはできなかった。遠くの方からユウロンがタオを呼ぶ声がする。

「おいタオ、やりすぎだ! それ以上は……」
「だけど、シズキが!」
「シズキなら無事だ、目を覚ませ!」

 ガツンと痛そうな音がして、辺りは無音になった。恐る恐る目を開くと、背の高い虎獣人のシルエットがぼんやりと見える。

「シズキ! 大丈夫?」

 差し出された手も爪も、血で濡れそぼっていた。ハッと顔を上げると、心配そうに顔を歪めるタオの姿が目に入る。思わず息を止めた。

(血……血が、たくさん、流れて、い……痛い、怖いっ、怖いぃ!)

 むせ返るほどの血の匂いが、静樹の脳髄までを恐怖一色に染めた。赤く染まった牙を凝視したまま、動けなくなってしまう。
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