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フラッシュバック
血塗れの腕、叫んでもなお食い込む牙、逃がさないとばかりに立てられた爪、恐ろしくて堪らない獣の形相、そして耐え難い痛み……
もう忘れたと思っていた幼い頃のトラウマが息を吹き返し、猛烈な勢いで静樹の全身に襲いかかってくる。
タオは自分を守ってくれたと、頭ではわかっているのに。戦闘の余韻が色濃く残る、血に塗れた彼が恐ろしくてたまらない。
「シズキ……? どうしたの、どこか怪我でもした?」
タオは爪を引っ込めて、静樹の頬に触れようとした。引きつったような悲鳴が喉からほとばしる。
「ひっ……」
反射的に叩き落としてしまった手を、タオは呆然と見つめていた。
静樹は我に返ったけれど、震える身体は強張ったままでろくに言うことをきかない。なんとかしたくて、喉の奥から声を絞り出した。
「ご、ごめ、なさ」
「ほらな、シズキも汚ねえテメェには触られたくねえってよ。自警団の井戸を特別に貸してやるから、とっとと汚れを落としてこい。後は俺が処理しておく」
ユウロンが執りなしてくれて、タオは汚れを落としにいくことになった。静樹も狐獣人に案内されて、自警団の詰め所へと向かう。
「怖かったですね、間に立って守ることができず、すみませんでした……」
「いえ……」
あんなに恐ろしい奇怪獣に、立ち向かえという方が酷だ。そもそも奇怪獣に見つかった時点で動いたら標的にされてしまうから、小柄な彼ではどうしようもなかっただろう。
静樹だって何もできなかった。タオがいなければ今頃、命はなかっただろう。
それなのに、助けてくれた彼に対して怯えてしまい申し訳ないことをした。タオは優しい獣人だとわかっているはずなのに。
今度こそちゃんと謝ろうと、決意を新たにしたところで詰め所に辿りついた。
「タオは、どこに……」
キョロキョロと辺りを見回していると、自警団の制服を借りた白い虎の獣人が、静樹の方へと歩み寄ってきた。
「……帰ろうか」
彼は気まずそうに視線を逸らしたまま、独り言のように呟いた。先程拒否したことが尾を引いているらしい。
静樹の方も萎れた様子のタオを目の前にすると、今までどうやって彼と接していたのかがわからなくなってしまった。
前を行く虎頭を後ろから眺める。やはりどう見ても二足歩行の虎にしか見えない。獰猛な牙と鋭い爪を持ち、静樹の命なんて簡単に奪ってしまえる虎だ。
(さっきの血塗れのタオは、とても恐ろしかった……けれどあの爪は、僕に向けられることはない。牙だって)
右腕を猫に噛まれた時の痛みと恐怖が蘇り、一瞬パニックになってしまっただけだ。大丈夫、タオは自分を襲うことはないと、何度も胸中で呟いているうちに、幾分気分が落ち着いてきた。
戻ってきた家の中の空気は冷え切っている。静樹は指先を擦りあわせながらかまどに火をつけ、お湯を沸かした。
もう昼をとっくに過ぎているし、激しい戦闘の後だからお腹が空いているだろうと料理の準備をはじめるが、いつもなら自然と隣に立ち手伝ってくれるタオは自室にこもってしまった。
「……タオ?」
静樹の小さな呼びかけが、虚しく居間に響く。常ならぬ状況に心臓は早鐘を打ち始めたが、疲れただろうし休みたいだけだろうと自分に言い聞かせ、黙々と料理に打ち込んだ。
根菜をじっくり煮込んだスープを作り終えた静樹は、火の始末をしてからタオに声をかけにいくことにした。控えめなノックの音を彼の自室に響かせる。
「タオ、入ってもいい?」
返事はない。寝ているのだろうか……静樹は扉の前で右往左往してから、何度もためらった後に扉に手をかけた。
もう忘れたと思っていた幼い頃のトラウマが息を吹き返し、猛烈な勢いで静樹の全身に襲いかかってくる。
タオは自分を守ってくれたと、頭ではわかっているのに。戦闘の余韻が色濃く残る、血に塗れた彼が恐ろしくてたまらない。
「シズキ……? どうしたの、どこか怪我でもした?」
タオは爪を引っ込めて、静樹の頬に触れようとした。引きつったような悲鳴が喉からほとばしる。
「ひっ……」
反射的に叩き落としてしまった手を、タオは呆然と見つめていた。
静樹は我に返ったけれど、震える身体は強張ったままでろくに言うことをきかない。なんとかしたくて、喉の奥から声を絞り出した。
「ご、ごめ、なさ」
「ほらな、シズキも汚ねえテメェには触られたくねえってよ。自警団の井戸を特別に貸してやるから、とっとと汚れを落としてこい。後は俺が処理しておく」
ユウロンが執りなしてくれて、タオは汚れを落としにいくことになった。静樹も狐獣人に案内されて、自警団の詰め所へと向かう。
「怖かったですね、間に立って守ることができず、すみませんでした……」
「いえ……」
あんなに恐ろしい奇怪獣に、立ち向かえという方が酷だ。そもそも奇怪獣に見つかった時点で動いたら標的にされてしまうから、小柄な彼ではどうしようもなかっただろう。
静樹だって何もできなかった。タオがいなければ今頃、命はなかっただろう。
それなのに、助けてくれた彼に対して怯えてしまい申し訳ないことをした。タオは優しい獣人だとわかっているはずなのに。
今度こそちゃんと謝ろうと、決意を新たにしたところで詰め所に辿りついた。
「タオは、どこに……」
キョロキョロと辺りを見回していると、自警団の制服を借りた白い虎の獣人が、静樹の方へと歩み寄ってきた。
「……帰ろうか」
彼は気まずそうに視線を逸らしたまま、独り言のように呟いた。先程拒否したことが尾を引いているらしい。
静樹の方も萎れた様子のタオを目の前にすると、今までどうやって彼と接していたのかがわからなくなってしまった。
前を行く虎頭を後ろから眺める。やはりどう見ても二足歩行の虎にしか見えない。獰猛な牙と鋭い爪を持ち、静樹の命なんて簡単に奪ってしまえる虎だ。
(さっきの血塗れのタオは、とても恐ろしかった……けれどあの爪は、僕に向けられることはない。牙だって)
右腕を猫に噛まれた時の痛みと恐怖が蘇り、一瞬パニックになってしまっただけだ。大丈夫、タオは自分を襲うことはないと、何度も胸中で呟いているうちに、幾分気分が落ち着いてきた。
戻ってきた家の中の空気は冷え切っている。静樹は指先を擦りあわせながらかまどに火をつけ、お湯を沸かした。
もう昼をとっくに過ぎているし、激しい戦闘の後だからお腹が空いているだろうと料理の準備をはじめるが、いつもなら自然と隣に立ち手伝ってくれるタオは自室にこもってしまった。
「……タオ?」
静樹の小さな呼びかけが、虚しく居間に響く。常ならぬ状況に心臓は早鐘を打ち始めたが、疲れただろうし休みたいだけだろうと自分に言い聞かせ、黙々と料理に打ち込んだ。
根菜をじっくり煮込んだスープを作り終えた静樹は、火の始末をしてからタオに声をかけにいくことにした。控えめなノックの音を彼の自室に響かせる。
「タオ、入ってもいい?」
返事はない。寝ているのだろうか……静樹は扉の前で右往左往してから、何度もためらった後に扉に手をかけた。
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