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渾身のジョークで最後に笑いを!
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俺はアンガス。
ドワーフの鍛冶屋だ。
生涯現役を貫き通し、最後の最後まで鉄を打つ事にこだわってきた。
その為、女に目もくれず、大好きなお酒も控え、良いと思えるものを作り続けた。
そして、弟子にも恵まれた。
沢山の弟子達が俺の元を旅立ち、各地で俺の弟子として活躍していると風の噂に聞こえてくる。
そして肝心の俺が作り上げた作品達も評価が高い。
現場で使用する冒険者からは「アンガスが打った剣に命を救われた!」とか、「アンガスさんの打った包丁は料理人である私の命だ」とか評価されたり、大事に扱われている。
鍛冶屋冥利に尽きるというものだ。
そんな鍛冶屋として悔いのない人生を送ってきた俺だが、ひとつ密かに後悔している事がある。
それは真面目一辺倒で生きて来たので、弟子達には休みを取って何か鍛冶以外で楽しめるものを作ってはどうかと心配されていたのだ。
だが、俺にも趣味の一つはあったのだ。
それは、大道芸人の芸を鑑賞する事だ。
その中でも道化師による笑い話が大好きだった。
弟子達からは、ずっと仏頂面をしているから、楽しんでいないと思われていたのだが、俺は心の底から楽しんでいた。
だから本当は面白い話の一つでもして、弟子達を笑わせてみたかった。
だが、鍛冶屋一本で生涯を送って来た俺には弟子達を笑わせるジョークは言えなかった。
それに、頑固一徹、真面目のアンガスで通っていた身としては、下手な事を言ってこれまで築き上げて来たものが壊れるのも避けたかった。
だから、俺は決めていた。
弟子達を笑わせるジョークを密かに考え続け、練りに練ったものをここぞという瞬間に言って人生最大の笑いを取るのだと。
そして、その瞬間は来た。
というより、もう、この瞬間しかなかった。
密かに考え、練りに練っていたら俺はもう寿命が来てしまったのだ。
そう、今、俺は死の淵に立ち、弟子達に看取られようとしている。
弟子達が俺の最後の言葉を待っている。
もう、迷っている暇はない。
ここで言わずにいつ言うというのだ。
人生の最後に俺の会心のジョークで、弟子達の笑い声を聞いてあの世に行こう。
「……みな、揃っているな……」
俺は死の床で必死に言葉を絞り出す。
「師匠!?──みんな師匠が意識を取り戻したぞ!──師匠、意識をしっかり持って下さい!」
弟子達は俺がもうすぐ死ぬのを悟ったのかすでに涙を流している。
「最後に……、最後に言いたい事がある……。──では言うぞ……」
「みんな、師匠の最後のお言葉だ、心して聞け!」
弟子の一人がハードルを上げやがった!
おいおい、冗談を言う前にハードル上げるのはお笑い的に駄目だろ!
……仕方ない。
俺の最後の渾身のジョークだ。
ハードルが多少上がっても何の心配もないさ。
「俺の打った最後の”刀”は王家──」
しまった!最後まで言う前に死後硬直が来て、舌が動かない!
ガクリ
「師匠!?師匠ー!」
人生の全てを鍛冶屋に捧げた男アンガス。
最後の最後に弟子達を笑わせようとしたジョークは、不発に終わったのであった。
「師匠の最後の遺言はなんだったのだ?」
「師匠は、最後に打った刀は王家に納めよという事だろう……」
「……そういう事か。最後まで師匠は誇りある鍛冶屋だったな……」
「そうだな……。──見てみろよ師匠の死顔。最後までいつもの頑固な表情のままだ。ははは」
「ははは。流石師匠だな」
「本当だ。ははは」
アンガスの意図とは別の意味で、弟子達を温かい笑顔にしたアンガスは、あの世に旅立つのであった。
鍛冶屋のアンガス。
鍛冶屋として超一流、弟子を育てる事も超一流、人格も尊敬に値する人物であったが、笑いのセンスは……、本人の名誉の為にこれ以上は止めておこう。
「俺の打った最後の”刀”は王家秘蔵の聖剣も形無し(【かたな】し)!」
あの世で、アンガスは、自分が考えた渾身のジョークを、神様にやっと最後まで言えて、満足したとかしなかったとか……。
ドワーフの鍛冶屋だ。
生涯現役を貫き通し、最後の最後まで鉄を打つ事にこだわってきた。
その為、女に目もくれず、大好きなお酒も控え、良いと思えるものを作り続けた。
そして、弟子にも恵まれた。
沢山の弟子達が俺の元を旅立ち、各地で俺の弟子として活躍していると風の噂に聞こえてくる。
そして肝心の俺が作り上げた作品達も評価が高い。
現場で使用する冒険者からは「アンガスが打った剣に命を救われた!」とか、「アンガスさんの打った包丁は料理人である私の命だ」とか評価されたり、大事に扱われている。
鍛冶屋冥利に尽きるというものだ。
そんな鍛冶屋として悔いのない人生を送ってきた俺だが、ひとつ密かに後悔している事がある。
それは真面目一辺倒で生きて来たので、弟子達には休みを取って何か鍛冶以外で楽しめるものを作ってはどうかと心配されていたのだ。
だが、俺にも趣味の一つはあったのだ。
それは、大道芸人の芸を鑑賞する事だ。
その中でも道化師による笑い話が大好きだった。
弟子達からは、ずっと仏頂面をしているから、楽しんでいないと思われていたのだが、俺は心の底から楽しんでいた。
だから本当は面白い話の一つでもして、弟子達を笑わせてみたかった。
だが、鍛冶屋一本で生涯を送って来た俺には弟子達を笑わせるジョークは言えなかった。
それに、頑固一徹、真面目のアンガスで通っていた身としては、下手な事を言ってこれまで築き上げて来たものが壊れるのも避けたかった。
だから、俺は決めていた。
弟子達を笑わせるジョークを密かに考え続け、練りに練ったものをここぞという瞬間に言って人生最大の笑いを取るのだと。
そして、その瞬間は来た。
というより、もう、この瞬間しかなかった。
密かに考え、練りに練っていたら俺はもう寿命が来てしまったのだ。
そう、今、俺は死の淵に立ち、弟子達に看取られようとしている。
弟子達が俺の最後の言葉を待っている。
もう、迷っている暇はない。
ここで言わずにいつ言うというのだ。
人生の最後に俺の会心のジョークで、弟子達の笑い声を聞いてあの世に行こう。
「……みな、揃っているな……」
俺は死の床で必死に言葉を絞り出す。
「師匠!?──みんな師匠が意識を取り戻したぞ!──師匠、意識をしっかり持って下さい!」
弟子達は俺がもうすぐ死ぬのを悟ったのかすでに涙を流している。
「最後に……、最後に言いたい事がある……。──では言うぞ……」
「みんな、師匠の最後のお言葉だ、心して聞け!」
弟子の一人がハードルを上げやがった!
おいおい、冗談を言う前にハードル上げるのはお笑い的に駄目だろ!
……仕方ない。
俺の最後の渾身のジョークだ。
ハードルが多少上がっても何の心配もないさ。
「俺の打った最後の”刀”は王家──」
しまった!最後まで言う前に死後硬直が来て、舌が動かない!
ガクリ
「師匠!?師匠ー!」
人生の全てを鍛冶屋に捧げた男アンガス。
最後の最後に弟子達を笑わせようとしたジョークは、不発に終わったのであった。
「師匠の最後の遺言はなんだったのだ?」
「師匠は、最後に打った刀は王家に納めよという事だろう……」
「……そういう事か。最後まで師匠は誇りある鍛冶屋だったな……」
「そうだな……。──見てみろよ師匠の死顔。最後までいつもの頑固な表情のままだ。ははは」
「ははは。流石師匠だな」
「本当だ。ははは」
アンガスの意図とは別の意味で、弟子達を温かい笑顔にしたアンガスは、あの世に旅立つのであった。
鍛冶屋のアンガス。
鍛冶屋として超一流、弟子を育てる事も超一流、人格も尊敬に値する人物であったが、笑いのセンスは……、本人の名誉の為にこれ以上は止めておこう。
「俺の打った最後の”刀”は王家秘蔵の聖剣も形無し(【かたな】し)!」
あの世で、アンガスは、自分が考えた渾身のジョークを、神様にやっと最後まで言えて、満足したとかしなかったとか……。
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