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第1章 新しい世界と出会い

第67話 経験の差

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「んで、どうするよ。街に戻るにしても、ギリギリやで?」
「しかし、今から蜘蛛のエリアを抜けるとなると……それも厳しいだろう」
「せやなぁ……」

 蛇と戦い終わり、木の穴へと戻ってきた僕を待っていたのは、すでに戦い終わっていた2人。
 聞いたところ猪と蛇数匹が相手だったらしく、アルさんが猪を、トーマ君が蛇を倒したらしい。
 それも、5分足らずで倒したみたいで、早々に戻ってきたってさ。
 やっぱり僕と2人とじゃ、強さが段違いだなぁ。
 っと、それよりも今は――

「トーマ君。夜の森って昼に比べるとどうなるの?」
「せやな……夜は昼に比べて蛇が出やすくなるで」
「蛇……」
「ま、蛇は突っこんでくる勢いを利用して、口元から切り裂いてやりゃ楽よ」
「そ、そうなんだ……。先に知っておきたかったよ……」

 実際、蛇が硬かったのは鱗だけだったし、鱗さえ避ければ攻撃は通ったんだよね。
 そう考えてみれば……トーマ君の倒し方が一番理に適ってるのかもしれない。

 なんにしても、森から帰ったら、武器の使い方をまた練習しよう……。
 今のままじゃ、まだまだ足りないことだらけだ。

「それで、どうする。門への時間も厳しいならば、再度蜘蛛のエリアに行ってみるか?」
「せやなぁ……。あんまし時間掛けすぎてもアカンやろうし、一気に抜けるしかないな」
「で、でもさっきみたいな事があったら……」
「なら俺が先行するわ。んで、確認次第連絡ってのはどないや」
「そうだな。トーマには負担を掛けるが……その方法が一番か」

 トーマ君の案にアルさんも頷いて、向かう方向や、連絡のタイミングなんかを話し合っていく。
 そんな中、僕は傍で浮くシルフと目を合わせ……無言で頷きあった。
 ……そうだね。

「トーマ君。シルフを連れていって」
「あん? なんでや」
「シルフなら僕と即座に念話が出来るし、戦えないにしてもサポートは可能だから」
「トーマ様。私からもお願いします」

 深く頭を下げたシルフに、トーマ君は一瞬驚きつつも、気を取り直し少し意地悪げに笑う。
 そして「ついてこれたら来てみ!」なんて言葉を口にして、穴の外へと駆け出していった。
 そんな彼の後をシルフが慌てつつも追いかけていき……一瞬で僕の視界から2人の姿が消えた。

「相変わらず、だな」
「そうですね……」

 シルフには透明化があるからわかるけど……トーマ君は生身の人間なんだよね?
 精霊と同じレベルで視界から消えるって、あながちさっきの言葉も本気だったのかも知れない。

「さて、遅くなる前に俺たちも出よう。奥に向かいながら、情報次第で向かう場所を変えていくぞ」
「はい!」

 HPが最大まで回復してることを確認しつつ、いざという時のためにウエストポーチのポーションを補充しておいた。
 ひとまず、蜘蛛のエリアを抜ければ湖に辿りつける。
 そのために必要なことなら、僕もやっておかないとね。

 「行くぞ」と短く言葉を切ったアルさんが、穴から外へ出て森の中へと入っていく。
 その後ろを追う僕が歩きやすいように、飛び出した枝を払ったり、木の根なんかは大袈裟に避けて見せてくれる。
 こういった技術も……経験から来るものなんだろうな。
 僕も頑張らないと!



(アキ様。先ほどの道はやはり通れないようです。今、トーマ様が別の道を探されていますので、合流は少しお待ち頂ければ)
(うん、わかった。アルさんにも伝えておくね)

 進んでいく僕の頭の中に、突如シルフの声が響き、今の状況を伝えてくれた。
 さっきの道が通れない、か……ある意味予想通りの状態ってことかな。

「っと、アルさん。シルフから連絡ありましたよ」
「ほう?」
「やっぱりさっきの道は使えないみたいです。だから、トーマ君が別ルートを探してるって」
「なるほど。予想はしていたが……その通りだったか。なら合流は少し遅らせよう」
「了解です」

 そう言ってアルさんは、木に背を当て、息を吐く。
 歩いていると言っても、雨の中……それに、視界が悪い夜の時間だ。
 僕以上に警戒して歩いてるだろうし、疲れるのも仕方ないか。

「む、少しすまない」

 手を額に当て、アルさんが頷くように何度か首を振る。
 もしかするとトーマ君から定期連絡の念話が来たのかもしれない。
 なら今は下手に話しかけない方が良いだろうと、警戒するように周囲を見まわした僕の目が、ある植物を見つける。

「あれって、確か……」

 その植物の前に移動して、膝を折りつつ手を伸ばす。
 細い蔓を伸ばしつつ、所々にある葉は、端がギザギザとしたノコギリのような形をしていて……。

「そうか……雨だから開くのか」

 お皿のように開かれた葉……それはジェルビンさんが教えてくれた、解毒薬のための素材。
 つまり、カンネリの葉がそこにあった。
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