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13話:村の散策
しおりを挟む宿でオリビアが身支度を終えた後、ノア達は村を散策する事にした。
旅の備蓄を買い込む必要があるというのもあるが、オリビアが村を見て回りたいと望んだのが大きな理由だ。
何か困っている人がいれば助けになりたいと言う彼女に温かなものを感じながら、ノア達は村の中を散策する事に決めた。
村にはノアにとって物珍しいものは特に無かった。
しかしそれでも、何かを見つける度に楽しそうに笑うオリビアを見て居るだけで、彼は十分に楽しむことが出来ていた。
普段は楚々としている彼女が年相応にはしゃぐ姿は何だか可愛らしくて、つい心と顔が弛む。
「ノアさん見てください! 干し肉を売ってますよ!」
「あぁ、王都より安いな。引換券とは別に少し買い足しておこうか」
「牛です! 牛がいます! ほあぁ……大きいですねぇ」
「これは立派な牛だな。毛並みも良い」
「んー! このパン美味しいです! やっぱり焼きたては良いですね!」
「焼きたてなんて久しぶりに食べたが、確かに美味いな」
「ノアさんノアさん! あそこ! ニワトリと猫が一緒に寝てますよ!」
「そうだな。家族なのかもしれないな」
笑ったり、驚いたり、微笑んだり。
こちらを振り返って無邪気に呼びかけてくるオリビアを見ているだけで、ノアは心の底から楽しいと感じていた。
こうして二人で居られるなら、平和な時間も良いものだと思う。
それに、オリビアにはこちらの姿の方が似合っている気がするのだ。
ずっとこのまま、楽しげな彼女を見守っていたい。
戦うことしか知らない青年は、戦いの無い安穏とした日常を満喫していた。
〇〇〇〇〇〇〇〇
そしてオリビアは、穏やかに微笑むノアを見てテンションがマックスになっていた。
王都とは比べるまでも無い程に何も無い村だったが、それでも彼と一緒に見るだけで全てがとても素敵な物に見えた。
つい聖女として振る舞うことを忘れてしまっていた事に気がついたのは夕暮れ時。
日が落ちかけている事にすら気付かない程に、幸せな時間はあっという間に過ぎていった。
「オリビア。日が暮れてきた事だし、宿に戻るか」
「わっ! 本当ですね。そろそろ戻りま……しょう?」
そしてようやく、ある事を思い出した。
(あああああ!? そうだ! 今日、夜、二人きりじゃん!?)
宿の部屋は自分が我儘を言って一部屋しか借りていない。
そしてそれは、つまり。
(おおお落ち着くのよオリビア! 何度も本で予習してきたんだから大丈夫! あんな事もこんな事も……え、しちゃうの? 今日? ノアさんと? ……あうぅぅ)
山肌に沈んでいく夕陽にも負けないほどに顔を赤く染め、体も硬直しきっている。
緊張で頭の中はぐちゃぐちゃだし、心臓は今にも飛び出しそうだ。
それでも、逃げ出したいとは思わない。
既に覚悟は決めているのだから。
(そう、ここで美味しく食べてもらって既成事実を作らないと!)
初体験とは言え、知識は持っている。
痛みは回復魔法で抑えらるし、心配なのは彼の獣欲を受け止めきれるか、その一点だけだ。
けれど、ノアはきっと優しくしてくれる。
だから大丈夫。大丈夫だと、思いたい。
思いたいのだけれど。
(あああああ! ヤバい! 想像するだけで死ぬほど恥ずかしいんですけど⁉ だって、今夜ノアさんとヤるだなんて!)
少し触れ合うだけでも緊張してしまうのに、いざ事に及ぶとなるとどうなってしまうのか分からない。
だけれども。こんな千載一遇のチャンスを逃すなんて有り得ない話だ。
その為に、せっかく日帰り出来ない依頼を選んで来たのだから。
「……オリビア、どうした?」
「うひゃあんっ⁉」
不意に肩を叩かれ、その刺激と腰に響く甘い声にやられて腰が砕けそうになり、思わず嬌声を上げて上げてしまう。
「体調が悪いのか? 早く宿に戻って休んだ方が良い」
「……えぇ、そうですね。そうします」
バクバク鳴る心臓を抑え、何とか言葉を返した。
宿の部屋に戻り、部屋着に着替えようとした時にオリビアはある事に気が着いた。
旅に出ることに夢中で着替えを持ってくるのを忘れてしまっていたのだ。
下着の類は持っていたが、さすがに司祭服のまま寝るのは良くない。
どうするかと考えたところで、彼女はある事を閃いた。
「ノアさん。実は着替えを持ってくるのを忘れてしまって……良ければノアさんのシャツを一枚分けてくれませんか?」
「構わないが……さすがにサイズが合わないだろう」
「むしろ大きめな方が都合が良いので。お願い出来ますか?」
「そうか。じゃあ使い古しで悪いが、これを着てくれ」
何気無く渡された大きな黒いシャツを受け取り、内心でガッツポーズを取る。
これで合法的にノアの私物、それも肌着に近い衣類を手に入れることが出来た。
オリビアは一度ノアに部屋を出てもらい全裸になると、急いでシャツに身を通す。
鍛えられたノアの服のサイズは彼女の身体には大きく、膝まですっぽりと覆うことが出来た。
彼に抱かれているような感覚に酔いしれ、両手で首元を引っ張りあげ、布地に顔を当てて息を大きく吸い込む。
そこにノアの仄かな残り香を感じ、オリビアは身をくねらせて悶えた。
(ほああああ! ノアさんのシャツ! ノアさんのシャツですよ!)
そのまましばらく堪能。キュンキュン疼く身体を沈めようと下腹部に手を伸ばしかけたところで、ドアの前にノアを待たせっぱなしだった事を思い出した。
「あ、ノアさん! もう大丈夫ですよ!」
「そうか。サイズはどうだ?」
「ピッタリです!」
慎ましい胸を張り、ドヤ顔で答える。
その際、発情してぷっくり膨れた乳首がシャツに擦れて声を漏らしそうになったが、幸いな事にノアには聞こえて居なかったようだ。
慌てて胸の前で両手を組んで重ねて隠そうとするが、あまり効果は出ていない。
むしろ生地を押さえ付ける事で更に強調されてしまっているのだが、彼女は元よりノアもオリビアの幸せそうな表情に目を奪われて気が付いていない。
(んぅっ⁉ あ、やば、これ思ったより擦れて……ダメだ、ノアさんの目の前でおかしな気分になっちゃう! 早く目的を果たさないと!)
「ノアさん……実はお願いがあるんです」
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
「はい。昼の一件で魔力が欠乏気味なので……」
モジモジと内股を擦り合わせ、潤んだ瞳でノアを見上げながら。
「その……魔力供給をして、欲しいんです」
精一杯の勇気を振り絞って欲望を口にした。
はしたないと思われるだろうか。それとも軽蔑されるだろうか。
そんな恐れが胸の内を走り回り、酷く緊張する。
やがて、沈黙していたノアが、優しく笑いかけてきた。
「分かった。何をしたらいい?」
「……えっ?」
魔力供給を求めるのは身体を重ね合わせる時の常套文句だ。
他者から魔力を分けてもらう際は粘膜同士の接触を行うのが当たり前。
魔力の集まる丹田、へその下に近ければ近いほど効率的となる魔力供給は、そういった行為を誘っている、と解釈するのが普通である。
あるのだが。この無垢な青年はそのような知識を持っていないらしい。
穏やかに微笑み彼に戦慄しつつ、オリビアは次の一手を真剣に考え始めた。
(これはさすがに予想外なんですけど⁉ どうする私⁉ さすがに直接言うのは恥ずかしいし……そうだ!)
両手のひらを前に伸ばし、緊張で精一杯の微笑みを浮かべながらその一言を口にする。
「魔力供給には接触が必要ですので、その……抱き締めて、キスをしてください」
恋する乙女の欲望とプライドを天秤にかけた結果、そのような妥協案となった。
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