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前編
よく聞かれるのが、「実際大助の事どう思ってる?」という質問。
普段なら、どうって、と笑って濁すが、ここだけの話。
正直、彼は僕の性嗜好に、ジャストミートしている。
薄めで整った顔も、性格も。
あと、それがそもそも、男性の基準が彼だからなのかどうかはわからないけど、今まで関係を持った相手ってだいたい、背格好が彼に似ている。
それじゃあ、大助とどうにかなりたいか、とか、大助とひとつ屋根の下で何か起こらないか? と言われると話は別だったりする。
矛盾してるかもしれないが、彼は恋愛対象では、ないと思っている。
彼が僕をどう思ってるのか知らないけど、
僕は彼を数少ない、大事な友人だと思っており、例えば、彼とヤりたいとかは思ってない。
(でも正直、ヤったらすごい興奮するし、気持ちいのかなとか思うこともあるけど)
自分でも正直、このあたりの折り合いはついてない。
などと考えるにいたったのは、旅先での暇な移動時間を潰すため。
なんでも、大助が、高校の同窓会で高級ホテルのペアチケットが当たったということで、せっかくだから旅行でもどう? と誘われ、3泊4日の旅行に来た。
僕も、せっかくバイトで稼いだお金で羽を伸ばしたくて快諾した。
初日は大助が日中、旅先の知り合いに合うということと、僕は昼間に用事があったので、僕は夜から合流することになっていた。
鉄道の中で駅弁を堪能したが案外早く平らげてしまい、結構時間を持て余していたため、瞑想に至った。
ようやく、そろそろ目的地。
そういえば、大助と旅行なんてはじめてだ。
最寄り駅に到着すると、見慣れた茶髪が手を振っていた。
事前に連絡があったけど、案外早く用事が終わったから、一緒にホテルに向かえるとのことで、駅までわざわざ来てくれたらしい。
「よかったよ、民人くん無事来られて」
「さすがに、電車くらい一人で乗れるよ」
今日の出来事を話しながら、ホテルへのシャトルバスに乗り込む。
当たったホテルというのが、ハイクラスなホテルらしい。
おかげでスーツケースを引っ張らずにホテルまで送迎がついている。
大助がいわゆる御曹司で、ボンボンなのは知ってるけど、こんなホテルが当たる同窓会て、と思った。
悲しいかな、僕にも全部出せるほどの経済力はない。
親友ながら、こういうときに若干、住む世界が違うな……と思ったりする。
ホテルに到着すると、大助はなれた足取りでフロントに向かう。
名前を告げると、感じのいい女性が予約の確認を始める。
「お待ちしておりました。本日から3泊、禁煙ダブル セミスイートのお部屋でお間違いないですか?」
「……はい」
あまりホテルに慣れてないので、女性の言ったことが呪文のように思えた。
大助は僕をちら、と見てから、返事をした。
まあ、大助がいいなら間違いないだろう。
……と考えていたことの甘さを、後で思い知るわけだが。
大助はなにやら用紙に記入をし、カードキーと朝食券を受け取ると、受け付けに一礼して踵を返した。
「さ、15階だって」
料金は後精算らしい。
「結構上だね」
「いい部屋だからね」
別のスタッフに声をかけられ、エレベーターまで誘導される。
なんでも、荷物も運んでくれるし、部屋の案内とかしてくれるらしい。
なんて至れり尽くせリとは、こういうことである。
品のいい廊下を歩いた突き当りに、僕たちに用意された部屋があった。
スタッフの人は荷物を運び入れて、かんたんな説明をすると、深々と礼をして戻っていった。
広々とした客室に、テンションが上がる。
「さ、一通り見ようぜ」
ベッドルームに嬉々として向かうと、僕が想像していたのと若干違っていた。
「あれ? ベッド一つしかない」
ソファ、ポット、机。そのへんは想像どおりだったけど。
二人部屋なのに、やたらでかいのが一つあるだけ。
「そりゃ、ダブルだから」
驚く僕に、大助が、少し目をそらしながら答える。
「あ、そういう意味? ベッド2つは?」
「ツイン」
「へ、へえ。難しいね」
いや、僕が知らなすぎるだけか。
「悪い、ちゃんと確認しとけばよかったな。ごめんな。ほら、ペアチケットって結局、カップル用だから。俺が当てちゃったから民人くんと来てるけど。ああ、気になるなら俺はソファで……」
「いやいや、全然。この広さなら充分だよ。それに、大助だし」
実際、四人くらい並べそうな広さだった。
あと、冒頭にも言ったけど、僕は大助に対して、変な気も起きない、ので。
「……ならよかった」
「しかし、すごい部屋。全面ガラス張り」
しかし、ベッドルームは角部屋ということもあって、大きな窓が2方向に展開されている。
「眺めが最高だね。ほら、民人くんあそこ、港」
「すげー、何あの光?工場?」
「向こう、うちの会社の工場」
「うわ、でっけー。大助の家ってやっぱすごいな」
「ハハ、俺は行ったことないけどね。写真だけ」
二人で並んて景色を見てるだけで、かなり話が弾む。
なるほど、この部屋は恋人が愛を語らうにはもってこいの部屋なわけだ。
そんな部屋を友達旅行で3日も専有してしまい、どこかのカップルに申し訳ない。
……なんて、他人事のように言ってたけど。
その夜。
あろうことか僕は、隣に眠る大助に、夢の中で抱かれていた。
昨日、あんなことを考えてしまったからか、それとも、こんな至近距離にいるからか。
ちょうど今泊まってるみたいな部屋で、裸になって乱れ合うその、抱かれ心地とかは完全に想像だけれど、やはり悪くなかった。
というか、とても、興奮してしまった。
……結局、どれだけ親友だと言い聞かせても、好みは好みなわけで。
きっかけがあったら理性なんて脆いものなのかもしれない、と諦めざるを得なかった。
「あー、なんて夢……」
だからこそ、とりあえず、夢で良かった。
現実だったらもう、僕は完全にハマっていたと思う。
とりあえず良かった、けど、身体が完全に火照っている。
そもそも淫夢自体、久々に見たんだけど、そんなに欲求不満だったのか?
自問自答しても、身体が答えを出している状況では仕方がなくて、こうなったら自分でなんとかするしかない。
……隣に情事の相手がいる状況じゃ、多分ほっといてどうにかはならないだろう。
すやすやと眠る大助を起こさぬようにベッドから這い出て、ホテルの間取り図を見る。
この部屋以外で個室になれるところ、あるわけないか。
冷静に考えて、あったところで自慰をしていいはずもなく。
一つため息をついて、そろりと浴室へ向かう。
トイレ、洗面所とシャワールームとの間は、ガラス張りで仕切られている、その仕切の向こうに足を踏み入れる。
寝室とは壁一枚というのはだいぶ心許ないが、今考える中で一番まともな選択肢だ。
朝シャワーを浴びるてい、でいればいい。
寝間着を脱いで、少し冷えるその空間を、シャワーで温めてから、己の火照りを収めていく。
前さえなんとかすれば。
そう思い、固くなった自身を右手で包み込む。
こんな高級ホテルで自慰だなんて、なんとも虚しいものである。
……だからって、誰かに相手をしてもらうわけにもいかないけど。
「んっ……」
先端から溢れる液を手にまとわせて、潤滑剤がわりにする。
刺激するとどうしても、今朝の淫らな夢が思い起こされる。
彼も、こうやって僕のと、彼のをまとめて握って愛していた。
僕はその彼の胸板に手を押し付けたり、彼の背中に手を回して、快感から逃れようとする。
「っ……はあ……」
彼は僕の名前を呼びながら、時々、首やら胸元やらに吸い付き、痕を残していく。
そして、僕の口の中をかき回す。
そんなことを思い出したら、左手の指で、自分の口の中を弄っていた。
あんなに鮮明に、大助に抱かれてしまって。
それで、思い出しながら一人で乱れるなんて。
ああ、シたい。
手短に自身だけ慰めるつもりだったのに、気づいたら固くなったそれを放り出して、胸を撫で回す。
大助との情事をなぞるように。
そう、こんなふうに、僕の胸を愛おしそうに撫でていた。
「ぁっ……」
赤く腫れ上がった突起に触れて、僕が声を上げると、楽しそうに、そこばかり刺激する。
「んっ……はぁ……」
自らの足が、はしたなく開いていく。
どろどろにみだれた下半身の中で、後ろが疼く。
――最後に使ったの、いつだったっけ。
でも、欲しい。
そこは、鮮明に、男の形を覚えている。
まるで昨日、本当に抱かれたかのように。
「ぁあ……キて……」
必死に這わせても、指じゃ、全然足りない。
掻き回しても、欲しいのは、もっと奥で。
突き上げてほしい。
昨日の夢みたいに、揺さぶってほしい。
「はあっ……ア……ンっ……」
辛うじてかき集めた快感で、果へ上り詰める。
もう、壁の向こうに大助がいるとか、気にしてなかった。
むしろ、どうせいるなら。
「はぁ、ア、だい、すけぇ……キちゃうっ……!」
……どうやら僕は、もう、後戻りができないようだった。
とっぷりと先端から液が溢れるのを見つめながら、どこか物足りなさを感じる。
要するに、大助をオカズに気持ちよくなってしまったので、罪悪感はちょっとあるけれど、それ以上に、彼と本当にセックスしたくて仕方がなくなってしまったのが正直なところ。
まだ火照りの残る身体を、とりあえずシャワーで洗い流してから、適当に寝間着を羽織って浴室を後にする。
「久々にシたいなあ……」
――さすがにアレだけ声出してたら、聞かれてしまっただろうか。
そこには、焦りが2割、期待が8割。
平静を装って寝室へ戻ると、そこにはベッドの上で土下座みたくうずくまっている大助がいた。
「……大助?」
「……民人くん、朝からホテルで何してるの」
そのとおりかもしれないけど、こっちの台詞だよ。
「それより、その格好……」
「無理。動けない」
どうやら僕の顔も見たくないようです。
そりゃ、そうか。
親友が自分でオナニーしてたらショックだよな。
「……ごめん、悪かったよ大助、僕もちょっとやりすぎたよ」
肩に手をおいて起き上がらせようとするけど、頑なに起きたがらない。
「ごめん、あんまり、触らないで」
こんな突き放されるのは初めてで、後頭部に氷水を食らったようだった。
でも、当たり前か。
性欲とは浅はかなもので、普通の友人関係なら、こうなることすら考えられずに致してしまった自分の愚行に、拒絶されてようやく気づくのだ。
「……そうだよね、ごめん、今日は別行動にしよっか」
「……」
きっと、僕と距離を置きたいだろう。
一人にしてあげようと部屋を出ようとすると。
「……待って」
裾を引っ張られ、呼び止められる。
「どうしたの」
「別行動って、何するの」
「何って……」
特に考えていなかったけれど、大助の声が、明らかに不安そうで。
「民人くんさっき、久々にシたいって言ってたよね。何しにいくの」
邪推。
でも、これで大助の言いたいことはわかった。
どうやら、僕が持て余した性欲を誰かで発散しに行くと思っているらしい。
「ちょっと、考え過ぎだよ。これでも一応、相手は選ぶから……って」
さっきオカズにした相手に何を言ってるんだ。
しかし、大助は想像とは違う反応を返した。
「……それ、俺は選ばれたってこと?」
「え?」
久々に上げた顔は紅潮しており、口の端からは血が流れていた。
よく見たら唇も切れていて、噛み締めた跡だとわかった。
「さっき、俺の名前、呼んでたよね」
「……大助、その口、どうしたの」
「聞かせてよ、相手は選ぶって、何」
大助は、何かを耐えていた。
その理由が、意味が、たぶん僕の答えにかかっている。
「ヤれるなら誰でもいいわけじゃないってこと、これ以上は……」
そこまで言って、腕を引かれる。
体勢をくずして、あっという間に大助にベッドの上で抱とめられた。
「……俺は、こういうこと、してもいいってこと?」
そう言って、僕の寝間着の、ボタンに手をかける。
夢にまで見た大助との情事が、すぐそこに。
「はは、夢のつづきだ」
「意味わかんねえ」
笑う僕の唇が、半ば強引に塞がれる。
大助との初めてのキスは、めちゃくちゃ血の味がした。
普段なら、どうって、と笑って濁すが、ここだけの話。
正直、彼は僕の性嗜好に、ジャストミートしている。
薄めで整った顔も、性格も。
あと、それがそもそも、男性の基準が彼だからなのかどうかはわからないけど、今まで関係を持った相手ってだいたい、背格好が彼に似ている。
それじゃあ、大助とどうにかなりたいか、とか、大助とひとつ屋根の下で何か起こらないか? と言われると話は別だったりする。
矛盾してるかもしれないが、彼は恋愛対象では、ないと思っている。
彼が僕をどう思ってるのか知らないけど、
僕は彼を数少ない、大事な友人だと思っており、例えば、彼とヤりたいとかは思ってない。
(でも正直、ヤったらすごい興奮するし、気持ちいのかなとか思うこともあるけど)
自分でも正直、このあたりの折り合いはついてない。
などと考えるにいたったのは、旅先での暇な移動時間を潰すため。
なんでも、大助が、高校の同窓会で高級ホテルのペアチケットが当たったということで、せっかくだから旅行でもどう? と誘われ、3泊4日の旅行に来た。
僕も、せっかくバイトで稼いだお金で羽を伸ばしたくて快諾した。
初日は大助が日中、旅先の知り合いに合うということと、僕は昼間に用事があったので、僕は夜から合流することになっていた。
鉄道の中で駅弁を堪能したが案外早く平らげてしまい、結構時間を持て余していたため、瞑想に至った。
ようやく、そろそろ目的地。
そういえば、大助と旅行なんてはじめてだ。
最寄り駅に到着すると、見慣れた茶髪が手を振っていた。
事前に連絡があったけど、案外早く用事が終わったから、一緒にホテルに向かえるとのことで、駅までわざわざ来てくれたらしい。
「よかったよ、民人くん無事来られて」
「さすがに、電車くらい一人で乗れるよ」
今日の出来事を話しながら、ホテルへのシャトルバスに乗り込む。
当たったホテルというのが、ハイクラスなホテルらしい。
おかげでスーツケースを引っ張らずにホテルまで送迎がついている。
大助がいわゆる御曹司で、ボンボンなのは知ってるけど、こんなホテルが当たる同窓会て、と思った。
悲しいかな、僕にも全部出せるほどの経済力はない。
親友ながら、こういうときに若干、住む世界が違うな……と思ったりする。
ホテルに到着すると、大助はなれた足取りでフロントに向かう。
名前を告げると、感じのいい女性が予約の確認を始める。
「お待ちしておりました。本日から3泊、禁煙ダブル セミスイートのお部屋でお間違いないですか?」
「……はい」
あまりホテルに慣れてないので、女性の言ったことが呪文のように思えた。
大助は僕をちら、と見てから、返事をした。
まあ、大助がいいなら間違いないだろう。
……と考えていたことの甘さを、後で思い知るわけだが。
大助はなにやら用紙に記入をし、カードキーと朝食券を受け取ると、受け付けに一礼して踵を返した。
「さ、15階だって」
料金は後精算らしい。
「結構上だね」
「いい部屋だからね」
別のスタッフに声をかけられ、エレベーターまで誘導される。
なんでも、荷物も運んでくれるし、部屋の案内とかしてくれるらしい。
なんて至れり尽くせリとは、こういうことである。
品のいい廊下を歩いた突き当りに、僕たちに用意された部屋があった。
スタッフの人は荷物を運び入れて、かんたんな説明をすると、深々と礼をして戻っていった。
広々とした客室に、テンションが上がる。
「さ、一通り見ようぜ」
ベッドルームに嬉々として向かうと、僕が想像していたのと若干違っていた。
「あれ? ベッド一つしかない」
ソファ、ポット、机。そのへんは想像どおりだったけど。
二人部屋なのに、やたらでかいのが一つあるだけ。
「そりゃ、ダブルだから」
驚く僕に、大助が、少し目をそらしながら答える。
「あ、そういう意味? ベッド2つは?」
「ツイン」
「へ、へえ。難しいね」
いや、僕が知らなすぎるだけか。
「悪い、ちゃんと確認しとけばよかったな。ごめんな。ほら、ペアチケットって結局、カップル用だから。俺が当てちゃったから民人くんと来てるけど。ああ、気になるなら俺はソファで……」
「いやいや、全然。この広さなら充分だよ。それに、大助だし」
実際、四人くらい並べそうな広さだった。
あと、冒頭にも言ったけど、僕は大助に対して、変な気も起きない、ので。
「……ならよかった」
「しかし、すごい部屋。全面ガラス張り」
しかし、ベッドルームは角部屋ということもあって、大きな窓が2方向に展開されている。
「眺めが最高だね。ほら、民人くんあそこ、港」
「すげー、何あの光?工場?」
「向こう、うちの会社の工場」
「うわ、でっけー。大助の家ってやっぱすごいな」
「ハハ、俺は行ったことないけどね。写真だけ」
二人で並んて景色を見てるだけで、かなり話が弾む。
なるほど、この部屋は恋人が愛を語らうにはもってこいの部屋なわけだ。
そんな部屋を友達旅行で3日も専有してしまい、どこかのカップルに申し訳ない。
……なんて、他人事のように言ってたけど。
その夜。
あろうことか僕は、隣に眠る大助に、夢の中で抱かれていた。
昨日、あんなことを考えてしまったからか、それとも、こんな至近距離にいるからか。
ちょうど今泊まってるみたいな部屋で、裸になって乱れ合うその、抱かれ心地とかは完全に想像だけれど、やはり悪くなかった。
というか、とても、興奮してしまった。
……結局、どれだけ親友だと言い聞かせても、好みは好みなわけで。
きっかけがあったら理性なんて脆いものなのかもしれない、と諦めざるを得なかった。
「あー、なんて夢……」
だからこそ、とりあえず、夢で良かった。
現実だったらもう、僕は完全にハマっていたと思う。
とりあえず良かった、けど、身体が完全に火照っている。
そもそも淫夢自体、久々に見たんだけど、そんなに欲求不満だったのか?
自問自答しても、身体が答えを出している状況では仕方がなくて、こうなったら自分でなんとかするしかない。
……隣に情事の相手がいる状況じゃ、多分ほっといてどうにかはならないだろう。
すやすやと眠る大助を起こさぬようにベッドから這い出て、ホテルの間取り図を見る。
この部屋以外で個室になれるところ、あるわけないか。
冷静に考えて、あったところで自慰をしていいはずもなく。
一つため息をついて、そろりと浴室へ向かう。
トイレ、洗面所とシャワールームとの間は、ガラス張りで仕切られている、その仕切の向こうに足を踏み入れる。
寝室とは壁一枚というのはだいぶ心許ないが、今考える中で一番まともな選択肢だ。
朝シャワーを浴びるてい、でいればいい。
寝間着を脱いで、少し冷えるその空間を、シャワーで温めてから、己の火照りを収めていく。
前さえなんとかすれば。
そう思い、固くなった自身を右手で包み込む。
こんな高級ホテルで自慰だなんて、なんとも虚しいものである。
……だからって、誰かに相手をしてもらうわけにもいかないけど。
「んっ……」
先端から溢れる液を手にまとわせて、潤滑剤がわりにする。
刺激するとどうしても、今朝の淫らな夢が思い起こされる。
彼も、こうやって僕のと、彼のをまとめて握って愛していた。
僕はその彼の胸板に手を押し付けたり、彼の背中に手を回して、快感から逃れようとする。
「っ……はあ……」
彼は僕の名前を呼びながら、時々、首やら胸元やらに吸い付き、痕を残していく。
そして、僕の口の中をかき回す。
そんなことを思い出したら、左手の指で、自分の口の中を弄っていた。
あんなに鮮明に、大助に抱かれてしまって。
それで、思い出しながら一人で乱れるなんて。
ああ、シたい。
手短に自身だけ慰めるつもりだったのに、気づいたら固くなったそれを放り出して、胸を撫で回す。
大助との情事をなぞるように。
そう、こんなふうに、僕の胸を愛おしそうに撫でていた。
「ぁっ……」
赤く腫れ上がった突起に触れて、僕が声を上げると、楽しそうに、そこばかり刺激する。
「んっ……はぁ……」
自らの足が、はしたなく開いていく。
どろどろにみだれた下半身の中で、後ろが疼く。
――最後に使ったの、いつだったっけ。
でも、欲しい。
そこは、鮮明に、男の形を覚えている。
まるで昨日、本当に抱かれたかのように。
「ぁあ……キて……」
必死に這わせても、指じゃ、全然足りない。
掻き回しても、欲しいのは、もっと奥で。
突き上げてほしい。
昨日の夢みたいに、揺さぶってほしい。
「はあっ……ア……ンっ……」
辛うじてかき集めた快感で、果へ上り詰める。
もう、壁の向こうに大助がいるとか、気にしてなかった。
むしろ、どうせいるなら。
「はぁ、ア、だい、すけぇ……キちゃうっ……!」
……どうやら僕は、もう、後戻りができないようだった。
とっぷりと先端から液が溢れるのを見つめながら、どこか物足りなさを感じる。
要するに、大助をオカズに気持ちよくなってしまったので、罪悪感はちょっとあるけれど、それ以上に、彼と本当にセックスしたくて仕方がなくなってしまったのが正直なところ。
まだ火照りの残る身体を、とりあえずシャワーで洗い流してから、適当に寝間着を羽織って浴室を後にする。
「久々にシたいなあ……」
――さすがにアレだけ声出してたら、聞かれてしまっただろうか。
そこには、焦りが2割、期待が8割。
平静を装って寝室へ戻ると、そこにはベッドの上で土下座みたくうずくまっている大助がいた。
「……大助?」
「……民人くん、朝からホテルで何してるの」
そのとおりかもしれないけど、こっちの台詞だよ。
「それより、その格好……」
「無理。動けない」
どうやら僕の顔も見たくないようです。
そりゃ、そうか。
親友が自分でオナニーしてたらショックだよな。
「……ごめん、悪かったよ大助、僕もちょっとやりすぎたよ」
肩に手をおいて起き上がらせようとするけど、頑なに起きたがらない。
「ごめん、あんまり、触らないで」
こんな突き放されるのは初めてで、後頭部に氷水を食らったようだった。
でも、当たり前か。
性欲とは浅はかなもので、普通の友人関係なら、こうなることすら考えられずに致してしまった自分の愚行に、拒絶されてようやく気づくのだ。
「……そうだよね、ごめん、今日は別行動にしよっか」
「……」
きっと、僕と距離を置きたいだろう。
一人にしてあげようと部屋を出ようとすると。
「……待って」
裾を引っ張られ、呼び止められる。
「どうしたの」
「別行動って、何するの」
「何って……」
特に考えていなかったけれど、大助の声が、明らかに不安そうで。
「民人くんさっき、久々にシたいって言ってたよね。何しにいくの」
邪推。
でも、これで大助の言いたいことはわかった。
どうやら、僕が持て余した性欲を誰かで発散しに行くと思っているらしい。
「ちょっと、考え過ぎだよ。これでも一応、相手は選ぶから……って」
さっきオカズにした相手に何を言ってるんだ。
しかし、大助は想像とは違う反応を返した。
「……それ、俺は選ばれたってこと?」
「え?」
久々に上げた顔は紅潮しており、口の端からは血が流れていた。
よく見たら唇も切れていて、噛み締めた跡だとわかった。
「さっき、俺の名前、呼んでたよね」
「……大助、その口、どうしたの」
「聞かせてよ、相手は選ぶって、何」
大助は、何かを耐えていた。
その理由が、意味が、たぶん僕の答えにかかっている。
「ヤれるなら誰でもいいわけじゃないってこと、これ以上は……」
そこまで言って、腕を引かれる。
体勢をくずして、あっという間に大助にベッドの上で抱とめられた。
「……俺は、こういうこと、してもいいってこと?」
そう言って、僕の寝間着の、ボタンに手をかける。
夢にまで見た大助との情事が、すぐそこに。
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