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2. 通学路

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ミンミンミンミンミンミン―――。

 外に出ると、一層に大きく脳内に響いてくるセミの聲。この音を聞いているだけでも、体感気温が2~3度上がってくる気さえしてくる。

 千夜子の通う小学校は同じ方向にあるので途中までは一緒に向かう。

「あ゛ぁ~、あづい~~。溶ける~~。」

「おにぃ、直射日光苦手だもんね。」

「おいおい、そんな人を吸血鬼みたいに言うなよ・・・」

「そんなに苦手だったら日傘でも差したら?」

「えぇ...?男が日傘差すのって、なんか変じゃないか?」

「そうかなぁ?ジェントルマンって感じでカッコイイと思うけどなー。」

「いやいや、あの可愛らしいピンクの日傘じゃそうはならないと思うぞ。」

「え?それってあのママが使ってた日傘の事言ってる…?」

「え...?ウチにアレ以外の日傘なんてあったっけ?」

「もー!日傘くらい新しく買えばいいじゃん。それともわたしが買ってあげようか?おにぃもうすぐ誕生日だし。」

「日傘かぁ...どうなんだろなあ・・・」


「おはよう!お二人さん。」
不意に背後から声をかけられる。

「あ、かけるにぃだ。おはよー。」

「ウンウン、千夜子ちゃんは今日も可愛いね~。」

「・・・・・・。」
バシッ―― バシッ――!

「イテッ、いてっ!ちょ・・・っ、やめろって夕也...無言でシバいてくるな!」

「お前みたいなチャラ男に千夜子はやらん。」

「そんなんじゃねえって...ってか、誰がチャラ男だ!」

 こいつは”かける”。知り合ったのは中学に入ってからで、一年の時に同じクラスだった。所属は陸上部で大した接点も無かったが、通学路で何度も出会うため自然と話すようになっていった。今朝みたいに千夜子との通学中に会うこともあり、その時はこうして途中の交差点まで三人で一緒に通学している。

「そんなことより...翔はさぁ、男が日傘差して歩いてるのってどう思う?」

「日傘?」

「おにぃに日傘でも差したら?って言ったんだけど、変じゃないかって気にしてるの…。」

「お前が日差しに弱いのはみんな知ってるし、今更どうも思わないんじゃねえの?」

「僕がどうとかじゃなくて…あくまで一般的に見ての話だよ。」

「うーん...俺はいいと思うけどなあ。英国貴族っぽくてカッコイイし!」

「ほら!翔にぃもこういってるじゃん。」

「いや...どっちにしても目立つのは間違いないし・・・」

「あーっ!信号変わってる!じゃあわたし行くねー。」
 千夜子は急いで小走りで駆けていく。

「おう!いってらっしゃーい。」
「急ぐと危ないぞー!気を付けてなー。」

 パタパタと揺れる――、今風な水色のランドセルを見送った後、二人になった僕たちも学校へと歩き始める。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・そんなに気になる?人目。」

「…まあ、それもあるけど...千夜子が誕生日プレゼントに買ってくれるって言うからさ・・・」

「ああ、そろそろだもんな。でも...それならもっと喜べばいいじゃん?大好きな妹ちゃんからの贈り物なんだし。」

「だってさ・・・日傘って1000円じゃ買えないよな?」

「あー...そっちか・・・。
 まあ確かに、小4がする兄貴へのプレゼントとしてはちょっと高いかもな…。
 お!じゃあさ、俺が一緒に出して二人からのプレゼントって事にするのはどう?」

「んー...?でも…お前はいいのか?」

「ああ!丁度俺もプレゼント何にしようかって悩んでたトコだったしさ。」

「ならいいけど・・・
 でも、それって...翔と千夜子が二人で日傘を買いに行くってことだよな。」

「ん…?まあ、そうなるな…。」

「・・・・・・。
 ヘンな事したら……す・・・。」

「何もしないって!ていうか...途中よく聞こえなかったけど…恐っ!」


 学校に着くまでの間、こんな風に何気ない会話を交わす日常―――。
 今はまだ実感が湧かないが、こういう日常が送れている僕はきっと恵まれているのだろう―――。
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