上 下
32 / 101

31話「また癖の強いやつが仲間になったな」

しおりを挟む

「おっちゃーん! エールおかわりー!」
「私にはワインをお願いします」
「……む。唐揚げ、美味しい」
「あ、こっちの焼肉弁当も中々ですよ!」
「いやぁ、よく食べるねー。見てて気持ち良いわー」

 冒険者ギルドに併設された酒場にて。
 ジュレは俺と酒を飲みながらツマミのナッツを食べ、アルとサウレは持ち込んだオウカ食堂の弁当を一生懸命食べていた。穏やかな光景に少し和む。
 そして船で出会ったクレアは、うさ耳をピョコピョコさせながらニコニコと笑っていた。

 尚、俺の飲み代以外はこちらの手出しである。そこまでさせる訳にはいかないしな。

「つーかクレアは仲間放っておいて良いのか?」
「ボク達は元々寄せ集めの護衛依頼用パーティーだからね。みんな好き勝手してるから大丈夫だよ」
「へぇ。その割には仲良さそうに見えたけどなー」
「ボク、人と仲良くなるの得意だからね」

 なるほど。確かにコイツ人当たり良いからな。めっちゃ話しやすいし。
 冒険者としての腕は知らないけど、パーティーを上手く回すのは向いてそうだ。

「それはそうとさ。ライって強いんだねー」
「あぁ、それは私も気になるのですが。何故二つ名を隠していたのですか?」

 うぐっ。そこをついて来るのか……めんどくせぇなー。

「あー……なんて言うか、俺って戦うのに疲れてパーティー抜けてきたんだよ。だからあまり目立つことはしたくないんだよな」
「先程は十分目立っていましたが」
「あれはオウカが悪い。いきなり襲ってきやがったからなー」
「襲うってよりじゃれてたように見えたけどねー」
「いや、俺、海に落とされたからな?」

 あの人、地味に喧嘩早いからなぁ。
 特にアレだ。スイッチ切り替わったら戦闘狂だし。

 オウカがいつも首から下げている指輪。そこから聞こえるあの中性的な声は、何故か俺とオウカにしか聞こえていなかった。
 理由は不明。ただ、他の奴らには聞こえていないらしいのは一緒に生活している中ですぐに分かった。
 その事を本人に尋ねた時は、何とも複雑そうな顔をされたのを覚えている。
 特に問題も無かったから考えたこと無かったけど……そういや理由も知らないな。今度あったら聞いてみるか。

「つーか、二つ名とか俺に合わないだろ。ただの凡人ぼんじんだぞ?」
「うーん……まぁ、戦闘能力はよく分からないよね、ライって」
「そりゃ分からんだろ。戦うこと自体ないからなー」

 普段からサポートしかしてないし。サウレやジュレがパーティーメンバーになってから、特に後方支援メインになったしなー。
 いやぁ、楽で良いわ。少し離れてれば怖もないし。

「それはそれでどうかと思いますけど……たまには前線に立ってみては?」
「やだよ。怖いだろ」

 それに金もかかるし。残弾が限られたスリングショットと罠しか使えないからな、俺。
 できるだけ出費は減らしたい所だ。という言い訳だが。

「大丈夫です! 私が代わりに皆殺しにするので!」
「……ライは私が守るから」
「ほら、うちのメンバー頼もしいだろ?」
「いやぁ、まぁ、君らがそれでいいなら別にいいんだけどね」

 クレアに小さく苦笑いされた。うっせぇ、ほっとけ。

 実際、二人とも戦闘になると凄く頑張ってくれてるからな。
 俺としては大助かりだ。仮に二人を通り越してもまだジュレが居るし。
 一流冒険者二人に、駆け出しとは言え才能に溢れたアル。この三人がいれば危険なんてほとんど無い。

「んー。でもさ。例えばここで、私がライを暗殺しようとしたらどうするの?」
「どうもしねーよ。ビビりだから殺気には敏感だし、すぐにサウレの後ろに隠れるわ」
「うわぁ。いっそ清々しいくらいクズだよね、ライって」
「自覚はある。治す気はねぇけど」

 戦うのとか、出来るやつがしたらいいんだよ。
 俺みたいなヘタレは後ろでコソコソしてんのが似合っている。
 俺にカッコ良さなんて求める方がどうかしてるわ。

「ふうん……だったらさ、ボクもメンバーに入れてくれない?」
「は? お前を?」
「戦える人は多い方が良いでしょ? ボクってかなりお得だよ?」
「ふむ。お前って前衛職タンクだっけ?」

 冒険者と言っても色々と役職が分かれている。
 カイトみたいに敵を抑える前衛職タンク
 ミルハみたいに敵を叩く攻撃職アタッカー
 ルミィみたいに味方を援護する回復職ヒーラー
 他にも、俺みたいに罠をメインとした罠師トラッパーや、斥候や罠の解除をメインとした盗賊シーフ、味方のステータスを上げる支援職バッファーなんてのもある。

 ちなみに俺達の場合だとアルとサウレがアタッカー、ジュレがアタッカー兼ヒーラー。
 そして俺がトラッパー役立たずと、かなり前のめりなパーティーだったりする。

 クレアは確か前衛職タンクって言ってたけど、あれはガタイの良い奴がデカい盾をもってやるもんだし、細身なクレアには向いてないと思うんだけどな。

「正確には回避タンクだね。敵の攻撃を避けたり逸らしたりするのがメインだよ」

 ほら、と小さな二つの盾を取り出してみせる。
 なるほど。高い防御力で攻撃を防ぐんじゃなくて、わざと自分を狙わせてその攻撃を避けるタイプか。
 それなら確かに力は無いけど素早いウサギの亜人にも向いている。

「ライの所はタンク居ないっぽいし、ボクは器用だから料理とかの雑用も出来るよ。お得だと思わない?」
「んーむ……確かになぁ。お前らはどう思う?」
「タンクが居たら斬りたい放題なので賛成です!」
「……私が前に出る機会が減れば、その分ライを守れるから」
「私はどちらでも。リーダーに従いますよ」

 賛成二、中立一、と。んじゃまぁ、決まりかね。

「という事らしいんで、まぁよろしく頼むわ」
「やった! みんな宜しくね!」
「て言っても、しばらくはアスーラで路銀稼ぎだけどなー」

 一応ジュレは金持ってるけど、パーティー共有財産じゃないしな。
 全員分の船賃となるとそこそこ稼がなきゃならん。

「え? そうなの?」
「俺とサウレは明日から治療院の雑用。アルとジュレはその辺の魔物狩ってるから、クレアはそっちだな」
「えぇっ!? いきなり別行動!?」
「まー朝夕は一緒に飯食うつもりだけどな。宿屋も同じ……って言うかお前、宿はどうするつもりなんだ?」

 忘れてた。こいつ、こんだけ可愛いのに自称男だったわ。
 ちゃんと自分で部屋予約してるんなら良いんだけど。

「え? ライと同じ部屋でいいよ?」
「良くねぇよ。今から部屋取ってこい」
「えぇー……そんなぁー」

 うさ耳をへなっと垂らして悲しそうな顔されても知らんわ。

「ジュレ、ちょっとこいつに着いて行ってくれないか? ……じゃねぇわ。行ってこい」
「はぁはぁ……私の扱いに慣れてきて嬉しいです!」
「ほらクレア。部屋がなかったら相部屋してやるから、とりあえず行ってこい」
「はぁーい。じゃあちょっと行ってくるね!」

 うさ耳をピン、と立て、ジュレの手を引いてギルドの出口に早足で向かって行った。
 うーん。悪いヤツじゃなさそうなんだが……

 また癖の強いやつが仲間になったな。
しおりを挟む

処理中です...