掌編まとめ(810以内の短編集)

くろひつじ

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変わりゆくもの、変わりゆく心

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テーマ:バレンタイン

 小学生の頃は、よくお菓子を貰う日だなと思っていた。
 僕の家にはお母さんがいなくて、お父さんも仕事であまりいないから、どうしたらいいか分からなくて先生に相談した。

 お菓子をたくさんもらったけど、大丈夫ですか?
 学校にお菓子を持って来て怒られませんか?

 先生は優しく笑いながら。

 今日だけは大丈夫だよ。良かったね。

 そう言って頭を撫でてくれた。



 中学生の頃は、僕にはよく分からない行事だと思っていた。
 たくさんのチョコレートを貰ったけれど、甘いものは苦手なんだけどな、とか思っていた。
 周りが浮かれ騒ぐ中、一人で不思議に思っていたけれど、受験勉強に忙しくてそれどころでは無かったというのもある。
 たまたまお父さんが家に居たので相談してみても。

 そういうものだ。お前もいつか分かるだろう。

 そう言いながら、笑われてしまった。



 そして、高校生。
 一人称が「僕」から「私」になった時、生まれて初めて手作りチョコを作った。
 教えてくれる人もおらず、動画やレシピサイトを見ながらの試行錯誤。
 何度も何度も失敗した。
 それでも諦めず、納得がいく物を作り上げた。

 可愛いと言ってもらいたくて、初めて私服でスカートを履いた。
 ファッション誌を参考にして、服を買ったり髪を整えたりしてみた。
 そうして準備が整ったから、君の下駄箱に小さな手紙を残した訳だよ。


 正直に言おう。私はすごくビビっている。
 君に受け取ってもらえないかも知れないと思うと、心の中はぐちゃぐちゃだ。
 今までの人生でこんなに悩んだことは無かったよ。
 それでも私は、君に直接手渡したかったんだ。

 よく男っぽいとか言われるけど、私だって女なんだ。
 好きな人にチョコレートを渡したい。
 もちろん、あげるのは君だけだよ。



 私の気持ちを受け取ってもらえますか?



 震えながら伸ばした手。
 そこからチョコレートと受け取り、ありがとうとそっぽを向きながら言ってくれた。
 そして、小さな声で、私とは目も合わさずに、一言。


「実は、俺もお前の事が……」
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