渾身のジョークで最後に笑いを!

西の果てのぺろ。

文字の大きさ
1 / 1

渾身のジョークで最後に笑いを!

しおりを挟む
 俺はアンガス。

 ドワーフの鍛冶屋だ。

 生涯現役を貫き通し、最後の最後まで鉄を打つ事にこだわってきた。

 その為、女に目もくれず、大好きなお酒も控え、良いと思えるものを作り続けた。

 そして、弟子にも恵まれた。

 沢山の弟子達が俺の元を旅立ち、各地で俺の弟子として活躍していると風の噂に聞こえてくる。

 そして肝心の俺が作り上げた作品達も評価が高い。

 現場で使用する冒険者からは「アンガスが打った剣に命を救われた!」とか、「アンガスさんの打った包丁は料理人である私の命だ」とか評価されたり、大事に扱われている。

 鍛冶屋冥利に尽きるというものだ。

 そんな鍛冶屋として悔いのない人生を送ってきた俺だが、ひとつ密かに後悔している事がある。

 それは真面目一辺倒で生きて来たので、弟子達には休みを取って何か鍛冶以外で楽しめるものを作ってはどうかと心配されていたのだ。

 だが、俺にも趣味の一つはあったのだ。

 それは、大道芸人の芸を鑑賞する事だ。

 その中でも道化師による笑い話が大好きだった。

 弟子達からは、ずっと仏頂面をしているから、楽しんでいないと思われていたのだが、俺は心の底から楽しんでいた。

 だから本当は面白い話の一つでもして、弟子達を笑わせてみたかった。

 だが、鍛冶屋一本で生涯を送って来た俺には弟子達を笑わせるジョークは言えなかった。

 それに、頑固一徹、真面目のアンガスで通っていた身としては、下手な事を言ってこれまで築き上げて来たものが壊れるのも避けたかった。

 だから、俺は決めていた。

 弟子達を笑わせるジョークを密かに考え続け、練りに練ったものをここぞという瞬間に言って人生最大の笑いを取るのだと。

 そして、その瞬間は来た。

 というより、もう、この瞬間しかなかった。

 密かに考え、練りに練っていたら俺はもう寿命が来てしまったのだ。

 そう、今、俺は死の淵に立ち、弟子達に看取られようとしている。

 弟子達が俺の最後の言葉を待っている。

 もう、迷っている暇はない。

 ここで言わずにいつ言うというのだ。

 人生の最後に俺の会心のジョークで、弟子達の笑い声を聞いてあの世に行こう。

「……みな、揃っているな……」

 俺は死の床で必死に言葉を絞り出す。

「師匠!?──みんな師匠が意識を取り戻したぞ!──師匠、意識をしっかり持って下さい!」

 弟子達は俺がもうすぐ死ぬのを悟ったのかすでに涙を流している。

「最後に……、最後に言いたい事がある……。──では言うぞ……」

「みんな、師匠の最後のお言葉だ、心して聞け!」

 弟子の一人がハードルを上げやがった!

 おいおい、冗談を言う前にハードル上げるのはお笑い的に駄目だろ!

 ……仕方ない。

 俺の最後の渾身のジョークだ。

 ハードルが多少上がっても何の心配もないさ。

「俺の打った最後の”刀”は王家──」

 しまった!最後まで言う前に死後硬直が来て、舌が動かない!

 ガクリ

「師匠!?師匠ー!」



 人生の全てを鍛冶屋に捧げた男アンガス。

 最後の最後に弟子達を笑わせようとしたジョークは、不発に終わったのであった。

「師匠の最後の遺言はなんだったのだ?」

「師匠は、最後に打った刀は王家に納めよという事だろう……」

「……そういう事か。最後まで師匠は誇りある鍛冶屋だったな……」

「そうだな……。──見てみろよ師匠の死顔。最後までいつもの頑固な表情のままだ。ははは」

「ははは。流石師匠だな」

「本当だ。ははは」

 アンガスの意図とは別の意味で、弟子達を温かい笑顔にしたアンガスは、あの世に旅立つのであった。


 鍛冶屋のアンガス。

 鍛冶屋として超一流、弟子を育てる事も超一流、人格も尊敬に値する人物であったが、笑いのセンスは……、本人の名誉の為にこれ以上は止めておこう。


「俺の打った最後の”刀”は王家秘蔵の聖剣も形無し(【かたな】し)!」

 あの世で、アンガスは、自分が考えた渾身のジョークを、神様にやっと最後まで言えて、満足したとかしなかったとか……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

処理中です...