ふたつの嘘

noriko

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ふたりの憂鬱

ふたりの憂鬱 1

「ほら、こんな感じで結構山が多くてさ」
「へえ、西部ってこんなところなんだ」
あれからすっかり日も暮れ、落ち着いた僕たちは夕食を済ませてソファに並ぶ。
大助が撮ってきてくれた、西部……僕の故郷を、二人で眺めていた。
「……大助は、西部行ったことあったの?」
「ん? あることはあるけど、ガキの時に親父について行って数回、学校の行事で1回……? すごい久々だし、正直あんまり記憶ないかも」
「そっかあ」
じゃあ、僕の生家とかは、知らないんだ。
そのことに少しがっかりする反面、安心した。
知らないのであれば、聞きようがないから。
「行ってみたいなあ」
口をついて出た言葉に、大助は意外にも、にこりと快諾する。
「うん、今度行こうか」
「あれ、行って良いんだ」
「俺となら、ね」
行った場所、名所、食べ物、西部の話をたくさんしてくれる大助だったが。
肝心の、誰に会って、どのような話をしたか、は、まったく触れられなかった。
だからてっきり、僕にはまだ早いんだと思っていたけれど。
思い切って、聞いてみる。
「……大助は、誰と会ってきたの?」
「ああ」
大助はそれだけ言って、明後日の方向を向く。
それは、何かを迷っているときのしぐさ。
やっぱり、まだ早かったんだ。
「大助、やっぱり……」
「綺羅くんの、なんて言ったらいいんだろう……親しい人だよ」
そういった大助の言葉は、嘘ではなさそうだった。
過去の僕に、関係がある人と会ったことを、大助が話している。
でも、西部に行くきっかけは、東さんとの会話だったはず。
「僕……いや、綺羅と親しい人が、東さんも関係あるの?」
僕の素朴な疑問に、大助は深くため息をつく。
「俺もびっくりだよ。まさか、あのおまわりさんとあの人が繋がってるなんて」
「そ、そっか」
不服そうな大助の表情を見るに、これ以上つつくのはやめたほうがいいと感じて、それ以上は突っ込まなかった。
しかし。
綺羅と「親しい」という言葉が、とても気になる。
友達でもなく、知り合いでもなく。
大助は「あの人」というくらいだから、あまり親しいわけではなさそうだし。
もしかして、綺羅の、恋人とか?
……なんて、かりにも「綺羅」が好きだった、大助に聞けるわけないか。
「とにかく、詳しいことは、話せる時に話すけど」
考えに耽っていると、再び、大助が口を開く。
「……うん」
「あの人は、何があっても俺たちに協力してくれるって、言ってたから」
そんなことをいう大助は、少し安心したような表情を浮かべていて。
詳しいことはわからないけれど、大助の「僕」に関する不安が、少しだけ解消されたみたいだった。
「……ありがとう大助、話してくれて」
「民人くんこそ、聞いてくれて、ありがとう。正直……話すのちょっと、怖かったから」
そういって僕の肩に額を寄せる大助は、こんなに頼りになるけれど。
こうやって僕に甘えてくる時は、年下の男の子なんだなと思って、ほほえましくなる。
「俺は、民人くんが自分の過去を知りたいって気持ちに、応えたい。でも、ちょっと怖い。……わがまま言うなら、もし全部知ることになっても、民人くんには、民人くんのままでいてほしい」
いとおしくてつい、頭をなでてしまう。
大助は心地よさそうに、目を細める。
「こういうとき……大助の不安なこと、全部なくなって、もっと僕に甘えてくれるようになったらいいのにって、思うよ」
「……充分、甘えてるよ」
「はは。でも、……僕がこんなことにならなきゃ、大助はもっと素直に、甘えられてたかもね。ごめんね」
大助は僕をちらりと見て、それから、僕の左手を、少し強く握る。
「でもそれじゃあ、民人くんじゃないから。民人くんじゃなきゃ、意味ないから」
そして、僕の手の甲に、指輪に、口づける。
「大助……好きだよ」
大助は、綺羅が好きだったという。
それは彼と出会ったころからの態度を見れば、一目瞭然だった。
当時は彼の態度に戸惑ったこともあったけれど、今の大助は「民人」を愛してくれている。
それがすごく嬉しかった。
「ああ、ずっとこうしてたい」
大助のその言葉に、僕も同じ気持ちを重ねた。
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