すこし未来の、ほかの地球で。

noriko

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約束と運命の鎖

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◇◆◇






「忘れ物はないか、杏奈」
僕の隣にいる、たくさんの――それでも引っ越すには少ない荷物を従えた彼女は頷く。
「お土産も、ちゃんと買いました」
「そういうところは、ちゃっかりしてんな」
東さんは笑って、杏奈ちゃんの頭を撫でる。
僕の肩くらいまでの身長の彼女は、うれしそうに笑った。


とうとう、別れの時がきた。
今でもどこかで、これで良かったのかと思ってしまう自分がいた。
つくづく、意志が弱い。
「私、頑張って勉強してきます」
しかし杏奈ちゃんは、東さんに向かって言う。
その言葉には、何か含みがあるように思う。


「ああ、思い出したら連絡よこせな。民人も」
東さんは、僕と杏奈ちゃんを交互に見やって笑う。
「もちろんです――」
僕の声にかぶさるように、広場中に放送が鳴り響く。
それは、僕らの乗る船が到着した旨を知らせるものだった。
後ろを振り向くと、白く大きな船がゆっくりと港にその体をよせているところだった。
やがて階段がおりて、入口が開く。
別れは、もうすぐそばまできている。


「早く、行った方がいいんじゃないのか」
東さんが言う。
僕は、少しでも2人を一緒にいさせたかったのだが。
「まだ出発までは充分あるし、いいんじゃないですか?」
「今のうちに行っておかないと混むぞ。荷物も多いんだ」
「でも」
言う僕の肩を叩いたのは、杏奈ちゃんだった。


彼女は笑って、頷く。
「東さんの言うとおりですよ、早く行きましょう」
何も、言い返せなかった。
彼女はまた、東さんを見る。
そして、深くお辞儀をした。
「東さん、長い間お世話になりました。東さんのところに預けてもらえて、よかったです」
彼女は、はにかんだ。


「そういうのはよせ、恥ずかしい」
ぶっきらぼうに言う東さん。
この2人を見ていると、彼らがまた明日も一緒にいるのではないかと思ってしまう。
なんとなくまた、取り残されている気分もした。
でも、悪くない。
「……大人になったら、また帰ってきてもいいですか?」
その時、僕は初めて気付く。
彼女らには、端から別れの挨拶をする気などなかったのだ。


「帰ってきたいなら、いつでも好きにしな。逃げ出してきたら、かくまってやる」
彼は笑い、親指を立てる。
杏奈ちゃんはしばらくけらけらと笑って、それから東さんと同じように親指を立てた。
「大人になるまでは、いい子にしてます。じゃあ――東さん、いってきます」
どこか震えた声で言う彼女は、一度笑ってからきびすを返し、船の方へ行ってしまった。
「じゃあ、東さん。お元気で」
僕もそれを追い、船へと向かう。


北部の協会支部にもよろしく、という声が聞こえた。
現地に着いたら、寄ってみるのもいいかもしれない。
どこに在るかわからないから、圭くんにでも聞いて、杏奈ちゃんと行ってみよう。




そんなことを考えながら歩いて、杏奈ちゃんに追いつく頃には、すでに乗船口は目の前だった。
僕は協会に手配してもらった2人分の乗船券を取り出して、片方を杏奈ちゃんに渡そうとした。
「杏奈ちゃん、はい」
返事はない。
立ち止まった彼女の顔をのぞき込むのは、火の中に入るよりも怖かった。
予想は、地面に落ちた雫で確信に変わる。
それまで聞こえていた船の音や周りの声といった雑音は全て消え失せて、
僕に聞こえているのは、彼女のすすり泣く音だけとなった。


「――あれ、こんなつもりじゃ……なかったのに」
大人らしさを装う彼女の頭を、東さんのするように撫でてみる。
僕は彼より身長も、手の大きさも、何もかもが足らないけれど、これからの彼女にとっての、東さんのような存在になれるように、なんて。
「僕じゃ、東さんにかないっこないか」
嘲笑して言うと、彼女は首を横に振る。
手のひらで涙を拭いながら、上を向く。
「民人さんは、民人さんでいいんです」
少しだけ濡れた目元を緩めて、僕に笑った。


「ごめんなさい、いきなり民人さんを困らせちゃって。乗船券、ありがとうございます」
「気にしないで。さあ、空いてるうちに行こう……歩ける?」
彼女は、はい、と頷いて、僕の隣を歩く。
やはり、何を言っても結局はつらかったのだ。


受付の男性に乗船券を渡すと、それと引き換えにカギと、タグを数個貰った。
カギは船内の部屋のもので、タグにはカギと同じ数字が書いてある。
このタグに名前を書いて、荷物に付ける。
それから荷物を受付に渡すと、別ルートから部屋まで運んでくれる。
「すごい……」
手際のよい受付の流れに、杏奈ちゃんは目を輝かせた。
「僕等はあと、船に乗るだけだ。一度部屋に行って、避難経路でも確認しようか」
彼女は大きく頷いた。
  
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