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ふたつの嘘をつきました
ふたつの嘘をつきました 1
しおりを挟む「はー、今日は洗濯日和だけど、買い物はしんどいや」
真夏のこの地方は、とにかく暑い。
もう午後の4時だというのに地面からじわじわと昇る熱と、強い日差しで挟まれて、まったく汗が止まらない。
梅雨が開けてからここ二週間、最後に雨が降ったのはいつだっただろう。
運動のために、と自転車で5分のスーパーへ歩いて行くことを決めたのは今年の春だった。
その甲斐あってか体力もついたし、なにより体調も良い。
「でもこんなに暑かったら、夏の間に死んじゃいそうだ」
なんたって今日はお米が安くて、ついつい買ってしまった。
家まで歩いてあと10分というところだろうか。
途中で休まないと、帰ることはできても、料理をつくる体力は残っていなさそうだ。
両手に持った買い物袋を下ろし、これからの帰宅計画を考えることにした。
この街へ引っ越してきたのは、2年前の春だった。
駅が近く、適度に栄えた便利な街で、この時間には多くの小学生を見かける。
5時以降は定時退社のサラリーマンや学生も見られる。
好んで住み始めたわけではないが、治安もよく、気に入っている街だった。
とくに、公園で遊んでいる子どもたちを見るのは心が和んだ。
僕にもあんな頃があったのかな、などと考えては、すこし感傷に浸ったりもする。
「途中の公園まで、とりあえず頑張ろう」
公園はここから5分のところにある。
深呼吸をして、左手に食品の入った買い物袋を持ち、右手に米袋を持とうとしゃがんだ。
「民人(みんと)くん、あのさ、こんなクソ暑い中でなにやってるの」
それと同時に、僕の名前を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえて、米袋を取り上げられる。
右側を見上げると、困ったような笑みを浮かべた茶髪の青年が米袋を持っていた。
「……大助」
「こんな重労働させるために、仕事辞めてもらったんじゃないんだけどな」
僕より15cmくらい背が高くて、程よく筋肉質な彼――大助こそ、僕がこの街に引っ越すきっかけとなった人間だ。
「ちょっとずつ、体力つけようと思って。仕事できるように、さ」
「結構なことだけど、ほんとに、無茶するなよ」
体力が無かったり、身体が弱かったり、色々と問題を抱えて定職に就くのが困難だった僕は、2年前の春、大助本人と、彼の両親――僕の親代わりみたいなものでもあるけれど――から、ある提案をされた。
大学進学のために、実家を離れる大助と一緒に住んで、しばらく世話をしてくれないか、と。
ようやく誰かから必要とされる存在になれる、そう考えた僕は二つ返事で、大助と一緒にこの街へ引っ越してきた。
「わかってるよ。それにしても、今日は帰ってくるの早くない?」
「ああ、試験期間だから、問題解いてさっさと帰ってきた」
「そうだったね、お疲れ様。大学の試験って解いたら帰れちゃうんだ。いいなあ、僕も働いてお小遣い貯めたら大学行こう」
そうい言うと、人の良い大助はきょとん、として、不思議そうな顔をする。
「だから、学費なら親父が」
「もう、だから、さすがにそんなにお世話になれないって言ってるじゃん」
「うーん、まあ、民人くんがそう言うなら、いいんだけど」
「とにかく、これは僕の一番の野望だからね」
いい加減に暑さも限界になって、ゆっくりと二人で歩き出す。
日が傾くのは、随分後だろう。
「大学行ってどうするの」
「先生になりたいなあ、ずっと夢だったから」
初めて言ったことだったけれど、彼は案外すんなりと納得しているようだった。
「ずっと、ねえ」
「なに、馬鹿にしてる?」
「いいや、相当体力つけて、叶えてほしいなって」
彼は憎たらしいくらいに整った顔をほころばせる。
大助は非の打ち所が全くない。
高身長、顔よし、頭よし、性格よし、育ち良し。
僕の真逆じゃないか、と常々思っては悲しくなる。
腹は立つけれど、僕の言うことを否定せずに、全部受け入れてくれる。
年は2つ下だが、正直、彼に依存しまくっている自分がいた。
――口が裂けても言えないけれど。
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