失いし記憶と感情を探して

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感情の在処

第漆話

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どうも、約1年ぶりの更新です。待ってた方なんていないと思いますがこれからものんびり気ままにやってきます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「やっと……やっと見つけたぞ零!!!」

 零へ背後から攻撃を仕掛けるもカウンターを受けた弐は着地するとすぐさま攻撃体勢に移った。

 弐が蹴った地面には小さなクレーターができており、その踏み込みの強さが伺える。
 零に蹴り飛ばされて100メートルほど開いていた距離を4秒かからずに詰めると、その勢いを全て右拳に乗せて振り抜く。勿論、ブースターによる加速を乗せて。

 対する零は、迫る右拳に対して左手を添えるように構え、弐の接近に合わせて後ろへ引き、弐の持つ勢いをそのまま受け流し、同時に右足での蹴りを叩き込む。
 更に零は横手にある廃屋を足場にして空中で身動きが取れない弐に接近し、もう一度蹴りを入れる。

 が、これを弐は咄嗟に腕を交差させてガードしている。
 着地した弐は再び零へ接近を試みる。
 今度は左右にステップを踏みながら、先程以上の速度で走っている。

 尤も、すでに一般人からすれば速すぎて弐の姿を捉えられず、突然地面が抉れているように見えるのではあるが。

 零の左側面まで接近し、再び右拳を構える。が、零が再び受け流そうとしているのを見て、咄嗟に体全体の動きを急停止させる。

 常人では不可能な動きではあるが、機械化による強化を施されているからこそできる動きだ。

 しかし、零の目の前で1秒でも硬直していれば反撃が来るのはわかりきっていること。
 弐は零の後ろ回し蹴りを左足を軸にしてしゃがみながら回転することで回避。頭上を通る零の脚を掴み、そのまま投げ飛ばす。

 零たちの体重は全身を機械化していることもあり、当然重い。
 それこそ零に至ってはもう少しで一昔前の自動車に届こうかというほどだ。
 そして、その零をいとも容易く放り投げてしまう弍の腕力もまた計り知れない。

 空中に浮き、身動きが取れなくなったから零に弍は猛追をかける。
 零を追うように飛び上がり、その勢いを乗せてアッパー。更に零を打ち上げる。
 近場の建物を足場にしてもう一度飛び、もう一撃入れてまた打ち上げる。
 そして零より先に着地し、零の落下予測地点へ先回りし、構える。
 腰を落とし、目を閉じて右手を引く。同時に右腕からキイィィィと言う耳障りな機械音。
 そこへ何の抵抗もできず落ちてくる零。
 次の瞬間、大爆発を思い起こさせるような轟音が響き渡った。



 ★★★



「おーおー、派手にやってるねぇ」

 二人の交戦地点から少し離れたビルの屋上で肆は一人呟いた。
 もっとも、『少し』と言っても数キロメートル離れているので二人の姿を直接見ているわけではない。
 その戦闘によって生じる周囲への被害や音で判断しているのだ。

「今のは零が一発モロに喰らったのかもしれねぇな」

『モロに受けてもあの人なら大したこと無さそうですけどねぇ……』

「まったくだな」

 電話越しに陸が苦笑いするのを聞き、肆もまた苦笑いをする。

「弐がどんなに全力で、それこそ最大出力を出そうと、零には勝てねぇよ」



 ★★★



「チッ、今のどうやって防ぐんだよ。それともこの一年で飛行機能でも手に入れましたってか」

「別に、大したことなどしていない」

 そう、零は落下中に叩き込まれたあの一撃を見事に無傷で防いでみせたのだ。

「はっ、テメェは昔っからそういう奴だった、な!!」

 言い終わるより早く、弐は駆け出した。
 弐の脚部や腕部はブースターの発する熱によって赤く光っている。
 弐が最大出力トップ・ギアと、そう呼んでいる状態だ。
 この状態は弐の機体からだに普通の戦闘状態の数百倍もの負荷がかかる為、長くても10秒維持するのが限界だ。

 しかし、零や弐といった者の全力の10秒は、敵を殲滅するには十分過ぎる時間である。



 ――――――その敵が『普通の』兵士であれば。



 一歩踏み出した時、零の姿が霞んだ。

 そしてもう一歩踏み出した時、不意に、弐の体が宙に浮いた。

「……あ?」

 気づけば零が弐の横に立っている。
 いつの間に、と思うが零の腕や脚、顔、服で隠れているが恐らく全身に走る蒼いラインを見て納得する。

 弐にはそれに見覚えがある。
 滅多に見ることは無かったが、模擬戦で弐に向けて一瞬だけ使ったことがあるモードだ。

 それは、零が[超加速ハイパーアクセル]と呼ぶモード。

 その名の通り、出力を速度に特化させるモードだ。その時の瞬間最大速度は音を超える。
 その分パワーは落ちるがそもそも零の機体は重く、そして硬いので、その速度で突進するだけでも相当な威力になる。

 零は弐が最大出力を使ったのを認識すると同時にこのモードに切り替え、走り出そうとする弐に足を引っ掛けるという方法で弐の攻撃を阻止したのだ。

 零が脚を振り上げる――――常人には視ることすら不可能な速度で。

「がッ!?」

 弐が宙に蹴り上げられる。

 零が右脚を真っ直ぐに上へ伸ばした。

 空中で身動きが取れない弐が、重力によって落ちてくる。

「…………はっ、意趣返しってか」

 弐の皮肉にも零は無言を返す。



 そして、音を置き去りにする速度の踵落としが弐の腹に炸裂した。



 ★★★



「……対象沈黙。[超加速]を解除」

 スッと、そこには何も無かったかのように零の全身の蒼いラインが消える。

「おつかれさん」

 と、後ろから肆が声をかけてくる。

「にしても、あれは相変わらず速いねぇ。カメラでも蒼い残像しか映らねぇんだぜ?」

 弐を担ぎ上げながら零は答える。

「そういう機能だ。戻るぞ」

 その回答に肆は軽く驚いた表情を見せた。
 しかしすぐにそれを苦笑いに変え、

「やっぱ、変わったよな」

 とだけ呟いて零の後を追った。



 ★★★



「いやぁ、零くん! 流石だよ!!」

 二人が研究所に戻るとやけにテンションの高い莉亜が待っていた。

「この人、肆さんが転送してくれた零さんと弐さんの戦闘の映像を見てからずっとこうなんですよ……」

 と、陸が疲れたように説明した。なんでも、映像を見終えてから二人が帰ってくるまで質問攻めにあっていたらしい。

「そりゃなんつーか、ご愁傷さまだったな」

「ホントですよ!! ていうか、知ってたんなら教えてください!!」

「まぁまぁ、そんな怒んなって」

 と宥める肆。
 その少し後ろでは零が莉亜の質問を流している。
 莉亜が更に質問を重ねようとしたその時ら

「なぁ、ところであの――「ぅ……」――む、弐が起きるのかな?」

 零の足元に寝かされている弐が動いた。

「ん……。よく寝た」

 そして欠伸をしながら起き上がる。

「ん、あれ? レイにシ…それにクガっちまで。皆揃ってどうしたの?」

 零と戦っていた時の様子はどこへやら。のんびりとした様子の弐が問いかけ、

「……おい、これはホントにさっきまで零と戦ってたバケモンか?」

 一人事情を知らない莉亜が肆に聞くと、肆より先に弐が反応した。

「あれぇ? リーじゃん、ひさしぶりー。相変わらず小さいねぇ」

 弐は莉亜の事を知っている様子。だが当の本人は、

「あ゛? 分解するバラすぞ?」

 平常運転だった。

「あっははー、やっぱリーだぁ」

 何故か楽しげな弐。それをただ眺める零。それらを見ている陸と肆は揃って呟いた。

「「なんだこの状況……」」
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