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55話「たまにはこんな夜があっても良いか」
しおりを挟む体感では深夜。月明かりがリビングを淡く照らし、家具の影をうっすらと伸ばしている。
そんな中で浅い眠りから覚めた俺は、半分閉じていたまぶたを開く。
人影。逆光で顔は見えないが、輪郭だけははっきりと浮かび上がっている。
薄い肌着のような寝巻きを纏った女性らしい体型。
アルより背が高いその影は、心当たりが一人しかいなかった。
こんな時間に何をしに来たかは知らないけど。
まあ、音を殺して忍び寄って来たからには、何らかの目的があるのだろう。
「ジュレか。どうした?」
「ちょっとお付き合い願えませんか?」
上げた左手にはワインのボトル。
普段から寝る前に飲んでいたのは知っていたが、誘われたのは初めてだ。
ゆっくりと体を起こして座り直すと、改めてジュレの姿が目に入った。
申し訳程度に来ているネグリジェは、芸術品と読んでも過言では無い彼女の身体のライン際立たせている。
思わずそちらに目が行き、気まずさから目線を上げると、ジュレはどこかイタズラめいた笑みを浮かべていた。
「あら。もっと見てくれて良いんですよ? そのための服ですから」
確信犯かよ。いや、そうかもとは思ったけど。
見られて喜んでるところあるもんな、こいつ。
普段の装備も露出過多だし。胸元とか。
「いや、これ以上仲間内で気まずくなるのは勘弁なんだが」
「それこそ今更では? このパーティーはライさんのハーレムですし」
「お前が言うかそれ」
今のところ、ある意味一番本心が分からないんだが。
クレアは打算的な部分を出してくるからむしろ安心できるけど、ジュレはマジでよく分からない。
「まあ酷い。こんなにお慕いしておりますのに」
「うーん。真面目な話、今となってはお前だけがよく分からないんだよなー」
こうやって冗談めかして好意を伝えてくるが、性格的に本気がどうか掴めない。
適当にからかわれている感じもするし、かと思えば深く踏み込んで来ようともする。
丁度良い距離を探っているような、そんな印象でもある。
そんな事を思いながらアイテムボックスからワイングラスを二つ取り出し、一つをジュレに渡す。
彼女は妖艶にクスリと微笑むと、膝が触れるほど近くに座った。
ふわりと甘い香り。以前はこれだけで鳥肌が立っていたものだが、最近は何とか慣れてきている。
ジュレ達相手なら直接的な行動でなければ問題なくなって来ているので、まあまあマシになってきては居るのだろう。
「しかし驚きました。まさかアルさんが告白するなんて」
「その言い方だと、アルの気持ちは知っていたのか?」
「女から見たらとても分かりやすかったので」
「……そういうものか」
俺は全く気付かなかったわ。
あいつにそんな素振りあったか?
いや、単に俺が鈍いだけかもしれんが。
そういう経験とか無かったしなあ。
「アルさんは強いですね。まさか開き直るとは思いませんでした」
「あー。あれは何と言うか……凄いよな」
「私も見習わなければなりません。という事で、お誘いに来た訳です」
「なんだそりゃ」
よく分からない会話をしながらワインを注いでもらい、お返しにジュレのグラスにワインを注ぐ。
二人して軽くグラスを持ち上げ、一口飲んでみる。
かなり甘めの葡萄酒。苦味は少なく、比較的飲みやすい口当たりだ。
ワインの善し悪しなんてよく分からないが、少なくとも美味いとは感じる。
でもこれ、だいぶ強い酒じゃないか?
思わず隣を見ると、ジュレも口元を抑えて驚いていた。
こいつ、自分が持ってきたのに把握してなかったのか。
「ずいぶん強いですね、このワイン」
「飲み過ぎないようにしないとな」
「うーん。そうですねえ」
言葉では肯定しながらも、ジュレはグラスを傾けて一気にワインを飲み干した。
ふぅ、と零した吐息がどこか色っぽさを感じる。
じゃなくて。
「おい。そんな飲み方したら潰れるぞ」
「うふふ。ライさん、知ってますか?」
ギシリと。ソファーを軋ませてこちらに身を寄せる。
肩に頭を預け、甘えるように囁いた。
「女は酔うと性欲が増すんですよ」
「恐ろしい話をするな」
いきなり何を言い出すんだこいつ。
ちょっと鳥肌立ったんだが。
「それに、酔いの勢いというものが大事な時もあるんです」
「……そうかい」
上手い言葉を返せず、グラスを傾ける。
先程より甘いワインが喉元を抜けると、少しだけ気分が落ち着いた。
「何か悩みでもあるのか?」
「色々と。人前では見せられない事も多いものですから」
「あー。そう言えば有名人だもんな、お前」
つい忘れがちだが、ジュレは『氷の歌姫』という二つ名を持つ一流冒険者だ。
外面を気にしなくてはならない事も多いのだろう。
「全部頼れとは言えないけど、俺達の前で気を張る必要は無いからな」
「ええ。そこは甘えさせて頂きます」
空になったグラスにワインを注いでやると、またもや一気に飲み干された。
大丈夫かこいつ。潰れたりしないよな?
「ライさん。私は、とても感謝しているんです」
「は? 何だいきなり」
「あの時ライさんに出会わなければ、私の人生は酷いことになっていたと思います」
「確かにそれは否定できないな」
何せ屋台で金貨を出そうとしたくらいだしな。
一般常識が無いにも程があるジュレが一人で生活出来たとは思えない。
良くて詐欺に会うか、最悪の場合は住む場所すら失っていただろう。
「けれど私には返せるものが何も無いんです。戦う事以外、何も出来ませんから」
「それだけでも十分助かってるんだけどな」
実際、俺が戦わなくても済むことが増えたし。
やっぱり戦うのは怖いし、痛いのは嫌だ。
俺としては、それを引き受けてくれているだけでもかなり感謝しているんだが。
「ですので、ここは女として美味しく召し上がって頂こうかと思いまして」
そっと手を重ね、俺の腕を抱き、熱を帯びた声でそんな事を言い出した。
柔らかく甘い誘惑。誰もが認める美女からの誘い。
それに応えるように彼女の整った顔に手を伸ばし。
「アホかお前」
バチン、と。中々に良い音を立ててデコピンが炸裂した。
「むきゅっ!?」
おかしな声を上げて額に手をやるジュレに呆れつつ、ワインを一口。
やっぱ甘いわ、これ。
「あのな。前にも行ったけど、恩を感じてるならそれは他の誰かに返してやれ」
「……そうやって世界は回っている?」
「そういう事だ」
アイテムボックスからツマミのスモークチーズを取り出し、小さめに切り取って口に放り込む。
燻製の独特な香りが鼻から抜けるのを感じ、更にワインを一口含んだ。
複雑な旨みが広がるのを楽しみ、こくりと飲み込む。
「むう。私ではダメですか?」
「誰でもダメだ。ほら、見ろよこれ」
長袖をまくり上げ、鳥肌の立った腕を見せ付ける。
平然を装って対応してるけど、相手がジュレじゃなかったら逃げ出してるところだ。
男のプライドとか、そんな物は持ち合わせてないし。
「甘えるくらいなら構わないけどな。今はこれが限界なんだわ」
「……分かりました。でも、もう少しこのままでも良いですか?」
「まあ、このくらいならな」
じわじわと恐怖が湧き出てくるが、耐えられない程では無い。
珍しく甘えて来るジュレを肩に乗せ、二人分の空いたグラスにワインを注いだ。
うーん。しばらくなら大丈夫だと思うし。
たまにはこんな夜があっても良いか。
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