37 / 101
36話「やっぱりアイツ、怖いわ」
しおりを挟む港町アスーラでの日々は穏やかに過ぎていった。
治療院での雑用を通して町の人達とも仲良くなれたし、オウカ食堂の手が足りない時はそっちを手伝いに行ったりもした。
例の船に乗っていた子達も元気に働いていて、おっさん達はそれを嬉しそうに眺めながら警備の仕事をしている。
たまにアルが討伐依頼に巻き込んでくるが、今のメンバーなら何の問題も無く完了できた。
サウレやジュレが凄いのは前から分かっていた事だが、予想外だったのがクレアの戦い方だ。
盾を打ち鳴らしたり大声を上げたりして敵の注意を引き、その攻撃を素早く躱したり受け流したりしていた。
その様は手馴れていて、今まで一度も被弾していない。
さらには目や耳が良く、敵の接近にいち早く気付いてメンバーに教えてくれたり、休憩中の気配りも上手い。
いつでも明るく元気で、アルと並んでパーティーのムードメイカー的な存在になっていた。
「お前、凄いなぁ。何で今までちゃんとしたパーティー組まなかったんだ?」
オウカ食堂で買った夕飯を冒険者ギルドに持ち込み、皆で飯を食いながら聞いてみた。
「いやー。ボクの好みに合う人が中々居なくってさ」
「そんな理由でパーティーを選ぶなよ」
「いやいや! パーティーメンバー内で結婚とかよくある話だし、ここは大事だよ!?」
「あぁ、確かによく聞くなぁそれ。俺には無縁の話だが」
結婚ねー。憧れのスローライフを始められたら考えて見ても良いかもなぁ。
少なくとも今の状況で結婚なんて考えられないけど。
ちなみに俺たちの居るユークリア王国は、結婚に関する法律がかなり緩い。
同性間での結婚や重婚、さらには兄弟間の結婚も認められている。
その場合、子どもを作る際は申請がいるらしいが、この緩い法律が出来てから結婚率がかなり上がったらしい。
「そこんところ、ライはかなり良物件だからね! 早くボクと結婚しよう!」
うさ耳をぴょこんと動かしながらにこやかに笑う。
うーん。こいつも見た目はかなり可愛いんだがなあ。
すぐに話をそっち方面に持っていくのは勘弁して欲しいものだ。
「……ライは結婚するの?」
「どうだろうな。特にしたいとは思わないが、将来的にはするかもしれないな」
「……私は何番目でも良いから」
「あーはいはい。ほら、汚れてるぞ」
口元を拭ってやりながら適当に答える。
何処と無く幸せそうにされるがままになっているのに癒されつつ、本題を切り出すことにした。
「さて。路銀も貯まってきた事だし、そろそろ王都に向かおうと思うんだが」
「ついに王都! 復讐の時は来ましたね!」
「……王都は久しぶり」
港町アスーラから馬車で二週間ほど南下したところにある、王都ユークリア。
そこが俺たちの目的地だ。
アルの元婚約者やサウレを騙した奴を探す為に、王都の冒険者ギルドで情報を集める必要がある。
俺は俺で「竜の牙」の連中の追跡を逃れるという理由がある。
「そこで聞いておきたいんだが、ジュレとクレアはどうする?」
「私はご一緒致します。一人だとどうしようも無いですし、一緒に居たいですから」
「ボクも右に同じ! ライから離れる選択肢はないかな!」
「そうか。じゃあ三日後に出発予定だから準備してといてくれ」
治療院の方には今日の仕事明けに事情を伝えてある。
かなり惜しまれたが、理由があるなら仕方ないと送り出してくれた。
後は旅路の食料や道具の材料を買い込むだけだ。
とは言ってもほとんど買い揃えた後だし、買い残しが無いか確認するだけなんだが。
「私たちの準備は出来ていますよ。今からでも行けるくらいです」
「そうか。そりゃ何より……だが、そういうセリフはやめてくれ。嫌な予感がしてくるから」
前回も似たようなタイミングで出没したからな、ルミィ達。
「さすがに今回は大丈夫ですよ! いくら何でもこのタイミングで――」
バガンっ、と。冒険者ギルドのスイングドアが開かれた。
とっさにテーブルの下に身を隠す俺とアル。
次の瞬間、聞きなれた声が聞こえた。
「セイっ!! ここに居るんでしょうっ!?」
うっわぁ……この声、間違いない。ルミィだ。
よく見たらカイトとミルハも居るし。
……なんか、死にそうな顔してるけど。何かあったんだろうか。
いや、そんなことはどうでも良いか。
「…………ほらみろ。おかしなこと言うから」
「…………私のせいですかっ!?」
小声でアルとひそひそやりあうが、ヤバい。
冒険者ギルドの裏口はここから遠い。見付からずに逃げるのは不可能だろう。
かと言って、このまま隠れ続けてもいつか見付かってしまう。
どうしたものか。何とかここを逃げ出さなければならないのだが。
「……ライ。あの女がルミィ?」
「…………そうだ」
サウレが目線を下げずに聞いてくる。
他の二人も同じく、警戒しながらルミィの方をじっと見ている。
「あの方がそうですか。綺麗な方ですけれど、確かに目がイッちゃってますね」
「うわぁ。アレはヤバいねー」
ジュレとクレアの見解は同じらしい。やっぱりヤバいよな、アレ。
うっわ、鳥肌立ってきた。
「……ライ。私達が時間を稼ぐ。馬車を借りて門の前で待っていて」
「…………大丈夫なのか?」
「……上手くやる。任せて欲しい」
サウレは真正面を向きながら、テーブルの下にそっと拳を伸ばして来た。
冒険者間で使われる合図。健闘を祈るという意味が込められたそれに、苦笑いしながらこちらの拳をこつんと当てた。
「……騒ぎを起こして注目を集めるから、その隙に。二人にも手伝ってほしい」
「今回ばかりは遊んでもいられませんね。協力致します」
「うーん……ちょっと怖いけど、ライの為なら頑張るよ!」
三人揃って席を立つと、「竜の牙」の連中の元へと歩み寄って行った。
さて。サウレの奴、どうするつもりだ?
「……貴方が探している人は、罠師のセイ?」
「えぇ、旅先ではぐれてしまいまして。何かご存知なのですか?」
うわぁ。ルミィの奴一瞬で猫被りやがった。あの女神みたいな微笑みが逆に怖いな。
「……知っている。彼は優しい。普段も、ベッドの中でも」
「は?」
ピシリと。ルミィの笑顔と共に、ギルド内が凍りついた。
おいこら、何て事言ってんだお前。俺を社会的に殺す気か?
「……彼は今、宿のベッドで眠っている。さっきまで夜伽をしていたから」
その言葉に対して。
ルミィが手に持ったロッドを振り下ろすのと、サウレが短剣を振り上げるのは同時だった。
ガチリと噛み合った武器同時がギリギリと音を立てる。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
「……やるなら相手になる」
やべ、ルミィがキレた。
あ、でも武器を合わせたまま奥の方に走って行ったな。さすがだ、サウレ。
「あなた達もセイさんを探しに?」
「あ、あぁ。アイツは俺たちの仲間だからな。何か困ってるなら助けになりたい」
「宿屋に居るならちょっと行ってみようかな! ありがとう!」
「それが宜しいかと。まだ寝ていると思いますので」
こっちはこっちで凄いな。ジュレの奴、真顔で嘘ついてやがる。
クレアも若干引いてるし。
「ルミィは……無理だな。すまないが頼めるだろうか。俺たちは先にセイと話をしたい」
「分かりました。お任せください」
「すまない。じゃあ、頼んだ」
それだけを言い残し、二人は冒険者ギルドから去っていった。
よし、今だ。
「…………アル、行くぞ。裏口だ」
「…………わかりました!」
響く戦闘音を後に、俺たちはギルドをこっそり抜け出した。
しかし、久しぶりに見たけど……
やっぱりアイツ、怖いわ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる