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18話「まぁ、悪い気はしないな」
しおりを挟む冒険者ギルドの奥にあるテーブルを借りて、三人で弁当を平らげた。
久々のまともな飯って事もあったけど、それを差っ引いても美味かった。
やっぱ唐揚げはオウカ食堂が一番だわ。
アルもサウレも満足したようで、食後のお茶をのんびりと飲んでいる。
その間に、依頼書をまとめて置いている受付の方に行ってみた。
しかし、やはり護衛依頼なんてものは残って無いらしい。
予想出来てた事だけど、少し残念だ。
「受付さん、解体所はどこですか?」
「はいはーい。ギルドの裏手なんでここで大丈夫ですよー」
「了解、ただ結構量あるんでここだと溢れますね」
「それじゃ裏に直接お願いしまーす」
「りょーかいです。アル、サウレ! ちょっと解体頼んで来るわ!」
二人に声をかけて裏口から解体所に向かう。
解体所と言っても大した設備がある訳ではなく、デカい作業台と倉庫、それに水場があるだけの大きな部屋だ。
その中で、筋肉質な男たちが解体用のナイフやノコギリを持って忙しそうにしている。
「すんませーん。解体お願いできますかー?」
「あいよ! そこの台に獲物出してくれい!」
「あいあいさー!」
マジックボックスに放り入れていた魔物をドサッと全部出してみた。
うわぁ。改めて見るとすごい量だな。
砂の都エッセルから数えたら何十匹ってレベルだもんなー。
「うお!? こりゃまた多いな!」
「エッセルからここに来るまでに遭遇した奴全部なんで」
「こりゃ明日までかかるな……ちょっと待ってな、番号札持ってくるからよ」
「頼みます」
まぁそうだよな。今日中に終わるとは俺も思ってなかったし。
むしろ明日には終わるって方が驚きだ。
職人さん、マジですげぇ。
血抜きも魔法で終わらせちまうし、その後の解体も身体強化で楽々やっちまうし。
俺みたいな素人の三倍は早くバラしちまうもんなー。
「おう、これが番号札だ。そうだな、明日の夕方頃に来てくれ」
「じゃあお願いしときます」
「任せとけい!」
これでしばらく分の金にはなるなー。
サウレが仕留めた分は状態も良いし、高めに見積もれば船に乗れるかもしれん。
そうなりゃ仕事もしなくていいから助かるんだけど……
今はとりあえず、討伐部位を受付に持っていくか。
デザートウルフばかりだけど今日の宿代払っても余裕でお釣りが来るだろうし。
すぐにギルド内に入って受付に向かい、さっきの女性に声をかけた。
「常駐依頼の討伐部位持ってきてんだけど、受領お願いできます?」
「はいはーい。ドバっと出しちゃってくださーい」
「へいよーっと」
差し出された籠に収納しておいた討伐部位証明部位をザラザラと入れていく。
一つの籠じゃ収まりきれず、二つ目のギリギリでようやく出し終わった。
「うわー。これはまたいっぱい出ましたねー。数えるから待っててくださいねー」
「はいよ。んじゃまた後で来ますんで」
「はいはーい!」
うっし。んじゃ宿取りに行きますか。
アルとサウレは……あぁ居た。けど、何やってんだアレ。
先程のテーブルの前で、アルが冒険者パーティーを睨みつけ、サウレがそれを抑えているように見える。
なんだ? またアルが暴走したのか?
「おーい。お前ら、大人しく待つことも出来ねぇのか」
「ライさん! こいつらぶっ殺しましょう!」
「はぁ? え、どんな流れなんだこれ」
「こいつらライさんを馬鹿にしました! つまり皆殺しのチャンスです!」
「……向こうが声を掛けてきた。パーティーに加入しないかと。それでアルが断って詳しい話をしていた」
「あー。なるほど。そんで俺の話が出てきた訳か」
まぁうん。見た目は二人とも美少女だしな。
どこのパーティーでも欲しがるだろう。
そんで詳細を聞いたら俺みたいな罠師が一緒にいるって聞かされたら、そりゃ一言くらい言いたくもなるわな。
「いやでも、この人達はお前らを心配してくれたんだろ?」
「それはそうですけど……でも殺れる機会は逃したくないので!」
「うっせぇわ。この人達が正しいだろ……サウレもそう思うよな?」
「……私は二人分の殺意を抑えるのに忙しい」
「え、なに、お前も怒ってんの?」
意外だ。いつも冷静な奴だと思ってたんだけど。
余程ひでぇ事言われたのかね?
「えぇと……あんたら、何言ったんだ?」
「いや、戦闘嫌いの罠師なんてパーティー居てもメリット無いだろって言っただけなんだが」
「うん。正論だな、それ」
俺でも同じこと言うし、何ならいつも同じこと思ってるわ。
アルはともかくサウレは一流パーティーにでも加入できるだろうし。
俺と一緒に旅してんのがマジで不思議なくらいだ。
「おいおい。この人達が正しいと思うんだけど……何を怒ってんだ?」
「離してください! こいつらぶっ殺してやります!」
「……ライは私の恩人。馬鹿にすることは許されない。今にもアルを止める手を離してしまいそう」
「沸点低すぎねぇかお前ら!?」
いやいやいや。何も間違ったこと言ってないよ、この人達。
むしろなんでそのくらいでキレてんだお前ら。
「まぁ待て落ち着け。お前らを心配してくれてんだし。なぁそうだろ?」
「あ、あぁ……女の子二人だったしな。一応声をかけておこうかと……いや、いらん世話だったようだな」
「すまんな。あんたらは何も間違ってねぇよ。こいつらがちょっとアレなだけだ」
「問題無いならいいんだ。気をつけてな」
「ありがとな。そっちも気をつけてくれ」
少し呆然としたまま、彼らはギルドから去っていった。
うん。良い奴らで良かったわ。乱闘騒ぎにでもなったら面倒だし。
「ほら、そろそろ落ち着け。あいつらも善意で声掛けたっぽいし」
「これだと殺意の向け所がないじゃないですか!」
「……次あったらただじゃおかない」
「待て待て。俺が役立たずなのは正しいからな? 実際戦闘でも援護しかしてねぇし」
あとアルは殺したいだけじゃねぇか、これ。
「そんなことはないです!」
「……ライは自己評価が低すぎる」
「そうかぁ? 妥当だと思うんだがなぁ」
て言うかそもそも、戦うの嫌だし。怖ぇじゃん、マジで。
「あー……とにかく、宿取りに行くぞ。早くしないと埋まっちまう」
「ぐぬぬ……分かりました」
「……同じ部屋を所望する」
「個室空いてたら部屋はバラバラなー」
何とか二人を宥めながら、冒険者ギルドを後にした。
うーん。過激すぎるとは思うんだけど……
まぁ、悪い気はしないな。
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