すこし未来の、ほかの地球で。

noriko

文字の大きさ
33 / 45
約束とはじまりの記憶

32

しおりを挟む
◆◇◆◇
 
 
僕の怪我が治って、リハビリが漸く終わった頃。


いつものように夕飯を食べに食堂へ向かうと、そこにはいつもとは別の光景が広がっていた。


綺麗な模様のテーブルクロス。


いつもより少し、豪華な食器。


僕の正面、部屋の奥には服を正した従業員の人達が真っ直ぐに整列していて。


中央には、――ぼんやりとしか見えないけど――恵さんと、大助たちがいた。


「これは……」


状況が飲み込めないながらも、顔が見えない距離なので、皆の方に向かっていく。


一人一人の姿がだいたい見えるようになった頃、大助は旦那様と圭くんに促されて一歩前に出た。


僕が大助と向かい合う形になったときに、彼は照れ臭そうに言う。


「民人君、ようこそ……河闇家へ」


それと同時に、たくさんの拍手が鳴り響く。


「え、っと……あの……」


「今日はあんたの、歓迎パーティーだよ」


いまいちよくわかっていない僕に、大助が耳打ちしてくれた。


「歓迎……?」


「毎回やるんだ。新年度とか、人を迎え入れるときには必ず」


「迎え、入れる」


言葉の反復ばかりで、我ながら情けない。


「言ったろ? 好きなだけいればいいんだ」


はしゃぐように言う大助。


僕の目の前にいる人達は、みんな微笑んでくれる。


恵さんが手を叩いて、全員に聞かせた。


「さあ、今日は民人の歓迎ついでに親交も深めて……思い切り、たのしんでください!」


その言葉の後、大きな拍手とともに、全員が動き出した。


料理を手にとる人、飲み物を調達する人、様々だった。


僕も大助に連れられて、料理を取りに行く。




此処には本当にいろんな人達がいた。


メイドさん、庭師さん、科学者、研究室の学生さん……。


職業に関係なくみんな和気あいあいとしていて、笑い声が絶えなかった。


「本当に、楽しそう」


僕がぽつりともらした言葉を、大助はしっかり拾っていた。


「あんたも、すぐに馴染めるよ」


「早くみなさんと仲良くできたら、いいな……」


「おう。民人君なら楽勝だよ」


そんな心配をしていたけど……近くに行けば、大助の言った通りみんな気さくに話し掛けてくれて。


研究所の人達には、いつでも見学に来てくれていい、なんて言ってもらえて。


僕は幸せだと、純粋に思えた。


 


パーティーは、テーブルの料理がほとんどなくなった所でお開きになった。


旦那様から解散の旨が伝えられると、部屋にもどっていったり、その場で話し続けたり、みんなは気の向くままに行動していた。


僕は未成年だからお酒は飲めなかったけど、それはもう最後の最後まで飲みまくってふらふらになっている人もちらほらいた(明日の仕事は大丈夫なのかな)。


「民人さん、あなたの歓迎会なのに後片付けだなんて。お部屋でゆっくりお休みください」


僕がテーブルの上の皿を片付けていると、近くにいたメイドさんがどこか焦ったように言う。


「大丈夫ですよ、遠慮しないでください」


「そこは遠慮しろって、民人君。彼女らの仕事がなくなっちゃう」


僕の言葉に、正面で同じように食器を片付ける大助が突っ込む。


「大助様も、遠慮なさってください……」
隣の彼女はため息混じりに言った。


「そんな事言ったって、これだけの仕事をあんたたちだけに任せられないよ」


さっきと言ってることが矛盾してる。


しかし大助が笑いかけると、彼女は顔を赤らめて俯いた。


「ほ、ほどほどにしてください……」


大助、こいつ。僕より年下のくせに、悔しいけど……男前だ。


なんだか悲しくなって、逃げるように洗い場へと向かった。


そこで僕は、見慣れた女性と鉢合わせる。


「あら、民人。あなた何してるの」


「何って……片付けですけど」


僕が答えると、彼女――恵さんは、一度驚いたような表情をしてから、


「あなた、大助くんみたいね」


と言って、思い切り笑い始めた。


「そんなに笑わなくても……僕はいたって真面目にやってるのに」


「ああ……ごめんなさい。あなたも変わってるわね。此処がぴったりだわ」






ひとしきり笑ってから、そんなことを言う。


「此処の人……みんないい人で、安心しました。僕も早く馴染みたい」


「もう充分、馴染めてると思うわ。みんなあなたの事、気にいってるみたいだし」


優しい調子で、流れるように紡がれる言葉が、胸に染み込んでいく。


「僕も、皆さんが大好きです」


ここは、居心地がいい。


そして、今は特に。


「大好き、ねえ」


しかし直後、彼女は先程とは全く対照的な、どこか陰りのある声で呟いた。


「……?」


表情は暗い。


今までに見たことのない、僕が知らない彼女の顔。


恵さんとの距離が、急に遠くなった気がした。


「私は――」


彼女は僕には聞こえていないつもりで呟いたのだろう。


でも、聞こえてしまった。


僕だって、聞きたくはなかった。


――私は、あなたの事は好きになれない。


――それは。


「人として、ですか?」


彼女は、は、と口を抑える。


僕だって、聞かないフリは出来たはずなのに、どうしてこんな事きいたたんだろう。




「……何も、聞かなかったことにして」


彼女はそう言ったきり、俯いて何も言わなくなってしまった。


「恵さん……また、明日」


だから僕は、彼女のことを考えてその場所を後にした。


どういう意味であれ、少なからず頼っていた人に、好きになれないと言われてしまった。


それはとてもショックで、……でも、心のどこかでは思ってしまっていたんだ。


もっと、彼女に近づきたいと。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界配信〜幼馴染みに捨てられた俺を導く神々の声(視聴者)

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

処理中です...