ふたつの嘘

noriko

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ひとりじゃない

ひとりじゃない 5

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翌朝、ホテルを発ち、家の最寄りについた頃にはすっかり昼を回っていた。

久々の遠出だった。



行きより土産の分、すこし重たくなった荷物を引き、ホームへと降り立つ。

駅はここから、歩いて20分。

事前に夕方くらいとは伝えていたが、一言伝えておこうと民人に電話をかける。

呼び出し音が3回鳴ったあと、民人の少しだけ浮ついた声が聞こえた。

『もしもし、大助?』

「もしもし、民人くん。最寄り駅ついたよ」

『よかった。……じゃあ、もうすぐだね。ご飯できてるよ。荷物多いよね? ほんとに僕迎えに行かなくてよかった?』

矢継ぎ早に伝えてくる民人の表情を思い浮かべて、思わず顔が緩む。

「ありがとう。……でも本当、大丈夫だよ。夕方といってもまだ暑いから、あと20分待ってて」

『わかったよ……。気をつけて帰ってきてね』

少し不服そうな民人は、数時間前、大助を最寄りの駅まで迎えに行くと言い出し、しばらく問答していた。

結局、いつものように大助は折れること無く、家で待つことになったが。

「うん。じゃあ、また後で」

もう少し涼しくなったら、民人とゆっくり散歩でもしたいものだと思いながら、旅行帰りにしては軽い足取りで、民人のもとに向かう。



まだじりしりと痛めつけるような日差しに汗ばみながら、大助は思いを巡らせる。

帰ったらまず、土産を渡そう。

それから、西部の写真を見せながら、土産話をしよう。

それから……。



ようやく玄関にたどり着き、扉を開ける。

「大助、おかえり」

ドアの開く音を聞いてか、慌てて出てきた愛しい恋人は、満面の笑みで大助を迎え入れる。

「ただいま、民人くん」

しっかりと組み立てた計画は、そんな彼の姿をみるなり、見事に崩れ落ちた。

気づいたら荷物を全ておいて、彼を抱きしめていた。

ーーその衝動は、彼を初めて抱きしめた、あのときと同じだった。

「大助、あ……暑くないの」

こういうとき、民人は決まってはぐらかす。

「好きな人が目の前にいるのに、そんなの、考えてる余裕無い」

だから、せめて自分だけは、民人に思っていることをそのまま伝える。

そうすれば、民人は気持ちに応じてくれることを知っていた。

しばらくの沈黙の後、大助の身体に民人の腕が回された。

ぴったりと、胸元に民人の顔が密着する。

爆発しそうな心音が、民人に、聞こえているだろうか。

「一緒に、行けばよかったね」

優しい民人の声色が、民人も自分と同じくらい、寂しく思っていてくれたことをにじませる。

「3日くらい、我慢できると思った。こんな地獄みたいに寂しいなんて思わなかった」

こんなにも、民人がいないと、自分はままならないなんて。

「大助、寂しかった」

吐息混じりに呟いた民人が、自分へと顔を向ける。

そして、大助の表情を見るなり、顔を赤らめて目をそらす。

ーー今、民人には、自分の表情はどう映っているのだろう。

今すぐ、彼と愛し合いたいなんて、節操もない感情に、気づいてしまっただろうか。



「み……」

なんとか感情を抑えて発しようとした言葉は、彼によって遮られる。

大助の頬に添えられた手は、少しだけひんやりとした。

反面、その瞳は、大助を、大助が民人を求めているのと同じくらい欲して、熱を帯びていた。



民人が自分と同じ気持ちであったことに、この上なく気持ちが躍る。

ゆっくりと瞳を閉じた彼の唇に、自分のそれを重ねる。

触れるだけの口づけを、何回か。

やがて薄く開いたその口に、舌を滑り込ませる。

「んっ……う……ぁ……」

玄関に、リップ音が響く。

何も考えられない。

ただ、彼を感じていたい。

ーーでも、これ以上は。



思う存分互いを堪能したあと、舌と舌が銀の糸を引いてはなれゆく。

汗ばんだ身体は、さらなる熱を求める。

どう声をかけようか考えあぐねていると、うるんだ瞳の民人が、小さな声で大助にささやいた。

「大助え……部屋、行きたい」



元々その気ではあったけれど、愛しい恋人にそんな誘われ方をしてしまったら、もう、抑えられない。

土産話はあとだ。

鍵を締めたあと、性急に民人を抱き上げて、靴を脱ぎ、大助は部屋の奥へと消えていった。

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