すこし未来の、ほかの地球で。

noriko

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約束とはじまりの記憶

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◇◆◇


随分と回復はしているが、髪の色を変えながら動き回るのはさすがに疲れた。
あれから杏奈ちゃんとご飯を食べたり、船内の散歩をしているうちに日は沈み、入浴を済ませた頃には9時をまわっていた。
そこそこ上等な客船の中でも、今僕等がいる部屋は何故か最上級、いわゆるスイートルームというやつだった。
部屋は広くて居心地がいいし、こんな体験は二度と出来ないだろうから思い切り堪能している。
普通ならこの部屋に2人入れるところを、圭君は2部屋とってくれていた。
さすがに僕でも杏奈ちゃんと2人は気まずかったし、そこはさすが圭君、といったところだ。


それに、ひとりで考えごともできる。
僕には整理しておかなければいけないことが沢山あった。
北部へ行ったらなにをしようか。
杏奈ちゃんはいつから学校へ通えるのか。
南西部での事件、本当にヒトが操れるのか。
あと、それから。
「杏奈ちゃんと、どうやって連絡とろうかな……」


保護者として、杏奈ちゃんの様子を見ておかなければならない気がする。
気がするというのは、大助くらい年齢が上なら安心なのだが、15歳、それも女の子だと、妙に心配になってくるのだ。
しかし、年頃の女の子の顔を見るために部屋に入るのも気が引ける。
「携帯電話は持ってないみたいだし」
僕は仕方なく、机の上に置いてあった薄い案内書を見る。
それには船内の施設案内や、部屋の間取りなどがかかれていた。


「内線かあ」
船には何度か乗ったが、他の部屋と連絡をとる機会なんてなかったから思いつかなかった。
ベッドの隣に備え付けられた電話を手に取り、案内書にある通りに番号を押していく。
しばらくして、杏奈ちゃんの声が聞こえた。
『……はい』
「杏奈ちゃん、僕だよ」
『民人、さんですか?』
彼女は、恐る恐る訊ねた。


「そうだよ。もしかして、もう寝ちゃってたかな」
彼女は静かに、いいえ、と言った。
『緊張して、なかなか眠れなくて』
「慣れない環境じゃ、なかなか寝れないよね」
『それもあるんですけど、その……北部って、どんなところなのかなって』


「どんなところ、かあ」
彼女は不安と良いながら、どこか楽しそうだった。
「綺麗で静かな町だよ。それで、よく雪が降る。今の時期は南西部の一番寒い時期より、もう少し低いくらいかな」
『それじゃあ、雪は見れないんですか?』
「うーん、2ヶ月いれば、見れなくもないかも」
『そうですか……』
彼女は、ため息をつく。
……楽しみにしていたのか。


「大丈夫だよ、中央でもちょっとは降るから。逆に中央の方が、鬱陶しくならなくていいかも」
『本当ですか?』
「うん。だから、楽しみに待ってよう」
『はい!』
彼女の声に活気が戻った。
よかった、元気になって。
「僕らがお世話になるのは僕の友達の実家でね、とにかく広いから、面白いよ」
『面白い、ですか?』
彼女はけらけらと笑う。


「あー、うん。時々僕も迷うんだけど……入りたてのお手伝いさんとかも、迷ってて」
『2人で一緒に迷うんですか? 楽しそう!』
「そうかな? あはは」
そう考えてみると、本当に愉快だったかもしれない。
大助やベテランのお手伝いさんに見つけてもらうまでは、本当に時間がかかった。
『民人さんのお友達だから、きっと良い人たちばかりですね』
僕も良い人だとほめられているのか、それともこんな僕でも付き合ってくれる人だから、という意味なのか。
前者だと思って損はないか。


「うん、みんな優しい」
『楽しみです、皆さんに会えるのも……学校に行くのも』
「そうだね。向こうについたら、まず学校を探さないと」
彼女は明るく、はい、と言った。
その後に、小さくため息をつく。
『でも、学費や保護者はどうすればいいんでしょうか』
「気にしないで、河闇家が何とかしてくれるよ」
『そうですか……って』


彼女は突然、「えっ!」と大声を上げた。
びっくりして僕は思わず受話器を遠ざける。
「杏奈ちゃん、いきなりどうしたの」
『あの、私達がお世話になるのって、もしかして』
「……あ、ごめん。言い忘れてたね。北部の河闇家の……えーと、お屋敷」
『民人さん、そんなすごい人達とお友達なんですか!』
「えっと、成り行きで」


君のお兄さんのがよっぽどすごい人だと思うんだけど。
とにかく、彼女の驚きようが僕の予想を随分上回っていたから、直接顔をあわせている時に喋っておくべきだったと少し後悔した。
きっと面白かっただろうに。
『私、そんな所にお世話になっちゃって大丈夫なんですか?』
「僕なんかよりよっぽど場違いじゃないと思うよ……。素直に喜べばいいよ。お屋敷に住めるって」
『そうですか……なんだか、余計に緊張してきました』
「あはは、力抜いて良いよ。大丈夫だって」
彼女が深呼吸をするような音が聞こえる。


本当に、面白い子だ。
それで。
「杏奈ちゃんはさ、本当に良い子だね」
『そうなんでしょうか?』
「今、15歳だっけ? 河闇の兄弟の同じくらいの頃に比べたら、本当に大人しくていい子だと思うよ。比べるのが失礼なくらい」
『そんなあ』
僕は思い切り笑う。
あの頃の彼らも、本当に面白かった。
「安心したんだ、本当は。君が僕に心を開いてくれたみたいで」
『嬉しかったんです。見ず知らずの私を、助けようとしてくれたこと』


「結局僕も倒れて……すごく間抜けじゃないか、僕って」
『でも、民人さんはすごく優しいです。施設ではじめに喋った時から、今までずっと』
「そんなこと言われたら、照れるじゃないか」
彼女はすごく真剣だった。
だから、ものすごく恥ずかしかった。
『私も安心しました。兄にこんな友達がいるなら、大丈夫だなって。心配してたんです。兄にちゃんと味方がいるのか』
「ほんとに、杏奈ちゃんはいい妹だ」
『そんな、恥ずかしいです』
僕らは言葉を止めて、そして笑った。


打ち解けられた気がして、嬉しかった。
「明日、晴れるといいね、海、きっと綺麗だよ」
『はい、楽しみです!……あの、民人さん』
「なあに?」
『少し落ち着きました。明日も、よろしくお願いします』
「……うん、こちらこそ」
『あの……寝ても、いいですか?』
「もちろんだよ。寝れるうちに、寝ておかなきゃ。おやすみ、また明日」
『おやすみなさい、民人さん。また明日』


彼女がそういうのを聞いてから、静かに受話器を戻した。
僕も、随分気が楽になった気がする。
今日はもう寝ようかな、と思い、部屋の電気を消した。
カーテンをあけたままの大きな窓からは、ふくらんだ月がよく見える。
ずっと見ていると、なんだか不思議な気分になった。
長いようで短い旅立った。
なんだかんだで、3日くらいしかいなかった気がする。
この部屋の眺めは最高だ。
ベッドも気持ちがいい。


しばらくの間そんなことを考えながら、うとうとしていた。
――聞こえる?
突然、どこからか、そんな少女の声が聞こえた。
「!?」
周りを見渡すが、誰もいない。もちろん窓の外にも。
明かりをつけても、やはりいない。
と、いうことは……
「もしかしなくても、ミント?」
――正解!
  
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