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35話「どんな店に行くのか、今から楽しみだ」
しおりを挟む木に背を預けて少し待っていると、アルが騎士団やパーティメンバーを連れて戻って来た。
すぐさまジュレに回復魔法を使って貰うと、腹の怪我は何の違和感も無く完治した。
やっぱり魔法って凄いな。俺も使えたら良かったのになぁ。
尚、俺の使った罠は、ゴブリンの死体と共に騎士団員が回収してくれた。ありがたい事だ。
「……ライさん。この数を、一人で?」
「うん? あぁ、ゴブリン程度ならな。森の中だったし、俺一人なら問題は無い」
俺の手当をしながらジュレが尋ねてくる。
まぁ、むしろアルが居た方が演算が複雑になってただろうしな。
仲間と連携できないとか、やっぱり俺は冒険者に向いてないわ。
「さすが二つ名持ち、と言ったところでしょうか。私やサウレさんでもここまでやれるか……」
「嘘つけ。お前らなら余裕だろ」
「あら。バレてしまいましたか」
ジュレなら遠距離から一方的に殲滅できるし、サウレを捉えきれる魔物なんてそうそう居る訳が無い。
しかも俺とは違ってちゃんと味方と連携取れるし、怪我なんて絶対しないだろう。
そう考えると、やっぱり一流冒険者って奴は普通じゃ無いな。
「ライさーん! ゴブリンロードの首落としてきましたー!」
見ると、頭から血塗れになったアルが巨大な両手剣を引きずりながら駆けて来ていた。
「おま……返り血も落としてこい!」
「先に褒めてくださーい!」
「はいはい偉い偉い。ほら、行ってこい」
「えへへ……はーい!」
元気よく騎士団の方に走って行くアル。こう見ると可愛らしいが、両手剣とは逆の手にはゴブリンロードの生首が下げられている。
中々に狂気に満ちた光景だ。
あーほら、騎士団の人たちもガチで引いてるじゃねぇか。
嬉しいのは分かったから首を振り回すんじゃありません。
でもこれでアルの賞罰欄がまた更新されたな。良い事だ。
「……ライ。大丈夫?」
今度はサウレがこちらを労わってくれた。その心遣いが少し嬉しい。
「ん。もう大丈夫だ。ありがとな」
「……あまり無理しないで。私はライに何かあれば仇を取って後追いする」
いや、重っ! 知ってはいたけど!
「あー。んでクレアは……何してんだお前」
本当に何してるんだろうかアレ。
木の陰に隠れてじっとこちらを見ている。
何て言うか、人に慣れていない小動物みたいだ。
「…………これ、ライが一人でやったんだよね?」
「あー。まぁ、そうだな」
「…………ライって、何者?」
「何者って言われても……ただの普通の冒険者だぞ?」
「いや絶対普通じゃないからね!?」
うーん。まぁ確かに普通では無いけどな。
俺は普通になりきれない出来損ないだし。
「……なんで誰も不思議に思わないの?」
「あら。クレアさん、ここはユークリア王国ですよ? 英雄がいる国で今更では?」
「あー。言われてみれば……」
「いや待て、俺をあの人たちと同類にするな」
あんな人外と一緒にするんじゃない。
俺はただの凡人だ。
「あの人たち? そう言えば先日も似たような事を仰ってましたけれど、まさかお知り合いですか?」
「……まぁ、大変遺憾ながらな」
救国の英雄達は、オウカ絡みでほぼ全員と話したことがある。
全員どこかマトモじゃなかったな。
「うわぁ! ライさんって凄いんですね!」
「おぅ、お帰り。別に凄くはないからなー」
顔や髪についていた返り血を拭って来たアルが会話に混ざってきた。
流石に服や鎧はどうしようも無かったらしくやや臭うが、それは多分言わない方が良いんだろうな。乙女的な問題で。
いや、アルにその感覚があるかどうかは知らんが。
「ねぇライ。このパーティーってさ、メンツ濃すぎない?」
「何を今更。クレアも含めて全員濃いぞ?」
アル、サウレ、ジュレ、そしてクレア。
ヤバい、改めて考えてもマトモなのが居ねぇ。
「いや、これ見る感じ、ライも普通じゃないと思うけど」
ゴブリンの死体の山を指さしながらそんな事を言われた。
何言ってんだこいつ。
「こんなもん、慣れだろ。誰でも出来る事だ」
「出来ないからねっ!?」
「いやいや、そんな事は無いからな」
慣れてさえしまえば簡単な事だろ。多分。
あまり他の冒険者の狩りとか見たこと無いが、俺みたいな凡人に出来ることを他の冒険者が出来ない訳が無いし。
「そんな事より、これからどうする? 俺は帰って寝たいんだが」
「ギルドで換金したらご飯食べに行きましょう!」
「あら、たまにはオウカ食堂以外も良いかも知れませんね」
「……私はライに着いていく」
「なんでみんな普通に流してるのかなぁ!?」
元気だなークレア。言ってることはよく分からんが。
「なんだ、案内してくれないのか?」
「いや、案内するけど!」
「んじゃさっさと帰るぞ。腹減ったわ」
「あーもう! なんなんだよこの疎外感!」
何気に朝飯も食ってないしな。
どんな店に行くのか、今から楽しみだ。
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