ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

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70話:「これからもアルの対処が面倒くさそうだな」

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 グレイさんに招かれて彼の屋敷に行くと、門から入口までの数メートルを使用人達が立ち並んでいた。
 馬の手網を引いていた執事っぽい男性が先に中に入ると、遅れてグレイさんが爽やかな笑顔で堂々と歩いていく。

「いま帰ったぞ! 今日も出迎えありがとう!」

 彼の言葉に一様に頭を下げ、すぐに直立に戻る。
 その顔には笑顔。みんなグレイさんの帰還を心の底から喜んでいるように見える。
 そんな中、華やかなドレスを来た女性が駆け寄って来た。
 その目に涙を浮かばせて、悲痛な顔でグレイさんの胸に飛び込んだ。

「グレイ様! もう危ないことはやめてください! メアリーは心配で胸が張り裂ける思いでした!」

 そんな彼女を抱きとめると、グレイさんは爽やかな笑顔を浮かべた。

「心配してくれてありがとう。だがこれも貴族の務め。私には民を守る義務があるのだよ」
「グレイ様! でも!」
「安心したまえ。君たちが支えてくれている以上、私は無敵だ」

 彼女の腰をしっかりと抱き締め、力強く断言するグレイさん。それに対して女性は頬を紅潮させて祈るように両手を組んでいる。
 まるで演劇のように見えるのは、彼らが美男美女だからというだけではないだろう。
 なんて言うか、物語の中のような理想的な光景だ。

 いやまぁ、俺は何を見せられているんだと思わなくもないけど。

「ところでグレイ様、そちらの方々は?」
「あぁ、元婚約者のアルテミスとそのお仲間だ。街の危機に立ち向かおうとしてくれた勇敢な者たちだよ」

 おい。内容自体は確かに合ってるが、その人って現婚約者じゃないのか?
 彼女にとってグレイさんの元婚約者なんて、色々と思うところがあって当然……

「まぁ! あの方がアルテミス様⁉ お会い出来て嬉しいです!」

 ……おう。全身で喜びを表現してるな。

「私はメアリー・ゴールドと申します! アルテミス様のお噂は良く聞いていますわ!」
「おっけーです。ぶち殺しますね」
「まぁ、冗談がお上手ですのね!」

 あ、アルがガチでイラついてる。
 めちゃくちゃ殺気を放ってるのにメアリーさんは動じてないな。すげぇ。

「立ち話も良いが、良かったら中でお茶でも飲んでいってくれないか。是非ともアルテミスや君たちの話を聞きたい」
「えぇと……ご馳走になります」

 屈託のない笑顔で言われ、若干押され気味になりながらも何とか返事を返した。



 俺たちが通された客間は、貴族の家にしては簡素なものだった。
 部屋は広くて調度品は良いものを使ってるけど、美術品の類は一切置いていない。
 中で待っていると、いかにも貴族風な服に着替えたグレイさんがメアリーさんと共にやって来た。

「さぁ座りたまえ! 我が家のメイドがいれてくれる紅茶は美味いぞ!」

 勧められるままに高級そうなソファに腰掛けた。
 俺はアルとサウレに挟まれて、向かい側にはジュレとクレア。それを見届けてからグレイさんとメアリーさんは向かって右側の大きめなソファに座る。
 それと同時に控えていたメイドさんが紅茶を運んで来てくれた。
 彼女の動きは正に一流メイド。王城勤めも出来るくらいに洗練されている。
 丁寧かつ迅速に全員分の紅茶をいれ終わると、すっと壁際に移動して気配を殺した。
 列車内で会った三つ子と同レベルで気配消えてるんだが。何者だよあの人。

「うむ。やはりジェニファーの紅茶は美味いな」
「いつもありがとう」
「恐れ入ります」

 ニコニコと笑みを絶やさない二人に深く頭を下げ、引き続き自然な様子で待機しだした。
 確かにこの紅茶美味いわ。王都の一流カフェみたいな味だ。すげぇなこの人。

「さて、まずは改めて自己紹介といこう。私はグレイ・シェフィールド。この街を統治し、守る者だ。こっちはメアリー・ゴールド。私の婚約者だ」
「よろしくお願いしますね」
「ご丁寧にどうも。俺はライ、冒険者だ。コイツらはサウレ、ジュレ、クレア。俺とパーティを組んでる仲間だ」
「冒険者! という事はアルテミスも冒険者をやっているのか! いやはや、やはり勇敢な女性だな!」

 イケメンオーラ全開でアルテミスを褒めるグレイさん。メアリーさんも目をキラキラさせてアルを見ている。
 ふむ、なるほど? この様子だと予想が当たってたかもしれんな。
 いや、本人に直接聞いた方が早いか。

「グレイさん、一つ聞きたいんだけど」
「なんだい? あぁ、私の事はグレイと呼び捨てにしてくれ」
「じゃあグレイ。踏み込んだ事を聞くが、何故アルとの婚約を破棄したんだ?」
「……うむ? すまない、聞かれている意味が分からない」

 腕を組み、首を捻る。その顔には困惑の表情。そして。

「アルテミスとの婚約に関しては、オリオーン家の方から破談を持ちかけて来たのだが」

 グレイは真剣な顔でそんな事を言い放った。

「えぇっ⁉ 何言ってるんですか⁉」
「待て待て。落ち着けって」

 驚きの声を上げるアルを抑えながらも、やはりかと思う。

「アル、前から思ってたんだが。そもそも婚約破棄の話は誰から聞いたんだ?」
「誰って、お父様からですよ」
「だよなぁ。で、オリオーン家は今どうなってる?」
「没落して辺境に飛ばされてますね。お母様も一緒だと聞きました」
「じゃあもう一つ。?」
「……え?」

 一方的に婚約破棄されたのであれば、普通ならオリオーン家に非は無い。
 それならば王都でも有力な貴族だったオリオーン家と繋がりを持とうとする者は少なからず居るだろう。
 しかし実際にはそうならず、家は没落して使用人は全員辞めている。
 であれば、だ。

「お前の親父さんってさ。魔族との戦争の功績で貴族になったんだよな?」
「はい、そうですけど……」
「俺の推測に過ぎないんだが……お前の親父さん、わざと家を潰したんじゃないか?」

 貴族になるということは、地位も名誉も財産も手に入れるということだ。
 そして同時に相応の義務が発生する訳で。
 グレイの言っていた通り。貴族は与えられた領地を統治し、領民の生活をコントロールする事が課される。のだが。

 この国の学習環境を整えたのは英雄カツラギカノン。彼女の意向で平民や孤児でも様々な事を学ぶことが出来るようになった。
 しかし、その英雄が召喚される前に行われていたいた戦争の功績と言うことは、親父さんは学習の機会も無いままに、傭兵や冒険者として最前線で戦っていたと言うことになる。
 そんな男に、領地を統治するなんて事はハードルが高すぎるだろう。
 まぁ、話をまとめると。
 
「えっと……つまり?」
「親父さん、貴族やるの嫌になったんじゃね?」

 俺の結論としてはこうなる。
 ただの推測でしかないが、婚約破棄を理由に家を潰した方がスムーズに引き継ぎが行われるし、領民にとっても領民運営を学んだ貴族が統治してくれた方が良いだろう。
 本人も面倒な義務から解放されて、更には領民も幸せになる。
 そう考えてアルの親父さん誰もが得をする道を選んだ訳だ。

 だが、アルの行動は予想を超えてたんだろうな。
 まさかグレイを殺そうと家出するなんて思いもしなかっただろうし。
 て言うか、普通そんな事は思わないし、実行もしない。

「そもそもの話。お前はグレイと結婚したかったのか?」
「いえ……でも、家の為だと思って」
「それも理由の一つだろうな。親父さんとしては娘の結婚相手を無理に決めたくなかったんだろ」

 貴族の結婚は当人ではなく家が決めるものだ。
 そこに個人的な意思は考慮されない。
 例え望まない相手だろうと、家同士の結束を強くする為に仕方なく、なんてことも良くある話だ。

「まぁ多分、お前が家出しなけりゃ後で教えるつもりだったんじゃないか?」
「えぇと……お父様からは帰ってきたら話したいことがあると、言われていました、けど」
「うん。つまりお前が暴走しなけりゃ全部丸く収まったって話になるな」
「そんな……じゃあ、私は……」

 アルは俯いて膝の上で両拳を握りしめる。
 その上にぽたりと雫が落ち、彼女の小さな手を濡らしていく。

「ライさん……私、私は……」
「おう。全部聞いてやる。今がいいか後でがいいか、そこだけ選んでくれ」

 俺の言葉に、アルは勢いよく頭を上げる。
 その眼には涙。そして顔には満面の笑みが浮かんでいて。
 ……は? え、何で笑ってんのこいつ。

「つまり何も気にせずライさんと『殺し愛』しても良いんですよねっ⁉」
「よーしちょっと黙ろうか巨乳サイコパス」
「あぁなんて素晴らしい日々! お父様、ありがとうございます!」
「人の話を聞けよポンコツ令嬢」

 そうだ、こいつはそういう奴だったな。
 て言うか今のは嬉し泣きかよ。ちょっと理解が追いつかないんだが。
 うっわぁ。これ、黙ってた方が良かったかもしれんな。

「さて、話は終わったようだね。もし良ければ夕飯を一緒にどうかな?」

 この場を治めるように発言するグレイ。
 ありがてぇ、さすが正統派イケメン。

「あー。すまん、先約が入っててな。俺たちはこれで失礼するわ」
「そうか、それは残念だ。またいつでも訪ねてくれたまえ」
「機会があったら寄らせてもらうわ。面倒かけて悪かったな……サウレ、やれ」
「……ていっ」
「はふぅっ⁉」

 サウレの一撃で気を失ったアルを背中に担ぎ、部屋を後にする。
 尋常じゃない程に大きくて柔らかい何かが背中で潰れているが、そこは気にしない方向で行こう、うん。
 あ、やべ、心臓もつかなこれ。

 俺の中で理性と何かが激しい争いを繰り広げている時。
 グレイがポツリと呟いた。

「君と戦うことにならずに済んで良かったよ、『死神グリムリーパー』」

 その一言で頭が冷めた。
 空気が張り詰め、メアリーが小さく悲鳴を上げる。
 サウレとジュレが戦闘態勢に入り、クレアは真顔でグレイを見つめていた。
 しまった。不意を付かれて殺気が漏れたか。
 すぐに表情を取り繕い、普段の調子に戻って振り返る。

「おいおい、その二つ名で呼ばないでくれよ。俺は何処にでも居る、ただの凡人だ」
「それはすまなかった。謝罪しよう」
「じゃあ今度飯でも奢ってくれ。またな」
 
 それだけを言い残し、俺たちはグレイの屋敷を後にした。
 やっべぇ、油断したな。今度から気を付けないと。
 グレイが何で俺の事を知ってたのかは分からないけど、もう少し注意を払うとするか。

 それはさておき、ひとまず厄介事が一つ片付いたけど。
 これからもアルの対処が面倒くさそうだな。
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