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第2章 現実と仮想現実

第143話 認めることができません

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「え!? いや、ちょっとまって!?」

 そんな僕の制止も、大きな拍手と歓声に書き消されて、隣の彼女にすら届かない。
 しかし、聞こえずとも察知してくれたのだろう……。
 反対側にいたオリオンさんが、彼女の手から僕の手を解くと、空の方の手をまっすぐ上へと上げた。

「皆様、少々お待ち下さい。彼女の台頭に異を唱えるわけではございませんが、本人の意思確認もなしに定めることに対しては、彼女の友人として、認めることができません」
「オリオンさん……」

 毅然とした態度を見せるオリオンさんのその言葉に、沸いていた拍手や歓声も静まり、そこかしこで「そういわれてみれば、そうだな」といった声が聞こえてくる。
 そんな状況を確認し、オリオンさんはさらに言葉を発した。

「そこで、まずは各部門ごとに代表者を選出し、その中からさらにここのトップを決める方法はいかがでしょうか? あなた方も、自分の分野を知らないプレイヤーに指示されるのは少し厳しいものがあるかと思いますので」
「そう言われると確かにね。でも、そうなると数人必要になってくるわよ? ……全部で何人を選ぶのかしら?」
「そうですね……今、この拠点では大きく3つの部門に分けられていますので、そちらにならい、3人を選ぶのはいかがでしょうか? 3人であれば奇数になりますので、意見もまとめやすいかと」

 当事者であったはずの僕を置いて、オリオンさん達は次々に話を進めていく。
 というか、ちょっと待って……?
 僕が立てられることは確定してるの!?

「お、オリオンさん! 僕はそんな!」
「まぁまぁ、アキさん。私もサポートさせていただきますので……。それに……いざというときの味方は多い方がいいでしよう?」
「味方……?」

 僕の言葉に、彼は静かに頷き耳元で「昨日の件などの対策にはなるかと」と、囁いた。
 対策に……なるのかな?
 でも言われてみれば、噂で僕のことを知ってる程度って人は生産プレイヤーにも多い……よね。
 それなら、僕のことを実際に知ってもらえば、少しくらいは味方になってくれる人も増える……といいなぁ……。

「ということで、こちらの調薬、調理プレイヤーの代表はアキさんということで」
「う、うぅ……仕方ない、かぁ……」

 せめてシルフでもいてくれたらいいのに……。
 そう思って右手の印を左手の指で軽く触れる。
 少しだけ意識を向けても、シルフとの繋がりは昨日確認した時と変わらない程度しか感じられない。
 ……いや、なんだか……大きく……いや、気のせいかな。

「では、一時間後に代表同士での会議を行いたいと思いますので、他2部門のプレイヤーからも代表を選抜していただくよう、よろしくお願い致します」

 僕がシルフとの繋がりを確認している間にも話は進み、どうやらこの後、会議をすることになっていたようだ。
 なんについて話をするのかな……。
 各部門ごとに集まるためか、まばらになっていく人を見つつ、僕は隣に立っていたオリオンさんの肩を叩く。
 
「あの、オリオンさん」
「はい。いかがいたしました?」
「その、僕は何をすれば……」
「そうですね……。アキさんは散歩でもしましょうか?」
「え? 散歩?」
「えぇ、散歩です」

 いつものオリオンさんらしい、柔らかな微笑みと共に、彼はそんなことを言い出す。
 いや、なにかはわかるけど、なんで……?
 例えば会議の打ち合わせとか、そういったことはしなくていいの……?

「アキさんには、こちらの拠点内部をご覧になられておく方が良いかと思いますので」
「そう、ですか……?」
「ええ。それに今の時間であれば、ほとんどの戦闘プレイヤー様は探索に行かれてるでしょうし、気兼ねなく見てまわれるかと」

 なるほど……。
 それなら確かに今のうちに拠点内部を見てまわっておいた方がいいかな……。
 会議しようにも、内部のことを知らなかったら意味がないしね。

「わかりました。それじゃ、僕はちょっと出てこようかと思います」
「はい。お気をつけて。私はこちらにおりますので、何かあれば念話を飛ばしてください。すぐにでも駆けつけますので」
「あ、ありがとうございます……」

 オリオンさんは軽く手をあげて、僕を見送ってくれる。
 その動きで他の人も気づいたのか、みんなが手を振って送ってくれる。
 な、なんだかすごい大物扱いされてるような……気がするよ!?
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